平成十二年東京都議会会議録第三号

○議長(渋谷守生君) 一番織田拓郎君。
   [一番織田拓郎君登壇〕
   [議長退席、副議長着席〕

○一番(織田拓郎君) 初めに、今後ふえ続けるであろう都市基盤の維持更新経費について伺います。
 東京は、明治二十一年の市区改正から数えても、優に百年を超える近代都市づくりの歴史があります。この間、関東大震災と戦災という惨事を経験しながらも、人々のたゆまぬ努力により、今日の東京を築いてまいりました。東京のこうした発展の基礎に、道路、上下水道、公共交通網など、着実に蓄積されてきた社会資本のストックがあることはいうまでもありません。
 現在の都市基盤の整備水準は、いまだ十分ではありませんが、一方、過去に整備された都市基盤施設には、老朽化が進み、更新時期が迫っているものもふえております。今や成長発展期から成熟期に差しかかっている東京において、今後の都市づくりを考える場合、都市基盤の維持更新をどう進めていくかが重要になってまいります。
 恐らくこうした問題意識からでありましょうが、都は平成十年に、政策報道室が「東京都が管理する社会資本の維持更新需要額の将来推計」という調査報告書を発表しております。それによれば、都が管理する社会資本、すなわち道路、橋梁、上下水道、都営地下鉄、都営住宅などについて、二十一世紀初頭の三十年間の需要額は合計で四十四兆円、単年度平均に直して約一兆五千億円に上り、一九八七年度からの十年間の単年度平均五千百億円の約二・七倍にもなります。平成十二年度の予算の投資的経費が七千二百億円弱ですから、その大きさがうかがえます。
 また、投資的経費の中に占める更新需要額の割合は、ピーク時には八割に達すると推計されております。すなわち、投資的経費の大半が現状維持に費やされてしまうという驚くべき数値であります。
 ところが、二十一世紀に顕在化する問題について警鐘を鳴らしたこうしたリポートがありながら、その後、社会資本の維持更新問題について、都の組織立った取り組みが進められているとは、寡聞にして聞いておりません。
 そこで伺います。この調査報告書はどのような趣旨で作成されたのか、それを受けて、現在までの取り組みはどうだったのか、お示しをいただきたいと思います。
 維持更新問題が最も早く顕在化しているのが下水道であります。現在ですら、耐用年数五十年を過ぎた管渠が、全体の一三%に当たる約二千キロメートルもある上、東京オリンピックを機に短期的に集中して整備してきた下水道の集中更新する時期も、遠からず到来いたします。
 更新事業は、場合によっては、新設の事業よりも資金も時間もかかります。増大しつつ集中的に必要となる維持更新費用については、国費を初めとした財源確保に積極的に取り組んでいくことが必要です。見解を伺います。
 住宅も、官民にわたる重要な都市基盤であります。この分野では、都営住宅の修繕、建てかえもさることながら、民間共同住宅の建てかえ問題が深刻化すると思われます。区分所有の老朽マンションの場合、住民の負担能力の問題や合意形成の難しさから建てかえができず、スラム化する懸念が大きいわけであります。都市の大きな衰退要因になると指摘をされております。
 現在、民間分譲マンションへは、大規模修繕という住宅の長寿命化、延命化という視点からの行政関与が始まりましたが、本格的な更新、すなわち建てかえ問題には手がついておりません。もちろん、一義的には民間の問題とはいえ、東京という都市の観点から見ると、決して放置できる問題ではありません。建てかえについても十分な取り組みを検討するべきと考えます。所見を伺います。
 こうした東京の都市基盤の維持更新問題は、やがて大阪市や名古屋市など他の大都市にも共通の問題となります。外形標準課税という一手を全国に先駆けて打った石原知事に、成熟期の東京づくりのため、財源確保を初め都市基盤施設の再構築事業に積極的に取り組んでいただきたいと考えます。
 そこで、現在、五十年後を視野に入れながら策定している都市構想二〇〇〇において、この都市基盤の維持更新問題をどう位置づけて取り組まれるおつもりなのか、所見をお伺いいたします。
 次に、道路整備について伺います。
 今、板橋区では、平成十七年度全線開通を目指して環状八号線の整備事業が進められております。開通すると、一日の交通量は約四万七千台になることから、住民の間からは、便利になると開通に期待する声がある反面、自動車排ガスによる大気汚染や騒音、振動を懸念する声も高まっております。
 都は、ディーゼル車対策を打ち出し、私もその効果に期待するものですが、幹線道路の沿道は汚染が濃密になるため、より一層の環境対策が望まれます。
 そこで、環境悪化が予想される環状八号線と主要道路との交差点部分に、局所的な汚染防止対策や騒音対策をとるべきと考えますが、見解を伺います。
 既に板橋区の大和町交差点では、都が国や首都高速道路公団と協力をして、平成十二年度から、土壌を活用した大気浄化システムを試行実験することになっているほか、国や区も光触媒や大型換気施設を使った対策を実験的に行っており、効果を上げております。こうした成果を踏まえた対策を検討すべきであります。
 次に、トンネル部分の対策であります。環状八号線北町・若木地区のトンネルでは、トンネル内に滞留する排ガスを、換気塔を通し、秒速八メートルで強制換気する計画と聞いております。高さ四十五メートルの換気塔設置予定地の前には、高さ四十メートルのマンションが建っており、差はわずか五メートルであります。濃密な排ガスが目の前に噴き出すことから、住民の不安は大変なものです。こうした施設での汚染物質の除去対策をどう考えているのか、伺います。
 単に空中で排ガスを薄めるだけでは、汚染対策ではありません。排ガスをせっかく集めるのですから、換気塔施設に窒素酸化物や浮遊粒子など有害物質を除去する装置を設置すべきと考えます。
 また、新たに幹線道路が開通すれば、その周辺地域で大気汚染のモニタリングを行う必要が生じます。現在、板橋区では、都の自動車排ガス測定局に加えて、主要幹線道路沿いに四カ所の測定局を設置しております。都も、大気汚染状況を住民に公開する責任から、新設道路に排ガス測定局を設置する場合、支援を惜しむべきではありません。見解を伺います。
 次に、自転車道の整備について伺います。
 自転車は、手軽で機動性の高い日常的な交通手段であるばかりでなく、排ガスは呼吸だけという究極の低公害車でもあります。また、渋滞解消や健康増進という面からも、その利用促進が注目をされております。
 最近、自転車と歩行者の接触で起きた死亡事故がふえているとのテレビ報道に接しました。高齢社会の今日、交通安全の面からも自転車道の整備は軽視できません。ところが、従来の自転車道整備は、サイクリングロードなどスポーツ・レクリエーション対応型に偏っている嫌いがあります。
 そこで、今後は、環境負荷低減という観点や交通安全という観点を十分に取り入れた都市型自転車道整備とするべきであります。都の見解を伺います。
 これに関連して、板橋区では、豊島区と共同で自転車の走るまちづくり構想を策定し、建設省の自転車利用環境整備モデル都市事業に応募し、全国十四都市の一つとして選定されました。この構想は、副都心池袋への近距離通勤に対する自転車利用を促進するとともに、公共交通網を補完するネットワークづくりや放置自転車対策などを組み合わせたもので、基軸となる自転車道は、都道、国道、区道に及んでおります。この構想に対する都の取り組みを伺います。
 また、通勤に活用する自転車道となると、駐輪場の設置がなければ画竜点睛を欠くことになります。自転車利用の促進を環境保全対策の面からとらえれば、駐輪場設置に対して都が支援策を検討してしかるべきと考えます。見解はいかがでしょうか。
 次に、今年十二月に全線開業の運びとなる地下鉄大江戸線について伺います。
 大江戸線環状部は、二十八駅中二十一駅で他の鉄道と乗りかえができることから、都心部の鉄道ネットワークは大きく充実し、都民にとって大変便利になると期待されております。
 しかし、一方で、全線開業時の運賃がどうなるか、心配されております。というのも、大江戸線の建設費が当初の六千八百二十六億円から九千八百八十六億円に膨らみ、利用者の予測の方は、当初百万人から八十二万人へと下方修正されたからであります。こうした状況から、短絡的に、初乗り運賃が千円とか六百五十円という、いささか常軌を逸した報道も出てくるほどであります。
 そこで伺います。現在、都営地下鉄の初乗り運賃は百七十円ですが、大江戸線全線開業時にはどのようにしようと考えておられるのか。もし万が一、値上げがあるとするならば、大江戸線だけか、あるいは他の都営地下鉄線全線に及ぶのか。私は、この不況の折、都民の負担を増す値上げは絶対に行うべきではないし、仮に値上げをした場合、乗客の減少を招き、得策ではないと考えるところであります。運賃についてどのように考えているのか、見解をお示しください。
 また、鉄道運賃は現在、各社別となっているため、乗り継ぎ利用の場合、著しく割高になっております。多くの駅で乗り継ぎができ、便利になるといっても、そのたびに運賃を払っていたのでは、利用率も伸びないのではないでしょうか。
 ネットワーク路線ともいうべき大江戸線では、運賃面でも利用促進のための工夫をすべきではないかと考えます。例えば、現在、都営地下鉄と営団地下鉄の乗り継ぎには五十円の割引があり、他社との乗り継ぎは十円ずつの割引になっております。全線開業時に向け、この割引率の拡大を目指すべきと思いますが、所見を伺います。
 以上、知事、関係局長の元気で明快な答弁を求めて、私の質問を終わります。(拍手)
   [知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 織田拓郎議員の一般質問にお答えいたします。
 社会資本の維持更新問題についてでございますが、これは、ともすると忘れられがちでありますけれども、実は非常に大切なご指摘だと思います。東京の社会資本の整備水準というのは、まだまだ十全とは申せませんが、しかし、やはりその近代化の過程で、百年余ですね、これまでかなりの社会資本の集積もできております。
 そしてそれが、もう耐用年数にかかったり、過ぎたりしているのも事実でございまして、既にできているものの維持更新というものの需要額は、ご指摘のとおり、今後、莫大なものになるということも必然でございます。景気が低迷し、将来も右肩上がりの経済成長をとても望めない、もはや望めないこの中で、財源の問題を含めて社会資本の維持更新をいかに進めていくかは、東京が二十一世紀において引き続き魅力を備えた首都であり得るかどうかを占う大きなきっかけにもなると思います。
 ということで、東京構想二〇〇〇の策定に当たりまして、この問題をとにかく重要なテーマとして位置づけて、十分検討していきたいと思っております。
 なお、他の質問については関係局長から答弁いたします。
   [政策報道室長柿沼伸二君登壇〕

○政策報道室長(柿沼伸二君) 社会資本の維持更新需要に関する調査報告書の作成の趣旨と、その後の取り組みについてのお尋ねでございますが、本報告書は、東京都が管理いたします社会資本の維持更新需要額が将来にわたりまして増大していくことを推計し、その負担が東京の今後の都市づくりの重要な課題であるということを明らかにした調査報告書でございます。
 社会資本の維持更新問題につきましては、大変重要な問題でございまして、この調査報告書をもとにしながら、職員研修や東京都技術会議等を通じまして各局への周知を図り、建設コストの縮減や耐用年数の長期化等、社会資本の維持更新需要額の圧縮に向けて、現在取り組みを進めているところでございます。
   [下水道局長鈴木章君登壇〕

○下水道局長(鈴木章君) 下水道施設の維持更新に必要な財源の確保についてでありますが、ご指摘のとおり、東京の都市機能を維持していくためには、下水道施設の維持更新を計画的に行っていくことが必要であります。
 事業の財源としては、企業債、国庫補助金等を充てていますが、今まで国庫補助の対象にならなかった中程度の大きさの管渠や、更新工事の代表的な工法である管渠の更生工法に対しましても、今年度から国庫補助金を導入できることになりました。
 今後とも、あらゆる機会をとらえて国の理解を求めるなど、財源の確保に努めてまいります。
   [住宅局長戸井昌蔵君登壇]

○住宅局長(戸井昌蔵君) 分譲マンションの建てかえ問題に対する取り組みについてお答えいたします。
 東京においては、昭和三十年代、四十年代に建設された分譲マンションの建てかえ問題が今後顕在化すると予想されます。このため、都は、区市町村と連携し、分譲マンションの維持管理や建てかえについて、さまざまな情報提供や相談を行っております。
 現在、国において、建てかえに係る法制度や事業手法などの検討を行っておりますので、今後こうした国の動向も踏まえまして、都といたしましても、区市町村や関係団体と幅広く協力しながら、建てかえを円滑に進めるための仕組みづくりについて検討を進めてまいりたいと考えています。
   [建設局長古川公毅君登壇〕

○建設局長(古川公毅君) 道路及び自転車道の整備について、四問お答えいたします。
 まず、幹線道路の整備に伴う環境対策についてですが、東京の慢性的な交通渋滞による環境悪化を防ぐためには、ディーゼル車規制などの発生源対策とともに、交通渋滞を緩和させる道路ネットワークの整備が必要です。環状八号線の整備に当たっては、環境施設帯の設置や低騒音舗装などを実施するとともに、主要道路との交差点部については、板橋区大和町交差点における大気浄化の実験結果なども踏まえ、それぞれの地域の状況を考慮しながら、局所的な環境対策を講じてまいります。
 環状八号線北町・若木地区のトンネル部分における環境対策についてですが、浮遊粒子状物質などについては除じん装置で除去し、また、窒素酸化物については換気塔から高速で上空に排出、拡散を図り、環境への影響が軽微になるよう対処してまいります。
 なお、脱硝装置については、建設省、日本道路公団などが共同で実用化に向けた実験を行っており、今後、これらの開発動向を踏まえて対応について検討してまいります。
 都市型の自転車道の整備についてですが、都市交通手段の一つとして、自転車の利用促進を図ることは、交通の円滑化や都市環境の保全にとって重要であると認識しております。このため、千代田、中央及び板橋、豊島地区など七つのモデル地区で、歩道や車道の一部を利用し、自転車を歩行者や自動車から分離する自転車道ネットワークの整備を推進してまいります。
 板橋区の自転車道の整備についてですが、地域交流の促進と公共交通網を補完するため、国道、都道、区道が一体となった自転車道ネットワークの形成を目指しています。このうち骨格となるものは延長約十二キロで、都道は高島通りなど三路線、延長約六キロであり、都営三田線や東武東上線の駅などへのアクセス道路として重要な役割を担っています。今後、国や板橋区と連携を図りながら、これら都道における自転車道の整備を推進してまいります。
   [環境保全局長齋藤哲哉君登壇〕

○環境保全局長(齋藤哲哉君) 区が新設道路に自動車排出ガス測定局を設置する場合の都の支援についてお答え申し上げます。
 都は、現在、大気汚染の状況を把握するため、住宅地域や道路沿道等に測定局を設置して常時監視を行っております。一方、区におきましては、地域環境の実情に応じ独自に測定局を設置して監視を続けており、相互に連携しまして実態把握を行うことは、大気環境の改善にとって極めて有効でございます。
 今後とも、区が新たに測定局を設置する場合には、都として適地の選定、データの比較、評価、簡易測定の実施などの技術的支援を積極的に行い、区や関係者と十分連携して東京の大気環境の実態把握に努めてまいります。
   [生活文化局長今沢時雄君登壇〕

○生活文化局長(今沢時雄君) 駐輪場設置についてのご質問にお答えいたします。
 都は、これまで、駅前放置自転車対策や都営地下鉄の新駅設置などに伴う駐輪場対策として、区市町村を支援してきております。
 今後、都といたしましては、区市町村の駐輪場の整備を促進するため、国庫補助金の確保等の財政支援や、財団法人自転車駐車場整備センターなどによります自転車駐車場設置事業の活用を働きかけてまいりますなど、また、駐輪場用地確保のための調整を行うなどいたしまして、引き続き支援してまいりたいと考えております。
   [交通局長横溝清俊君登壇〕

○交通局長(横溝清俊君) 都営地下鉄大江戸線に関しますお尋ねにお答えを申し上げます。
 まず、大江戸線全線開業時の運賃についてでございますが、地下鉄事業の収支は依然厳しい状況にございます。しかし、他事業者の動向や現下の社会経済状況を総合的に勘案いたしまして、現行運賃を維持する考えでございます。
 次に、乗り継ぎ割引運賃の拡大についてでございます。地下鉄大江戸線が全線開業いたしますと、東京の地下鉄ネットワークが充実し、営団線とは新たに十駅で連絡できることとなり、乗り継ぎ利用客が大幅に増加するものと推定しております。このことから、交通局では、お客様が利用しやすい運賃制度とするため、営団地下鉄等と協議を進めてまいります。

ページ先頭に戻る