東京都議会予算特別委員会速記録第三号

○樺山委員長 臼井孝委員の発言を許します。

○臼井委員 沖ノ鳥島についてお尋ねいたします。
 沖ノ鳥島について、領土や領海を保守する視点からのお尋ねであります。
 日本は、四面を海に囲まれた海洋国家として、どんな古い時代にも困難を乗り越えて国防に尽くしてきました。その先人の苦難や心情を防人の史実などからも知ることができます。
 終戦から六十年がたち、歴史上の一つの節目を迎えて、今日、領土、領海問題が新たな局面を迎えたといえます。
 百年前に島根県に登録され、国際法上も明らかに我が国の領土である竹島は、韓国に実効支配されています。尖閣諸島は中国に脅かされ、そして北方領土もロシアに占拠されたまま、今日に至っています。
 沖ノ鳥島も、中国の原子力潜水艦進出を意図した海軍測量艦などにより主権が侵害されております。このときに、石原知事の英断により、新たな問題提起がなされました。これは、大きな影響力があると思われます。
 私を初め都議会自民党は、石原知事の決断を強く支持するものであります。
 我が党は、本会議代表質問において、都議会自民党としても東京が日本を守るとの気概をもって臨むことを表明し、沖ノ鳥島に関する知事の所見を伺いました。
 これに対し、知事は、東京都の意思で、日本の、東京の国土である沖ノ鳥島をしっかりと守っていくとの力強い答弁をいただいたところであります。そして、今定例会には、そのために必要となる漁業振興策の予算も上程されております。
 翻ってみると、日本の領土、領海を守る仕事は、第一義的には国の役割であり、国家の根幹的な責務であります。にもかかわらず、石原知事が意を決して沖ノ鳥島の周辺での経済活動に乗り出したのは、領土、領海の、あるいは海洋権益侵害の危機に瀕しても、重い腰を上げようとしない政府の憂慮すべき状況があったからにほかなりません。
 昨年来、石原知事は、都の区域である沖ノ鳥島周辺海域における海洋権益保全の必要性について強力に主張し、小泉首相にも具体的な提案をされるなど、積極的な活動を展開されてきました。そのかいあって、ようやく最近になって、国においても、一定の予算措置や省庁連絡体制の立ち上げなど、機運が高まってきたところであります。
 国がやらなければ都がやるという知事の英断が国を動かし、国と地方のあり方にも大きな一石を投じた好例といえるものでしょう。
 また、国家が危機に瀕したとき、古い官僚主義に引きずられ、身動きもとれずにいる行政にかわって、事態打開の救世主となり得るのは、強い憂国の情と勇気と行動力を兼ね備えた政治家にほかならないことも、今回の沖ノ鳥島の問題を通して石原知事は示されました。
 ところで、私は、今回の知事の行動を教訓に、国防についても、国が地方の意見を取り入れ、それぞれの役割に応じて協力、補完し合う普遍的な制度の必要性を痛感します。今後、国境に近い地方自治体の国防上の役割が大切になると考えています。国と都道府県の役割を明確にし、国と国民が一体になって、民族の生存基盤である国土を保全していかなければなりません。その上で、国は、外交上、毅然とした立場を確立すべきであります。
 さて、こうした点を踏まえて、改めて今回予算化されようとしている沖ノ鳥島周辺海域での漁業振興策について考えてみますと、この事業は純然たる漁業振興という行政的な側面と同時に、我が国の国益を守るという政治的な側面をあわせ持っているといえます。
 このことは大変重要なことでありますので、ぜひ広く都民の皆様にも事態を正確にご理解いただき、その上で、この問題に対する絶大な支援をお願いしなければならないと思います。
 そこで、石原知事にお尋ねいたします。真に国を愛し、我が国の将来を憂う政治家として、さらには沖ノ鳥島を所管する行政の長である東京都知事として、国土を守るとはどういうことかということを改めてお聞かせください。

○石原知事 国がすべき仕事の量も種類もいろいろあるでしょうけれども、やはりその大眼目は国を守るということだと思います。その国とは、国土でもあり、国民の生命財産でもあり、また国民を結びつけている固有の文化でもあると思いますが、今回の沖ノ鳥島の問題は、戦争中はいろいろな形で軍もあれを活用し、また日本の防衛ラインの一点として大きな役割を果たしてもきましたが、戦後の混乱の中で半ば忘れられた形でありましたけれども、国際法が改正されて排他的経済水域という設定も行われる。
 そういう意味では、日本は、恐らくかつてのソビエトと日本と比べると、どっちが大きいんでしょうか。とにかく広範な経済水域を持つわけでありまして、その大事な大事な拠点、私は碁はやりませんけれども、非常に大事なところに一つ打たれた石が、私はこの沖ノ鳥島だと思います。
 中国は、かねてから軍事力を背景にした非常に拡張主義で、もう既にチベットを併合し、また内蒙古も併合し、非常に大きな不満というものがその現地にも堆積しておりますけれども、いずれにしろ、これからこの太平洋における軍事的なヘゲモニーをめぐって、日本、アメリカ、中国の間に割と際どい摩擦が想定もされる状況になってまいりました。
 先般、今度は国連大使になりましたけれども、かねて親しかった国務次官のボルトンが来ましたときに、いろいろな話をしましたが、そのときに彼も気がつかなかったようですけれども、私は世界地図を持ってきて、君らの大事な戦略拠点であるグアム島と、この沖ノ鳥島と、それがどういう位置にあって、中国なり台湾なり、いろいろ問題が懸念されるところとどれだけの距離にあるか。しかも、アメリカの戦略的な艦船、原子力潜水艦も含めてでありますけれども、そのまさに通り道に沖ノ鳥島があるわけで、それを見せましたら、彼は改めて愕然として、これは気がつかなかったといって帰りましたが、いずれにしろ、これを、今度の外務次官は大分ましになって、谷内君は私にも決意の表明をしておりました。
 そういう外務省の姿勢の変化も結構だと思いますが、いずれにしろ、我々の、東京都の都下の大事な国土でもありまして、都は都でできることをして、国の手伝いもしたいし、国にも大きな力を発揮してもらいたいということで、調査もしまして、これからもまいりますが、あの水域をよく知っている小笠原のかつての漁業組合長、今、東京全体の組合長をしております菊池君にいろいろ聞きました。こういう手を打てば、大きな漁場としての可能性があると。
 しかも、佐賀大学の、既にパテントを国際的にとった、深層水をくみ上げて、その表面の水温と、二千メートルぐらいのところの二度、三度という冷たい水との温度差を利用して、アンモニアを活用しての発電ができるということで、深いところの水は、プランクトンとミネラルを含んでおりますが、それを発電のためにくみ上げて、水面に近いところに放出することで、水面に近い水になかったミネラル、プランクトンがくみ上げられて拡散されるわけですから、漁場の形成にもなるわけでして、それは東京の地下でやろうと。
 額も、発電所の設定は二十億ぐらいでできるようでありまして、それも想定しながら、まず、ともかくあそこに試験船を送って、船もチャーターいたしました。また、船もつくりますが、都が先鞭をつけることで、国もやはり動かざるを得ないし、また動くべきであると。
 その背景には、やはり臼井委員のご指摘のように、多くの都民、国民が、こういう問題に対するはっきりした意識を持っていただきたいということを熱願しますし、またこういった質問なり、議会での討論が、その大きなよすがになると思っております。

○臼井委員 次に、多摩リーディングプロジェクトについてお伺いいたします。
 多摩リーディングプロジェクトについては、我が党の比留間幹事長の代表質問で知事の決意のほどを聞くことができましたが、東京都が策定したプロジェクトは、首都圏の中核をなす多摩の実現を目指し、二十の重点推進事業を具体的に示しました。これを多摩の自治体は、一定の評価をしています。
 そこで、多摩に関する私の意見を述べさせていただき、幾つかの質問をさせていただきます。
 多摩地域は、一つの県並みの人口と産業力を持っていますが、いま一つ、都市として、その魅力とパワーが感じられないところがあります。それは、多摩の市町村が広域都市としての連携ができていないところに原因はありはしないかと思っています。
 また、府県行政が逡巡している側面が感じられます。
 さらに、各自治体を結ぶ公共交通など、根幹的都市施設が脆弱であることが決定的な要因であると私は考えています。
 都市再生が進行する大都市地域、すなわち二十三区では、公共交通網の整備が着実に進んでいます。十七年度で常磐新線の開業、「ゆりかもめ」の延伸があり、十九年度では地下鉄十三号線日暮里・舎人線が開業いたします。
 これらと比較して、多摩地域は、多摩振興の起爆剤として、その整備を熱望している多摩都市モノレールは整備が進んでいません。ここに多摩地域と大都市地域との落差が象徴的にあらわれている、このようにいえると思います。
 四百万人の人々が生活し、大都市とは歴史的にも文化の質も違う、もう一つの東京がある、それは多摩都市と呼べるところであるという認識が必要ではないかと思います。
 この多摩都市が、プロジェクトのいうところの自立と連携を強めていくには、全体で約九十キロとなる多摩都市モノレール構想における未整備地区の具体化が必要であります。
 多摩地域の未来は、ひとえにこの多摩都市モノレールの延伸にかかっているといっても過言ではありません。多摩地域の振興を図り、八年後の多摩国体を誘致していくためにも、多摩市民の悲願である多摩都市モノレール構想、この構想路線の早期整備を切望していきたいと思います。
 さらに、多摩都市の将来のために、道路整備が必要であります。圏央道のアクセス道路や多摩南北道路の整備の確実な実施をお願いしたいと思っています。
 そこで、東京を中心とする首都圏には大都市特有の課題が山積をし、このことが都市の魅力と活力を損なっている要因となっております。特に交通渋滞は、社会の活力を損なう大きな要因となっていることはいうまでもありません。多摩地域につきましても、豊かな自然を初め、大学や先端技術産業の集積など、首都圏の発展を牽引する大きな可能性を秘めた地域であるにもかかわらず、慢性的な交通渋滞などにより、こうした可能性を十分に発揮できずにおります。
 このため、都市計画道路の整備を推進し、交通渋滞の解消を図ることが、まず何より重要であります。都では、都市計画道路の整備を計画的に進めるため、現在、多摩地域における都市計画道路の整備方針を策定中と聞いております。
 そこで、この整備方針をお尋ねする前に、知事に一つお伺いいたしますことは、知事はさきの記者会見で、青梅マラソンに触れた際、青梅をチベットみたいなところといわれたと聞いています。私も青梅の奥の西多摩に住んでいますが、知事のいわれるような三多摩格差がこの地域にあるということを認識しています。
 そこで、知事の発言の真義と認識をお尋ねいたします。

○石原知事 どうも説明が足りない発言をしますと、いろいろ誤解を受けるので、ざんきしております。
 私が申しましたのは、何度か私、自分の知事選のときに青梅に行きまして、都心近くでは桜の盛りなのに、向こうへ行くと梅の真っ盛りで、随分温度が違う。寒い。しかし、あそこには吉川英治さんもおられたりして、私も非常に何度も伺いましたが、それは今と違って、かつてはもっと環境のいい、ここが東京かと思うぐらいすばらしいところでございました。そういう意味で申しましたので、決して差別とかそういう意味でいったのではございません。
 ただ、やはり東京は南北にも長い、先ほどの質問にもありましたが、小笠原、鳥島まで非常に縦に長い行政区域を抱えているわけで、その中の変化というのは余人の知るところじゃないし、私自身も知事になって、ああ、こんなに東京の中に変化があるのかなということで、たまたま非常に遠隔というか、また気候も違うという形で、ああいう表現を用いましたが、決して差別云々ということではございませんで、ご理解いただきたいと思います。

○臼井委員 知事の発言は、私たちの西多摩、青梅に懐かしみを持ち、文学的な表現をされたものと受けとめております。
 ただ、格差は現実にあるのでございまして、この格差是正の意味で、今回道路整備に当たっては、多摩の環境軸を形成していくという視点、こういうところから重要だと思いますので、ぜひとも整備方針の策定をしっかりとやっていただくことを要望して、まず最初に、策定に当たっての都の基本的な考え方を改めてお伺いいたします。

○梶山都市整備局長 お答えいたします。
 整備方針は、未着手の都市計画道路について、必要性の検証を行い、優先整備路線の選定を行うものであり、その策定に当たりましては、道路の基本的な機能である交通の円滑化や防災性の向上、さらには地域環境の保全の視点を基本といたします。これらに加え、横田基地の軍民共用化を視野に入れ、首都圏西部の産業、物流、交通などへの影響を考慮するとともに、埼玉や神奈川との連絡強化や緑に彩られた沿道の街並み景観の創出など、多摩の地域特性を生かす視点を重視してまいります。

○臼井委員 今、多摩地域の特性を生かす視点として、埼玉や神奈川との連携強化や沿道の街並み景観の創出とのことでございました。これまでも街路樹の設置や電線の地中化などにより景観への配慮を行ってきたと思いますが、沿道の街並み景観の創出についてどのように取り組んでいくのか、今後どのようにするのか、見解を伺います。

○梶山都市整備局長 沿道の街並み景観の創出を図るためには、広幅員の道路整備にあわせ、沿道の土地利用を一体的に誘導していくことが必要でございます。
 具体的には、都市計画道路を軸とした道路内の緑と公園などとの緑のネットワークや地区計画の活用による沿道建物のスカイラインへの配慮など、良好な街並み景観の広がりを多摩の環境軸として位置づけてまいります。
 このような環境軸の実現には地元自治体の意欲と協力が不可欠であることから、今後とも関係市町との連携を密に図り、多摩の道路整備を推進してまいります。

○臼井委員 先ほど、整備方針では、優先整備路線の選定を行っていくとのことでありました。その選定に際しては、既に策定済みの区部の整備方針と同様に、評価の基準を設定していくものと思いますが、今までお話しいただいた視点を踏まえ、どのような評価の基準を考えているのか、伺います。

○梶山都市整備局長 評価の基準についてでございますけれども、人や物の流れを円滑にするため、拠点間を結ぶ道路ネットワークの形成や渋滞している箇所の解消などの項目を、また都民の生命や財産を守るため、延焼遮断帯の形成や緊急輸送路の確保に加え、交通安全性の向上などの項目を基準として考えております。
 さらに、多摩の地域特性を踏まえ、多摩の環境軸の形成や地域のまちづくりへの貢献などの項目を基準として考えております。

○臼井委員 緑の多摩の住人として、道路整備に際し、多摩の環境軸を形成していくという視点は非常に重要だと考えています。ぜひこうした視点を踏まえ、整備方針を策定していただきたいと思います。
 最後に、現在の検討状況と今後の予定について伺います。

○梶山都市整備局長 整備方針については、昨年七月に関係市町との共同の検討組織を立ち上げ、議論を進めているところであります。
 現在、道路整備の基本的な方向や評価の基準などを取りまとめた中間のまとめ、これを策定しているところでございます。今後、中間のまとめに寄せられた都民意見なども参考にしながら検討を進めてまいりますが、本定例会で知事がご答弁申し上げた横田基地の軍民共用化による産業などへの構造的影響などに関する調査の結果を踏まえ、最終的な取りまとめを行う予定でございます。

○臼井委員 ぜひよろしくお願いします。
 次に、人口増加が進む西多摩地域では、大量輸送機関であるJR青梅線、五日市線、八高線の輸送力の増強を事あるごとに関係機関に要望してきました。この三線の結節駅である拝島駅は旧態依然の駅舎であり、改善が望まれていました。三線の電車が同時にホームに着くと、戦前からの狭隘な地下道に乗客がなだれ込む様子はさながら殺人的であります。
 私は、都議として初めての一般質問で、地元の要望を受け、このことを取り上げ、改善への協力を要請したのでありますが、その後の取り組みについて伺います。
 まず第一に、拝島駅は連絡通路が狭いわけであります。また、バリアフリー化もおくれているなど、利用者にとってまことに不便な駅であります。現在、駅の改良などを行うと聞いていますが、具体的な事業の内容をお聞かせください。

○梶山都市整備局長 拝島駅とその周辺につきましては、自由通路などの整備により、利便性が高い都市空間とする必要がありますが、バリアフリー化のおくれや駅によるまちづくりの分断など、多くの課題がございます。このため、地元自治体が事業主体となり、駅舎を橋上化するとともに、自由通路の整備を行い、利用者の利便性向上とまちの一体化を図ることとしております。
 本事業につきましては、平成十六年度より、事業の採択を受け、現在、駅舎などの設計を進めており、平成十九年度には事業が完了する予定でございます。

○臼井委員 次に、拝島駅の改良や自由通路の事業化に向け、広域的立場で都はどのような支援を行ってきたのかということと、駅改良は、現在単線の五日市線を、将来の複線化に配慮した上下線のホームも計画すべきであると考えていますが、どのような状況になっているのか、お伺いしたいと思います。

○梶山都市整備局長 都は拝島駅の改良などに向け、都、地元自治体、鉄道事業者による調整会を設置し、事業を実施する上での課題解決や費用負担の調整などを行ってきております。今後とも、国費の導入など、引き続き地元自治体に必要な支援を行ってまいります。
 次に、JR拝島駅の改修についての状況でございますが、JR五日市線は、平成十二年の運輸政策審議会答申第十八号において、輸送需要動向を勘案し、既存施設の改良などにより輸送力増強を図る路線として位置づけられております。
 このため、将来、五日市線の輸送力増強が必要となった際にも拝島駅での対応が可能となるよう、鉄道事業者などが検討を行っていると聞いております。

○臼井委員 ぜひ東京都の協力が必要であります。
 次は、森林再生について伺います。
 私は過去三回、定例会の一般質問で森林再生について質問をし、都の支援をお願いしてきました。
 多摩地域には五万三千ヘクタールの森林があり、江戸時代から地元の人の手で管理されてきました。西多摩には、この森林とともに生きてきた山村社会が現在あります。その奥多摩町と檜原村の人口は近年激減をし、林業の衰退と歩調を合わせるかのように、過疎化が進行しています。若者が去り、山村社会の活気が失われ、森林にも荒廃が進んできました。もう民間の力だけではどうすることもできません。このまま放置すると、増殖したシカによる被害とあわせて、災害の発生まで危惧されています。
 ところで、二月十六日に地球温暖化に関する京都議定書が正式に発効しました。二酸化炭素の排出削減は現実問題となっています。本定例会においては環境確保条例の改正案が提出されていますが、森林整備や木材利用は二酸化炭素削減と固定に有効な手段といえます。森林整備の促進と木材の需要拡大は、山村地域の振興だけでなく、地球温暖化対策においても不可欠な施策と考えます。
 そこで、多摩地域の森林再生について、何点か伺います。
 東京都の三六%を占める森林は、命の源泉である豊かな水を蓄え、きれいな大気を生み出すなど、千二百万都民の貴重な財産です。しかしながら、木材価格が長期にわたり低迷する中で、森を育ててきた林業生産活動は著しく停滞し、管理放棄された森林や伐採放置林の増加は、下草の消失による土壌流出の発生を引き起こすなど、深刻な森林荒廃を招いています。
 こうした状況を踏まえ、東京都においては、昨年四月に、森づくり推進プランを策定し、荒廃した森林を再生し、豊かな森づくりに向けたさまざまな取り組みを開始していただきました。
 そこで、森を守る上で重要なかぎは担い手の存在です。しかし、多摩地域では林業の停滞に伴い、今日まで森を守り育ててきた担い手が減少し、高齢化が進行しています。森づくりは長い期間と熟練を要する仕事であるため、森づくりを支える次世代の人材を確保し、技術を継承することが必要不可欠です。森林組合では若手の作業員を計画的に採用していると聞いています。
 そこで、森林の保全、再生を担う労働力の現状及び継続的な担い手の確保に向けた取り組みについてお伺いいたします。

○関谷産業労働局長 森林整備を担う現行の林業就労者は二百名を下回り、平均年齢も五十九歳と高齢化が進んでおります。今後、計画的な森林整備を推進するためには、若い労働者の継続的な確保が不可欠でございます。
 このため、都では、平成十五年度から、林業への本格的就業を希望する者を対象とする緑の雇用担い手育成対策事業を活用し、二カ年で十名の若い労働者を育成しているところでございます。
 また、間伐規模の拡大や環境の視点に立った森林再生事業に加え、十七年度からは新たにシカ被害地の造林を開始するなど、事業量も増加しており、今後とも関係機関と連携し、継続的な労働力確保に努めてまいります。

○臼井委員 我が国は、恵まれた自然から産出される木材を巧みに生かした木の文化を築いてきました。現在、日本は世界の有数の木材消費国ですが、八割以上は外国からの輸入材に依存しています。その結果、国産材は使われなくなり、保育、伐採、活用、植林という、森を育て、木を生かす、巧みな循環が失われようとしています。
 木の循環を取り戻すためには、木を使っていくことが不可欠です。その意味からも、多摩産材の利用拡大を進めることは、多摩の森林の再生の第一歩です。特に東京は木材の大消費地であることから、公共事業における多摩産材の優先的利用は、民需拡大の呼び水となる効果的な取り組みだと思います。
 ついては、今後の多摩産材の需要拡大に向けた取り組みについて、所見を伺います。

○関谷産業労働局長 多摩産材の需要拡大に向け、関係各局で構成する木材利用推進連絡会などを通じ、公共事業による利用拡大を図ってまいりました。平成十六年度の庁内の多摩産材利用量は、前年度の約一・六倍に当たる一千二百立方メートル、長さ三メートルの丸太で申しますと、約一万本相当になる見込みでございます。
 今後は、乾燥施設の導入など生産基盤の整備や、新たに保育園等にシンボル性の高い多摩産材遊具の設置を支援するなど、市町村と連携した利用拡大を図るとともに、都民、工務店等に対する多摩産材の普及を行ってまいります。

○臼井委員 次に、シカ対策について伺います。
 奥多摩は人口減少のかわりにシカがふえております。深刻なシカの被害については、昨年来マスコミでも大きく報じられたことから、広く都民の方々にも理解されるようになりました。
 先日発表されたシカ生息状況調査によれば、都内のシカは約二千頭に及び、依然として森林の植生、立ち木の食害、土砂流出をもたらす危機的な状況にあるとされております。害を及ぼすものはシカそのものでありますから、対策の中で最も重要なことは、シカの頭数管理であると考えます。
 シカ保護管理計画はシカを適正な頭数に管理していくことが基本になると思われますが、この計画の内容、それから策定状況について伺います。

○平井環境局長 お話のシカ保護管理計画は、シカの適正な頭数管理、植生の回復、森林の被害防止対策等を計画内容として定めるものでございます。
 現在、学識経験者や地元市町村等から成ります東京都シカ保護管理計画検討会において計画案の検討を進めており、自然環境保全審議会での審議など、所定の手続を経て、速やかに策定してまいります。

○臼井委員 以上、森林の再生にかかわる取り組みについて当局に伺ってきました。
 森林を健全に育成するためには、森林所有者だけでなく、森林から多くの恩恵を受けている都民が費用面で森林をサポートすることが極めて必要です。全国的に見ると、高知県を皮切りに、森林環境税などの名称で、四月からの導入を含め、六県で森林整備の目的税創設を行っています。近県では、神奈川県、埼玉県でも検討を進めているとのことであります。
 森づくり推進プランでは、森林所有者等に依存した管理だけで森を守るのではなく、森からさまざまな恩恵を受けている都民や事業者等が広く参加、協働して森を守る新たな仕組みを創設する取り組みを行っていくことをうたっています。
 そこで、森林を守るための負担のあり方や財源など、新たな森林管理制度創設に向けた都の取り組みについて伺います。

○関谷産業労働局長 新たな森林管理制度の創設に当たっては、森の監視体制及び管理の基準、森づくりにおける協働の仕組みづくり、森づくりの費用負担のあり方等の検討が必要であると認識しております。
 このため、平成十六年度は、都及び市町村の行政関係者による準備会を設置し、検討を開始いたしました。平成十七年度からは、外部の専門委員、関係局及び関係市町村の行政関係者をメンバーとする森林管理制度検討委員会を設置し、幅広い観点からの検討を行ってまいります。

○臼井委員 次に、地籍調査事業の推進について伺います。
 東京の都市再生も、六本木ヒルズや汐留シオサイトなどの民間都市開発プロジェクトがそこかしこで立ち上がり、次第にその姿が見えてきました。このようなプロジェクトでは、土地の権利調整や境界確定に多大な時間と労力を要する事例が多く、都市部においては、都市再生の円滑な推進のために、早急に地籍の整備を図ることが必要です。
 しかし、都内の地籍調査事業の実績は、面積割合で、区部においては三%、多摩地域では六%にとどまっています。このため、国は、都市再生を推進する観点から、特に人口集中地域について、地籍調査の先行作業を本年度から三カ年にわたり実施していると聞いています。
 そこで、この先行作業の内容と実施状況について伺います。

○梶山都市整備局長 国が実施しております地籍調査の先行作業は、二百メートル間隔の測量基準点の設置や主な街区の角地の測量などを行うもので、おくれている都市部での地籍調査を促進する効果がございます。
 都内の対象は四十八区市町となり、本年度においては、全対象区市町で作業に着手し、そのうち十二区市で測量基準点の設置を行っております。平成十八年度には、この先行作業をすべての対象区市町で完了する予定でございます。

○臼井委員 今の説明により、都市部における地籍調査についてはある程度先行きが見えてきたといえます。
 一方、私の地元である西多摩地域では、先行作業を行う人口集中地域も一部存在をするのでありますが、その多くが先行作業の対象地域外となります。このような地域でも、圏央道の延伸による都市化の進展や世代交代による土地境界の不明瞭化が進んでおり、都市部同様に地籍の明確化が必要であると考えます。
 そこで、西多摩地域の地籍調査の取り組みについて伺います。

○梶山都市整備局長 西多摩地域では四市三町一村のうち三市二町が事業に着手しており、調査済みの面積割合は八%でございます。未着手市町村のうち山間部の一町一村は、平成十七年度から事業に着手予定であり、残りの一市については、人口集中地区を多く抱えており、国の先行作業を実施した後に、事業に着手するよう働きかけてまいります。

○臼井委員 全般的に大変に取り組みがおくれているようです。東京では土地の資産価値が高いこと、土地が細分化されていること、権利関係がふくそうしていることなどが地籍調査の進まない理由といわれています。このような土地固有の動かしがたい理由のほかに、調査を進めていく上で問題となる要因があるかと思います。地籍調査は国土の管理の基本でありますから、このことについてお尋ねして、私の質問は終わります。ご回答をお願いいたします。

○梶山都市整備局長 地籍調査事業は調査期間が長期にわたり、直ちに効果が発生するものではないため、一部の区市町村で実施を先送りしていることが大きな要因であります。
 また、都市部では、権利意識が高い反面、隣人とのあつれきを嫌い、境界の意思表示を行わないなど、立ち会いが円滑に進まないことも要因の一つとして挙げられます。
 以上でございます。

○樺山委員長 臼井孝委員の発言は終わりました。(拍手)

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