文教委員会 管外視察報告

令和6年4月23日(火曜日)から4月24日(水曜日)
委員長 藤井 あきら(都ファースト)

 文教委員会は、市民活動の推進や消費生活対策、教育・文化・スポーツの振興など、都民生活における幅広い分野を所管している委員会です。

 来年は、終戦後80年になります。先の大戦では、国の内外で多くの方がお亡くなりになりましたが、都内においても、東京空襲等により多くの都民が犠牲になりました。都では、過去の戦争の惨禍を心に刻み、史実を風化させることなく次世代に語り継ぐとともに未来の平和を願うため、毎年、記念行事を実施していますが、戦争を知る世代の高齢化が進む中、戦争体験を次世代に継承していくには課題もあります。

 また、現代のようにグローバル化が進んだ社会においては、児童・生徒の英語力を向上させ、積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度や、自分の意見を論理的に説明できる能力を育成するための教育が必要とされており、現在、都としての取組を進めているところです。

 こうした状況を踏まえ、今回、文教委員会では、原爆被爆体験の継承において課題を持つ、長崎市の平和教育等の取組について、並びに、グローバル社会における人材育成としての英語教育の取組について主に調査を行うため、4月23日から24日にかけて長崎県及び福岡県内で視察を実施いたしました。

 その概要について、次の通りご報告いたします。

長崎市役所、原爆資料館、旧城山国民学校の校舎

長崎市役所で説明聴取及び質疑

 23日は、初めに長崎市役所を訪問し、学校教育における平和教育の取組について説明を聴取しました。

 長崎市では、市内の小・中学校全校において原爆の日の8月9日を登校日とし、市として行う平和祈念式典とは別に、それぞれの学校で平和祈念式や平和集会を実施することで原爆被爆体験の継承に努めています。

 各校では8月9日に向けて、4月から平和学習を行い、その成果を平和祈念式や平和集会で発表します。特に中学校では、生徒が主体となって実行委員会を立ち上げ、学校独自の平和宣言文を作成するとともに、平和集会の運営を行っているそうです。

 また、市内の全ての小学5年生は毎年、被爆の実相の継承を目的として原爆資料館の見学を行うとともに、各中学校では被爆写真パネルの巡回展が開催され、生徒の意識の高揚が図られているとのことです。

 長崎市では平成30年に平和教育の基本方針の見直しを行い、自分達とは異なる立場の視点や考え方が存在することを前提とした平和教育を実施しているとの説明がありました。

 長崎市役所での説明聴取及び質疑の後は、原爆資料館の視察をさせていただくとともに、爆心地から約500メートルの近距離で被爆した、旧城山国民学校の校舎を視察させていただき、平和案内人の方からの説明を聴取しました。

 旧城山国民学校の被爆校舎の一部は大切に保存され、現在の児童が通う城山小学校の校舎の敷地内に残されています。また、被爆校舎の前には少年平和像が建てられ、多数の折り鶴や花が設置されていました。

 城山小学校の現在の児童は、少年平和像を平和のモニュメントとして日々大切にしていること、昭和26年の少年平和像の建立以来、毎月1回、平和祈念式典を継続して実施していることなどの説明がありました。

被爆校舎の前に建てられた少年平和像 旧城山国民学校の校舎を視察

リンデンホールスクール中高学部

教育内容や生徒の学校生活について説明を聴取

 翌24日は、福岡県内に移動し、視察を行いました。

 この日の午前中は、英語教育の取組について調査するため、リンデンホールスクール中高学部を訪問し、説明を聴取しました。

 リンデンホールスクール中高学部は、平成22年に福岡県筑紫野市に開校された私立の中高一貫校です。この学校の特徴としては、国語以外のほぼ全ての授業を英語で行う「英語イマ―ジョン教育」を採用していることです。これは、英語力の向上のみではなく、英語を自由自在に使いこなし、自分の考えを論理的に伝えることができることを目指しているそうです。この英語イマ―ジョン教育の採用により、一般的な公立学校の英語による授業時間に比べ、4倍の授業時間を英語で行っているとのことです。

 また、高校3年間の必修科目を高校1年生までで修了し、高校2年生からは生徒の希望に合わせて、IBコース(国際バカロレアコース)か、一般的な大学進学を目指すコースを選択します。平成25年より、IBコースにIBDP(インターナショナル・バカロレア・ディプロマ・プログラム)を導入し、国際的な大学入学資格である国際バカロレア資格を取得できるようになりました。このIBDPを英語イマ―ジョン教育で実施していることが、この学校の強みになっているとの説明がありました。

 ここでは、教育内容やカリキュラム、生徒の日々の学校生活などについて、校長先生や主幹教諭の先生、生徒会の代表の方から説明を聴取させていただきました。

 説明聴取の後は、質疑をさせていただき、その後は校内の授業の様子や、校舎の窓から見える美しい庭園など、素晴らしい教育環境も視察させていただきました。

リンデンホールスクール中高学部を訪問 校内の授業の様子を視察

福岡きぼう中学校

夜間中学の取組について説明を聴取

 24日の午後は、夜間中学の取組について調査するため、福岡市立福岡きぼう中学校を訪問し、説明を聴取しました。

 夜間中学とは、義務教育を修了できなかった方や、諸事情により十分に学べないまま中学校を卒業した方のための中学校ですが、近年、義務教育における不登校生徒や、日本国籍を有しない生徒を受け入れる重要な役割を担っていることから、各自治体には夜間中学の設置や受入対象生徒の拡大を図ることが求められています。

 福岡きぼう中学校は、令和4年度に開校された、公立の夜間中学です。この学校の在校生徒の国籍は日本国籍が約8割で外国籍は少なく、外国籍の生徒が多くを占める都内の中学校夜間学級の状況と比べて特徴的とのことです。開校3年目の今年の生徒数は45名で年々増加しています。生徒の年齢層は30歳代が一番多く11名ですが、70歳代以上も7名いるそうです。生徒の入学理由としては「中学校は卒業したが何らかの理由で十分に学べなかったから」という生徒が多いとのことです。授業方式は、対面による授業のほか、オンラインによる授業や録画による動画授業も配信しています。

 授業を行う際の苦労としては、生徒間の学力差が非常に大きいため、それぞれの生徒のレベルを考慮した授業を行う必要があることや、仕事や家庭等の都合により欠席する生徒も多く、当日の生徒の登校状況に合わせて直前で授業内容を変更する必要があることなどの説明がありました。

 説明聴取の後は、校長先生、教頭先生に校舎内をご案内いただき、視察させていただきました。

福岡きぼう中学校を訪問 校舎内を視察

 以上、2日間という非常に限られた日程の中での視察でしたが、現地での取組を直接拝見し、貴重なお話を伺うことができたことは、今後の委員会活動を進めていく上で、大変、参考になりました。今回の視察で得た成果を、今後の委員会活動を通して都政へと役立ててまいります。

 最後になりますが、このたびの視察に際し、御多忙の折、懇切丁寧に対応していただきました長崎市役所及び城山小学校被爆校舎平和発信協議会の皆様、リンデンホールスクール中高学部の皆様並びに福岡市役所の皆様には、心から感謝と御礼を申し上げます。