平成十二年東京都議会会議録第三号

○議長(渋谷守生君) 昨日に引き続き質問を行います。
 七十二番山本賢太郎君。
   [七十二番山本賢太郎君登壇〕

○七十二番(山本賢太郎君) 自由民主党の山本賢太郎であります。しばしご清聴のほどをお願い申し上げます。
 都政、国政まことに厳しき二〇〇〇年、まなじりを決して臨まねばならない千年紀の幕あけに、地方主権を象徴する外形標準課税、二年後の排ガス規制、中小企業金融のための債権市場の創設といった、国政ではどうにもならなかった諸課題に風穴をあけ、世論の動向を見きわめる知事の鋭い感性と、果敢なる決断力にまず心から敬意を表するものであります。
 さて、人生は信によって成るという言葉があり、また、古くは論語に、信なくば立たずという言葉もあります。
 知事は、このたびの施政方針の結びで、特に、都議会との連携、並びに都民の皆様への呼びかけで、ご理解とご協力をと述べておられますが、これは、知事が議会を信じ、都民を信じて、この厳しい財政難における諸政策の実現を期し、かつまた真の地方自治の確立を目指すというご発言だと理解いたしますが、まずこの点からお伺いをいたします。
 昨日も話題になりましたが、以前、東京都において、橋の論理を振りかざし、一人でも反対があれば橋はつくらぬ方がよいと公言し、結果的には公共事業を大幅におくらし、多大な費用と多くの時間をむだにした施政者がおりましたことは、皆様ご承知のとおりであります。
 しかし、昨今、都民共有の財産づくりである道路整備事業において、一部の反対のために道路は完成せず、いまだに公共の用に立たなかったり、埋立処分場の建設が、はがき大の土地共有者数千人の反対に遭って、なかなか完成しない。さらにまた、表現の自由、出版の自由に名をかりて、どぎつい性表現の雑誌、ビデオがちまたにはんらんしております。
 これは、いずれも、見方によっては、日本国憲法が保障する基本的人権の財産権、表現の自由権の一態様と見ることができます。しかし一方、これまた憲法が明記する公共の福祉との関係ではどう解釈すべきか、問われております。
 基本的人権と公共の福祉については、いろいろ学説の分かれるところでありますが、主な学説では、基本的人権は公共の福祉と調和する限りにおいて認められるとする説。次に、基本的人権への制限は絶対にできない。ただしかし、人権の行使の態様によっては、公共の福祉のために必要により制限することができるとする説。第三は、基本的人権を自由権と社会権とに分け、自由権は前国家的権利だから絶対に制限できない。例えば、信仰の自由、学問の自由等であります。しかし、社会権は後国家的権利だから、公共の福祉のために制限できると説く説もあります。例えば財産権等であります。各学説とも、それぞれ短所があります。
 そして、判例は、公共の福祉の必要がある場合は基本的人権を制限し得るとしております。
 そこで、公共の福祉とは何ぞやとなりますが、この概念はこれまた多くの学説があり、一様ではありません。
 しかし、二十一世紀的公共の福祉とは、個と多数、個と全体との権益の比較、権衡の上に立ち、個々の人間の個別的利益に対して、それを超え、時にはこれを制約する機能を持つ公共的利益と解すべきといわれます。
 したがって、憲法第二十九条により、我が国は、私有財産制を是認するが、正当な補償のもとに、個人の土地その他の財産権は公共事業のために用いることができるとされます。
 また、憲法第二十一条に保障する出版の自由も、天賦人権、すなわち自由権でありますが、有害図書、不健全図書の出版は公共の福祉に反しているので、権利としては認められないと思いますが、基本的人権等、これらについて知事のご所見をお伺いいたします。
 次に、建設局長に伺いますが、首都東京を活性化し、環境に配慮した安全で住みよいまちづくりのために、道路、河川、公園などの都市基盤施設を整備することが緊急の課題であります。
 しかし、現状は、道路等の整備に見られるように、九九%の土地の権利者が話し合いにより用地取得に応じたにもかかわらず、残りわずか一%の用地が、補償金への不満や事業への反対のため、用地取得が困難となり、そのため、道路の築造工事ができず、長期間、全線にわたって供用開始ができない例が一部にあると仄聞いたします。
 このことは、これまでの事業に対する投資の効果が全く発揮されていないことであり、また、事業を理解し、早期に契約に応じてくれた大多数の地権者の協力を無にするものであると考えますが、いかがですか。
 また、話し合いでの合意ができぬ場合は、土地収用委員会の裁定によって用地取得ができると思いますが、事業者としての建設局はどんな取り組みをしておりますか、お尋ねいたします。
 さて、土地収用事件で常軌を逸した二つの事件があります。
 一つは、昭和六十二年に収用裁決が出た地下鉄半蔵門線事件、もう一つは、昨年、平成十一年に収用裁決が出た二ツ塚処分場事件であります。いずれも、公共事業のための土地の収用をめぐって、事業には直接関係のない人たちが、事業対象地の一部を共有し、反対運動を行った事件であります。地下鉄の開通や、一般ごみの最終処分場の建設という、多くの地元住民が待ち望んでいる公共性の高い事業を妨害するために、実情をよく知りもしない全国各地の人々が騒ぎを起こしたのであります。
 最近の二ツ塚処分場事件では、二千八百名の人たちが、はがき大の土地の権利を盾に反対行動を続けているさまを、私どもは昨年、現地を見て知りました。
 私的所有権は、手厚く保護されねばならぬことは自明の理であります。が、しかし、反対のための運動手段として取得したわずかな土地の所有権をも、所有権としてどこまで保護すべきか、今後大いに論議されるべき課題だと思います。
 また、現行の土地収用法は、反対する手段として、共有登記を、数千人もの土地所有者を想定して制定されたものではありません。土地収用法第三十六条第一項の調書作成時の立ち会い、署名押印の件、第六十三条第一項の口頭で意見を述べる件、これをやっていては、膨大な手続と膨大な経費、膨大な時間のロスをもたらす大きな問題点であろうと私は考えます。これは、都民のために公共事業の早期実現を図る上で極めて大きな障害であると思います。
 公共事業の促進を図る立場にある建設局長として、早急に、これらの法改正を含めて国に働きかけるべきと思いますが、いかがお考えでございますか。
 次に、出版の自由についてでありますが、昨今、子どもたちの居場所としてすっかり定着した感のあるコンビニなどで、露骨に性表現を内容とする雑誌など不健全な図書類が相当出回り、他の漫画雑誌などと混在して販売されております。下校時、塾の帰りなど、気軽にコンビニに立ち寄り、雑誌の立ち読みをする青少年の姿を見て、深い憂慮の念に駆られます。ついこの間も、神奈川県の小学校六年生の男の子が、少女にナイフを突きつけて強制わいせつをした疑いで、警察に補導されたとのことで、その動機は、何と、コンビニで、わいせつ本の立ち読みによって刺激されたと報じられております。
 こうした、性や暴力表現などを内容とした情報が青少年の身近な場所にはんらんしている現状は、もはや自由の行き過ぎとしかいえませんが、知事はいかがお考えですか。
 次に、今議会に男女平等参画基本条例が提案されておりますが、女性を性欲の対象としかとらえていない雑誌、ビデオ、広告など、こうした図書類は、青少年の健全育成の面からも、また女性の人権尊重の側面からも許されざるものと考えますが、いかがですか。
 私は、こうした不健全図書類への対応は、販売ルートに乗ってからの出口の対応だけではなく、今やその入り口、製作段階等への対応も大いに議論されるべきことと思いますが、ご所見をお伺いいたします。
 憲法第二十五条にいう生存権について、ホームレス問題についてお尋ねいたします。
 私は、昨年、上野公園、山谷地区、隅田川河岸、大阪の釜ケ崎地区の野外路上生活者の実態を見て回りました。無気力な人々、意外に元気な若者、ネクタイをしている人、犬を飼っている人、夫婦者、自家発電機によってテレビを見ている人々、さまざまな人たちにお会いいたしました。
 そこで伺いますが、ホームレスは、都内では昨年よりも千五百人ふえ、約五千八百人とのことですが、東京都は、ホームレスの概数調査のほかに、今までにどんな調査をやられたでしょうか。個人個人と会って詳細な実態調査を行う予定がありますかどうか、お伺いいたします。
 ロンドンの中心部に、かつては約二千人のホームレスがいたそうですが、ブレア政権の積極的な取り組みが功を奏し、最近では四百人ほどに減ったといわれます。
 日本政府は、ようやく重い腰を上げ始めましたが、いまだ有効な対策が示されていないようですが、東京都として国の具体的対策をどう把握しておられるか、お尋ねいたします。
 この冬、豊島区内で暫定的に実施している自立支援事業では、二カ月で、利用者三十九名中、既に十八名が就職できたと伝えられます。就労意欲の高いホームレスを一人でも多く社会復帰させるために、一刻も早く通年型の本格的自立支援センターを整備する必要があります。現在、区との協議はどこまで進んでいますか、また具体的にその点をお答え願います。
 近年、急速に進むグローバリゼーションに伴い、世界の都市は国際競争の中に置かれています。東京もその例外ではなく、証券市場における取引場や国際会議の開催などにおいて、優位性が低下するなど、厳しい局面を迎えていることは、皆様ご承知のとおりです。
 こうした中で、昨年末、知事は、臨海副都心でニューイヤー・カウントダウン・イベントを行い、世界に向けたメッセージを発信するとともに、東京の活力をアピールし、大きな成果を上げたと思います。
 こうした情報発信活動を発展させるために、ご提案を申し上げます。それは、臨海副都心における、アジア版ダボス会議の開催であります。
 国際研究交流大学村、国際展示場を活用し、アジア各国のトップが一堂に会し、科学技術や経済等について情報交流を行う、ダボス会議のようなフォーラムを開催し、臨海副都心を、世界に向けた情報発信の拠点として大いに売り出すべきと考えますが、知事はいかがお考えでありますか。
 以上をもちまして、山本賢太郎の質問は終わります。(拍手)
   [知事石原慎太郎君登壇〕

○知事(石原慎太郎君) 山本賢太郎議員の一般質問にお答えいたします。
 施政方針演説の結びの部分、つまり、都議会と知事のかかわり、都民とのかかわりについてでございますが、お互いに都民に選ばれて出てきた知事であり、議員でございます。この両者が、東京都のために、すべての立場に優先して、東京について真剣に考えるということは、当然必要でございますが、ただ、都民の方々も、単に選挙で知事を選び、議員を選ぶだけではなくて、よく頑張ってくださいといわれますが、そういう声をかけるだけではなくて、やはりここに生活し、人生を送っている都民の一人として、国民の一人として、日本の首都でありますこの東京が、いかなる危機に直面しているのか、また、確かな未来を切り開いていくためには、どうしたらいいかということを、都民の皆さん一人一人が主体的に切実に考えていただきたいし、そして私たちも、それを反映した都政の運営、議会の運営をしていきたいと思っております。
 そのためにも、私は、これまで以上に、都議会を初め都民の皆様との信頼関係を構築していき、一丸となって、この東京の抱えている危機を乗り切りたいと思っております。
 次いで、財産権や表現の自由についてなどの基本的人権についてでありますが、公共の福祉や基本的人権のあり方は、それぞれ時代によって起こってくる現象も違いまして、その都度やはり基本的に考えるべき問題だと思います。
 とりわけ、財産権と公共の福祉のバランス、環境権やプライバシーなどの基本的人権の考え方は、国民的な議論が必要な時期になってきているという気がいたします。
 絶対に必要な社会資本の構築のための用地の収用に際してなど、反対のための反対といいましょうか、まさに社会的なサボタージュのような現象も起こっておりますが、いずれにしろ、これはすべて財産権にもかかわる問題でありまして、こうした問題について、現況、国会もようやく腰を上げて、憲法調査会の活動が開始されました。こういう観点からも、東京都は、事例をとらえて、新しい公共の概念の一つのあり方を考え、提起し、東京から広範な議論を喚起してまいりたいと思っております。
 次いで、青少年を取り巻く有害情報についてでありますが、昨日もお話しいたしましたけれども、これは、表現の自由であるとか、いろいろございますけれども、しかしまあ人間というのは、もともと保守的で、新しい風俗には、だれしもが、年配者は目をひそめるものでありますが、しかし、昨今の青少年を取り巻く環境というものは、ちょっと逸脱といいましょうか、度を越しているというか、基本的なところを、彼らの人生そのものを損ないかねないような営利主義というものが、いろんな状況をつくっております。こういったものは、私たち、社会人の先輩として、真剣に考えないと、彼らに対する私たちの責任が果たし切れないという認識を持っております。
 有害情報のはんらんの背景には、極端な営利主義というものがありますけれども、それがまた、結果として社会全般に、社会の品位を落としたり、あるいは基本的な道徳というものを著しく破壊しているということが十分考えられます。
 青少年の健全育成に配慮した環境づくりに向けて、メディアにかかわる企業などに、常識を踏まえた、良識を踏まえた行動をとってもらいたく、それを強く求めるためにも――調べてみましたが、既存の条例では、なかなかこれがカバーしにくいところもございます。
 議会でも、そういう問題について、新しい条例も含めて、ひとつ活発なる議論をしていただきたいし、また、そのための行政における条件の整備といいましょうか、情報の収集というか、私たちも心がけていきたいと思っております。
 いずれにしろ、東京から発して、日本全体がこの問題について大きな反省をすべき時期に来ているのではないかという気がいたします。
 次いで、今や東京の新しい名所になりました臨海副都心における国際会議の提唱でございますけれども、これは大変結構なことであります。
 ただ、私はASEANについて調べてみましたら、あれはまさに東南アジアの会議でありまして、主催地はあくまでも東南アジア。日本は毎回出席しておりますが、オブザーバーという形でございました。これでは、私たち、非常に実のある会議でありますけれども、こういった会議を東京に誘致することができませんで、これはやっぱり形を変えた、もっと個々の具体的な大きな問題をとらえた会議の主唱というものを、日本が提唱して、まさに東京の臨海副都心で開催してもらいたい。
 これは、山本議員のサジェスチョンによりまして、私も総理に取り次ぎまして、これはやっぱり日本の政府が乗り出してくれませんと、東京の呼びかけだけではできませんから、その意を体して、ひとつこれが早期に実現するような、そういう努力をしたいと思っております。
 他の質問については、関係局長から答弁いたします。
   [建設局長古川公毅君登壇〕

○建設局長(古川公毅君) 土地収用法の適用についてのお尋ねですが、道路などの供用開始に向けて重大な支障となっている箇所の用地取得を迅速に行うことは、投資効果の早期の発現はもとより、事業に協力いただいた大多数の地権者のためにも極めて重要であると認識しています。
 このため、用地特別機動班の設置など体制を強化し、困難案件の解決に集中的に取り組むとともに、話し合いでは解決ができない案件について、事業の公益性、緊急性などから、収用法を適用して解決を図っています。
 今後とも、事業促進のため、粘り強く折衝を重ねるとともに、より積極的に収用制度を活用してまいります。
 次に、土地収用制度の改善についてですが、ご指摘のとおり、現行法は、わずかな土地に、もともと権利者でなかった者が多数当事者となる場合を想定していないため、収用手続には膨大な時間、労力、コストがかかっており、裁決までに長時間を要することなど、公共事業促進の立場から見過ごせない事態も生じています。
 このため、例えば、土地調書作成手続の簡素化や審理における代表者制度の設定など、多数当事者事件にも適切な対応が図れるよう、法改正などを含めて国へ働きかけてまいります。
   [生活文化局長今沢時雄君登壇〕

○生活文化局長(今沢時雄君) 不健全図書類についてのご質問にお答えいたします。
 まず、女性の人権と不健全図書類についてでございます。
 一部の雑誌、ビデオ、また、これらに関する広告につきましては、ご指摘がございましたように、青少年の健全育成の面ばかりではなく、女性の人権の尊重という面から見ましても行き過ぎでございまして、大変問題があると認識しております。
 このため、東京都青少年問題協議会などにおいて、こうした観点からも検討していただく必要があるというふうに思っております。
 次に、不健全図書類への対応についてでございます。
 現在、東京都青少年の健全な育成に関する条例に基づきまして、不健全図書類の指定や関係業界への自主規制の要請を行っておりますとともに、区市町村や地域の青少年健全育成団体などと連携いたしまして、環境を改善する活動を行うなど意識啓発に努めております。
 しかしながら、ご指摘のような状況もございますので、こうした取り組みの充実になお一層努めますとともに、コンビニエンスストアや自動販売機などでの区分陳列の徹底など、流通段階における効果的な規制のあり方を検討してまいります。
 ただいまご提案のございました入り口論につきましては、関係各方面のご意見も伺いながら研究してまいりたいと存じます。
   [高齢者施策推進室長福祉局長兼務神藤信之君登壇〕

○高齢者施策推進室長福祉局長兼務(神藤信之君) 路上生活者に関しまして、三点のご質問にお答えします。
 最初に、実態調査の件でございますが、都はこれまで、年二回の概数調査のほかに、特別区と共同で、冬期臨時宿泊事業の利用者を対象に面接調査を実施しているところでございます。
 ご指摘のように、多様化している路上生活者への対策を進めていく上で、実態を詳細に把握することは重要であると認識しております。
 そのため、今年度内に、公園、河川敷等に起居する路上生活者を中心に、聞き取り調査を行うなどの実態調査を行ってまいります。
 次に、国の具体的な取り組みについてでございますが、国は、昨年五月にホームレス問題に関する当面の対応策を取りまとめた以降、ホームレスの自立支援方策に関する研究会を設置したほか、街頭相談などの事業を行った区市に対して財政支援を行うことといたしました。
 また、平成十二年度予算案においては、新たな財政支援として、自立支援事業に対し運営費の補助や職業相談員の配置経費を計上するなど、国は、ホームレス対策に本格的に取り組んできたと感じております。
 次に、自立支援センターの整備についての協議の進行状況でございますが、路上生活者の就労による自立を支援する自立支援センターの設置、運営につきましては、都及び特別区で協議を進め、基本的な合意を得ているところでございます。
 これを踏まえ、計画している五カ所の設置場所につきましては、原則として路上生活者が多い区を候補地として、台東区、新宿区など複数の区に現在要請しているところです。
 平成十二年度に少なくとも二カ所開設できるよう、該当区と準備を進めるとともに、十三年度までには五カ所設置、運営できるよう取り組んでまいります。

ページ先頭に戻る