予算特別委員会速記録第四号

○服部副委員長 中山信行委員の発言を許します。
   〔服部副委員長退席、藤井副委員長着席〕

○中山委員 まず、中小企業支援についてお伺いいたします。
 中小企業支援の上では資金繰りの対策が欠かせません。私は、一〇〇%保証つきの無担保のセーフティーネット融資が何回も前政権によって拡大されてきましたから、都内の中小企業の融資実行残高はさぞかしふえているのであろうと考えておりました。ところが、産業労働局に問い合わせてみますと、あれだけのセーフティーネット融資拡大後でも、現状は、むしろ融資実行残高は減っているということだそうでございます。
 二月二十三日に朝日新聞に出ておりました記事によりますと、全国信金の預貸率、これは貸出金を預金額で割ったものですけれども、五四・五%と過去最低を更新したということだそうであります。その理由は、プロパーの融資が極めて低調になっているというところにあります。
 もともとプロパー融資が冷え込んできたからセーフティーネットをふやさざるを得なかったという事情がありますが、一〇〇%保証じゃないと融資をしないという傾向が強まっているのも事実でありまして、このままでは、景気低迷が長引き、一〇〇%保証つきがさらに拡大していかざるを得ないということになりますと、金融機関の目きき力も衰退してしまうんじゃないかと、そういう声さえ心配されております。
 でも、まあ、セーフティーネット融資があれば資金繰りは大丈夫なんだろうと思っていると、そうでもございません。金融機関からしますと、それぞれの企業には、経営体力や融資残高、キャッシュ・フロー、将来的受注見込み、担保状況などに応じた与信力というものがあります。その与信力の上で、その企業について限界が来れば、一〇〇%保証も実行されません。もともとプロパー融資も望み薄という状況の中では、追加融資が大変厳しいという状況になってきて、糊口をしのぐためには条件変更、リスケジュールをしなければいけないという状況になります。
 しかし、条件変更してしまいますと、新たな融資は受けられません。そうしたときに、販路拡大のチャンスがあったとしても、そのチャンスをつかむことができなくなってしまいます。個々の中小零細企業が販路開拓のチャンスを逃していくということになれば、それは全体的には景気後退をさらに助長し、ひいては企業の廃業もふえて、せっかくの都内のすぐれた中小企業の技術を継承できないということにもつながっていくことになってしまいます。まさに悪循環であります。景気対策のためには、そこの目の前にある販路拡大のチャンスを逃させないための支援が大切であります。
 政府の経済政策の無策ぶりが続く中で期待を集めているのが、都独自の地域金融機関と連携した新保証やリース設備費用に対する新しい融資、また、先日我が党の橘議員が質問させていただきました動産担保の新たな仕組み、そうしたものでございますが、私はさらにそれに加えて、今後は、中小企業振興公社を中心に行っていただいております事業再生に都独自の財政支援を新たに組み込む制度が大変大事な視点となってくると考えております。
 そこで、産業労働局にお伺いいたしますが、新たな取引先の開拓を通じて事業再生を果たそうとする中小零細企業に対しては、助成などの踏み込んだ方法の実施も含めて、展示会への出展など、さまざまなその企業なりの挑戦を応援していくべきと思いますが、見解をお伺いいたします。

○前田産業労働局長 まず、事業再生についてのお話がありましたので、事業再生の全体のお話をさせていただきます。
 厳しい経済状況の中で、みずから事業再生に取り組む中小企業を応援することは極めて重要と考えております。このため、都は、東京都中小企業振興公社に中小企業診断士や公認会計士などの専門家で構成されます事業承継・再生支援委員会などを設け、事業再生を目指す企業の経営内容の分析を行い、再生方針案を提示しております。その中に、お話の財務の改善、あるいは販路開拓などの具体的な方針案を提示しておりますとともに、経営、金融の両面から総合的に支援を行っております。
 この中で、新たな販路の開拓を行えば再生可能とされる案件の増加が見込まれることから、そうした企業が早期に事業を再生できますよう、販路開拓支援も含めて、きめ細かな対応について検討してまいります。
 また、お話の中で条件変更のお話がありましたが、先般、国の方で法律が制定されまして、金融機関はそういう要請には積極的にこたえるというふうになったところでありますし、その法律ができる前から、新銀行東京はリスケジュール等で積極的に支援しているのはご承知のとおりだと思います。よろしくお願いします。

○中山委員 確かにリスケジュール、積極的に金融機関が取り組んでくださっております。その間に資金をためて、次に挑戦できればいいわけですけれども、なかなかそこは厳しいということで、今、局長からご答弁ありましたように、ある意味で東京都が踏み込んで、その販路開拓の挑戦をして、事業再生をしようとする企業を応援していくと。これからの流れについては、ぜひ推移を見ながら予算の充実等を詰めていただきたいと思っております。
 現在、国内はデフレが進行しておりまして、労力の割には利幅が上がらない、また、受注が落ち込んできて将来的な展望が開けてこないそういう状況がございまして、その中で、今後はアジア諸国の急成長や円高といった逆風にも負けずに海外市場を開いていく、すなわち貿易力で国の元気を回復させていくということが大事であります。
 そこで、都議会公明党は、昨年十二月の平成二十一年第四回定例会代表質問で、東村政調会長が、海外販路開拓の対象地域の拡大、インド、中国などを含めていくべきだ、また、販売代理店、現地でのサポートなども強化していくべきだ、そうした二点を提案させていただきました。都は、迅速に平成二十二年度予算に組み込んでいただいて、先日の知事の施政方針演説でも、力強い旗振りの言及があったところでございます。
 すぐれた技術を持ちながら、海外展開のノウハウを持たないことからちゅうちょしている都内中小企業に対し、アジア市場への挑戦を促す都の取り組みに、多くの商工関係者、都民が期待しております。具体的にどのくらいの規模で、どんな骨格で新たな事業を行うのか、明らかにされたいと思います。

○前田産業労働局長 アジア市場の発展は目覚ましく、今後も大きな成長が続くと見込まれることから、都内中小企業の販路開拓をさらに支援していく必要があります。このため、都は、来年度から対象地域をアジア全域に広げまして、また、都内の中小企業からの取引希望が多い機械、金属、生活産業などの分野別にきめ細かく支援を行うことといたしました。
 具体的には、製品分野ごとに海外販路ナビゲーターを配置しまして、貿易に関する相談にきめ細かく対応するとともに、商材の目ききや取引先の発掘、商社のネットワークを活用した現地の市場動向等の情報収集、提供などを行ってまいります。
 こうした取り組みにより、年間五十社を目標に、都内中小企業のアジアにおける販路開拓を強力に後押ししてまいります。

○中山委員 今、初めて名称を明らかにしていただきました海外販路ナビゲーター、これから少しでもふやしていただくことになると思うんですけれども、ただ、一年間に五十社というのは大変な数字です。よくいい切ったなというふうに思います。初めて取り組む一年目ですので、私は別に、仮に四十社、三十社に終わったとしても、よしんば二十社で終わったとしても、むしろほとんどが成功事例であったということの方が大事だと思います。なぜならば、中小企業は、大変な状況の中で都を信頼して挑戦してくれる。その挑戦してくれる中小企業に対して、一つも残らず成功させていこう、そういう気概が大事であると思います。
 その意味で、今お話をいただきました、具体的に情報を収集して戦略を練っていくということは非常に大事だろうと思います。
 そこで、二点、要望させていただきたいと思いますけれども、一つは、区市町村や地域ごとの商工団体とよく連携していただいて、それぞれの地域から一社でも多くこの制度に手を挙げる企業をふやしていただきたい、そういう取り組みをお願いしたいと思います。
 また、都庁各局は、全庁挙げて、特に海外販路の取り組みが成功する上で必要な情報、人脈の掘り起こしにご協力をいただきたいと思います。都の事業再生や海外販路事業に駆け込む中小企業の胸の中には、知事を筆頭とする都への信頼と期待があります。
 そこで、石原知事にお伺いいたします。
 国策としての景気回復策がいまだ見えてこない中、不安を抱えつつも、都内の中小企業は必死に東京の産業を支え、約七割という雇用を支えております。都はこれまでも、資金繰り支援策の拡充や受注の大幅減に対抗した販路開拓策など、都内中小企業に対し、懸命に応援の手を差し伸べてきました。が、商工振興政策は、景気のよいときよりも悪いときの方こそ力を発揮するべきであります。
 都内中小企業が将来の明るい展望を見出すことができるよう、今後とも、可能な政策はすべて積極的に講じていただきたいと思いますが、中小企業支援に向けた知事のご決意をお伺いしたいと思います。

○石原知事 一概に中小企業、小零細企業と申しますけれども、非常に微妙なランクがあるんですね。アメリカのメジャーリーグにも3Aがあって、2Aがあって、1Aがあって、さらにその下の草野球の優秀なのがあったりするみたいに。とにかく日本の中小企業、小零細企業というのは、いろいろ中にも性格の違う、資質の違うのがありますけれども、総じていうと、こういう存在は恐らく世界にないんじゃないでしょうかね。まさにベンチャーテクノロジーを開発しながらいい製品を下請でつくる。しかし、金の卵を産む鳥でありながら、決して優遇されない地位に甘んじさせられている。景気が悪くなれば一番先に寒い風が吹いてきて、よくなっても暖かい風は最後に吹いてくるような、そういう存在でしかないと思います。
 いろいろなポテンシャルがあるんですけど、なかなかそれを、国も今まで手回しして育てようとしませんでした。私は、前にいた衆議院のときの選挙区は大田区、品川区でありまして、小零細企業が非常に密集した多いところでありましたけれども、その経験からしても何とかせにゃいかぬなといつも思っていました。
 幸い知事に就任してから、アメリカの情報もとって、再三申してきましたけれども、ローン担保証券とか、買い入れた機械のローンですね、それとか、ささやかな会社でも社債を出させて、それを担保にするマーケットをつくりまして、そのおかげで八十社近い会社が上場しましたが、これは本当に小企業、中小の小のちょっと上の方ですね。下はもっと酷薄な条件の中で毎日綱渡りしているわけでありますから、これを何とかしないといかぬということで銀行もつくりましたが、結局一回挫折しました。まあ、立ち直ってきましたけれども……。
 とにかく都内には、世界に誇る、本当にアメリカの大企業がすぐ飛びつくようなすばらしい技術を持っている小零細企業が密集しておりまして、日本の産業全体を牽引している原動力となっております。しかし、長引く不況によって、小零細企業はいまだかつてない苦境にあるわけでありますが、現在の危機から脱却するためにも、資金繰り対策を初めさまざまな施策を実施しておりますが、さらに時代を見据えて、小零細企業の経営体質の強化や販路拡大などの取り組みを幅広く展開していきたいと思っております。
 今後とも、小零細企業が直面する課題に迅速にこたえて、東京の産業を支えるこうした小さな企業というものを、東京としては全力で支えていきたいと思っております。

○中山委員 大変に心のこもった言葉、ありがとうございます。
 続いて、就労支援についてお伺いしたいと思います。
 都議会公明党の強い推進で実現しました就職困難者緊急就職支援事業は、二十一年三月にスタートいたしております。その二十一年三月にスタートした内容は、能力開発センターで職業訓練を受講した障害者、高齢者、母子家庭のお母さん方が対象となったり、あるいはしごとセンターで登録後百八十日を経過しても就職の決まらなかった方々が対象となっておりまして、こうした方々を正規職に雇用した場合に三十万円から五十万円の奨励金を支給するというものでございます。
 都は、本年二月に、企業への奨励金の支給条件を正社員に限っていたものを、非正規雇用を含む六カ月以上の有期雇用にも拡大いたしまして、この点は大変に評価したいと思います。
 しかし、雇用情勢は一層深刻になっておりまして、そこで、産業労働局長に提案がございます。一つは、職業能力開発センターの職業訓練を経てもなお就職が決まらない--七割か八割は決まるそうでございますけれども、そうしたケースでしごとセンターに登録する方々、また、母子家庭のお母さんや障害者、ミドル層など、家計の主な担い手であって、しごとセンターに駆け込む、そういう経済的な逼迫度の高い方々につきましては、しごとセンター登録後百八十日たたないと奨励金の受給要件にならないという点については、緩和をお願いしたいと思っております。
 二月に緩和した直後でいろいろ難しい点はわかりますが、ぜひ柔軟で前向きな検討をお願いしたいと思います。ご見解をお願いします。

○前田産業労働局長 厳しい雇用情勢が続く中、障害者や高齢者、子育て中の女性の方々などの就職環境が今非常に厳しい状況にあります。
 このため、お話のように、都は、昨年の三月からこうした方々への緊急支援として、いわゆる就職困難者を採用していただいた企業への奨励金を創設いたしました。ことしの二月には、正社員で採用された場合だけでなく、継続雇用につながる可能性の高い六カ月以上の有期雇用についても奨励金の対象とする制度の見直しを実施し、早期就職に向けた支援をさらに強化しております。
 今後とも、企業に本奨励金の活用について積極的な周知を図りまして、早期就職を支援してまいります。
 ご指摘の点につきましては、今後の推移を見据えながら検討してまいります。

○中山委員 ありがとうございました。ぜひ期待させていただきたいと思います。
 続きまして、保育についてお伺いしたいと思いますが、その前にまず、企業で仕事をしていく上で、職業訓練を受けて就職に取り組めば、より高い収入、より安定した職につける可能性があるわけでありますが、子育て中の方は、出産、育児で離職されていて、大変能力や意欲があっても、不景気の中で再就職は困難な状況にあります。こうした方々こそ、子育て中でも職業訓練に取り組みやすい環境を整えていく必要がございます。
 福祉保健局に問い合わせましたところ、公的な職業訓練というのは、保育に欠ける要件に該当するそうで、区市町村もそう対応しているそうですが、昨今の待機児童の増加がございまして、なかなかそれだけでは保育園に入れない、そういう状況がございます。そこで期待を集めているのが、東京都が新たにスタートしていただくことになりました保育つきの職業訓練でございます。
 提案させていただきたいのでございますが、一つは、実際に子育て中のお母さん方とかが希望する受講項目が多いその受講場所で保育つき訓練を実施していただきたい。また、交通の便がいいところで行われる訓練の場所で保育つき訓練を実施していただきたい。さらには、そうした方々の家計の問題等を考えて、経済的負担については、費用的負担については、ぜひご考慮願いたい。このことをお願いして、見解を求めさせていただきたいと思います。

○前田産業労働局長 子育て中のお母さんが職業訓練を受けるという場合、お子さんをどうするかということでございますが、先ほど先生お話しいただきましたように、現在、なかなか保育所の状況というのは厳しいものだと思います。
 保育サービスつき職業訓練につきましては、再就職を目指す子育て中の方々のニーズも踏まえ、受講希望の多い事務系、IT等の訓練の実施と、その間の保育サービスをあわせて提供できる民間教育訓練機関に委託する考えであります。委託に際しましては、訓練施設と保育施設の双方を、ターミナル駅周辺など交通利便性の高い地域に確保し、訓練受講者の子どもの送り迎えにも配慮したいと考えております。
 さらに、現下の非常に厳しい雇用情勢の中、受講者の職業訓練期間中の経済的状況も勘案いたしまして、保育サービスにかかる費用は無料とすることを検討しております。
 今後とも、こうした保育に配慮した職業訓練機会を提供することにより、子育て中の方々の職業訓練、再就職を支援してまいります。

○中山委員 ありがとうございます。ぜひそうした訓練を利用していただいてキャリアアップをしていただける方々がふえていくことを期待しております。
 続いて、保育つき訓練がふえていくことは大変うれしい話なんですが、就職する段階で保育サービスを確保できませんと、実際の子育て中の方の就労は促進されないという現実があります。
 そこで、福祉保健局が実施していくということになっております事業所内保育所の制度、これは平成十九年からスタートしているわけでございますけれども、大変期待を集めております。ただ、不景気な状況がありますので、大企業でさえ、その設置推進は難しい状況がございます。
 そこで、福祉保健局長にお伺いいたしますが、中小企業でも事業所内保育施設の設置が可能となるよう、一つや二つでなく、幾重にも支援策を強化してもらいたいというふうにお願いしたいと思います。ご見解をお願いいたします。

○安藤福祉保健局長 事業所内保育施設支援事業でありますが、中小企業でも保育施設を設置しやすいように、複数の企業による共同設置や、貸しビルの事業者の方がビル内の企業等のために設置する形態のほか、保育サービス事業者が設置主体となることも可能な制度としております。
 また、来年度からは、開設後三年間までとしておりました運営費補助を、大企業は五年、ご指摘の中小企業は十年まで延長するとともに、中小企業については補助率の引き上げも行いたいと思います。
 さらに、利用児童数を安定的に確保できるよう、従業員以外の子どもを受け入れた場合も補助対象とするなど、事業の拡充を図ってまいります。

○中山委員 補助率アップ等のいろいろな方策をしていただいて、さらに、地域のほかの方々も場合によっては受け入れていくということは大変ありがたい話で、そうなると、保育園の待機している方々も助かるということになると思います。
 本来なら認可保育園の定員増についてお伺いしたかったんですけれども、基本的には保育人材の確保という点がポイントだということで、そちらの方はその対策の充実を待ちたいと思っております。
 引き続いて、低所得者対策について質問させていただきます。
 都は、三選に臨んだ石原知事の着想を生活困難者向けの社会復帰支援事業として進化させました。そして、都の独自の生活安定化総合対策事業として取りまとめ、生活給付金を伴う技能訓練を国に先駆け実施していただきました。私のもとにも、この制度を活用して就職できたとの喜びの声がたくさん寄せられております。
 ただし、開始時には要件緩和を望む声もあったそうでございまして、これまでに実施した見直しの内容をお伺いしますとともに、あわせて、失業など、最近、急に発生した原因で生活困窮に苦しむ場合の収入認定などについて都の対応をお伺いいたします。

○安藤福祉保健局長 生活安定化総合対策事業は、前年の所得が一定基準以下の方を対象として実施しております。平成二十年十二月から、賃貸住宅へ入居している方の所得の算定に当たり、一定額を限度に家賃相当額を減額するとともに、土地、建物を所有していないこととする要件を、現に居住している家屋等には適用しないなど、利用者の生活実態により即した運用を行っております。
 収入の認定に当たりましては、失業等により前年よりも収入が激減している場合は、直近三カ月の収入状況から年収を推計し、所得要件に該当するか判断しておりまして、真に支援を必要とする方が利用できる仕組みとしているところであります。

○中山委員 家賃のことも見ていますよということと、あわせて、直近三カ月の収入を、わかりやすくいうと四倍して年収を推定して判断すると。実に柔軟で、機知に富んだ対応だと思っております。
 生活安定化総合対策事業の一環にチャレンジ支援貸付事業がございまして、これについて質問させていただきます。
 高校や大学の受験に伴う塾代や大学受験費用を貸し付け、成果に応じて返済を免除するものであります。教育支援を通じて、貧困から貧困が生み出される負のスパイラルを断ち切る新たな社会保障政策として特に評価が高いと思っております。
 現状の成果を明らかにしていただきたいと思います。また、二十二年度においても一層の充実を期していただきたい。あわせて見解をお願いいたします。

○安藤福祉保健局長 本事業の貸付件数は、昨年度、十月からの六カ月間で一千二百十一件と、一カ月当たりに換算しますと二百二件でありましたが、今年度は一月までの十カ月間で二千八百五十一件、一カ月当たりで申し上げますと二百八十五件と大幅に増加しております。
 また、昨年度の貸付案件の約九割は高校、大学等への入学を果たしております。
 来年度は、中学三年生の学習塾等の受講料について貸付限度額を引き上げるとともに、新たに高校受験料も対象とするなど、低所得世帯の子どもへの支援を拡充してまいります。

○中山委員 大変な成果でございまして、この返済免除となる制度がなければ受験をあきらめていた方もいらっしゃったかもしれません。また、塾代の貸付限度額をアップ、高校受験にも新たに適用していくということで、福祉保健局長、意欲的な取り組み、ありがとうございます。
 二十年六月の第二回定例会の代表質問で、前期で勇退されました東野さんが質問の最後に触れた点が、何とか合格したら返さなくていい制度にしてほしいという点でございまして、福祉保健局長が力強くご答弁いただきました。私も原稿を担当した一人として感激した思い出がございます。
 生活安定化総合対策事業が、開始後間もなく二年が経過しようとしております。都庁各局の連携と団結、短期間で相談窓口を整えてくださいました区市町村の協力もありまして、利用実績も伸びて、多くの成果を上げております。大都市への労働可能年齢人口の一極集中というのは、どこの国にも定まった命運といいますか、そういう状況はございまして、高齢化や短期雇用の拡大など、遅かれ早かれ、発展著しいアジアの諸都市でもいずれ直面すると思います。アジア新興国の大都市の将来にも明るい参考材料を提供する、こうした新たな低所得者対策というものが、国ではなく、東京都から生み出された事実は歴史に刻印されるべきだと思っております。
 そこで、本事業のこれまでの成果を踏まえ、もともとの発案者であります石原知事の所感をお伺いします。

○石原知事 都は、今日の深刻な経済、雇用情勢の中で、生活に困窮している都民がみずから生活安定への道を切り開けるように、他に先駆けて重層的な低所得者対策を行ってきました。このような都の先導的な取り組みがありまして、ようやく国は第二のセーフティーネットを整備いたしました。
 都は、都民それぞれが活躍し、将来に明るい展望の持てる社会の実現に取り組んでいきますが、この問題の根源的な、根本的な解決はあくまで、あくまで国の役割であります。国は、経済の活性化はもとより、財源の確保も含めた真摯な議論を行って、将来に向けて安定した社会保障制度を構築していくべきであると思います。これからもそれを強く国に求めてまいります。

○中山委員 国の対応の推移を見ていただきながら、できましたら、チャレンジ支援貸付事業等の東京都独自の制度は、引き続き継続して実施していただくことをご要望させていただきたいというふうに思っております。
 続きまして、ひきこもり対策について質問させていただきたいと思います。
 英国出身のローレンス・スラッシュさんという監督さんがつくりました、邦題は「扉のむこう」という映画に、ひきこもりという日本の若者の状況が取り上げられておりまして、欧米の映画祭では、日本の若者特有の不可解な現象という紹介方がされております。訳語もないため、そのままローマ字でHIKIKOMORIという言葉がパンフレットには使われているそうです。
 オタクや津波と同じように、日本語がそのまま世界語になっていくのかなと思っておりましたら、三月七日の毎日新聞で、知事もよくご存じの方だと思うんですけれども、精神科医の斎藤環先生が論評を書いていらっしゃいまして、ひきこもりが世界に広がりつつある、そういうふうな指摘をされていらっしゃいます。
 斎藤先生によりますと、海外でも、成人後の子どもが親と同居することはふえてき始めている。もともとは珍しい現象だったんだけれども、ふえ始めている。そうした青年たちを呼称する造語が使われ始めている。例えば韓国ではカンガルー、オーストリアではママホテルというそうですね。イタリアではバンボッチョーニ、これは大きなおしゃぶり坊やという意味だそうです。イギリスではキッパーズ、両親のポケットの中で退職金を食いつぶす子どもという意味だそうです。カナダではブーメラン、これは戻ってきてしまうということなんだと思いますが。アメリカではツイクスター、青年と大人の間、ドイツではネストホッカー、巣ごもりをする人ということで、これは斎藤先生が論評している話なわけですけれども、この大人になった子どもが親と密着する度合いが高い傾向というのは、斎藤先生のご指摘によると、日本や韓国は儒教文化、イタリアはカトリック、そうした文化的背景があるのはわかるけれども、そうじゃない国々でも広がりつつある。
 一つは、一番大きな要因は経済的要因で、住宅の高騰、雇用の悪化、若者の自立が困難になってきているんだろうと。もう一つは、教育がある面では先進国で制度が進み過ぎていて、自立するまでに要する教育の期間が長過ぎる、そういうことがあるんじゃないか。もう一つは、イギリスなどでは実家から出てしまうと社会保障が受けられなくなってしまう。そうしたことも要因にあるというふうにいわれております。
 結局、斎藤先生は、論評のまとめとして、先進国で起きている両親と同居する若者の増加は、日本的なひきこもりが世界に広がっていく先触れだと。それが一点。二つ目は、有効な支援策を構築し、ノウハウを蓄積しておくことは、もはや日本国内の問題だけではありませんということが二点目。三点目は、広く国際貢献につながる課題として、ひきこもり先進国の責任が日本に問われているといういい方をしています。特に有効な支援システムの構築やノウハウの蓄積、それが日本の責任だとまでいわれているのは、ある面では医学的な感覚になるかもしれません。先に経験した国がそれを担うべきだということだと思います。
 こうした見地を踏まえますと、ひきこもりは、単に個人の問題として見逃していてはだめだということになります。その放置は、若年労働者の減少や社会的負担の増大など、東京の将来に影響を与える問題に発展する可能性もあります。行政として対策を講じていくべきであります。
 そこで、青少年・治安対策本部長に、まず二点お伺いいたします。
 一つは、都は国に先駆け、ひきこもりに取り組んでまいりました。国の対策は、今年度からようやくひきこもり地域支援センターを全国に配置するというものでございますが、国の後発的な動きが都の取り組みを阻害してはだめだと思います。都の対応をお伺いします。
 あわせて、ひきこもり対策は、身近な地域でアウトリーチを中心にきめ細やかな対応をしていくことが望ましい。そのためには、ひきこもり支援に熱心に取り組むNPOとの連携が大切であります。また、将来的には第一義的に対策に当たることになるでありましょう区市町村と安心して協働できるようなパートナーとして、NPO法人の運営を自立、安定化に向け誘導する必要があります。
 都はこれまで、ひきこもり対策に必要な地域の支援、地域リソースを育てるためどう取り組んできたのか、あわせてお伺いいたします。

○倉田青少年・治安対策本部長 都は、区市町村に委託しまして、ひきこもりセーフティーネットモデル事業を実施し、ひきこもり対策のモデルを確立することとしております。これは、区市町村の子ども家庭部門、就労支援部門、教育部門などの関係部署がネットワークを構築して、支援の対象者を把握し、個人の状況に応じた適切な支援を行うものであり、その多くはNPO法人等を活用しながら支援を実施しております。
 さらに、都は、NPO法人等に委託して、東京都若者社会参加応援ネット、コンパスを実施し、ひきこもり等の自立支援及びNPO法人等の交流促進を図っております。これは、都が作成いたしましたひきこもり等の若年者支援プログラム、これに基づきまして、NPO法人等が支援事業などを実施し、その実施状況の検証を通じて、効果的なプログラムを確立する事業でございます。ひきこもり対策のモデル及び支援プログラムの確立は平成二十二年度を予定しております。
 それから、ご指摘のとおり、ひきこもり支援に取り組むNPO法人が、自立し、安定的な運営を行うことは重要でございます。都といたしましては、確立しましたひきこもり等の若年者支援プログラムのNPO法人等への普及、定着などを行うことにより、区市町村がひきこもり対策において協働できる良質なNPO法人等を社会基盤として育成してまいりたいと考えております。

○中山委員 都のひきこもり対策のモデル事業及び対策プログラムは平成二十二年度に確立するとのことでございますけれども、その後もひきこもり状態からの脱却を図る若者の就労支援などに積極的に取り組む必要がございます。そこで、さらに支援策を充実させるべきですが、見解をお伺いいたします。

○倉田青少年・治安対策本部長 ただいまも申し上げましたけれども、ご指摘のとおり、NPO法人等について、自立し、安定的な運営を担っていただくということは大変重要な課題だというふうに考えております。
 ひきこもり等の若年者支援プログラムをしっかりと確立いたしまして、それをNPO法人等に普及、定着を行って、良質なNPO法人等を社会基盤として育成できるようにしっかり進めてまいりたいというふうに考えております。

○中山委員 ぜひ今後も安定した、NPOをパートナーとして区市町村が活用できるように継続しての支援をお願いしたいと思います。
 最後に、教育問題について触れさせていただきたいと思います。
 小学校では、団塊の世代の教員の退職が相次ぎ、新人教員は大量採用時代に入っております。都議会公明党は、退職教員の活用と、ベテラン教員の指導による授業力の向上、この重要性を訴えてまいりました。
 都は、この要請にこたえ、二十二年度から退職教員を活用した新人育成に取り組むと伺っております。画期的な企画立案を高く評価したいと思います。具体的な内容、規模、実施方法と、従来からの取り組みとの相違点をお伺いいたします。

○大原教育長 小学校におきましては、ベテラン教員の大量退職に伴い、大量採用が続いております。こうした状況は今後十年程度継続すると見込まれまして、増大する若手教員の育成が喫緊の課題となっております。
 今回、小学校に導入する新人教員養成策は、退職した優秀で指導力のある教員を育成担当の教員として再任用し、大学等新卒の新人教員の育成に当たらせる研修制度でございます。育成教員が新人教員と二人でペアを組んで学級を担任し、その豊富な教職経験を活用し、日常業務を通して新人教員を指導してまいります。規模につきましては、初年度は百名程度を予定しております。今後段階的に拡大してまいります。
 それから、現行の制度との相違でございますけれども、現行は、担任を持っている教員を指導教員として指名いたしまして育成に当たらせるということで、専任の育成担当ではない、この辺が今回の制度と違うところでございます。

○中山委員 小学校は、すべての学校の基礎でありますので、この制度の成否は、東京の教育の将来を左右する大事な取り組みだと思っております。
 そこで、その成功を確実なものとするため、二点、取り組みのポイントを指摘したいと思います。
 一つは、教えを受ける児童の側からすると、担任が二人いるように感じて、混乱しかねない危惧がある点であります。その回避を図るには、あらかじめ基本的ルールを定め、関係者に徹底しておく必要があります。
 次いで、本制度の成功のかぎは、一にも二にも育成教員のモチベーションにあります。退職という人生の大きな節目を迎えた方が、デスクワークではなく、教育現場で新人の育成に当たる上では、大変な情熱が必要であります。そのためには、連絡、情報交換の場を設定すると同時に、育成教員自身による体験記を取りまとめてみてはどうかということをご提案させていただきたいと思います。見解をお願いいたします。

○大原教育長 まず、学級に混乱が生じないかとのご懸念についてでございますが、この研修制度が二人で担任することを前提にしながらも、新人教員が第一義的に子どもへの指導や保護者対応を行い、育成教員がその支援を行うこととしておりまして、両者の役割分担は明確でございまして、混乱は生じないものと考えております。
 なお、この役割分担につきまして、新人教員本人だけではなく、この研修制度を実施する学校の校長や育成教員に説明会等で周知徹底いたしますとともに、保護者にも十分説明をしてまいります。
 次に、退職教員のモチベーションを高めるためのご提案についてでございますが、まず、育成教員を対象とする講習会の中で、おのおのの取り組みについて情報交換の場を設定するなどの工夫を行い、育成教員のモチベーションを高めてまいります。
 また、体験記についてでございますが、育成教員が成功体験や失敗体験などを記録して報告書にまとめることは、育成への意欲を高める上で効果的であり、さらに、今後の新人教員養成への指導指針としても活用できることから、作成してまいります。

○藤井副委員長 中山信行委員の発言は終わりました。(拍手)
 この際、議事の都合により、おおむね三十分間休憩いたします。
   午後五時三十六分休憩

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