東京都議会予算特別委員会速記録第二号

   午後四時三十八分開議

○大沢副委員長 休憩前に引き続き委員会を開きます。
 質疑を続行いたします。
 山下太郎理事の発言を許します。

○山下委員 まず初めに、新銀行東京についてお伺いいたします。
 石原知事は、私たちの代表質問に答えて、発案者として当然もろもろの責任を感じていると答えつつも、もろもろの責任とはとの質問には、もろもろとはまさにもろもろと、責任の所在を明確にすることを避けていらっしゃいます。しかも、その後の定例会見で同趣旨の質問を受け、皮相な質問だと反論するなど、全く責任を感じているとは思えません。
 私たちは、責任の所在を明らかにし、総括しない限り、また同じ過ちを犯すのではないかと大いに懸念するものであります。
 私は、最も大きい石原知事の責任は、全庁的な議論もないまま、トップダウンで銀行設立を決めたことにあるのではないかと考えますが、もろもろの責任の中にこのトップダウンによる決定も入っているのか、まずお伺いいたします。

○石原知事 あなたは、メディアリテラシーということをよくおっしゃいますけれども、メディアが何か心情的にいっているトップダウンという言葉を余りやっぱり軽率にお使いにならない方がいいと思います。私は、ジュリアス・シーザーでもアレキサンダー大王でもないんです。東京というこの膨大な組織の中で、私一人が物を発想して、それで全部決まるなんて、そんなもので行政なんか動くわけないですよ。一回あなた、行政に加わってみたらわかることですけどね。
 それは、私は発案もしますよ。同時に、ボトムアップで上がってきたそういうアイデアも、新しいものはとってきました。例えば認証保育所なんていうのは、都のスタッフが考えた非常に卓抜なものです。同時に私は、社債担保証券とか、あるいはローン担保証券を自分で考えて、これだって内外の専門家に相談して実現していったわけです。排気ガス規制だってそうですよ。これは私が発案しましたけれども、私一人でどんどんできることじゃない。
 ですからトップダウンて、そうですね、あなたの政党の大将の小沢さんというのは相談もせずに、中にいろいろ意見があるみたいだけど(発言する者多し)黙って聞きなさい。わかりやすい例をいっているんだから。中にいろいろ異論があるのに、大連合を持ち出されたり、取り消されたり、代案も出さずに日銀の総裁も(山下委員「そんなこと聞いていないです」と呼ぶ)いや、それをトップダウンというんですよ。
 もとより、東京の行政を預かる知事が、明確な方針を示し、その実現に向けて職員に指示することは当然のことであります。しかし、今いったように、合議の上に一つの成案ができ上がってくるわけでありまして、この事業をすべて私の一存で進めてきたかのような指摘は全く当たりません。これは行政のメカニズムを知らない方の間違った指摘でありまして、考え方を直されたほうがよろしいんじゃないでしょうか。

○山下委員 私は、ここで伺いたかったのは、別にトップダウンの言葉の意味とか、うちの党の代表がどうか、そんなこと聞いていないんですよ、知事。わざわざ知事にトップダウンの意味をここでご教授いただく必要は、時間ももったいないので、答弁をしていただきたいと思います。
 私が申し上げたのは、この銀行を発案されたのは知事だと知事自身もおっしゃっていますよね。ですから、この銀行は、すなわち知事の発案なしでは生まれなかった。そして、知事も今、ご答弁にはございませんでしたが、我が党の幹事長がどうとか、我が党の態度がどうだったとか、先ほど自民党さんに対する答弁にあったと思います。
 我々は、率直に申し上げて、銀行じゃないですけれども、石原知事がこのマスタープランをお出しになったときに、この議会のときに審査が甘かったといわれれば、その指摘は当たるかもしれません。ただ、だからこそ、同じ失敗を二度と繰り返したくないから、真摯な議論をさせていただきたいというふうに思っている次第でございます。
 それでは、続けて二問目に行かせていただきたいんですが、そうはいっても、当時の意思決定のプロセスを調べますと、石原知事が新銀行東京の設立を発案し、記者会見で発表するまでの段階で、政策会議での決定などしかるべき手続を踏んでいたとは思えません。
 新銀行東京は、中小企業政策をつかさどる産業労働局が研究検討していた政策でもなければ、中小企業団体から要望を受けたものでもありません。まさに石原知事のトップダウン、もう一回申し上げますが、トップダウンによって具体化された政策であると思いますが、トップダウンの意味のご説明は十分いただいたので、それ以外の質問に対してのご答弁をお願いします。
   〔発言する者あり〕

○大沢副委員長 速記をとめてください。
   〔速記中止〕

○大沢副委員長 速記を再開してください。

○山下委員 これは、知事、ちゃんと質問通告もさせていただいて、この質問で私が何を伺いたいかは知事もご存じのはずですよ。それできょう初めて、知事がご存じのはずじゃないという話にはならないじゃないですか。ちゃんと事前にこういうことを質問させていただくと申し上げているわけですから、それについてご答弁ください。
〔石原知事「何の質問だかさっぱりわからない」と呼ぶ〕
   〔発言する者多し〕

○大沢副委員長 速記をとめてください。
   〔速記中止〕

○大沢副委員長 速記を開始してください。

○石原知事 今、あなたの質問の中にこの問がありませんというのは、質問事項の中に、新銀行東京は、中小企業をつかさどる労働局が研究して検討したものでもなければ、中小企業団体から要請を受けたものでもない。私がいい出したから、こういった機関が合議して、もっといろいろな方の意見を聞いてできたんでしょう。(山下委員「そこの確認を二番でしていなかったんだから、いいじゃないですか、それで」と呼ぶ)質問に入っていない、そんなことは。
〔山下委員「書いているじゃないですか。質問にならないんですけど」と呼ぶ〕

○大沢副委員長 計測をとめてください。
〔「何でいちいちとめているんだよ、委員長」「議事進行」と呼び、その他発言する者多し〕

○大沢副委員長 計測を始めてください。
 もう一度質問をしてください。

○山下委員 もうあえて--時間ももったいない、過ぎています。三番に移ります。知事は、三番の質問に目を通していただきたいと思います。
 石原知事は、新銀行の失敗を旧経営陣の責任としていますが、旧経営陣はいわば雇われマダムであって、石原知事が定めた経営方針に従って会社を運営していたのではないでしょうか。スコアリングモデルが不完全であったことや開業時期を見誤ってしまったことなど、最初の設定に失敗があったことも知事の責任なのではないでしょうか、ご所見を伺います。

○石原知事 新銀行のマスタープランは、金融の専門家のほか、旧経営陣も含めて多数参画して策定したものでありまして、預金者や中小企業の意向をモニタリングするなど、当時においては最善を尽くして策定されたものと認識しています。
 その後、不良債権の処理が進んだ大手金融機関が中小企業金融市場に参入するなど、金融環境の急激な変化が起きたことにより挫折を強いられた、その部分はあります。ただ、情勢の変化に機動的に対応し、経営のかじを切っていくのは経営者じゃないんでしょうか。つくったこのマスタープランなるものは、いわばでき上がったモデルカーでありまして、それをどう運転するかというのは経営者の才覚だと思います。

○山下委員 さて、追加出資の提案について、新銀行東京の経営状況が危ういということは知っていましたが、本会議開会直前になって提案を決めたことに何か理由はあるんでしょうか。例えば、大急ぎで四百億円が必要であるというならば、十九年度の最終補正案として提案し、今年度中に執行するということも考えられたでしょう。
 しかし、二十年中に施行するというのであれば、今議会に提案するのではなく、少なくとも新銀行の決算や調査報告書、あるいは再建計画案を踏まえた上で、六月議会などで提案することも考えられたわけであります。
 特に、調査報告書も明らかになっていない中で追加出資を提案するというのは明らかに順番がおかしく、都民のためというよりは新銀行の危機を何とかしたいという知事のメンツが優先しているのではないでしょうか。なぜ新銀行の決算が出る前に、しかも二十年度予算として急いで追加出資をする理由があったのか、お伺いをいたします。

○佐藤産業労働局長 既に平成十九年度末の決算見込みにつきましては、本委員会資料第165号別紙4でお示ししたとおり、総資産は五千二百八十六億円、融資、保証残高は二千三百億円、預金残高が四千七億円で、純資産は百五十億円となる見込みであります。
 この状況で平成二十年度の事業を継続した場合には、年度末に自己資本比率がBIS規制で定められている国内行の基準四%を下回ることが想定されます。
 また、新銀行東京が、二十年度を初年度といたします再建計画に基づきまして、速やかに、かつ着実に事業展開を図るためには、その事業リスクに見合った資本を確保することが必要でございまして、この時期に議決をいただくことが不可欠でございます。議決をいただければ、速やかに追加出資を行うことができることから、今定例会に提案をいたしました。

○山下委員 ご答弁の中で、年度末にはBIS規制の四%を下回るということは、年度内は大丈夫だということであり、内部調査報告書や決算書などを踏まえた上で提案してもよかったのではないでしょうか。新銀行東京の十九年度決算見込みによりますと、累積赤字は千十六億円に上るものの、純資産が百五十億円と示されたように、にわかに債務超過にもならないように思われます。追加出資をしなかった場合、新銀行東京はいつごろ、どのようになるのか、お伺いいたします。

○佐藤産業労働局長 追加出資が行われずに新銀行の業務が二十年度に行われるとしますと、平成二十年度中には自己資本比率が銀行業務を行うに必要な水準を下回ることが確実となります。
 金融庁からは早期是正命令が発動され、銀行に対して資本の増強などの命令がされることとなります。風評被害などから預金の引き出し、また債務返済の滞りなど、経営上深刻な影響が懸念されるとともに、資本の毀損が加速されるおそれがあります。融資先に対する返済条件の緩和など、新銀行はやっておりますけれども、柔軟な対応も困難となるなど、融資先中小企業への影響は少なくないというふうに思います。

○山下委員 融資先中小企業への影響が多いのか少ないのかは後ほど議論させていただきたいと思いますが、追加出資四百億円の根拠について、東京都は、新BIS規制により、事業を展開する上で避けられないリスクに対応するというふうにご答弁をされておりますが、この新BIS規制で規定されているリスクは、多くの場合は信用リスクのことだと思いますが、それぞれのリスクに、何がどの程度、事業を展開する上で避けられないリスクを生じているのか、具体的数値でお答えいただきたいと思います。

○佐藤産業労働局長 新銀行東京は、事業計画の抜本的な見直しを行うとともに、銀行業を行う上で最低限必要となる自己資本と、今後事業展開をする上で予想されるリスクに対する資本を確保する必要があることから、四百億円の追加出資を都に要請してきたわけであります。
 銀行の資本につきましては、国際決済銀行、BISの資本に関する規制がありまして、国内におきましては、金融庁の監督指針により定められているところでございます。これは、平成十九年三月から新たに導入をされた部分がございまして、従来の自己資本比率確保に加えまして、積んでおります貸倒引当金ではカバーできない、つまり将来発生することがあり得る損失を非期待損失というふうにいわれておりますけれども、この将来発生することがあり得る損失について、あらかじめ資本化をしなければいけないという規則でございます。
 この新BIS規制に対応するために、自己資本比率に必要な八十億円、それから、リスクに対応するために必要な部分が二百八十億円、さらに、新規業務や風評等その他のリスクへの備えとしまして四十億円、合計四百億円が必要になるとの銀行の判断により、要請がなされたものでございます。

○山下委員 石原知事は、平成十五年の十二月議会において、都議会民主党の質問に対して、税を再び投入することは考えておりませんし、また、その可能性がないものと思っていると答弁されています。私たちも、再出資すべきでないことを討論で申し上げた上で、新銀行への出資に賛成をしてまいりました。
 また、石原知事は、さきの十二月議会でも、都議会民主党の質問に対して、追加出資は考えておりませんと明確に答弁したのではありませんか。今なおこうした答弁をほごにしてまで追加出資する意義が全く見出せないのですが、知事の見解をお伺いいたします。

○石原知事 昨年の十二月の時点では、私たちはまだこの銀行の実態について正確な掌握はできませんでした。ずっとそれ以来いろんな調査をしてきて、だんだんわかってきた。ですから、その一つの証左に、議会に報告した、要するに銀行側の調査というのはきのうかおととい出たんでしょう。これまでやってきたんですよ。その結果、今ある状況に暗然として、これはやはりとにかく四百億の追加出資をしてもらわないとえらいことになるということで、こういう動議を出したわけです。
 とにかく新銀行東京はこれまで、既存の金融機関では支援の難しい、赤字や債務超過に陥っている中小企業に対しても、できる限り支援を行ってきました。こうした企業の中で、新銀行東京の融資が契機となって業績を回復した企業は九千社にも上ります。
 今後、新銀行東京の経営が行き詰まった場合には、その支援を頼りに懸命に努力をしている既存の融資先一万三千社のうち、特に他の金融機関から支援が難しいと考えられる五千六百三十五の赤字、債務超過先や取引先あるいは業務員、家族などの関係者に重大な影響を及ぼすことになるわけです。
 今回、新銀行東京自体の経営改善努力とあわせて、追加出資を行うことで経営安定化が図られ、赤字、債務超過先であっても正常に返済を続けている中小企業など、高い事業意欲がありながら資金繰りに窮している中小企業への支援を継続していくことによりまして、新銀行設立の趣旨を実現していきたいと思っているわけであります。

○山下委員 まず申し上げておきたいのは、知事は、私どもの代表質問に対しても以前お答えいただいたように、新銀行東京のおかげで九千社が助かったんだというご答弁があったように思います。でも、我々は、九千社を助けるために赤字を一千億円使っていいなんてだれも思っていないわけです。赤字を出していいなんて話にならない。ですから、九千社をこれで回復させたんだとまず胸を張られても、我々としては困るわけです。そこはまず冒頭申し上げておきたいと思います。
 今のご答弁で、九千社にも上るというふうにまた述べていただいていますが、業績を回復させたという九千社の内容と内訳についてお伺いしたいと思います。また、今後の再建計画の中で、デフォルト率及び不良債権の処理費用がどれぐらい生じると考えているか、お伺いいたします。

○佐藤産業労働局長 平成十九年十二月末現在の数字でございますが、新銀行東京では約一万三千社に対し融資、保証を行っております。このうち増収増益が四千二百社、増収先が二千九百社、増益先が千八百社となっており、約九千の中小企業が新銀行東京からの融資をきっかけに業績を向上させております。
 なお、今回策定をいたしました再建計画では、平成二十年度から計画の最終年度であります平成二十三年度までの既存貸し出し、保証残高に対するデフォルト発生累計額として、約二百八十五億円を見込んでおります。

○山下委員 また、石原知事は、事業を仮に継続しなかった場合、一千億円以上の費用がかかると述べ、二月二十八日の定例会見では、事業清算や破綻処理による影響額を試算したと述べられております。事業清算をした場合、幾らの費用がかかるのか、その内訳と、そのうち都民の負担についてお聞かせいただきたいと思います。
 また、時間がございませんので、あわせて次も伺いますが、預金保険法に基づく破綻処理の場合も、同じく教えていただきたいと思います。

○佐藤産業労働局長 まず、事業清算とは、金融庁の認可を受けまして、銀行みずから廃業するもので、そのためには、協力銀行による預金者と健全な融資先の保護を前提に段階的に事業を縮小して、清算会社に移行することが必要になるというふうに考えられます。
 新銀行東京の現在の預金残高は約四千億円であり、これに対する資産は十分にございます。しかしながら、いっときに払い戻しが請求された場合、直ちに現金化できる有価証券などの資産だけでは不足が生じる。このため、約一千億円の貸付金という形で新銀行東京を支援することが、設立主体である都の責任であるというふうに考えます。
 その後、融資返済などによりまして、貸付金は徐々に返済をされますが、時期や金額は確定できません。融資継続が行われないことによりまして、既存融資先の経営悪化が発生すること、また、清算ということを公表することによりまして、融資先にモラルハザードが起きる可能性もあります。融資返済の滞りから多額の損失の発生が予想されるわけであります。
 その損失額につきましては、確実な試算方法というのはないわけですけれども、実際に清算をやる場合には、現実的には清算のための協力銀行へ債権等の引き取りをお願いすることを考えねばならないというところもあります。そういう意味では、過去の同程度の資産規模を持った金融機関で破綻したときの例を見ますと、五割以上の資産の回収が見込めなかったということが出ております。これを新銀行東京の例に当てはめると、想定される損失の額は一千億円にも及ぶものというふうに推計されます。
 次に、預金保険法の破綻処理につきましては、債務超過または預金払い戻し停止のおそれがある金融機関に対して行われる措置でありまして、現在の新銀行東京には適用されませんが、一般的な方法といたしましては、金融整理管財人の管理のもとで、救済金融機関との合併や事業承継が行われるということになります。
 その影響といたしましては、一千万円以下の預金の元本、利息は保護されますけれども、これを超える部分につきましては、銀行の財務状況に応じてカットされる、いわゆるペイオフが発動されることになります。一月末現在で一千万円を超える預金は、法人、個人合わせまして九千六百十件、四百七十七億円に上りまして、個人顧客だけでも九千五百二十三人、三百十五億円になります。
 また、新銀行東京の顧客につきましては無担保融資が中心であること、また、先ほど来申し上げておりますが、赤字や債務超過企業が多いということから、この場合には整理回収機構に移管される可能性が極めて高くなるということが想定をされます。
 中小企業の融資先にとりましては、貸出債権が整理回収機構へ移管となった場合には、社会的信用が失われること、また、新たな融資がほとんど受けられなくなるということから、事業継続が困難になるというふうに考えます。
 法的には都の負担は生じませんけれども、我が国で初のペイオフの実施という影響は、はかり知れないものがあります。国民経済上多大な損失が発生することに疑いがないというふうに考えております。

○山下委員 一千億円にも及ぶ我が国初のペイオフだと、いろいろ理由をご説明いただいていますが、ここで大事なことは、平成十五年七月一日の本会議において、都議会民主党田中良幹事長の代表質問で、予期したほどの業績を上げられず新銀行が破綻をした場合どうなるんだと述べたのに対して、知事は、都としては、株主としての有限責任を負うことにとどまると答弁されておりました。
 有限責任とは、すなわち株式会社が破綻をしても、出資者は出資金以外の負担をする責任はないということであります。ということは、追加出資をするという法的義務もないものと考えますが、お答えいただきたいと思います。

○佐藤産業労働局長 株主がその出資の範囲内で有限責任を負うことは、所有と経営の分離の原則のもとにおきまして、株式会社制度が発展してきた大原則であります。したがって、新銀行東京が仮に破綻をした場合におきましても、都は出資金額を超えて法的責任を負うことはありません。
 しかし、今問題にしなければならないのは、有限責任の建前ではなくて、現に新銀行から融資を受けている一万三千社を初めとするその取引先、従業員、家族などの多くの関係者に重大な影響を及ぼす可能性があるということに直面をしているということであります。
 都としましては、都民の貴重な税金により出資した株主としての立場と、中小企業施策を展開する行政の立場を踏まえて、どう対処すべきかを考える必要があります。
 中小企業支援を目的に政策的に設立した新銀行東京をみすみす破綻させることは、懸命に努力しております中小企業を見捨てるということで、選択することはできないと。また、それにより信用不安が起これば、東京の地域経済にも大きな影響を与えます。こうした判断から、都は追加出資の要請に応じることとしたものでございます。

○山下委員 有限責任の建前ではなくと、その後ご説明をいただきましたが、これまで我々はもう二年も前から、後で述べますけれども、この新銀行は危ないんじゃないか、出口を見つけろ、民間のパートナーを見つけた方がよろしいんじゃないか、そんな指摘をさせていただくがために、情報を出してください、何か問題があるんじゃないですか、議会でこれじゃ質問できないじゃないですかといってきたときに、有限責任の建前を振りかざしてきたのは、それを理由に情報をオープンにできなかったといってきたのは東京都側じゃないですか。それはおかしいんですよ、おっしゃっていることが。
 こうなってから、今さらこれは建前論じゃなかったなんていわれても、つじつまが合わない。このことははっきり申し上げておきたいと思います。そして、法的義務はないということを、ここで改めてこの質問を確認させていただくことで、次に入りたいと思います。
 また、既存融資先の一万三千社を初め、その取引先、従業員、家族などの関係者に重大な影響を及ぼしかねないとのご答弁でしたが、重大な影響とは何でしょうか。一万三千社のうち、どれくらいの企業がどのような重大な影響を受けるのでしょうか。一万三千社のうち、新銀行東京の設立理念と異なる大企業、中堅企業の融資は何件、何億円、率にしてどれくらいあるのか。また、一万三千社の中では既に法的破綻状態にある中小企業もあると思いますが、これらの内訳と、これらの中小企業に及ぼす影響についてどのようにお考えか、お伺いしたいと思います。

○佐藤産業労働局長 平成十九年十二月末現在、先ほど申し上げました新銀行東京では、約一万三千社に対して二千五百四十五億円の融資・保証を行っております。このうち、大企業向けの融資等は約五十社、千二百億円であり、全体に占める割合は、件数ベースで〇・四%、金額ベースでは四八%となっております。このほか、業況低迷先への融資等は約二千四百社で百二十億円、法的破綻、延滞などへの融資等は千五百五十社、約百八十億円に及びます。
 また、新銀行東京の取引先のうち、平成十九年十二月末時点で五千六百三十五社が赤字あるいは債務超過の企業でありまして、その融資残高は四百十五億円に上ります。こうした企業を支援していくことが新銀行東京の存在意義であるというふうに考えております。
 これらの企業は、他の金融機関から融資を受けることが非常に難しく、仮に破綻などによりまして、新銀行東京の融資・保証が絶たれた場合には、その貸出債権は整理回収機構に移管される可能性が高い。また、正常返済先でありましても、新銀行の融資のほとんどが無担保でありますので、同様に整理回収機構へ移管されることが想定をされます。
 このように、新銀行東京の貸出債権が整理回収機構に移管されれば、多くの中小企業の事業継続が困難になるものというふうに想定をしております。また、赤字あるいは債務超過の企業五千六百三十五社に限ってみても、新銀行東京の取引先中小企業の平均就業者数は一社当たり十四・七人でございますので、全体では八万三千人の就業に影響が及ぶものというふうに推計をしております。

○山下委員 仮に多大な影響があったとしても、例えば国民生活金融公庫には、災害の発生や民間金融機関の営業破綻などが発生した場合に対応する特別相談窓口が設置されていますが、こうした窓口の活用も十分に考えられるのではないでしょうか。
 一万三千件のうち、国民生活金融公庫の特別相談窓口では対応が不可能だと思われる中小企業の件数、金額の見込みについてお伺いしたいと思います。

○佐藤産業労働局長 国民生活金融公庫において実施をされております特別相談窓口、この融資判断の基準、それから今後の取り組み、その際の融資判断基準などは、公開されているものではないために、この活用により融資を引き継げる件数、金額等を見込むことは困難でございます。
 特別相談窓口といいましても、新規融資につきましては、審査基準を変更しているわけではなくて、返済が困難な中小企業や既に公庫の返済がおくれている中小企業への融資は行っておりません。
 このことから、新銀行東京において、赤字、債務超過先だけではなくて、正常先に分類されていても、他の金融機関での返済期間などの条件変更を行っているような中小企業への対応は困難であるというふうに考えられます。

○山下委員 仮に整理回収機構に移管される場合があったとしても、その貸付先である中小企業の事業継続は、にわかに困難になるのでしょうか。
 整理回収機構に移管された人たちは、一括返済を求められるわけではありません。加えて、最近の整理回収機構は、他の金融機関をあっせんしてくれるようになったとも伺っています。
 事業継続が困難になる中小企業は、具体的にどのようにして事業継続が困難になるのか。その件数、金額の見込みも含めて、お伺いいたします。

○佐藤産業労働局長 新銀行東京の顧客は無担保融資が中心であることや、先ほど来申し述べましたとおり赤字、債務超過企業が多いことから、整理回収機構に移管される可能性は極めて高くなるというふうに想定をしております。
 平成十九年の十二月末時点で、中小企業取引先のうち五千六百三十五社が赤字、債務超過企業でありまして、四百十五億円にその残高が上っております。これらの企業は、新銀行の融資が絶たれた場合には、整理回収機構への移管対象になるものというふうに考えられます。
 中小企業等の融資先は、貸出債権が整理回収機構へ移管となった場合、経営がはかばかしくないということが対外的に明らかになるということで社会的信用が失われる、そういうことや、整理回収機構へ送られた企業に対しては、現実には金融機関からの融資が途絶えます。また、企業の状況とは無関係に厳しい取り立てが行われることなどから、事業継続が困難となる可能性が高いというふうに認識しております。

○山下委員 仮に中小企業の事業継続が困難になることがあると仮定しても、新銀行東京に都民の税金を再び投入する必要はあるのでしょうか。
 石原知事の理屈を使えば、今後、例えば経営が悪化した金融機関が、融資先の中小企業に重大な影響を与えるという理由で東京都に出資を求めてきた場合、都はこれに応じることになるのでしょうか。全くもって政策の整合性が図られていないように思いますが、知事の見解を伺います。

○石原知事 新銀行東京は、既存金融機関の貸し渋り、貸しはがしにより、資金繰りに苦しむ中小企業に対する資金供給が必要であるという判断のもとに、中小企業支援という政策目的のために設立をいたしました。
 今回の追加出資を行うことによって、都は引き続き中小企業支援という政策目的を遂行することが可能となり、また、都民の貴重な税金を投入して設立した新銀行東京の大株主としての責務も果たすことができます。
 都は、他の金融機関とは異なりまして独自の役割を果たすために新銀行東京を設立したものでありまして、政策の整合性については十分図られております。

○山下委員 政策目的のためである、あるいは都独自の役割を果たすとご答弁を今いただきました。
 仮に新銀行東京が、再建計画どおり三年後に単年度黒字を達成しても、多大な累積赤字を抱えている負の遺産しかない銀行ですので、その設立理念を果たせるとは到底思えませんが、見解を伺います。

○佐藤産業労働局長 再建計画におきましては、他の金融機関では資金調達が難しい既存の顧客も対象に、引き続き業務を展開していきます。設立理念を継承していくのが今回の再建計画でございます。

○山下委員 引き続き業務を展開とおっしゃっていただきました。
 新銀行東京に四百億円を投じるのであれば、来年度あるいは再来年度の景気動向の変化に対して着実に四百億円を役立てる方が、中小企業対策としては極めて有効ではないでしょうか。
 先日、都内の中小企業二千二百社が加盟をする東京中小企業家同友会が発表したアンケート調査によると、新銀行東京は中小企業の支援に役立っていないという回答が六一・七%にも上り、早急に整理した方がいいという回答も五七・四%に達しています。これが、当事者である中小企業の経営者の声であると思います。
 新銀行東京への四百億円の追加出資を行うよりは、中小企業対策として、制度融資の充実など中小企業に予算を投じた方が極めて効率的であると思いますが、ご所見を伺います。

○佐藤産業労働局長 制度融資は、ご案内のとおり、都が金融機関に資金を預託いたしまして、信用保証協会の保証によりまして、中小企業に対して低利資金を大規模に供給する制度でありまして、都の中小企業施策の中で重要な役割を果たしております。
 しかし、中小企業の多様な資金需要に対して、制度融資の拡大に依存することにも一定の限界があるというふうに考えております。このことから、新銀行東京は、制度融資を補完することで多様な資金需要にこたえる、そういう役割があります。
 事実として、新銀行東京は、債務超過企業などの制度融資では対応しにくい中小企業をも融資対象とするなど、制度融資とその役割を補完し合いながら、資金繰りに苦しむ中小企業に資金を供給してまいりました。

○山下委員 おっしゃるとおり、制度融資の拡大に依存することには一定の限界がある、ご指摘のとおりだと思いますが、制度融資以外にも、私たちが代表質問で求めてきた金融アセスメントや再生ファンドの活用など、まだまだ取り組むべき課題もあると考えています。
 ところで、都は、追加出資以外の手法は金融不安を起こすおそれがあると答弁をしていますが、融資残高も計画を大きく下回り、また、多くの方から危ない、危ないと指摘をされていた新銀行の経営破綻によって、どのような金融不安が引き起こされると考えていらっしゃるのでしょうか。
 また、この間、国においては、金融関連法案の策定によって、金融不安が起きるリスクは極めて少なくなったと考えていますが、東京都は、以前同様、今なお新銀行東京程度の金融機関が破綻をした場合、どのような金融不安が起きると考えていらっしゃるのか、ご見解を伺います。

○佐藤産業労働局長 一般的に金融不安といいますと、一部の金融機関の破綻に伴いつつ、金融部門全体の信用度が低下する状態というふうにいわれます。
 新銀行東京が撤退をした場合、預金者や融資先などのほか、保証などで提携をしております信用金庫への影響が心配をされます。
 また、国における法整備は進んでおりますが、我が国で最初のペイオフの実施となりますと、預金者にとっては一千万円までの元本とその利息、決済用預金以外は保護されないというほか、貸出先にとっては整理回収機構への債権売却など、その影響ははかり知れないものがあります。連鎖倒産や取りつけ騒ぎの可能性もあり、国民経済上多大な損失が発生することは疑いないものというふうに考えます。

○山下委員 また、信用不安について、東京都は、信用不安を招きかねない破綻処理は、都としてとり得る選択肢になり得ないと答弁をされています。
 しかし、私からすれば、既に新銀行東京の信用不安は起きていると考えます。ペイオフが本格実施されてから約三年たとうとしているこの時代、一千万円以上を新銀行に預ける方は、そのリスクを十分に承知されているはずです。しかも、知事自身が、調査委員会で最終報告で明らかになれば唖然としたものが出てくるとおっしゃればおっしゃるほど、新銀行の信用をみずからおとしめる結果となっているのではないでしょうか。
 新銀行東京では、この間、どのくらい預金件数、解約の金額があったのか。また、私は、新銀行東京は既に、先ほど申し上げたように都民の信用を失っていると思いますが、あわせてご見解を伺いたいと思います。

○佐藤産業労働局長 新銀行の最大株主が東京都であるということ、このことは預金者にとりまして大きな信用になっているというふうに推定をしております。また、ご利用をいただいている中小企業の方々からは励ましの声が届いております。ご利用いただいている都民の方々は信用されているというふうに考えます。

○山下委員 ここはもう明らかに見解の相違がありますので、これ以上議論は避けたいと思いますが、東京都は、現時点に至っての選択肢としては、事業清算や破綻処理、あるいは追加出資の三つに絞られたとご答弁されています。早い段階で対策を講じていれば、選択肢が絞られてしまうこともなかったように思われます。
 代表質問に対して、東京都は、都からの出資を前提としない民間金融機関との連携による再生や出資先の確保など、さまざまな交渉を進めてきましたとご答弁されていますが、私たちが伺いたかった、いつごろかなどといった質問には十分お答えいただけなかった。
 そこで、いつから民間金融機関等との連携を考えて、いつごろ、どの程度の金融機関等に働きかけ、そして、金融機関等からはどのような理由で断られたのか、改めてお伺いしたいと思います。

○佐藤産業労働局長 昨年の夏以降、新銀行東京では、支店の統合日程の前倒しなど、経営立て直しに向けた方策を実施してきました。その一方で、十一の金融機関等に業務の提携等や出資依頼を順次行いました。結果としては、調うまでに至っておりません。
 お尋ねの断られた理由につきましては、個々の金融機関の判断でございますので、つまびらかにされておりません。

○山下委員 また、出資先の確保については、いつから、どのような企業に働きかけ、どのような理由で断られたのか。そもそも、新銀行の株主であるNTTコミュニケーションズや日立製作所、あいおい損保、その他もろもろございますが、そういった会社に対してさらなる出資を働きかけたのか、なぜ応じてくれなかったのか、お伺いしたいと思います。

○佐藤産業労働局長 既存株主につきましては、新銀行の判断で出資の働きかけは行っておりません。株主と銀行との日常の関係の中で、銀行としての一定の判断がなされたものというふうに考えております。

○山下委員 さらに、民間金融機関との連携による再生や出資先の確保以外の方法として、合併や営業譲渡などの方策については検討されてこなかったのでしょうか。検討していたとすれば、いつごろから検討し、どのような理由でだめだったのか、お答えいただきたいと思います。

○佐藤産業労働局長 昨年の夏以降、先ほどご答弁申し上げました、出資依頼等を行ったとお答え申し上げました中に、あわせて合併、営業譲渡の件についても含まれているというふうにご理解いただきたいと思います。

○山下委員 結局、新銀行東京のビジネスモデルでは事業は継続できないと、民間のシビアな判断があったのではないかと疑わざるを得ません。また、既存の株主に増資を働きかけていないということは、新銀行東京の努力不足の感も否めないと思います。
 私が、都議会民主党を代表して予算特別委員会の討論で、売却などを含めた出口戦略などの早急な検討を主張したのは、今から二年も前の平成十八年三月二十八日であります。その時点には、既に新銀行東京の経営状況が思わしくないことは、私たちだけでなく、専門家やマスコミなども指摘していたところであります。
 このときの二月二十八日の本会議で、私たちの質問に答えて石原知事は、新銀行東京はポートフォリオ型融資を定着させるなど、中小企業の融資のあり方を少しは変えてきたと思うと、まさに自画自賛をされていたわけであります。これが、昨日の報告書にもある、デフォルト率が二三%と突出して高い〇六年三月直前の知事の答弁であります。
 もしこのとき、私たちの指摘を踏まえ、本気で新銀行東京の融資の状況などを監督していれば、これほど焦げつくことはなかったはずなんです。従来であれば、最大株主として適切に監督責任を果たしてこなければならなかったにもかかわらず、何の対応もせず、報告に粉飾があったとか、他人に責任を転嫁するということはいかがなものなんでしょうか。
 石原知事は、この間、全く監督責任を果たしていないのではないかと考えますが、見解を伺います。

○石原知事 都はこれまでも、新銀行東京の経営について、必要な情報の入手に努めるとともに、意見表明を行うなど、経営の大枠は監視してまいりました。しかし、銀行法により会計帳簿等の閲覧が制限されるなど、監視に制約があったことは否めません。
 今回の内部調査で、当時の--内部調査です、当時の焦げつきの状態などは初めてわかったことでありまして、ゆえにも、旧経営陣の隠ぺい体質が現状の経営状況に至らせた原因の一つであると報告書も指摘しております。

○山下委員 私たちの指摘後も、新銀行は、五月に池袋と渋谷、八月に八王子、九月に新橋と店舗を拡大するなど、拡大路線をまだこの時点でも続けています。また、平成十八年十二月一日の取締役会では、今後における経営計画の見直しを要請したものの、融資目標四千三百億円達成のためになお一層の努力が必要と述べるなど、拡大路線を助長していたのではないでしょうか。
 石原知事が新銀行東京の経営に対する危機意識を持つのが極めて遅いと指摘せざるを得ませんが、知事の見解を伺います。

○石原知事 今日の明らかになった経営実態を見ますと、より早期に強力な指導を行うべきであったという感は否めません。
 しかし、調査で明らかになったように、風通しが悪く報告が上がってこなかったということは--これは取締役会もです、残念であり、非常に口惜しい限りであります。
 都としては、平成十八年度中間決算時には、経常損失が一層の改善を必要とされる状況となったことから、経営の健全性確保と中小企業支援の充実に向け、抜本的な経営計画の見直しを要請いたしました。

○山下委員 この間、私たちは、議会があるごとに、ほぼ毎回、新銀行の問題を取り上げてまいりましたが、石原知事にとっては、馬の耳に念仏、まさに馬耳東風であったように思います。
 知事の責任は、発案者としての責任にとどまらず、新銀行の経営悪化に関して、早い段階から適切な対策を講じてこなかった不作為に対する責任もあることを指摘しておきます。
 さて、きのう、新銀行の調査委員会報告書が発表されました。そもそも、議会があるのがわかっていながら、予算特別委員会の前日にしか報告書を出さない。しかも、内容は骨子概要版、その本体はどこにあるんだと聞いても、出てこない。極めて不誠実であるとしかいいようがありません。
 本当に私たち議会に理解をしてもらいたいのなら、新聞事例などでなく、一刻も早く議会に報告書を提出することが、真摯な議論を重ねていこうということではないでしょうか。これも強く申し上げておきます。
 私たちは、代表質問でも、この調査報告書が新銀行の設立にかかわってきた東京都の元幹部のもとで作成されているものであれば、その内容をうのみにすることはできないと主張してまいりました。東京都の元幹部とは、新銀行マスタープラン策定時の平成十六年二月当時の出納長であった大塚さんと、そして出納長室理事であった津島さんのお二人のことでございます。
 そこで、この調査報告書はだれの責任でどのように作成されたのか。また、公平性についてはどのように担保されているのか。さらに、旧経営者である仁司さんに弁明の機会を与えたのか。あわせて伺います。

○佐藤産業労働局長 調査委員会は、昨年七月に、前代表であります森田氏を委員長に、弁護士一名、執行役一名の三名で調査委員会を設置し、調査を開始したものでございます。その後、退任した森田氏の後を津島現代表が引き継ぎまして、取りまとめたものであります。
 調査に当たりましては、会議等の記録の調査を初め、仁司元代表など旧経営陣や職員へのヒアリングを実施し、調査委員会として責任を持ってまとめたものと受けとめております。

○山下委員 また、石原知事が、出れば責任が明らかになるとあれだけ期待を寄せていた調査報告書も、先ほど申し上げたように概要版であるため、中身の検証が非常にしづらいものになっています。このような中、もはや内部調査だけでは、新銀行東京の信用力を回復させることは不可能だと考えます。
 私は、第三者的立場から新銀行の問題点を洗い出すためにも、この際、最大株主である東京都が金融庁に対して検査を要請すべきだと考えますが、ご見解を伺います。

○佐藤産業労働局長 銀行の行政上の監督庁は金融庁であります。検査は金融庁の判断で適切に行われるものであります。

○山下委員 ご答弁、まさに他人事のようなことをおっしゃっておりますけれども、金融庁が検査に入ると、何か都合の悪いことでもあるのでしょうか。そう思いたくないので、これ以上いいませんが、ぜひ検査を要請すべきであります。
 金融機関における経営陣の不祥事は、新銀行だけに限りません。かつて、大手を含めてさまざまな金融機関が不祥事を起こし、中には刑事告発をされた例も少なくありません。例えば、最近では旧UFJ銀行が、金融庁の検査の際、多数の役職者が組織的に口裏を合わせ、融資関連資料を隠ぺいしたり、大口融資の審査に関する議事録を改ざんしたり、あるいは関連する書類を破棄するなど、報じられておりました。
 こうした事例を踏まえるのであれば、新銀行東京についても、書類の隠ぺい、改ざん、破棄などはなかったのか、確認されてしかるべきと思いますが、見解を伺います。

○佐藤産業労働局長 その点は、新銀行において適切に対応すべき事項であるというふうに考えております。

○山下委員 また、現在の都庁内部による書類の改ざん、破棄、これは旧出納長室や新銀行設立本部、産業労働局などの都庁組織、さらには調査委託をした東京税務協会などにおいても全くないと断言していいのか、確認したいと思います。

○佐藤産業労働局長 都においては、文書管理規程に基づきまして、適切に管理をされております。

○山下委員 都においてはないというお話でありましょうが、新銀行に対してはしっかり確認をしていただきたい、そのように思います。
 旧経営陣の責任について、東京都は、調査の結果や新銀行東京の今後の対応を踏まえ、必要な措置を講じていくと答弁されておりました。そこで、きのうの調査結果を踏まえ、刑事告発に向けた知事の見解をお伺いいたします。

○石原知事 調査報告書では、損害の額をどう評価するか、また、これを経営責任との因果関係とどのように結びつけるかについては、さらに専門家の意見を踏まえ、十分に検討する必要があるとしております。冷静にその結果を待つのが我々の立場であると思っております。

○山下委員 内部報告書でこれだけ、さんざんその方に責任があるとおっしゃっているのですから、当然その線でご検討なされているのだと思います。
 では、この仁司さんを任命したのはどなたなのでしょうか。石原知事は、私たちの代表質問に、経団連の重鎮から推挽があったこの人材を、新銀行東京の取締役会の正規の手続を踏んで決定したものだとご答弁いただいています。しかし、経団連の名誉会長である奥田碩氏は、石原知事に対して推挽したことはないし、経営者の人事については相談を受けたこともないと述べられております。また、仁司さんのお名前は、もう既にそのさらに前、新銀行東京の取締役会が発足する前に、新銀行マスタープランに明示されていたのではないでしょうか。
 新銀行マスタープランにある役員候補者は、だれが、どのような手続を踏んで決めたのか。旧経営陣の任命の経過とその責任について、見解を伺います。

○佐藤産業労働局長 平成十六年二月に策定をした新銀行マスタープランに、その時点で役員候補者として都において選任した方々を掲載しております。
 選任の経過といたしましては、当時の銀行設立準備担当部署が役員候補者を決定して、最終的に知事の了承を受けたものでございます。
 なお、これらの役員候補者の正式な役員としての就任は、新銀行東京の株主総会また取締役会で決定をしております。

○山下委員 都において決定をした、最終的に知事が了承したということは、つまり、東京都並びに知事に任命責任があると。これはもう確認をさせていただきたいと思います。
 また、旧経営陣だけでなく、社外取締役の方々には責任はなかったのでしょうか。石原知事は、報告に粉飾があった、運営そのものにいろんな粉飾があったと述べられておりますけれども、その間、社外取締役の方は何をされていたのでしょうか。
 平成十六年三月二日の本会議において、東京都は、新銀行への経営関与において、東京都の関係者を監査委員会委員等の社外取締役に就任させることなどによって行うと答弁されています。そこで知事は、この東京都の関係者による経営の関与について、十分な責任を果たしてきたと考えているのか、お伺いをしたいと思います。

○石原知事 都の関係者を社外取締役に就任させることで新銀行への経営関与を行ってきましたが、結果として、執行部と取締役の間の風通しが悪く、この経営状況に陥ったことは、じくじたる思いであります。
 しかし、調査報告書で明らかになったように、経営の重要事項が執行部から取締役会に適切に上がらなかったなど、旧経営陣のそうした体質があったと思います。
 報告書においても、取締役会に求められる所定の監督機能に一定の限界が生じたことは否めないとしております。

○山下委員 あえて申し上げれば、この東京都の関係者というのは、元議会局長で、その後、債務超過に陥った会社の社長さんだった方であります。この方で大丈夫なのかという議論は、平成十六年十一月十五日の各会計決算特別委員会において、我が会派の田中良議員が指摘したところであり、これに対して、当時の津島新銀行設立本部長が、都の関係者の人選に当たっては、経営の大枠を監視するという観点から、都の政策全般に対する理解、あるいは都民感覚にすぐれた人材ということで選任させていただいたと答弁されています。
 この東京都から派遣した社外取締役の人選について、知事はどのようにお考えなのか、お伺いしたいと思います。

○石原知事 都から派遣される社外取締役については、政策全般にわたる理解や都民感覚にすぐれた人材を選んでまいりました。直接経営の一角に加わることになるのでありますから、今後とも、都民、都政の立場に立って、経営に具体的な提案もし、参画し、監視していく人が必要であると思っております。

○山下委員 また、社外取締役には、ほかにも石原知事との関係が深い人たちが就任をされています。例えば、平成十八年六月に社外取締役に就任された方は、石原知事が平成十五年の東京都知事選挙に出馬したときの確認団体、東京から日本を変えるの代表者であります。こうした方を社外取締役に据えるというのは、都民の誤解を招くものとして、極めて好ましくないものと考えます。
 石原知事の人事への関与も含め、新銀行東京の人事に関する見解をお伺いしたいと思います。

○石原知事 ご指摘の人物は、丸紅の社長、会長をしていた鳥海君だと思いますけれども、この人は、丸紅の第二の中興の祖でもありまして、国際フォーラムを見事な腕前で再建もしてくれた人物であります。そういった、私との関係よりも、適材をどう推薦していくかが重要であると思っております。
 今後も、意欲と能力のある人材を広く求めていきたいと思っております。

○山下委員 あえてここで固有名詞、公の場ですから、名前を挙げて、この人はどうだといういい方はしませんが、今の知事の答弁、対象とされた方は、私の質問の趣旨とは違う方です。そのことだけは申し上げておきたいと思います。
 時間がないので、これで新銀行関連の質問は終わりますけれども、知事は、新銀行東京の責任をとる気が一体本当におありなんでしょうか。これまで知事は、説明はいつも部下任せ、事情を聞かされた--職員が汗水垂らしている中で、知事自身は、自分のメンツにこだわり、自己の責任については、この質問でも問うてきましたが、逃げてばかりおられるように思います。
 新銀行東京にとって追加出資が本当に必要だと切に願うのであれば、まずはみずからの責任を語り、追加出資が本当に都民のためになるということを明らかにしなければ、都民の理解は到底得られないことを指摘させていただき、次の質問に入りたいと思います。
 続いて、多摩の将来像について伺いたいと思います。
 まず、多摩地域は、高度成長期、都心部のベッドタウンとして発展し、急激なスプロール化と人口集中により、早急なインフラ整備が必要となりました。このため、区部との生活利便上での比較で、三多摩格差八課題が設定され、都は、各課題の早期達成に向けて取り組んでこられました。それから三十年、現状について伺います。

○押元総務局長 三多摩格差八課題とは、多摩地域と区部との間に発生いたしました道路や下水道などの基本的な生活利便上の格差でございまして、昭和五十年三月の都市町村協議会におきまして、公共下水道や道路などの課題が設定されました。
 格差については、これまで、都と市町村とで協力をいたしまして、積極的に取り組んできた結果、現在では、義務教育施設や道路舗装率など、かなりの部分で解消しております。したがいまして、多摩地域のまちづくりにつきましては、区部との対比による格差の解消という観点にとらわれるのではなく、それぞれの地域の特性を生かしていくことが重要になってきたと考えております。

○山下委員 確かに、これらの課題は解決しつつありますが、例えば医療、これは後に議論させていただきますが、問題もあると思います。
 二十一世紀、日本は社会情勢が大きく変化をし、多摩地域においても、安心できる生活水準を維持するため、地域特性を高めるとともに、多様な雇用機会や安心できる医療供給体制の整備などが必要であり、これらの集約が課題であります。そこで、多摩の特性と振興の方向について何点か伺います。
 都は、多摩地域の豊かな自然環境と調和したまちづくりを進めるとしています。また、多摩の地域住民自身も、環境問題に関する意識が高いものが非常にあります。しかし、多摩地域の緑を見ると、みどり率は年々減少傾向にあります。そこで、残された貴重な都民共有の財産である多摩の緑を守り、回復させることが、多摩の魅力を高めることにつながっていくと考えます。
 こうしたことから、奥多摩の森林はもちろん、歴史、文化的にも価値のある里山や武蔵野雑木林、農地など、緑の保全が課題となります。
 私の地元の地域にも緑が多く、こうした緑を生かし、地域活性化を促すためにも、都は、既存の緑を守る規制的手法の対策を強化すること、都民との協働の推進等、多摩地域の緑の保全、創出に向けて、積極的に取り組むべきと考えますが、見解を伺います。

○吉川環境局長 貴重な緑を守り、育てていくためには、お話のとおり、規制的手法の対策強化や都民等との協働による取り組みなど、さまざまな手法を活用して緑施策を進めることが重要でございます。
 現在、開発許可制度や緑化計画書制度の見直しに向けた検討、グリーンシップアクション等の都民等との協働による緑の保全など、緑の東京十年プロジェクトの具体的な取り組みを行っております。
 今後とも、都民、企業、行政が一体となって、多摩の貴重な緑の保全、創出に向け、積極的な取り組みを行ってまいります。

○山下委員 引き続き、緑の保全をあらゆる施策を駆使して行っていただきたいと求めておきます。
 次に、多摩地域では、産業を支える都市基盤の整備等が進み、地域内での就業が増加し、都市依存型から経済の自立化に向けた構造変化への動きを強めています。国は、一都二県に広がる産業クラスター計画を進めていますが、都も、企業や大学、研究機関等が集積してきた多摩地域を多摩シリコンバレーと名づけ、アジアを代表する産業拠点への発展を目指しています。しかし、具体的な取り組みはまだ不十分なように思われます。
 そこで、企業の集積や技術の融合が推進される拠点を考えるのであれば、アジア全体を視野に入れた企業の誘致等、多摩地域の雇用の創出や税収増にも結びつく、持続可能な地域活性化策を推進していくべきと考えます。見解を伺います。

○佐藤産業労働局長 多摩地域は、大学や研究機関、先端技術を有する企業が多数集積しており、こうしたポテンシャルを最大限引き出して、産業の活性化を図ることが重要であると思います。このため、平成二十一年度、昭島市に多摩産業支援拠点を整備いたしまして、多摩地域の特性に応じた技術、経営両面における支援や、産学公連携のコーディネート機能を強化することによりまして、新事業の創出を図ってまいります。
 加えて、「十年後の東京」への実行プログラムに基づきまして、平成二十年度から、立地情報の提供や長期融資により多摩地域への企業立地を進めるなど、多摩シリコンバレーの形成に向けた取り組みを着実に推進してまいります。

○山下委員 また、アメリカのシリコンバレーでは、スタンフォード大学が人材育成、教育に重要な役割を担っています。多摩シリコンバレー構想を推進する都においても、アジア人材育成基金を活用し、首都大で受け入れた優秀な人材を、東京に有用な人材として、その力を発揮させることも可能ではないかと考えています。
 そこで、アジア人材育成の施策と多摩を含めた東京の活性化について、見解を伺います。

○大原知事本局長 アジア人材育成基金は、東京の有するすぐれた技術や研究機関を活用いたしまして、アジアの将来を担う人材育成に資する施策を実施するために設置するものでございます。
 この施策の一環といたしまして、首都大学東京では、アジアの発展に役立つ高度先端的な研究に留学生を受け入れ、博士課程等において人材育成を図ることとしております。
 研究テーマといたしましては、新素材などの先端技術開発や環境対策などが想定され、これらは東京の産業振興にもつながるものと考えます。
 ここで育った研究者は、各分野における先導的な役割を担い、日本を含め、アジア各地で活躍することが期待されております。都は、これをサポートするために、こうした人材の情報を登録し、培われた能力の活用を促進してまいります。
 こうした取り組みにより、多摩を含む東京の活性化に資するとともに、アジアの発展に貢献をしてまいります。

○山下委員 他県でも活発に行われている企業誘致や対策、環境と調和した取り組み、世界で行われている優秀な人材育成、確保など、都も積極的に取り組んでいただきたいと思います。
 次に、多摩地域は、明治の昔から自立精神といろんな気性に富んだ土地であり、住民やNPO等の地域活動のパートナーとして協働している活発な行動を活用して、広域振興策を進めていることが重要であります。
 石原都政の初期では、東京構想二〇〇〇や多摩の将来像への意見募集、多摩の将来を語る会などの開催など、都民参画の取り組みを行っていました。それから七年、「十年後の東京」の実行プログラムの策定では、都政モニターアンケートの結果を反映したのみであります。協働とムーブメントを多摩の地域住民を含めた都民に求めるのであれば、なぜパブリックコメントを行う等、理解と協力を得る努力を行わなかったのか、見解を伺います。

○大原知事本局長 実行プログラムの策定に当たりまして実施をしました都政モニターアンケートでは、社会活動への参加や都民運動を促す仕組みづくりにつきまして、考え方を伺っております。
 回答の中では、多くの方々から、環境やまちづくり活動への高い参加意識が示され、都民との協働のあり方について、校庭の芝生管理や緑化の推進に地域の力を活用していくなど、具体的な提言をいただいたところでございます。
 また、区市町村から、地域の意向や希望をヒアリングいたしますとともに、都民の声総合窓口に寄せられました提言や、現場を持つ各局を通じた都民要望の把握など、さまざまなチャネルを通じまして、都民の意見を集約いたしました。
 実行プログラムでは、こうした都民の声を、多摩地域も含めた東京全体のムーブメントの創出などに反映をさせていただいております。
 今後とも、幅広い都民の意見に耳を傾けながら、事業の執行に当たってまいりたいと考えております。

○山下委員 そもそも、この計画はパブリックコメントを行うべき重要な計画であり、今後は綿密なタイムスケジュールを組み、都民の意見を反映する等、一層の都民参画を行うことを求めておきます。
 多摩地域三十市町村は、他県自治体のほかに、市民やNPO、大学、企業等、多摩の魅力を高める多くの先進的な広域連携を推進しています。広域的な効果を持つ都の計画の実現には、多摩の市町村の理解が不可欠であります。新事業を含めて、多摩振興を一層推進させるため、どのように市町村と連携をしていくのか、見解を伺います。

○押元総務局長 都が、多摩地域の振興を図る上で、地元市町村と連携を密にすることは重要であると認識しております。
 これまで、多摩リーディングプロジェクトの多摩重点推進事業につきましては、市長会、町村会などの場を通じ、事業計画や進捗状況等を説明、報告するなど、市町村の事業計画との整合性が図られるように取り組んでまいりました。また、昨年の実行プログラムの策定におきましても、市町村と意見交換を行うなど、その意向の把握に努めたところでございます。
 今後とも、都が進める多摩振興策の実施に当たりましては、市町村の意見も十分に踏まえ、連携、協働して、着実な推進に取り組んでまいります。

○山下委員 ぜひ市町村と一体となって、今後も多摩振興を進めていただきたいと思います。
 次に、多摩の将来像の策定から、多摩リーディングプロジェクトの推進、そして「十年後の東京」実行プログラムにおける、多方面の多摩関連のアクションプランの取り組みによって、都が以前、目指すべき東京の将来像として作成した多摩の四つのエリアコンセプトは、どのように強化をされ、実施、実現されるのでしょうか。
 例えば、武蔵野の緑の中、コンパクトで活力あるまちが競演し発信する空間、多摩東部エリア、このエリアではどのような事業をどのように展開していくのか、お伺いいたします。

○押元総務局長 都は、これまでも、平成十三年に策定をいたしました多摩の将来像などに基づき、活力と魅力にあふれた多摩の実現に向けて、多摩東部エリアにおいてさまざまな振興策に取り組んできたところでございます。
 具体的には、多摩リーディングプロジェクトの多摩重点推進事業におきまして、調布保谷線や府中清瀬線などの多摩南北道路の整備、JR中央線や京王線などの連続立体交差事業の推進、企業及びNPOとの協働による緑の保全などを掲げまして、着実な推進を図ってまいりました。
 また、実行プログラムでは、六仙公園、八国山緑地等の都市公園整備、多摩南北道路における無電柱化の推進、井の頭恩賜公園や府中所沢線等における周辺地域との一体的な景観整備、調布保谷線や東八道路の自転車道の整備などを展開することとしております。
 今後とも、都は、都心への良好なアクセスと武蔵野の緑に恵まれ、活力あるまちが魅力と文化を発信する地域という、このエリアの特性を生かしたまちづくりに市町村と連携して積極的に取り組んでまいります。

○山下委員 ぜひ、このほか三つのエリアでも、地域の特性があると思いますので、東京都が主体的に取り組みを推進していただきたいと思います。
 こうして区部や他県との結びつきを強め、特性を相互に補完、競合しながら、持続的に発展する多摩地域は、自然環境と調和した優しいまちづくりや、暮らしに結びつく経済の自立化など、彩りある魅力を高めていく必要があると思います。
 それぞれの地域特性や独自性を生かした、定住率の高い生活都市同士が織りなす、多摩自立都市圏という多摩の将来像を構築し、その実現と発信に向けて、都は積極的に取り組んでいくことが必要と考えますが、知事に見解を伺います。

○石原知事 「十年後の東京」では、多摩地域について、圏央道の全線開通や横田基地の軍民共用化を契機に、首都圏の中核として力強く発展する姿を示しております。
 多摩地域は、先端技術産業や数多くの大学、研究機関の集積、豊かな自然環境などを生かして、従来にない特色のある都市づくりが可能な地域であると思います。
 今後も、都は、これらの大きなポテンシャルを生かして、都市基盤の整備を初め、広域的な課題にも取り組み、自立都市圏として発展させていきたいと思っております。
 また、市町村とも連携しながら、活力と魅力にあふれた多摩を創造し、東京の再生、ひいては日本の再生を目指してまいりたいと思います。

○山下委員 今後も、中長期的な多摩の将来像を展望した取り組みを引き続き行っていただくことを求めて、次の質問に入ります。
 次に、八ッ場ダムについて伺います。
 前回の基本計画の変更時、つまり、四年前に行われた水需要予測は、一日最大配水量は平成二十五年度で最大となる六百万トンが予想され、平成二十二年に完成するはずの八ッ場ダムによる都の利水分、四十三万トンが確保できれば、最大需要を何とか賄うことができるという説明でした。
 今回、基本計画の変更により、本来、平成二十五年度に必要とされていた水源量が、二十七年度末までは確保できなくなってしまったわけですが、これについてどのように認識し、対応していくのか、見解を伺います。

○東岡水道局長 現在、都が保有する水源量は日量六百二十三万立方メートルであり、その中には、取水の安定性に問題のある、課題を抱える水源が日量八十二万立方メートル含まれております。
 また、国土交通省によりますと、都の水源の約八割を占める利根川水系では、近年の降雨の状況により、ダムなどからの供給量が、当初計画していた水量よりも二割程度低下しているとされております。
 こうした状況の中で、八ッ場ダムの完成がおくれることは、渇水に対する安全度の低い状況が続くことになります。
 このため、厳しい渇水が発生した場合には、利根川水系の水源状況を慎重に見守りながら、小河内ダムの貯水量を最大限活用することで、可能な限り給水への影響を軽減してまいります。

○山下委員 課題を抱える水源については、国土交通省への働きかけによって、安定水源にすることができるものもあると思いますので、ぜひ積極的な働きかけを行っていただきたいということを要望しておきます。
 前回の基本計画の変更時に、都は、当時の最新データを用いて水の需要予測を行っています。水需要予測のポイントは、水の安定供給のための安全率、いわゆる予想負荷率と呼ばれるもので、これをどの程度設定するかによって大きく変わります。
 平成十五年に設定された負荷率は、当時の最新データであった昭和六十一年から平成十二年の十五カ年の実績値から、安全を見込んで最低値の八一%としています。現在の最新データでは、平成四年から平成十八年までが過去十五カ年の実績値となりますが、このうち、負荷率が最小のものから五つ、五カ年分は、それぞれ平成何年で何%となっているのか、伺います。

○東岡水道局長 最小のものから五カ年分の数値は、平成四年度の八二・四%、平成八年度の八三・七%、平成六年度の八四・一%、平成五年度の八四・六%、平成七年度の八四・九%でございます。

○山下委員 この質問をした意味については、後ほど述べさせていただきます。
 さて、我が会派の花輪議員の一般質問では、今回の計画変更、基本計画の変更に対する意見を述べるに当たって、再度、最新のデータに基づく水需要予測を改めて行ってはどうかと提案しました。
 これに対して、水道局長は、現在の水道需要予測は、長期的な将来を見据えて平成十五年度に行ったものであり、現時点では基礎指標に大きな変化はなく、また、予想の基礎となる一日平均使用水量は、実績との間に大きな乖離は認められないことから、予想を見直す必要はないと判断したと否定をされました。
 しかし、予測値と実績値を見ますと、大きな乖離ではないにしても、実績値は予想値を下回っているという現実が確認されます。
 また、猪瀬副知事は、国の公共事業をこれから見ていく場合に、事業の再評価を常にしていくことが大事で、その事業の再評価を常に正確なデータに基づいてやるということが国益だと本会議で答弁されました。
 私たちは、この猪瀬副知事の答弁と全く同じ考え方を持っています。つまり、当然、都政においても、都のかかわる公共事業をこれから見ていく場合には、事業の再評価を常にしていくことが大事で、事業の再評価を常に正確なデータに基づいてやることが、都の利益になると考えます。
 直近の最新のデータを用いて水需要予測をやり直してみるべきと考えますが、改めて見解を伺います。

○東岡水道局長 水道需要予測は、都の長期構想で示される将来の人口や経済成長率などの基礎資料を用いて、これまで適宜、適切に見直しを行っております。
 予測手法は、お客様が実際に使用される水量、すなわち、一日平均使用水量を、過去の実績の傾向に最も合致するよう、重回帰分析により算出し、その上で一日最大配水量を予測しております。
 現在の水道需要予測は、長期的な将来を見据えて平成十五年度に行ったものであり、現時点で基礎指標に大きな変化はなく、また予測の基礎となる一日平均使用水量は、実績との間に大きな乖離は認められないことから、予測を見直す必要はないと判断しております。

○山下委員 どうあっても必要ない、やらないとご主張されておりますが、改めて予想し直すと何か都合の悪い結果でも出てくるのではないかと、妙な勘ぐりすらしたくなってしまいます。
 予測の基礎となる一日平均使用量を大変自信をお持ちのようでありますので、民主党では、水道局が平成十五年に予想した、平成二十五年における一日平均使用水量四百五十九万トンが正しいものとしてシミュレーションしてみました。
 水需要の将来予測では、先ほどご答弁いただいた予想負荷率と、もう一つの予想有収率、これは漏水などによってどれだけ水がロスするというものを示すものですが、この二つの指標をどのように設定するのかによって結果が大きく変わります。
 都では、予想負荷率を直近十五カ年での最低値、予想有収率については直近十五カ年のデータをもとに、想定される漏水防止対策の効果を勘案して設定しています。これは相当安全側で見込んでいるといえますし、水道事業者としてこのような考え方をされることは理解をできます。
 これに対して、例えば国土交通省では、フルプランの策定過程において、最終的には都の予想値を採用しているわけですが、負荷率については、直近十カ年の下位三カ年平均値を、有収率については直近の実績値を用いて独自に検討しています。
 この国土交通省の考え方に基づいて、平成九年から十八年までの直近十カ年のデータをもとに計算をしたところ、平成二十五年では最大で五百六十万トンが必要という結果が得られました。これは、現在保有する六百二十三万トンの水源量について、利根川水系の水供給能力が二割低下しているとする評価を加味した正味の保有水源量五百五十万トンでほぼ賄うことができるという結論、つまり、ダムはもう要らないということになるわけです。
 ちなみに、都が採用している直近十五カ年で最小値での計算をした場合、先ほどご答弁いただいた平成四年の八二・四%を用いますと、五百八十八万トンと、ダムが不要という結論にまでは至りませんが、それでもやはり、現在の予想六百万トンからすれば下方修正されます。
 埼玉県などが採用している直近の十カ年での最小値を用いた場合には、五百六十四万トンで、やはりダムがなくても大丈夫という結論になります。
 このように、水供給の安全率を工学的にどのように見るかによって、八ッ場ダムがなくても大丈夫だという結論づけも可能なわけです。
 ダムがないより、あった方がいい、その方が安心だ、それはよくわかります。既に平成二十五年には欲しかったはずのダムができないという現実、これについては、最初のご答弁にありましたように、運用面で対処するとのことですが、逆に申し上げれば、ダムがなくても運用面で何とか対処できるということではないんでしょうか。また、工学的な水供給の安全度の判断次第で、ダムがなくても大丈夫という結論も得られる以上、ここで一度立ちどまり、半世紀以上にわたる、地元住民の皆さんを初めとした多くの関係者のご苦労を振り返り、本当に八ッ場ダムが必要なのかどうか、ダム事業からの撤退をも含めて、検討、見直すべきと考えることを改めて申し上げておきます。
 最後に、ここまでの議論をお聞きになってどのような感想をお持ちになったか、知事の率直な感想を伺いたいと思います。

○石原知事 水源の確保は、一朝一夕になし得ないものと思っています。長期的視点で将来を見据え、首都東京の水の安定供給を確保していくことが重要であると思っています。
 八ッ場ダムについては、将来の水需要や渇水に対する安全性などを総合的に検証した上で、必要不可欠なダムと承知しております。
 今後、世界の気候変動、とにかく、気候、天候の激変というのは人間の予測を超えたものでありまして、それが水に関してどのような影響を与えるか、つまびらかでありませんが、いずれにしろ十全な備えをしていくことが必要であると思います。
 今、東京にとって非常に大事な水がめになりました小河内ダムをつくったときは、非難ごうごうで、あれ、よく読むと、たしか「しょうがない」と読むんですな。それで、小河内ダムは、しょうがないダムをつくったといわれましたが、翌年、大干ばつが来まして、あの水がめがあったおかげで大変東京は助かった。
 こういう過去の事例もございましたから、要するに、正確なデータとおっしゃいますけど、人間の英知で、今日、とにかく、環境問題が激変している時代の天候、気候の激変というものは、想定して、それをベースにデータが出るものじゃないと思いますし、せっかくやりかけた仕事ですから、私は早く完成したらいいと思っております。

○山下委員 知事の感想を伺えたということで、この質問は次に移らせていただこうと思います。
 次に、医療について伺います。
 清瀬、小平で残念な事例が発生してしまいました。私の地元清瀬市の件は、新聞等でも大きく取り上げられましたが、救急車を呼ぶのは重篤な状況であるわけですから、結果はさまざまなケースがあるとは思います。
 病院勤務医師不足の中、病院も救急隊も一生懸命やっていただいているということは、さまざまお話も伺っておりますので、それを踏まえた上で、都議会議員という立場を与えていただいた者として、最前線の皆さんに力を生かし切っていただき、都民の救命に当たっていただけるように、担当者の皆様から状況を伺い、何か問題があるとすれば、解決する方向で支援するということは、大事な仕事の一つであると思いますので、この件のバックグラウンドについて率直にお伺いし、議論を行わせていただきたいと思います。
 都は、この事案に関し、救急搬送の連絡を受けた医療機関への調査を行ったとのことですが、見解を伺いたいと思います。

○安藤福祉保健局長 都では、この事態を重く受けとめまして、事案発生後速やかに、受け入れ要請を受けた医療機関に対して状況調査を行いました。
 その結果、受け入れが直ちにできなかった主な理由は、清瀬の事案につきましては、重症患者を処置中であったことや、入院患者の急変に対応中であったことなどでございました。
 また、小平の事案については、集中治療を行うための専門病床が満床であったこと、患者の症状に対応できる専門医が不在であったことなどでございました。

○山下委員 多摩に暮らし、地域の医療事情を見てみますと、こうした事案が多く、多摩北部で立て続けに報道されていたのは、氷山の一角ではないかと思ってしまいます。また、区部でも厳しい救急医療の事情は同じと伺います。
 そこで、都内で、救急搬送先を見つけるまでに六カ所以上連絡したケースはどの程度あるのか、お伺いします。

○小林消防総監 平成十九年四月一日から十二月三十一日までの間、東京消防庁管内におきます転院搬送を除く救急搬送件数は四十三万三千百三十八件で、そのうち六カ所以上医療機関に連絡した件数は、四・一%に当たる一万七千七百七十九件でありました。

○山下委員 今ご提示いただいた一万七千七百七十九件、四・一%、これを多い、少ないというのは非常に難しい数字で、年間四十六万件の救急出動の中では健闘していただいていることは事実だと思います。
 こうしたケースが起きる背景について、東京都はどのようにとらえられているのか、お伺いしたいと思います。

○安藤福祉保健局長 背景でございますが、昨今の救急搬送患者の増加により、医療機関の負担がふえたことや、症状において複数の診療科にわたるような複雑困難なケースへの対応が必要となったこと、さらには、今日の医師の不足が勤務を一層過重なものにしていることなどによって、救急医療の現場が厳しい状況になっていることが挙げられるところでございます。

○山下委員 約一万八千件、月千五百件に近いケースで、病院が決まるまでに六カ所以上連絡したわけですから、都内全域にわたって救急病院の受け入れ状態はかなり厳しいというのが率直な感想です。
 しかし、多摩北部だけでも二件も続けてあれだけ大きく報道されると、住民としては多摩北部の医療に何か大変なことが起きているのではないかと感じ、しっかりと対策をとってほしいという気持ちも、私も多く伺っておりますが、十分理解できます。
 ドクターや病院関係者への聞き取り、ふだんの病院の状況など、もっと丁寧に調査し、この地域固有の問題があるのか、それともないのか、しっかりと検証をしていただきたいと思います。
 続けて、先日知事が代表質問の答弁でおっしゃった、都内の救急医療体制の総点検について伺います。
 正確な実態把握なくして対策は難しいと考えていたので、的確なご指示だと私は率直に歓迎をいたしました。しかし、よく確認してみますと、救急医療対策協議会での議論で総点検をするという意味のようであります。ここでは、現場の関係者による議論が行われているようで、先ほど出ました複数の診療科にわたる困難なケースにどう対応するかなど、具体的な検討に期待をしているところです。
 しかし、喫緊の手当てとともに、救急医療の危機的状態を改善するためには何が必要なんでしょうか。私は、特に厳しい小児科のドクターたちがお調べになった現状分析を拝見しました。医療資源の時間的、空間的偏在、つまり、どこに、何が、どう足りないか、はっきりわかりました。これは、有志の方が調査したスナップショットであります。公的機関が行った救急医療の実態把握は残念ながら存在しません。しっかりと調査し、何がどう足りないのか明らかにする必要があると思いますが、都の見解を伺います。

○安藤福祉保健局長 現在検討を進めております救急医療対策協議会では、学識経験者の方に加えまして、日々救急医療の第一線を担っていらっしゃる医師や看護師、さらには救急患者を搬送する消防機関の代表などの参画を得て検討を行っております。
 この協議会では、都内の救急医療体制に関して、救急患者数の動向や救急医の現状などを踏まえつつ、複雑困難なケースや病院選定に時間がかかった事案につきまして、ケーススタディーを含め、分析、検証を行っております。こうした検討を通じて、早期に改善策を講じてまいりたいと考えております。

○山下委員 具体的な方法の検討に加えて、しっかりと実像をつかみ、抜本改革を行うことが必要と考えます。国がとっくにやっているべきことですので、実態把握を国に迫ることでもいいんです。
 当直のときに、何人の医師で、どんな患者を何人診ているか、一般診療所が休みの日と平日で比べるとどうか、月何回当直しているか、勤務時間は何時間か、指導者である五十代の医師まで日常的に当直をするのは異常な事態だと思いますが、こうした実態はどうか。具体的に、どこがどう危機的なのか。
 さまざまな調査がありますし、危機は周知の事実でありますが、全体の実像は客観的に示されておりません。国レベルで強い救急医療への再構築をさせるためには、逃げ口上を許さない追求が必要だと思います。
 この後何点か伺いますが、一自治体としてできることはしっかりやる、この点については、私たちと都の間で大きな相違はないと考えています。
 次に、病院勤務医師の激務緩和、負担軽減について伺ってまいります。
 最前線の二次、三次救急が深刻な人手不足、待ったなしの状況にあることは間違いない事実であり、この点については既に本会議答弁でも認識は一致しております。この激務の軽減のため、提案した事務補助者について伺います。
 二十年度診療報酬改定案でも実現見込みですが、都予算においても新規事業が計上されました。私は特に、不採算性が高いといわれる小児医療については、一人一人の診察時間が長くかかること、治療に入るまでの手間が多いことなどから、クラークの必要性は非常に高く、いいかえれば導入効果も高い分野ではないかと考えています。
 こうしたことから、特に小児医療については公的支援を手厚く行うことが必要と考えます。医療クラークの導入に係る都の見解を伺います。

○安藤福祉保健局長 お話しの医療クラークにつきましては、既に昨年の六月、国に対しまして、診療報酬で評価するように緊急提案を行いまして、今回の改定に盛り込まれました。
 都におきましても、平成二十年度から、小児科も含め、病院勤務医師の負担軽減に向けて、医療クラークの導入を支援してまいります。

○山下委員 小児救急と病院勤務医師の激務緩和ですね。さらに伺います。
 二次救急の医師の激務緩和として、特にこれが有効と考え提案させていただいたのが、トリアージと二次救急にあわせてのプライマリーケアであります。
 まず、トリアージについてですが、国立医療センターの救急患者トリアージの実績を見ますと、準夜、深夜などありますが、軽症の方が五〇から六〇%、中症は約三〇%、重症が約六%から一一%、命にかかわる状態で診察まで三分という最重症の方も〇・六から〇・九%いらっしゃったということです。
 ここでは、子どもは予備力も少なく、自家用車で来たごく一般的な症状を訴える子どもが、直ちに集中的な治療が必要となることを少なからず経験したため、受診する前の段階での判断には限界があると考え、まず、すべての子どもを受け入れて、病院内で緊急度に応じた診察を行うこととしたことであります。国立のセンター病院ですから、民間病院に比べてかなり恵まれた条件であることは事実でありますが、これが小児医療の理想像であるとも考えています。
 昨年の代表質問でも強く訴えましたが、私は、小児に関しては、適切な行動を求める建前はわかるけれども、すり傷、鼻水は別として、迷うような場合には、素人の親に病院へ来ないという判断をさせるよりも、手おくれにさせないためにどう診るか、その方法を検討すべきだと思います。
 トリアージは、多数来院する患者の中から、必ずいる重症患者を迅速に見つけ出し、診察するという目的があります。そこで、まずはこのトリアージを導入し、救急を、時間外診療ではなく、本来の救急として機能させることが重要だと思いますが、都の見解を伺います。

○安藤福祉保健局長 緊急度の高い患者を判別し、迅速な医療提供に結びつけますトリアージは、大変重要でございます。都は、平成二十年度予算におきまして、小児科二次救急医療機関でモデル的に事業を実施することとしております。

○山下委員 そして、二次救急にあわせてプライマリーケアも伺っていきます。
 中症以上を受け付ける前提となっている二次救急で、軽症者を多く診察しなければならないことが、医師にとっては、当直という原則休息の制度が実態は夜勤になってしまう原因であり、連続三十六時間以上という激務につながっていることから考えると、軽症者をどう診察するのか、これが負担軽減のポイントになってくると思います。先ほど申し上げた理想像の実現は、都にだけ求めても厳しいと思いますが、できることはすべきであります。
 具体的には、都の行っている小児初期救急平日夜間診療事業において、二次救急医療機関との連携を強めることが有効ではないかと考えます。例えば、二次救急医療機関の建物内や敷地内で小児初期救急が提供されるようにすることが考えられますが、都の見解を伺います。

○安藤福祉保健局長 お話しの小児初期救急平日夜間診療事業補助は、区市町村に対する補助制度でございます。この中で、二次救急医療機関等の中核的病院におきまして、地域の診療所の医師が病院の医師と連携して行う場合も既に補助しておりまして、現在、十二カ所で実施をされております。

○山下委員 時間がございませんので、もう一問想定をしておりましたが、次の質問は終わりにしまして、メディアリテラシー教育について伺いたいと思います。
 私はこれまで、平成十四年第三回定例会の一般質問、そして委員会においても、メディアリテラシー教育を都立高校で行うべきと強く主張してまいりました。予算要望でも重点とし、知事から、先ほどご答弁にもありましたが、ある意味でのご関心をいただき、たった一人でいい続けてきたかいがあったなと、ある意味感慨深いです。
 また、ことしに入ってからでも、PTA全国協議会東京ブロック研究大会、教育改革国際シンポジウムと、リテラシーの育成をテーマとした教育関係者の大きな行事がありました。ここへ来てリテラシー教育の機運が非常に盛り上がっています。
 先日、私は、知事もご存じの斎藤環さんにお時間をいただき、日ごろのお仕事の中から見える、ひきこもりは実はネットやゲームを余りしない、日本の若者は非常におとなしいなどといったことから、ゲーム脳や脳内汚染などと擬似科学で対処しようとするのは間違いだ、ネットが生活必需品になった時代にメディアリテラシーをいかに育てるかまで、さまざまなお話を伺うことができました。中でも、フィルタリングソフトも必要ですが、子どもの中にメディアを受容する文脈をつくり出すことが有意義なリテラシー教育につながるとのことで、メディアリテラシー教育に対する確信を深めました。
 今日の若い人たちは、二十年前とは比べ物にならないほどの情報に囲まれて生活しています。PCやインターネット利用環境、携帯などの技術革新が進み、即時性、普遍性による恩恵ははかり知れないものがあります。しかし、その影の部分もまた大きく、IT空間で飛び交う情報の中身についても、未成年者に有害なものが大変ふえています。ただパソコンや携帯にフィルターをかけても、有害情報を完全に遮断はできません。最後は、自分自身がフィルターを持ち、取り入れる情報を自分で取捨選択するしかないのです。
 では、このような時代に、私たちは一体どのような人材育成を行っていくべきでありましょうか。先日いただいた第二次東京都教育ビジョンの中間のまとめを私も一生懸命読ませていただきましたが、メディアリテラシーという言葉はもちろん、都のビジョンは余り伝わってきませんでした。私は、今の子どもたちの実態、これからの時代に必要な教育ということを語る上では、非常に重要なポイントだと考えています。
 東京都教育庁におけるメディアリテラシー教育についての考え方をお伺いいたしたいと思います。

○中村教育長 都教育委員会は、メディアリテラシーにつきまして、さまざまなメディアの特性を理解し、メディアから発信される情報を主体的に分析、評価し、選択する力、あるいは、適切なメディアを選択、活用して自分の考えをよりよく相手に伝えるコミュニケーション能力というふうにとらえております。
 高度情報化社会に生きる現代の子どもたちには、メディアから得られます情報を適切に評価いたしまして、必要な情報を主体的に選択し、適切に活用できる能力を身につけさせることが極めて重要でございます。
 現在策定中の、ご指摘の東京都教育ビジョン第二次におきましても、情報モラル教育の推進を位置づけておりまして、児童生徒が有害情報から自分自身の身を守り、主体的に情報を活用していくことができるよう、各学校での指導の充実を図っております。

○山下委員 情報モラル教育の推進の指導資料を拝見いたしました。ここでは、基本的にネットの使い方や携帯電話の使い方を教えると理解しています。内容は、あれはだめ、これは危ないということがほとんどでした。そうすると、リテラシーについては、私が申し上げたような目的を持ち、成果をねらって取り組んでいるとはいえないのではないでしょうか。だめだめ集をつくっても、すべてを網羅することはできませんし、第一、子どもは、だめなことばかり列挙しても覚えられません。メディアリテラシー教育とは、メディアが流す情報には確実に意図があるとはっきり定義し、受け取る側がつくり手の意図を読み取って、情報を自分の道具として使うことが重要であると、情報の特性、原理原則をしっかり生徒たちに教えることであります。
 例えば、アメリカやカナダでは、早い段階からメディアについて勉強を始めます。彼らは、だれがその情報を編集しているのか、だれが得をするのか、ターゲットはだれかなど、情報を消化し、自分の意見を発信する際にも説得力を持って話ができる力を育成いたしております。
 教育庁におけるメディアリテラシー教育の具体的な取り組みについてお伺いしたいと思います。

○中村教育長 学校におきましては、小学校段階から、ある事象に関します新聞記事を各紙取り寄せて並べてみて、報道の内容に違いがあるなということに気づき、情報を適切に評価していく必要性を理解させる指導を行っています。
 また、高等学校におきましては、教科「情報」という教科がございますが、この「情報」の授業を通しまして、情報の信頼性や信憑性についての学習や、情報発信の責任などについて学習するなどいたしまして、メディアリテラシーの育成を図っております。
 都教育委員会では、メディアリテラシーに関する指導資料を都内全公立学校に配布し、発達段階や各学校の実態に応じた指導が進められるよう支援してまいります。

○山下委員 情報の持つ背景、置かれている文脈を考え、理解させる教育が必要なのです。
 また、教科「情報」での取り組みは、情報A、B、Cというメニューからいずれかを選び、二単位として実施するものです。私も授業計画を幾つも拝見しましたが、A、B、Cのいずれもパソコンの使い方をメーンに扱ったものになっています。
 また、学校裏サイトや掲示板が学校でのいじめの延長線上に使われ、ネット上で子どもが誹謗中傷されることがあります。匿名性があるため、面と向かっていわれるよりも精神的にきつい部分もあると思います。そんなとき、教員にメディアリテラシーがなければ、徹底した対処はできません。
 教員への実践的な研修を行うとともに、メディアリテラシー教育をもっと推進すべきだと考えますが、今後の取り組みを伺います。

○中村教育長 都教育委員会といたしましては、今後新たに多様なメディアを対象とした指導事例集を作成し、各学校が教科や総合的な学習の時間などで活用できるようにしてまいります。
 また、ご指摘のように、教員のメディアリテラシーの育成が大切であると考えることから、今後は、都立学校のICT環境を整備するとともに、これまでの研修の中にメディアリテラシーに関する実践的な研修を体系的に組み込み、計画的に実施してまいります。

○山下委員 私の地元で本年度開校した東久留米総合高校では、都立高校として初めて「魅力統合」の中でメディアリテラシー教育をスタートさせたと校長先生からお伺いしました。このような先進的な取り組みは、私も応援させていただくものです。
 また、教材も新たにつくっていただける、教育の研修を実践的にやっていただけるということですので、これまで訴え続けてきて一定の前進を見たことは本当にうれしいです。
 しかし、私としては、どうしてもこの取り組みは今後もっと広げて、すべての都立高校で実施することをお考えいただけないかと思うんですが、ご所見を伺います。

○中村教育長 都立高校におきましては、学習指導要領にのっとりまして、教科「情報」を中心といたしまして、すべての生徒にメディアリテラシーの育成を図っているところであります。
 しかし、それにとどまらず、各学校の実態や特色に応じまして、国語、公民、総合的な学習の時間等におきましても、より充実を図ってまいります。

○山下委員 東久留米総合高校のメディアリテラシー教育は非常にすばらしい取り組みですが、高校一年時の総合的な学習の時間で取り扱う「魅力統合」授業の中でのテーマの一つであり、学べる時間も年間十四時間と少ないんです。都立高校の全生徒を対象にし、学べる時間も多くすることが都としてすべきことだと私は確信をいたしております。早急にカリキュラムの検討、授業実践研究、教員の研修といった、実施に必要な体制整備に着手していただきたいと思います。
 メディアリテラシー教育は、思考訓練であり、情報の性質を理解し、言葉は悪いんですが、一たん疑い、裏をとってから信用する癖づけをするともいえます。こうした訓練を受け続けることは、考える力、多様化する社会で生きる上でどうしても必要なことですから、こうして申し上げているわけであります。
 例えば、実生活の中でも、うまい投資話、うその効能をうたった高額なにせ薬にだまされるのは、何もお年寄りばかりではありません。ちょっと待てよと考えてみることが、消費者被害から身を守ることにもなります。結構あると思います。まさしくこれがメディアリテラシーであり、育成が重要だと考えます。
 都は、消費者の情報に対する判断能力を育成するためにどんな取り組みを行っているのか、お伺いいたしたいと思います。

○渡辺生活文化スポーツ局長 はんらんする情報の中から、消費者が必要な情報を適切に選択できるよう消費者の判断力を高めることは、ご指摘のとおり大変重要だと考えております。このような観点から、都では、一般消費者や教員向けに啓発講座などを実施しております。
 また、都内の複数の大学と連携して、インターネット上の広告表示に消費者に誤認を与える不当表示がないか、学生の目を通して調査する事業も行っております。
 さらに、消費生活に関する情報を提供しているウエブサイトを活用し、実際の架空請求を疑似体験できるサンプルサイトを設け、注意を促しております。
 今後とも、消費者の判断力が高まるよう、さまざまな取り組みを行ってまいります。

○山下委員 食の分野でもリテラシー能力は重要であります。中国産冷凍ギョーザ事件で、中国産商品、ひいては冷凍食品全般が打撃を受け、安全な食品を安く提供しようと頑張ってきた日本の商社、生産・物流事業者は苦しんでいます。メディアリテラシーとはまさにこうした事態を避け、物事を総合的に判断するために必要な力であります。
 都は、食品安全条例に基づきリスクコミュニケーションを進めていますが、これも都民のメディアリテラシーなくして成り立ちません。食品一つとっても、複雑な経路で流通し、世界が狭くなっている今日、メディアリテラシーはリクワイアの時代を迎えていると私は確信をいたしております。
 また、これからはネット抜きに生きることもほぼ無理であります。テレビ、活字媒体、ネットを生活インフラととらえ、使いこなす訓練が必要不可欠です。親自身がメディアリテラシーがない場合も多いですから、教育現場で大枠の訓練をしないことには、この複雑化した社会を生きる力はつかないと考えます。
 情報は真実を映すものではなく、すべて加工されていること、時には意図的に異なる意味づけが行われる場合もあるということ、それを知ることは、複雑化する社会で身を守るためのすべともなるわけであります。しっかりしたメディアリテラシー教育の実施に向けた知事の見解を伺って、私の質問を終わります。

○石原知事 おっしゃるように、現代では本当に情報がはんらんし過ぎておりまして、その情報の取捨選択そのものがまた情報に頼るという、非常にこっけいな、悪い循環になっています。
 私は、これを克服するには、子どもたちが、大人もそうでありますが、本当の自分の感性を持つこと、情念を持つこと、それしかないと。それは、やっぱり子どもたちに本当に自分で見つけさせて、何か趣味を持たせることです。それに尽きると思います。

○山下委員 大変ありがたい答弁、ありがとうございました。
 これで質問を終わります。(拍手)

○大沢副委員長 山下太郎理事の発言は終わりました。
 この際、議事の都合により、おおむね三十分間休憩いたします。
   午後六時二十五分休憩

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