東京都議会三宅島緊急調査団報告書(平成13年9月19日)

調査団派遣の目的
三宅島島民の一時帰宅に先立ち、緊急に現地調査を行うことにより、島の安全性とともに、被災状況などを把握し、今後の復旧・復興対策の対応強化に資するため、緊急調査を実施する。

調査概要

調査日時
平成13年9月7日(金曜日)午前10時から午後4時
団員構成
団長都議会議長三田 敏哉(自民党)
副団長都議会副議長橋本 辰二郎(公明党)
団員都議会議員松本 文明(自民党)
団員都議会議員比留間 敏夫(自民党)
団員都議会議員川島 忠一(自民党)
団員都議会議員和田 宗春(民主党)
団員都議会議員坂口 こうじ(民主党)
団員都議会議員石井 義修(公明党)
団員都議会議員古館 和憲(日本共産党)
団員都議会議員藤田 愛子(ネット)
調査行程
東京ヘリポート→三宅島空港→三宅村役場→三宅島空港→東京ヘリポート

主な調査箇所
三七沢(砂防ダム建設現場)、神着地区(泥流被害家屋)空栗橋、立根橋、芦穴橋、レストハウス付近(山腹部)、坪田漁港

調査概要
当調査団は、住民が一時帰宅を開始するのに先立ち、緊急に現地調査を行った。
概況説明
説明を聞く調査団一行(砂防ダム建設現場にて)

 昨年来の火山活動とこれまでの災害対応の経緯に関する説明に続き、現在の三宅島が抱える問題として、大きく分けて火山ガスと泥流への対応について説明があった。

 火山活動自体は落ち着いているものの、火山ガスは1日1万トンから2万トンの放出が見られ、二酸化硫黄については三宅島空港を観測地点にとれば一時間値で、15ppmを観測する日もある。ちなみに環境基準は一時間値で0.1ppm、労働安全衛生基準で2ppmであること、また特に悪天の日や夜間では山のふもと一帯での濃度が高くなる傾向にあり、十分な注意が必要である。このため一時帰宅に備え火山ガス濃度の観測体制を強化したところである。

 泥流については、この度の火山噴火活動で11,000立方メートルもの降灰があり、今後は降雨のたびにこれが泥流となってふもとに流出する危険がある。このため泥流発生の危険性の高い27カ所の沢について、10メートル程の高さを持つ、砂防ダムの建設工事に着手したところである。

 次に復旧状況の説明があった。まず、島内を周回する都道212号線については泥流により崩落し半年以上、不通の原因となっていた立根橋を始め、芦穴、仏沢に仮橋を架けたことで、周回道路を開通させることができた。現在、三七沢、空栗橋などで仮橋架設の施工中である。

 その他ライフラインの状況は、全島内で通電したほか、水道は仮配管を含めて復旧し、電話、携帯電話も復旧している。

 またいくつかの公共施設などには、二酸化硫黄の室内への侵入を防ぐ脱硫装置を設けたクリーンハウスを整備し、ここに工事関係者などが夜間滞在することで復旧工事の迅速化が図られるようになった。この設備は三宅村役場のほか、三宅支庁舎、勤労福祉会館、警察署、発電所、阿古ふるさと館などに整備されているところである。

質疑

 火山ガスの今後の発生動向、復帰の見通し、都としての復興へのアウトラインの有無などが質された。これに対し、火山ガスには今後も注意が必要であり、放出量の推移に関する見通しは明らかではない。島の復興に当たっては、現在、村に復興準備室を設け、復興計画を作成中であるが、なかでも生業をどうしていくかについて、今回実施される一時帰宅を契機に、自発的な議論がなされることに期待したいとの見解が都から示された。

 三宅島は、過去の歴史のなかで約20年に1度、噴火災害を繰り返してきたが、全島民が島外に避難したのは、今回が始めてであり、従来の災害に比べ今回の災害は深刻である。

 産業に関しては漁業では、漁船の一部が下田や式根島に停泊地を移し、そこから三宅近海に出かけて操業を続けていること、農業では畑は火山灰の除去など土壌改良に多くの年月を要すること、観光産業の被害などについて質疑が交わされた。

 公共施設については、空港は大規模改修は不要であること、空港を含めて3カ所のヘリポートを確保したこと、学校施設など泥流で大きな被害を受けた公共施設はないことなどが、明らかにされた。

 ただし、港湾や漁港については、三池港が約10センチメートルから20センチメートル、坪田漁港が約80センチメートル、それぞれ沈下したため、補修が必要であるほか、伊ヶ谷漁港は泥流で堆積した土砂のしゅんせつが必要である。

 なお、家屋被害の状況としては、島内約2000戸のうち、39戸が泥流などの被害を受けており、これについては、現地での再建の可否、砂防ダム建設事業に当たっての用地買収との関係など、個別の検討を要するとの説明があった。

島内視察

 概況説明及び質疑の後、三宅村役場を出発点とし島の東部地域から反時計回りに島を一周する形で現地調査を開始した。

 火山ガスについては、伊ヶ谷地区とレストハウス付近、村営牧場があった山腹部一帯に近づくにつれ、臭気が立ち込めた感じを受け、山頂からは噴煙が上がると同時に火山ガスの発生部分が変色しているのが見えた。山腹部に至る途中、一帯の空気は薄紫色に変色しているように見られた。また下草がわずかに生えているほかは、山腹部の樹木の大半は立ち枯れ、平地での樹木もその一部が枯れているのが大半を占めていた。道路わきのブロック塀や歩道などは火山ガスにより赤茶色に変色していた。火山ガスの山麓への流出状況は、天候や地形に左右されるため、各地区の観測濃度も日によって様々である。

 また、これまでの降雨の際に発生した、大規模な泥流跡が随所に見られた。これは従来の「沢」に限らず、火山灰とスコーリアなどが一緒になった土砂が至る所にその流路をつくり、木々をなぎ倒し大きな岩石を巻き込んで山の斜面を大きくえぐりながら流出した結果である。神着地区の椎取神社は、社殿の屋根と鳥居の上部のみが姿を現していた以外は大半が土砂に埋まっていた。泥流被害にあった家屋も屋根と柱の上部が見えた以外は、そのほとんどが土砂に埋まっていた。家の裏山側から道に面する表玄関側に泥流が突き抜けたらしく、外に飛び出したテレビは泥流の勢いの強さを示していた。

 こうした泥流を防止する復旧対策として、三七沢など27カ所で砂防ダムが建設され始めている。三七沢の砂防ダムは約2億円の工費で本年11月末に完成予定である。

 島内周回道路である都道212号線は16か所が泥流により崩落し、遮断したため、車中から視察した空栗橋、立根橋、芦穴をはじめ仮橋が架設されているところである。今後も至る所で泥流が発生する可能性があるが、その場合でも仮橋の下を泥流が流れるようになっている。

 都道の路面の下を泥流が流れたため、路盤が削り取られ路面が波打っている箇所が3カ所あった。降雨のたびに流れ出した土砂を除去した結果、都道全体が通行可能となっていた。その道路の両脇には、流れ出す土砂が民家へ流入することを防ぐため、除去した火山灰をつめた土のうが積まれていた。

 火山灰は花き栽培のレザーファンなど島の特産品に打撃を与えたが、火山灰に強いアシタバは生息していた。また農業用水ダムが泥流の際、砂防ダムとして機能した結果、土砂で埋まり使用できない状況となったが、現在土砂は排出している。

 坪田漁港は約80センチメートル沈下したため、仮設桟橋を船着き場に設置して使用している。

復興に向けて
泥流に埋もれる車

 島全体に膨大な火山灰が堆積しており、これが今後、降雨のたびに泥流となって至る所に流れ出すと考えられる。また火山ガスの放出がいつまで続くか現段階では予測が困難である。この間は、全島での復帰の見通しはつきがたく、一刻も早い復帰が望まれるのは当然であるが、三宅島をめぐる状況には厳しいものがある。また、復興に際しては時間と多大な費用を要するため、三宅島火山活動災害に対する特別措置として、総合的な観点から様々な実効性ある対策を検討する必要がある。

 三宅村民が直面する、当面の最大の課題は、島外避難生活の長期化による経済的な逼迫と生活基盤の確立である。本年3月に村が行った、村民の生活実態調査では、収入がまったく無くなった世帯数が全世帯数の22%、自営業者に限定すると全世帯の50%となっている。こうした人々の生活基盤確立に資するため、被災者生活再建支援法での支援金の支給基準の引き上げや、家賃相当額の財政支援、借入金返済の繰り延べなど特例措置を実施すべきである。

 三宅島における被害拡大防止や応急復旧対策としては、火山ガス観測体制を充実・強化するとともに、砂防ダム建設事業への国費かさ上げなど、公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法の対象施設の拡大、三宅島に対する特別交付金による適切かつ十分な財政支援などにより災害復旧に万全を期す必要がある。

 さらに村民が帰島できる時期が来たときは、復興支援策として、住宅補修費への財政支援など住宅再建支援制度の確立や、災害援護資金貸付金の融資条件の緩和などを検討すべきである。

 具体的な復興に当たってはその計画を現在、村が作成中であるが、今後の生業の在り方に関する検討が欠かせない。このため、観光産業の再生支援、海への投石による漁場再生、漁港の整備、畑の土壌改良への助成などを検討する必要がある。

おわりに

 この度の三宅島火山活動災害では、全村民が島外に避難するという、かつてない事態となった。昨年の災害発生から一年を経過し、今なお終息の兆しが見えない状況にある。村民は、平成12年9月2日の全島民避難から、島外の慣れない土地での長期間に及ぶ避難生活を余儀なくされている。そして生計の困難、コミュニティの分散など厳しい事態に直面している。当調査団一同は村民の皆様方に心よりお見舞い申し上げる次第である。また三宅村をはじめとした、多くの防災関係者の連日にわたる不眠不休のご尽力に対し、心から敬意を表するものである。今後の復興への道のりは、容易なものでないと推察されるが、関係者におかれては健康に十分留意され、更なるご努力をお願いするものである。

 東京都議会としても、避難生活をおくる村民の方々にできる限りの支援策を講じることを重ねて要望するとともに、来るべき三宅村の力強い復興に向けて、取りうる限りの様々な方策に、都議会を挙げて取り組むことを決意し、都議会緊急調査団の報告とする。

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