東京都議会予算特別委員会速記録第五号

○清原委員長 ただいまから予算特別委員会を開会いたします。
 これより付託議案の審査を行います。
 第一号議案から第三十一号議案までを一括して議題といたします。
 昨日に引き続き総括質疑を行います。
 木内良明委員の発言を許します。
   〔委員長退席、石井副委員長着席〕

○木内委員 高次脳機能障害対策についてであります。
 高次脳機能障害という言葉を聞いて、寝たきりの方ですかと答えた医療関係者がいるという実話があります。それほどに社会的認知と、そして理解が進んでいないのが実態でありまして、そうした社会環境と公共サポートというものが整備されていない環境の中で、こうした高次脳機能障害の方々ご本人はもとより、家族の皆さんは、孤独な介護の日々と、そして不安の時間を、来る日も来る日も過ごしているわけであります。
 交通事故などの不慮の事故、あるいはまた脳血管障害等の疾病によって脳を損傷した高次脳機能障害者は、自分では感情をコントロールできなくなったり、あるいは著しく記憶を失ったり、さらには物を識別することのできない、いわゆる識別障害を持ったり、非常に多様な後遺症を持つわけでありまして、一人では生活ができないために、家族の二十四時間の介護を必要とするケースがほとんどなのであります。
 また、外見は健常者とほとんど見分けがつかないことから、障害に対する社会的認知度というものが大変に低いことがございまして、いわば社会復帰が大変困難になっているケースがほとんどなのであります。
 近年における救命医療技術が進んできたために、かつての古い時代には命を落としていたところ、こうしたケースが医療技術によって命が救われて、蘇生をしたのはいいけれども、かえってそのために後遺症が残って社会復帰できないという事態になっているケースがあるのであります。いわば新しい時代が生んだ病ともいえるのが、この高次脳機能障害であります。
 この障害に対する社会的認知が全くなかったということは申し上げたとおりでありますけれども、そうした状況のもとで、医療や、あるいは福祉の対象となってこなかったのであります。例えば、医療機関等に行きましても、ドクター自身が高次脳機能障害というものを知らない。あるいは区市町村の役所に行きましても、窓口で、高次脳機能障害だと家族が訴えても、一体それは何ですかと問い返されるようなことも多かったのであります。
 こうした方々への救済策というのが講じられてこないという実態を看過できないということで、私ども公明党は、さきの平成十年の定例会におきましてこの問題を取り上げ、実態調査を行い、施策の構築に取り組むべきだということを強く訴えたのでございます。
 そして、平成十一年度の予算編成をするに当たって、政党の復活要望として、これは断じて見過ごすことのできない重要課題である、まず平成十一年度は、実態調査のためのこの予算を計上すべきだと強く訴えまして、これを予算に反映させたのであります。
 約一年が経過をいたしました。この間、こうした問題意識を持ちながらも、社会の表面に出てこない、沈潜していたこうした方々や関係者からの問い合わせが、東京都や、あるいは私どものところに相次いで寄せられたのであります。議会として、行政として、これが取り上げられ、具体的な予算措置が講じられて、実態調査が進んでいくという、まさに東京都が国を先導するかのようなこの施策の展開のあり方がマスコミで幅広く報道されるや、全国からの問い合わせの結果となってあらわれたのでございます。
 施策の必要性、具体的な中身については、これまで我が党は、本会議等での質疑を通じて再三訴えてまいりました。したがって、この点は割愛しながら、調査の実態、今後の施策のあり方等について、本日、私は、質疑を展開していく予定でございます。
 そこで、まずお尋ねいたします。
 申し上げたこの高次脳機能障害問題の実態調査は、この一年間、一千万円の予算が計上されましたけれども、どのような方法で行われましたか、恐らくさまざま困難な点はあったと思うのでありますけれども、その調査の経過、方法についてまずご報告をいただきます。

○今村衛生局長 昨年十月からことしの一月にかけまして、高次脳機能障害者実態調査を行いました。
 まず第一次調査では、年齢が十八歳以上六十四歳以下で、脳血管障害や頭部外傷などの後遺症として高次脳機能障害を持ち、受傷後三カ月以上経過し、症状がほぼ固定している方を対象といたしまして、都内の病院、福祉施設等、三百七十二施設に対し、アンケート方式によりまして、障害者数や原因疾患等を把握いたしました。
 また、第二次の調査では、一次調査をもとに、協力を得られた方々に対しまして、障害の状況ですとか日常生活の状況につきまして、訪問、聞き取り等の調査により行いました。

○木内委員 今、大変具体的な数字を挙げていただきました。大変多くの施設等での聞き取り調査、第一次調査、これに基づくまた面談の調査等があったわけであります。ご報告を聞けば、極めて淡々として答弁願ったわけでありますが、実は大変困難な面があったことは十分推測できるわけでありまして、その行政の努力には評価をまずいたしたい、こういうふうに思います。
 ところで、その方法で行われた実態調査の結果、東京都内には高次脳機能障害者は何人ぐらいおられるということが判明しましたでしょうか、ご報告願います。

○今村衛生局長 第一次の調査では、千二百三十四人の高次脳機能障害者を把握いたしましたが、これをもとに算定いたしますと、都内全体の患者数はおおよそ四千二百人と推計されます。

○木内委員 推定四千二百ということでございますが、調査方法に言及をさせていただくならば、第一次調査、第二次等で医療機関、施設等を中心に行ったわけでありまして、顕在化しない、あるいは捕捉されないケースもあったのではないか。したがって、実態というものはもう少し多いのではないかと思われますけれども、今の数字というものが、行政並びに議会の質疑の中でオーソライズされた数字だろう、こういうふうに思いたいのであります。
 先ほども、この高次脳機能障害者の家族の会の方がお見えになりまして、この実態調査については、一定の数字は出るけれども、すそ野としてさらに見込めるのではないかという、そういう懸念も表明されておられましたが、今後、施策の構築とあわせて、これらの点にもぜひ配意をしながら行政の推進をお願いしたい、こういうふうに思うわけであります。
 恐らく、今の都内の患者数から推計をいたしますと、全国の推計というのはにわかに判断はできないわけでありまして、これはなぜかならば、東京といういわゆる社会環境の特殊性、また、地方における風土の違い、さまざまな環境の差異があるわけでありますから、即断は避けなければいけませんけれども、一般的な統計の算定方法によれば、恐らく十倍前後はいくのではないか、したがって四万人前後、こういうことも私は考えるわけであります。
 ちなみに、過日行われました厚生省の会合での発言では、二万五千から三万ではないかという数字が出ておりますが、これは若干問題の本質のとらえ方の側面が違っておりますから、聞くところによりますと、若年性痴呆とのリンク等がありますので、むしろ、今後、この数字というものが全国の行政のスタートの基盤になるのではないか、こんなふうに思われるわけであります。
 さて、約四千二百人という数字をご報告いただきましたけれども、この実態調査では、患者数の数字のほかにどういった実態が明らかになりましたか、ご報告願います。

○今村衛生局長 第一次の調査で把握しました千二百人余りについて見ますと、原因疾患では、脳血管障害が九百八十三人で約八割、頭部外傷が百二十四人で約一割となっております。障害の内訳では、失語症六割、記憶障害、それから集中力が低下いたします注意障害、これがおのおの約三割、行動と情緒の障害が約二割となっておりまして、重複した障害を持っている方が多いということでございます。
 また、二次調査で把握いたしました百人余りについて見ますと、自宅での食事、トイレ、移動など、日常生活においてはほぼ一人でできますけれども、金銭の管理ですとか、あるいは銀行へ行くなどの用事につきましては一人でできないため、家族等の介助が必要であるとしております。ふだんの過ごし方では、テレビを見るが約八割、通院しているが約五割、家族との会話があるが約五割となっており、スポーツや社会行動を行っている方は少ない状況でございます。

○木内委員 今回の調査が各方面に与えた影響というのは相当大きい、こういうふうに思います。
 今般、外形標準課税等が話題となり、都政のあり方というものが国の今後をリードしていくという傾向があるわけであります。これらは、私どもはむしろ誇りとしていきたいと思いますけれども、今回のこの調査が、国や、あるいは地方自治体や関係者に与えた今後への影響というものも相当に大きなものがあると思います。
 私の仄聞するところ、厚生省も、東京都のこの実態調査に牽引されるかのように、新たな施策の模索を始めた、こういうふうに私は実感しているわけでありますけれども、この調査の実態の内容、結果もさることながら、申し上げている各方面への影響ということについてはどう考えられますか。

○今村衛生局長 高次脳機能障害については、いまだその定義も確立されておらず、この障害自体が広く理解されていないのが現状であります。このため、調査に当たりましては、医師、作業療法士、患者団体等で構成する高次脳機能障害者実態調査研究会におきまして、高次脳機能障害を、失語症、記憶障害、行動と情緒の障害などの十の症状に区分するなど、障害の内容を明確にいたしました。
 ご指摘のとおり、これらの取り組みを通じまして、医療機関や福祉施設の職員が高次脳機能障害への認識を深めるのに大変役立ったと考えております。

○木内委員 今回の調査については、申し上げているように、全国の関係者からの関心が非常に高かった。私どものところにも、他府県からの、議会関係者からの問い合わせもありました。東京都の方にも、各地方自治体から問い合わせがあったのではないかと思いますが、その点はどうだったか。
 それから、時間の関係であわせて。今回の調査については、他府県が相当関心が高く、いわば東京都のあり方というものを大変参考にしたいという意向を、私、強く肌で感じているんでありますけれども、調査結果というものを早急にまとめて全国に周知すべきである、こういうふうに思いますが、どうでしょうか。

○今村衛生局長 今回の調査につきましては、千葉県あるいは大阪府、山口県、熊本県等の府県のほか、マスコミ関係者あるいは患者団体など、各方面から幅広くかつ熱心な問い合わせがございました。
 また、今回の調査結果につきましては、来年度の早い時期に報告書に取りまとめまして、都内区市町村を初め、道府県などの行政機関や協力を得た医療機関等に配布いたしまして、今後の高次脳機能障害者に対する施策等の推進のための貴重な資料として活用していく所存でございます。

○木内委員 この実態調査というものが施策推進の第一歩でありまして、いよいよ十二年度において具体的な施策の構築というものが必要になってくるわけであります。このために、まずこの検討する研究会というものを設置して、例えばリハビリテーションシステムの整備など、医療面の支援策の検討なども当然していかなければならないと思いますし、同時に、障害の診断技法の確立を図っていくことも重要だと思います。
 今後のそうした課題についてご答弁願います。

○今村衛生局長 今回の調査では、失語症や記憶障害などの認知障害の軽減を図り、社会復帰に有効とされております認知リハビリテーションをお受けになっている方が、約一割にすぎないことが明らかになりました。このため、この分野の専門家である医師、作業療法士、学識経験者等で構成する研究会を設置いたしまして、リハビリテーションシステムの整備のあり方について、これから検討を行っていこうと考えております。
 あわせて、ご指摘の障害の診断技法の確立や専門医療機関への具体的支援策についても、十分その中で議論してまいりたいと考えております。

○木内委員 患者や家族の皆さんにとっての切実な願いの一つは、社会復帰ということであります。リハビリを初めとする医療の分野での支援策も当然重要でありますけれども、福祉の領域における救済策というものも講じていかなければならないと私は思うのであります。
 現在、高次脳機能障害に応じた適切な福祉施策というものは整っていない状況であります。こうしたことから、高次脳機能障害に対する医療、福祉の総合的な施策が展開されるべきだと考えますが、いかがでしょうか。

○神藤高齢者施策推進室長福祉局長兼務 高次脳機能障害を持つ方に対します支援につきましては、大変重要な課題というふうに認識しております。したがいまして、都といたしましては、国に対して政府予算のときに要望しているわけでございますが、今後とも、関係局と連携しまして、障害特性に応じたきめ細かな施策が講じられるよう、引き続き国に強く要望していきたいと思います。

○木内委員 局長、一方、例えば、区市町村におきます小規模作業所というのがある。これまで、我が党の主張を反映して、昨年二月、東京都は、区市町村に対してこうした障害を持った方々への柔軟な、いわば利用いただけるような運営をすべきだと、こういう訴えをしてまいりましたけれども、冒頭申し上げたように、まだまだ理解が不十分である。区役所の窓口にいきますと、それがまだ周知徹底されていない、わからないというケースがある。
 こうした小規模作業所の利用もそうでありますが、全体的に、いわゆる高次脳機能障害の施策に対する関心の喚起という意味からも、区市町村にこの問題についての周知徹底をさらに行うべきだと思いますが、どうですか。

○神藤高齢者施策推進室長福祉局長兼務 ご指摘をいただきまして、昨年二月に、高次脳機能障害を持つ方も、いわゆる小規模作業所の利用ができるよう、区市町村に通知したところでございます。しかしながら、ご指摘もありましたとおり、通知の趣旨が必ずしも十分理解されていない状況も見受けられましたので、今後とも、障害者に対する理解を深めるためにも、実施主体である区市町村に対しまして、なお一層の周知徹底を図ってまいりたいと思っております。

○木内委員 高次脳機能障害の問題につきましては、以上とさせていただきますけれども、ぜひとも血の通った施策を、責任を持って、また、国に強く要請すべきものはしながら対応をしていただきたい、このことを強く要請をしておきたいと思います。
 さて、知事、話は全く変わって恐縮でございますが、私は、有権者の方の熱いご支援をいただいて、この都議会に議席をいただいて三年近くがたちました。いろいろな印象を持ったわけでありますけれども、一つは、ある政党の議論、議会への対応の仕方について、一定の印象を強く持っております。
 とにかく反対をよくする政党でありますけれども、あそこは。例えば、きのうまでの審議を見ておりまして、私は、これについては、議会の運営規則だとかルールということについて言及するのではありません、これに抵触しているとか。ただ、質問という場をかりて自説、我論をとうとうと述べて、そうして最後に、その議論の結果というものが収れんをされて、きちっとそこに到達して質問をして、それに対する答弁があるかといえば、そうではなくて、いきなり最後でもって、とんと問題が飛んでしまって、あるいは関係ないと思われるような、そうした答弁を求めることで、みずからの主張の場をつくる。
 私は、かつて教えられたことがありますけれども、ある議員の、箴言といっていいのでしょうか、私は君の意見には反対だ、だけれども、君の発言をしようとするその機会は体を張って守ると。これが私は議会制民主主義のルールだと思っているんです。
 一つのテーマに対してとうとうと批判して、理事者側が答弁をしようとして立ち上がると、その答弁を求めるんじゃなくて、違うものに移す。こういったことは、私の印象として申し上げているんです。これがまず一点。この議会に議席をいただいての印象の一つ。
 もう一つは、その党は、あれもやった、これもやったといって、党の実績だといっていろんな喧伝をするんです。私が申し上げたいのは、実績というからには、幾つかの要件があると思うんです。
 一つは、議会でみずからの政策を提言し、主張するという要件。二つ目は、この掲げた政策を実現するために、議会の過半数を占める、この賛同を得るように働きかけを行うということ。そして、この掲げた施策を実現するための財源の確保を行うために、具体的な努力をする。この三つがあって初めて実績といえるんじゃないでしょうか。
 事もあろうに、そうした各領域における(発言する者あり)私は冷静に申し上げているわけでありますから、淡々と申し上げるわけでありますけれども、そうした施策というものが盛り込まれた、例えば全体の一般会計予算に丸ごと反対をしていて、そうして、これが我々の実績だと。私は、これは当たっていないんじゃないかと。こんなことを私は印象として――私は、うそをいってはいけないと思うんですよ、政治の場では。そういうふうに、この二年余りの期間、感じてきたわけであります。
 知事は、その辺いかがお考えになるか。これは申し上げていなかったことだから、率直なご意見で結構です。

○石原知事 木内さんのおっしゃる某政党がどこであるかは自明のことでありますけれども、あの方たちの論の張り方を眺めておりますと、本来なら、共産主義というもののベースにあるべき弁証法というのが一向にありませんで、最初からドグマがあって、それを押し通すために、赤を黒といいくるめ、事実を認知していながら、それをわざと曲解する。そして自分の論を展開する。これはやっぱり、私は、多くの都民に誤解も生みますし、決して有効な結論を導く方法とは思いません。
 しかし、それを好む人たちもいるみたいで、ライスカレーを食べるときに、福神漬けがないと、要するに物足りない。しかし、福神漬けを主食にする人がいないのが幸いでありますから、そういう意味で、それなりの存在意義があるのかなと私は思っております。

○木内委員 知事とこういう議論ができるということは、私にとって僥幸でありますけれども、先ほどの高次脳機能障害のこれまでの働きかけの経過を私自身考えてまいりますと、やはり議会と行政というのは、よくいわれるように車の両輪であります。知恵を出し合いながら一定の果実を獲得し、そうした議論の経過というものから成果を紡ぎ出しながら、政策というものに反映させていく。また、行政の方とも、ようくこういう場で討論を行うということの重要性を感じるわけでありまして、やはり建設的な議論というものが必要になってくるだろう、こんなふうに思っておりまして、私の所感の一端を述べさせていただいて、次に、中小企業、ベンチャー支援の問題についてお尋ねしたいと思います。
 先日、私は、マサチューセッツ工科大学のドクター、レスター・サロー氏の論文を読ませていただきました。コンテンポラリー――現代を、いわゆる頭脳産業の時代、知識主義経済の時代、こういうふうな時代の創成期であると規定した上で、実際、こういう時代だからこそ、事業として何が成功するか、あるいは何が成功か失敗かわからない。したがって、失敗しても、やり直しのきく環境というものが社会に醸成されていなければならない。リスクが高くて、新しいことを興せないような環境ではだめだ、こういうふうにいっておられるのが印象的でありました。すなわち、失敗の許される社会の環境づくりが必要である、こういうふうに思うのであります。
 日本の、例えば融資制度を見ましても、あるいは会社を破綻させた後のその人の人生を見ましても、一回不渡りを出してしまう、一回会社を破綻させてしまうと、融資面でのネガティブポイントにかかってしまって、再生の道が大きく閉ざされてしまう。一回失敗したら、もう立ち上がれない。こういう社会環境というものは、今の時代、ぜひとも解決、打開をしていかなくてはいけない、こういうわけであります。
 私は、レスター・サロー氏のこの言というものを、いたずらにそのまま日本に持って来るわけではないけれども、私は、しかし、これはもって至言であると。そのために、そういう環境づくりに東京都もしっかりと取り組んでいくべきだと思いますし、さきの定例会本会議で、我が党の中山幹事長の代表質問でこれに言及したところ、都からは非常に前向きな答弁が出たところでありまして、意を強くしているのであります。
 そこでまず、過去に失敗の経験を持ちながらも、再挑戦を目指す企業家への支援体制の整備というものが必要になってくると思うのであります。
 その一つとして、例えば、都が来年度設立しようとしております中小企業等投資事業有限責任組合によるファンド、これは、従来の融資とは異なって、こうした企業者の再挑戦という視点からも、非常に位置づけの明確にでき得る施策である、こう思うわけでありますけれども、実際に敗者復活の論理を反映した社会づくりの一環とすべきである、こういうふうに思いますが、どうですか。

○大関労働経済局長 お話の中小企業等投資事業有限責任組合でございますけれども、これは、優秀な技術力を有し、成長が見込まれるベンチャー企業に対しまして資金を供給するとともに、将来の株式公開を目指して、その育成を図るため、設立するものでございます。
 このため、投資先企業の決定に当たりましては、有限責任組合が、主体的に企業の将来性や成長性を重視した判断をすることになるわけでございます。
 都といたしましては、過去の事業の失敗等を理由に門戸を閉ざすのではなくて、貴重な経験を生かし、再チャレンジする意欲ある企業家に対しましてもチャンスを与えるべきだ、このように考えております。

○木内委員 さきに、国会で、民事再生法という法律が成立いたしました。我が国のこれまでの経済風土の中では、一たん企業が倒産いたしますと、元も子も、信用も体力も全部失ってしまって、再起不能になるまで、完膚なきまでにたたきのめされて、そうして表舞台から消え去っていくという通例がずっと続いてきたわけであります。
 しかし、今度の民事再生法というのは、破綻に至る前にこの処理手続が可能な法律として、今、中小零細企業者にとっての実は朗報となっているわけでありますが、これも一つは、敗者復活の論理反映の社会のやはり大きなコアにしていくべきだと思いますが、どうですか。

○大関労働経済局長 お話のように、日本の企業者の多くが、倒れるまで走り続けて、そのまま倒産する、いわば玉砕型の方が大変多いわけでございます。その結果、資産及び信用等を使い果たしまして、経営者は失踪し、家族は離散するという大変不幸な事態を招いているわけでございます。
 今回の民事再生法は、経営不振に陥った企業が、破綻に至る前に再建手続に入れるようにしたことで、会社資産の散逸を最小限に抑えて、再建を図りやすくしようという目的でございます。この法律の施行によりまして、経営不振に陥った中小企業が、早い時期に事業転換や撤退などの選択ができるようになりますので、ひいては再度の創業などに挑戦する環境も整うことになる、こういうふうに考えております。
 東京都といたしましては、この制度の普及を図りたいということで、商工指導所等を通じまして相談、指導に当たっていく考えでございます。

○木内委員 知事、私は、行政や政治というのは、結果責任だと一つは思うんです。実際に具体的に何をやるか、概念なりイメージというものを構築することは楽でありますけれども、個々の政策というものが具体化を帯びて期待にこたえられる、こういうふうに思うわけであります。
 この敗者復活のできる社会づくりに対して、今二つの点について私は具体的に言及したのでありますが、このほかにもさまざまな角度からのアプローチは可能だと思っておりますが、知事の所見として、この敗者復活の可能な社会づくりに対するご決意、認識を承りたいと思います。

○石原知事 先ほど引用されましたアメリカの学者の論文も、恐らくアメリカの社会のいわゆるフェールセーフという、別に言葉でつづられているからじゃありませんけれども、暗黙の一つのしきたりといいましょうか、つまり、失敗した人間で、なお周りから支えられて新しいチャレンジをする、そういう一種の連帯感というんでしょうか、そういう理解をもとにした連帯感、そういったものについて言及されていると思います。
 いかなる分野の仕事であろうと、特に事業はそうでありますけれども、やっぱり物を新しくつくる事業を特に新しく起こしていくというのは、いろんなリスクがございまして、必ずしもすべてが成功するわけではありませんが、その失敗にめげずに立ち上がっていくためは、さらなる強い洞察力と情熱というものが必要でしょうし、また、それを温かく見守って激励する周りの姿勢が必要だと思います。
 トヨタの創業者の豊田佐吉翁は、いわゆる有名な豊田織機、織物の機械を発明開発して、最後はイギリスが非常に高価な値段で買ったという事実もございますけれども、あの人もやはり狂人扱いされているのを、お母さんが非常に温かく酌み取って庇護したと。そこで今日のトヨタがあるわけでありまして、私は、やっぱり東京都も、いろんな可能性を抱えているわけでありますから、中小企業の技術、ベンチャービジネス、それを多角的に援助する。単に金だけではなしに、いろんな手だてを講じて再起というものを促していく、そういう努力を続けたいと思います。
 ただ、先般のそういうメッセージにこたえて、東京以外からのいろいろな引き合いがありまして、売り込みというのでしょうか、水で走る自動車を開発する寸前だから、東京都は力をかせといわれましても、これはちょっと信憑性に欠けるので……。しかし、いずれにしろ、そういう旺盛な企業精神というものを育てていく必要は、行政の責任として心得ております。

○木内委員 水で走る自動車というのは、また奇抜な発想だと思うんですが、私は、ちょっと時間の関係で触れられるかどうか、都立大学のサークルが、琵琶湖で鳥人間コンテストに参加しまして、大変高レベルの技術で一九九三年に優勝した経緯があるんですね。そういう技術も大変先進的に、東京都はその機関として持っていますので、念頭に置いていただければ、こんなふうに思うのであります。
 さて、一九九〇年代のアメリカの経済再生のスタートのころの歴史をひもとくまでもなく、当時、やはりベンチャー企業を育成することで経済再生を図ろうという、アメリカの社会環境における大きな熱意があった。税制、金融、そのほかの面でいろんな施策を講じて、大事に大事に育てた。当時誕生した企業というものが、今、アメリカ経済の一翼を大きく担っているという厳然たる事実があるんですね。
 私は、日本においても、これだけ知的資産を内包した力を持った我が国でありますから、特に東京はその傾向が強いわけでありますので、このベンチャーを育成するための環境づくりというものをさらに精力的に積極的に行うことで、今後の我が国経済を担う企業が出てくるのであるというふうに思っているわけでありまして、かねて、このベンチャー企業育成のためのいわゆるインキュベート機能というものを都としてきちっと整備すべきだという、いろんな提案をしてまいりました。
 そこで、私は、知事の答弁を聞いて意を強くしたことがありましたけれども、かねて衆議院の時代に、知事がみずからこの機能の創設というものを訴えたけれども、時期が早かったせいか、相手に認識がなかったせいか、かなわなかったという率直な心情を吐露しておられました。
 今、知事は、今のお立場で、その方向を指し示せるお立場にあるわけでありまして、この際、担当局の中にインキュベート施設設立に関する研究会なるものを設けて、そこで具体的な施策の検討を行うよう要請しますが、いかがでありましょうか。

○石原知事 本会議の答弁でも申しましたけれども、第二のシリコンバレーということで、ワシントンのダラス空港のすぐ横の、これはバージニア州に入るわけですけれども、そこで、バージニア州の知事の決断で、ただでとにかく施設を渡して、それで、成功した企業からは一〇%上がりを取るという約束で、大変大きな収入になっているそうでありますが、これは非常に暗示的だと思います。
 何しろ、日本の技術の潜在能力というのは、「フィナンシャル・タイムズ」にいわせれば世界一でありまして、それを育てる、まさにインキュベートする、ふ化させる条件が整っていなかっただけで、先般、労経局の大関局長にも、どこか場所はないかといったら、結構あるんですね、あいているところが。それをただで渡しちゃえと。それで、そこの光熱費だけは持ってやるけれども、あとは、要するにどんな家財道具を運んで来ようが、どんな飲み食いをしようが知ったことじゃないので、かなり乱暴な使い方をバージニアでもしているようでありますけれども、そういうものを開放して、少し様子を見ようじゃないかと。
 中から、千に三つも、まさに千三つで企業が誕生してくれれば、それにこしたことはないので、しかし、水で走る自動車は、ちょっと成功はおぼつかないでしょうけれども、その他この他、いろんな可能性があると思いますから、それに、とにかく場所だけの提供ぐらいはただでしようということで、今、物色しております。

○木内委員 知事、恐縮でございますが、今のスペースの対応は非常に朗報となっておりますので、早期の実現、具体的な検討を急がせていただくように要請したいと思うんです。
 今申し上げたインキュベートパークの研究会についても、ぜひ担当局の中に設けていただくような指導をされたいと思いますが、その点だけ、ちょっとご答弁ください。――いや、知事結構です。局長の方で結構です。

○大関労働経済局長 早速でございますが、労経局の中に検討会を設けまして、精力的に詰めていきたいと思っております。

○木内委員 大変いいフレームができるようでございますので、応援団の声援もありますので、知事からも一言、研究会について……。
 申しわけないですね、座ったり立ったり。腰がお悪いのに。

○石原知事 これは、そういう方々の持っているいろんな可能性というのは、すなわち東京の可能性であり、日本という国家の可能性でありまして、それに距離的に近いところには東京が力をかす。スペースぐらい、ただで貸す。しかも、その後の、いろいろ援助というものの政策についても考えるということは当然のことでありますが、ただ、この間、私もシリコンビットバレーなるものの会合に行きましたら、集まっているのは、八割が金融業者で、要するに金貸しにウの目タカの目で集まっている。私は、にわかにお金をすぐ出すというものは、決していい援助にならないと思います。とにかくもうフリーに考えさせて、努力させて、そして、あるところまで来たものを、こちらも精査して、プラスアルファの援助をする。
 そういう精査の能力が果たして東京都にあるかどうかは、これ、まだ未知のことでありまして、銀行だって、技術の可能性について審査して、思い切って金を貸す貸さないという、そういう身動きはちょっとまだとれずにおりますから、東京が率先してそういうものの技術の可能性というものの精査をする、そういう能力を何らかの形で備えていくことが肝要だと思っております。

○木内委員 どうも知事とやりとりしてますと、当初の予定以外の発言がともに多くなってくるようでありまして、時間がもう一分になっちゃって、私もいささか驚いているわけでありますよ。ただ、議論というのは、こういう形も私は望ましいと思うんですよね。(「もっと時間やりますよ」と呼ぶ者あり)恐縮でございます。
 それで、局長、今の、これは確認です。いろいろな見解をお述べになりました。私は全く同感です。同時に、局内に今後設けられる研究会においては、ぜひインキュベート機能施設設立について、具体的な検討を進めていただきたいと思いますし――一挙にお答えいただければいいんですけれども。
 一体型の機能総合整備を行うなり、あるいはまた、こういう財政状況でありますので、そうした機能の財政負担も大きいわけでありますから、例えば民間活力を導入して、そうしたいわゆる民間のパワーというものを導入にすることによって、東京都がこれまで持っているさまざまなノウハウ、機能というものをここに付加をしていくという形も一つの選択肢ではないか、こう思うのでありまして、その辺も含めた検討をすべきだということを私は訴えますので、それについてご答弁をいただきたいと思うんです。
 今、私は、ゼロになる前から発言をしておりますので、まだできると、こういうことでありますので、ご理解をいただきたいのであります。もうちょっと待ってください、これに関連でありますから。
 それで、一つは、きょう、私おわびしたいのは、臨海開発に関する質問を用意してまいりました。それからまた、地元の問題として、これまで私がかねて本会議等で訴えてきた、江東区東部地域におけるLRTの早期着工への訴えを持ってまいりましたが、これは、ご用意いただいた理事者側には大変恐縮でございますが、割愛をさせていただきます。
 今のご答弁をいただいて、私の質問といたします。

○大関労働経済局長 ご案内のとおり、インキュベート機能、これは、一つの建物の中にいろいろな機能を持ってやる方法と、一つの地域の中に多面的にやる方法と、二つあろうかと思っています。地方といいますか、産業がまだ余り発達していない地域におきましては、どちらかといいますと、一体型のものが非常に効果的であるというふうに思っております。
 ただ、東京におきましては、ご案内のとおり、いろいろな場所に産業が発達しておりまして、この中に、いろいろな展示場であるとかホテルであるとか、いろいろな研究所であるとかというのが既に出ております。これをいろいろネットワーク化してやっていくというのも一つの方法なんです。
 東京の場合は、地域によりましては、そういう多面的にやる方法も有効であろうし、場所によりましては、建物の中にすべてをおさめるというやり方も有効かもわかりません。これは今後検討していく必要があろうかと思っております。
 また、民間からも、いろいろそういう提案があろうかと思います、これから先も。そういう中で、私どもの、いろいろなインキュベート機能の中に組み込めるメリットといいますか、このことが都民の利益にもつながるというような提案があるのであれば、これは一つの選択肢として考えてよろしいのじゃないだろうか、このように思っております。

○石井副委員長 木内良明委員の発言は終わりました。

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