平成十一年東京都議会会議録第十八号

○副議長(五十嵐正君) 三番服部ゆくお君。
   [三番服部ゆくお君登壇]
   [議長退席、副議長着席]

○三番(服部ゆくお君) 石原都知事、そして教育長と関係局長に対して、五点について質問をいたします。
 初めに、ホームレス問題について伺います。
 現在、二十三区内のホームレスは五千八百人を超えており、昨年に比べ四〇%もふえ、さらに急増しています。ホームレスに公共の場所が不法に占拠され、地域住民の不満や不安が広がり、深刻な社会問題となっています。
 これまで上野公園、隅田川河川敷、大阪城公園・あいりん地域、名古屋市の公園など、現状をつぶさに視察をしてきました。ホームレス問題は、もはや放置できない限界のところに来ております。国と地方自治体が一体となって、有効な対策を早期に実施していかなければ、大変なことになるとの危機感を覚えております。このため、東京都議会は意見書を採択し、政府に対して適切な対応を要請しました。
 東京都議会自由民主党は、このたびホームレス対策協議会を設立し、大都市選出の衆参国会議員と一丸となり、ホームレス問題要望書を取りまとめ、内閣総理大臣あてに強く要請したところであります。主な内容は、仮称ホームレス対策基本法の制定、特別就労対策事業、自立支援センターの全国一斉実施、各自治体が実施する越冬対策、緊急援護事業への財政支援等であります。
 高齢者や健康上の理由などから自立能力に乏しい人々に対しては、適切な保護を行う必要があります。しかし、働く意欲はあっても仕事がないために、やむなく野宿を強いられる人たちが相当数いることを考えれば、就労対策を講じ、自立できる手段を提供することも必要です。
 そこで最初に、ホームレス問題に対して石原都知事はどのように認識しているのか、お伺いいたします。
 昨日、参議院予算委員会の総括質疑で、保坂三蔵参議院議員がホームレス問題についてただしました。青木内閣官房長官は、関係省庁と関係自治体が役割分担を明確にしながら、総合的に取り組む問題である、今後、政府としても一生懸命取り組んでいくと答弁をしています。積極的なご答弁をお願いします。
 また、平成八年七月の区長会で、都内に五カ所の自立支援センター設置について了承されましたが、総論賛成、各論反対で、いまだに各区の理解、協力が得られていないと仄聞しています。各区の認識の違いや、設置場所の確保が難しいことなどがあります。都と二十三区の共同事業ということから、改めて二十三区すべてに協力を要請するとともに、都の関係局が一丸となって、都有地も積極的に提供し、早期に実現を図るべきです。今後、都はどのように対処するのか、お答えください。
 自立支援センターを設置することで、ホームレスが集中するとの懸念が一部にあります。設置する場合は、同時に複数設置すること、施設も恒久的なものでなく暫定的なものにし、国の施設も一時的に使用することも検討すべきです。さらに、NPOを含めた民間団体の活用なども考慮すべきと考えます。
 ホームレスが急増していることから、自立支援センター設置までの間、民間の宿泊所などを活用して、自立支援事業を緊急的に実施する必要があると考えますが、所見を伺います。
 次に、山谷対策についてお伺いいたします。
 歴史的に、寄せ場として明治時代から続いている山谷の現状は、簡易宿所の宿泊者約五千二百人、うち四〇%は生活保護受給者、平均年齢は五十九・七歳と高齢化しています。城北福祉センターは、山谷問題を解決する上で中心的な役割を果たしてきたものと高く評価し、現場でご苦労されている職員の皆様に頭が下がります。
 ことし六月、福祉局に山谷対策検討委員会が設置され、山谷対策のあり方について検討が始まりましたが、山谷対策として、就労、衛生、福祉等、問題点と今後の取り組みについてお答えください。
 山谷対策としては、中長期的に取り組むべき問題もあります。山谷問題を解決するためには、まちづくりの視点からとらえ、浅草北部、南千住を一体として、都と関係区が共同してまちづくりの基本的指針を示し、都が主体的にまちづくりを推進すべきと考えますが、所見を伺います。
 質問の第三は、都市景観づくりについてであります。
 東京には、歴史や由緒ある町並みと自然が多く残っています。こうした景観資源を生かして、将来に残る東京の美しい景観を形成することは大切な課題です。隅田川についても、建物が川に背中を向けるのではなく、顔を向けて、建物からも、また川からも自然をめでることだと思います。
 こうした都市の景観づくりを誘導するため、平成九年に景観条例を策定し、ことしからはその制度の運用が実際に開始され、これから新しい都市ビジョンを策定するということですので、四点についてお伺いいたします。
 まず、都は、景観条例を策定した後、その実効性確保のためにどのようなことをしてきたのか。
 次に、ことしの四月に指定した隅田川景観基本軸の特徴について。
 三点目に、実際に何件の届け出があり、具体的にどのような指導をし、隅田川に関してはどうだったのか。
 そして、今後さらに美しい都市東京をつくるため、景観づくりをどのように進めようとしているのかお伺いするとともに、風格のある美しい東京をつくるために一層努力されることを熱望いたします。
 第四に、教師の資質の向上についてお伺いいたします。
 昨年十月、来日された金大中・韓国大統領と恩師との再会の模様が読売新聞で大きく報道され、教師と生徒のあり方、さらに教育の本質について教えられました。
 その恩師は、戦後、駐ウルグアイ大使などを務めた元外交官椋本伊三郎先生です。戦前の昭和十四年、時局が次第に息苦しさを増す時代に、韓国南部にあった旧制の木浦公立商業学校で三年間教壇に立ち、担任したクラスに金少年が在籍していました。そして、生徒に対して苦学をしてきた自分の経験を語り、最後にはいつも、人生が闘いの連続ならば、快く闘おう。快闘の後には何かが残ると諭されたそうです。
 その後、幾たびとなく挫折を味わいながらそれを乗り越え、今また経済再生に全力を挙げている金大統領の姿に、椋本先生の諭された快闘精神の言葉が重なるとともに、教師の果たす役割と責任の重さを痛感したのであります。
 国づくりの基本は教育にあります。教職にある者は、常に教育者としての自信と誇りを持ち、生徒や父兄からも厚い信頼を得ることが大切で、教師に対する尊敬と信頼が学習の基礎をなすものと考えます。教師に対する尊敬と信頼を取り戻すために、教師の資質の向上をどのように図っていくのか、お伺いいたします。
 東京都教育委員会は、初任者研修の中で、ボランティア活動を初め、教師に、社会性を養うために、民間企業やデパートでの研修なども計画されていますが、さらに農業や漁業の実習も取り入れる考えはないか、所見をお伺いいたします。汗することの大切さ、収穫の喜びを知ることによって、自然の恵みや命の大切さを体得することは、人格の形成に役立つものと考えます。
 今の教育に最も求められているのは、心を育てる道徳教育、魂を育てる歴史教育であります。日本人としての誇りを持ち、住んでいるまちを愛し、日本の歴史と文化に誇りを持てるよう教育の基本コンセプトを確立し、心と魂の教育大綱を策定すべきと考えますが、ご所見をお聞かせください。
 最後に、教師の日制定について、石原都知事にお伺いいたします。
 教師の日制定は、前広島大学学長沖原豊先生が提唱されておりますが、中国では教師節として、アメリカでは全米教師感謝の日として、既に世界二十カ国で制定されています。
 韓国では、五月十五日を教師の日に法制化して、ことしで十八年になります。この調査のため、先月、都議会自民党の遠藤衛議員とともに、日本の文部省に当たる韓国教育部の李明九研究員を訪ねました。教師の恩をたたえ、教師を尊敬し、また教師に誇りと使命感を持って教育活動に励んでもらうことが目的で、優秀な教師を表彰し、教育部長官の一日教師、教育部職員の母校訪問、一カ月にわたりマスコミの協力のもと恩師探しの窓口や恩師訪問、手紙を書くキャンペーンなどを実施しています。
 もとより教育は、家庭、学校、地域社会が一体となって成果が上がっていくものであります。教師も、生徒、保護者、地域社会から尊敬と信頼の関係をしっかりと築かなければなりません。同時に、教育に使命感を持ち、情熱をささげる教師に対して感謝の気持ちを持つことは、さらに重要です。
 このたび、東京都は、心の東京革命の素案を発表しました。まず、東京から教師の日を制定することを提案いたしますが、所見をお伺いして、私の一般質問を終わります。
 ご清聴ありがとうございました。(拍手)
   [知事石原慎太郎君登壇]

○知事(石原慎太郎君) 服部ゆくお議員の一般質問にお答えいたします。
 ホームレス問題に対する認識についてでありますが、ホームレス問題は、長期化しております景気の低迷による失業者の増加や産業構造の変化といったさまざまな社会経済的背景、そして加えて、社会生活への不適応など個人的な要因が複雑に絡み合って生み出されている、都市にとっての新しい問題の一つであると思っております。現下の厳しい経済状況の中で、この問題は一層深刻化しております。
 都は、これまでも、路上生活者問題に関する都区検討会の報告を踏まえ、特別区と連携して取り組んでまいりました。国のホームレス対策が取りまとめられました折でもありまして、今後とも、雇用、福祉、住宅、医療等、各分野にわたる総合的な対策の推進に一層努めていきたいと思っております。
 ご指摘の、総論賛成各論反対と、いざ実行の際の受け入れ地であります各区の拒否反応というのはわからないでもございませんが、やはりエゴの一つでしかないと。これは、やはり都の責任で説得し、施策の実現に努めていきたいと思っております。
 次いで、教師の日の設定でありますが、大変いいご提案だと思います。これもう少しやっていれば先生の姿も随分違ったんじゃないかと思うんですけれども、どうも今の世間の通念でいいますと、先生というのは、いかにも頼りのない、何かそういうイメージの職業になってしまいました。
 いずれにしろ、東京が直面する教育の危機の克服に向けて、心の東京革命取り組み方向素案を発表したところでありまして、提案の内容については、来年六月に予定しております心の東京革命の取り組み方針と行動計画策定の中で、この問題も、都民の声を取り入れながら議論していきたいと思っております。
 他の質問については、東京都技監及び関係局長に答弁させます。
   [東京都技監成戸寿彦君登壇]

○東京都技監(成戸寿彦君) 五点のご質問にお答えいたします。
 浅草北部、南千住地域のまちづくりについてでございますが、お尋ねの両地域におきますまちづくりにつきましては、地域の特性を踏まえ、地元区が中心となって検討を進める場に都も参画し、その検討結果を踏まえ、都区の適切な役割分担のもとに、まちづくりを推進してまいります。
 続きまして、都市の景観について四点質問がございました。
 まず、景観条例制定後の施策についてでございますが、景観条例施行後、景観づくり基本方針を平成十年十二月に策定いたしました。また、ことしの四月には、工事を行います場合の届け出基準を策定いたしますとともに、東京の景観の骨格を形成している軸の一つとして隅田川景観基本軸を指定し、八月から届け出の受付を開始いたしました。さらに、この十二月には、玉川上水及び多摩地域の丘陵地について、景観基本軸の指定をしたところでございます。また、国立上野図書館、吾妻橋など三十四件の景観上重要な建造物について、都選定歴史的建造物としての選定も行っております。
 次に、隅田川景観基本軸の特徴についてでございますが、隅田川は、江戸時代には都市の重要な物流ルートでございましたために、川沿いに人々の生活を支える特徴あるまちが栄えてきました。人々は川に目を向けて生活して、両国の花火で代表されるような、にぎわいと楽しみの中心にもなってきました。
 隅田川景観基本軸の特徴は、建物の改築の際には、ご指摘いただきましたように川にも顔を向けていただきまして、こうした歴史性と同時に、人々に親しまれる川を取り戻していこうとするものでございます。
 また、これまでの届け出の件数、指導の状況についてでございますが、ことしの八月から届け出の受付を開始いたしましたが、隅田川景観基本軸の十件を含め、現在までに七十二件の事前相談を受けております。そのうち、届け出件数は十件でございます。こうした多くの事前相談などを通して、東京を美しくしていこうという条例の趣旨が事業者や設計者の方々に少しずつ浸透し、東京の景観づくりに生かされていくのではないかと感じているところでございます。
 最後に、今後の景観づくりについてでございますが、景観基本軸につきましては、隅田川、玉川上水、丘陵地に引き続きまして、神田川や臨海地域について指定を行ってまいります。また、都選定歴史的建造物については、引き続き所有者等の同意を得ながら積極的に選定を進めていきます。
 こうした骨格となる景観づくりを通して、歴史と文化を生かした、活力と風格のある美しい都市東京を目指してまいります。
   [高齢者施策推進室長福祉局長兼務神藤信之君登壇]

○高齢者施策推進室長福祉局長兼務(神藤信之君) 最初に、路上生活者対策の二点のご質問にお答えします。
 まず、自立支援センターの設置に対する都の取り組みについてでございます。
 自立支援センターは、路上生活者の就労による自立を支援するため、都区共同で設置、運営するものでございまして、お話にありましたように、二十三区内に五カ所の設置を予定しております。
 都は、これまでも、候補地の選定につきまして関係区と協議をしてきたところでございますが、現在まで具体的な設置場所の決定には至っておりませんが、都としては、年度内に二カ所の具体的な候補地を決定するよう努めるとともに、残り三カ所についても設置区を決定できるよう鋭意取り組んでいるところでございます。
 次に、自立支援センターが設置できるまでの間、緊急的に自立支援事業を実施すべきとのお尋ねでございますが、路上生活者が急増している現状からも、自立支援センターが設置されるまでの間、宿泊援護や就労相談等を行う自立支援事業を、ご提案がありましたように、既存施設等を活用して実施する必要があると考えております。その実施方法については、現在都と区で協議を行っているところであり、協議が調い次第、実施してまいります。
 次に、山谷対策の問題点と今後の取り組み方についてでございます。
 山谷地域におきましては、日雇い労働者の高齢化、就業構造の変化等による求人の減少、路上生活者の増加が続いており、城北福祉センターの相談件数も激増しているところでございます。
 このような状況から、中高齢日雇い労働者の就労支援や生活の場の整備、介護対策等の推進、NPOとの連携等の課題について、学識経験者や関係区、関係局で構成する山谷対策検討委員会において検討しているところでございます。その結果を踏まえ、適切に対応してまいります。
   [教育長中島元彦君登壇]

○教育長(中島元彦君) 三点のご質問にお答えいたします。
 まず、教員の資質の向上についてでございますが、都教育委員会は、すべての教員を対象に、初任者研修や教職経験に応じた研修を行い、教職への自覚を深めるとともに専門性の育成を図り、児童生徒や保護者から信頼される教師の養成に努めてまいりました。
 今後、研修体系や研修内容の改善、充実を図るとともに、人材育成を図るための人事考課制度を導入し、教員の資質の向上に一層努めてまいります。
 次に、初任者研修の中に農業や漁業の実習を取り入れることについてでございますが、ご指摘のとおり、初任者が農業等の実習を体験することは、人間性豊かな教員を育成するために有意義であると考えております。これまでも、都教育委員会は、課題別研修の中で造園業や農家における体験研修を行ってきておりますが、今後ともその一層の拡充を図ってまいります。
 次に、心と魂の教育大綱についてでございますが、都教育委員会は、子どもたちが心身ともに健康で、知性と感性に富み、人間性豊かな都民として成長することを願い、都教育委員会の理念である教育目標を定めて、教育の推進を図ってきております。
 今後とも、ご提案の趣旨を踏まえ、郷土を愛し、日本のすぐれた伝統の継承と文化の創造に貢献する心の育成を重視してまいります。