アイスランド共和国(レイキャビク)

調査目的

 東京都において、地球温暖化の防止に向けての取組は、今後の重要な課題である。そこで燃料電池の導入に積極的な取組を行っているアイスランドのレイキャビク市を訪問し、持続可能な都市づくりのための新エネルギー政策について調査した。
 レイキャビク市では、燃料電池導入プロジェクトにおいて中心的な役割を果たしているINE(Icelandic New Energy)社を訪問し、意見交換を行った後、市内にある水素ステーションなどを視察した。その後、ヘリシェイディ地熱発電所を訪問し、アイスランドの地熱発電の状況について視察を行った。

レイキャビク市の概要

 レイキャビク市は、アイスランドの首都である。首都圏の人口は20万人弱で、国内総人口の約6割がこの地域に集中している。主要な産業は、近海での漁業であるが、近年では、水力発電、地熱発電によって安価に得られる電力を利用したアルミニウムの精錬も盛んである。市内の暖房、給湯は、ほぼすべて地熱によって賄われるなど、自然エネルギーの利用が積極的に行われている。

INE社について

 INE社(Icelandic New Energy、アイスランド新エネルギー会社)は、その名の通りアイスランドの新エネルギープロジェクトのために設立された会社である。設立は1999年であり、まだ比較的新しい。しかし、INE社設立に至るまでには、アイスランドにおける新エネルギー導入に向けた長い議論と実践の積み重ねがあった。
 アイスランドにおける自然エネルギー利用の歴史は古く、20世紀初頭には水力発電所が建設され、1930年ごろには地熱を利用した地域暖房システムが構築されるなど、およそ100年前から自然エネルギーの利用が行われていた。その後、1970年代のオイルショックを契機に、日本と同様、北方の島国であるがゆえに石油資源を輸入に頼るアイスランドにおいて、脱石油の議論が活発になった。アイスランド大学のアルナソン教授(Bragi Arnason)は、アイスランド国内に豊富にある水力と地熱によって水素を作り出し、これを石油に替わる自動車と船舶のエネルギー源とするよう提唱した。
 こうした積み重ねがあり、1999年にINE社は設立された。INE社の株式のうち、51%をアイスランド国内の各セクターが共同で出資しているVistOrka社が所有、残り49%をシェル・ハイドロジェン社ノルスクハイドロ社ダイムラー・クライスラー社が3分の1ずつを所有している。VistOrka社の出資者は、電力会社、アイスランド大学を始めとする研究機関、ファンド、アイスランド政府などであるが、特筆すべきは、政府の出資割合は高々1%ということである。これは、INE社が政府の関与を望まなかったからである。
モーク博士と意見交換風景  INE社の役割は、プロジェクト管理と研究成果のレポートのみであり、宣伝活動などは行わない。また、プロジェクトの実施は、例えば水素バス導入のプロジェクトであればバス会社が担当するなど、外部企業の協力によって行われている。そのため、INE社自体は極めて少人数運営である。我々が訪問した当時も、2名のプロジェクト・マネージャーと50から100名の学生によって、活動を行っていた。
 INE社では、環境マネージャーであるマリア・モーク博士(Maria Hildur Maack, Environmental Manager)からアイスランドの水素利用状況、INE社のプロジェクトなどについて説明を受け、意見交換を行った。

シェル・ハイドロジェン社
ロイヤルダッチシェル・グループの水素及び燃料電池ビジネスを扱う企業。
ノルスクハイドロ社
ノルウェーに本拠を置くエネルギー企業。
ダイムラー・クライスラー社
自動車企業。

燃料電池導入の背景となる地理的特性とエネルギー安全保障戦略

 アイスランドにおいて燃料電池の導入が積極的に検討されている背景には、同国の地理的特性及びその地理的特性から導き出されるエネルギー戦略がある。
 まず、同国の地理的特性であるが、第一に、アイスランドは大西洋中央海嶺の真上、プレートの裂け目に位置する火山国であり、地熱の利用が盛んである。豊富な水資源による水力発電と合わせて、自然エネルギーによって、国内のエネルギー需要の多くが賄われている。現在では、国内消費エネルギーのうち、約7割を水力発電と地熱利用によって賄っている。ちなみに残りの約3割が石油などの輸入化石燃料によって賄われ、そのほとんどは自動車及び船舶の燃料として使われている。
 第二に、アイスランドは気候が寒冷であり、さらに、火山性の土壌・岩石に国土が覆われているため、植物生産量が極めて小さい。よって、バイオエタノールなどの原料となる植物を国内で十分に得ることはできず、バイオエタノールを利用しようとすれば、石油と同じく輸入に頼るしかない。
 第三に、高緯度地域であるために日照が弱く、太陽光発電、あるいは太陽熱利用が困難である。
 第四に、風力エネルギーは存在しているが、風が強すぎ、また、風向が定まっていないため、風力発電用の風車が耐えられず、現在の技術では風力発電には必ずしも適していない。ただし、アイスランドの気候にあった風力発電技術が開発されれば、エネルギー源となる可能性はある。
 以上のような地理的な特性から、アイスランド独自のエネルギー戦略が考えられている。まず、水力及び地熱が豊富なことから、これを最大限利用することが基本となる。一方、再生可能エネルギーのうち、バイオエタノール、太陽光、風力については、エネルギーの国内調達が困難なため、利用は考えていない。そして、現在輸入に頼っている石油などの化石燃料を、国内調達可能なエネルギー、すなわち水力と地熱によって代替することで、エネルギー自給率100%を目指す、というものである。ここでの問題は、アイスランドにおける石油などの化石燃料の使用は、そのほぼすべてが自動車及び船舶という移動体の燃料として使われていることである。よって、水力や地熱によってガソリンなどを代替しようとすれば、持ち運び可能な形にエネルギーを変換しなくてはならない。
 そのために考えられたのが、水素の利用である。アイスランドでは水力発電と地熱発電によって、電力を非常に安いコストで利用することができるため、水を電気分解することにより水素を比較的低コストで得られる。つまり、自動車及び船舶の動力源として燃料電池が実用化されれば、エネルギー自給率100%の達成が現実的な目標となる。アイスランドにおける燃料電池の利用は、環境対策というよりも、むしろエネルギー安全保障の側面から考えられている。

地熱利用
地熱発電と熱利用の両方を含む。
アイスランドにおける石油などの化石燃料の使用は、ほぼ自動車及び船舶という移動体の燃料として使われている
火力発電は行われていない。

アイスランドで水素利用実験が行われている理由

 アイスランドにおいて水素利用に向けての取組が行われているのには、地理的な特性を含め、いくつかの理由がある。
 第一に、豊富な水力と地熱によって支えられる国内の再生可能エネルギーシステムとうまく適合することが挙げられる。水素の原料となる水が豊富に存在し、水を電気分解するための電力も安価に利用可能である。また、水力と地熱を基とするエネルギーシステムは、水素の製造、使用過程のすべてにおいてCO2の排出量を増やさないエネルギーシステムである。
 第二に、国民の高い意識と協力が挙げられる。例えば2004年3月の調査によれば、水素バス走行試験に関して、「否定的」と答えた人は1.0%しかおらず、「とてもよい」と「よい」と答えた人が92.0%に達した。また、バス、自動車、船舶の主な燃料として石油の替わりに水素を利用することに関しては、「反対」と「やや反対」が2.5%であったのに対し、「賛成」と「大いに賛成」の合計は86.0%であった。さらに、水素の価格はおそらく石油より高くなると仮定した上で、どの程度なら受け入れられるかという問いについては、「同程度」が34.5%ともっとも多かった。「20%安ければよい」と「10%安ければよい」の合計が28.4%であったのに対して、「20%高くてもよい」と「10%高くてもよい」の合計は37.0%と、値段が高くても構わないと考える人が、安ければよいと考える人を8.6ポイント上回った。そして、水素のイメージについては、「クリーンな燃料」が47.7%、「水」が39.1%を占め、「飛行船の炎上」は2.0%にとどまるなど、中立もしくはよいイメージが大半であった。
 第三に、小国であるがゆえに、あらゆる取組が大きなインパクトを持つことが挙げられる。例えばECTOS(Ecological City Transport System:水素バス導入プロジェクト)では3台の水素バスがレイキャビク市内に導入されたが、これは全車両数の約4%に相当する台数であった。
 第四に、政府が自国内で使用される燃料を再生可能エネルギーによる代替を目指していることが挙げられる。
 第五に、アイスランドの厳しい気候条件が挙げられる。例えば冬の寒さに実際の使用が耐え得るかということは、特にEU諸国にとっては重要な関心事であるが、もともと寒冷なアイスランドでの試験がうまく行けば、他の場所でも大丈夫であろうと考えられるため、実験場所として適しているということである。
 第六に、アイスランドが外国からの投資の受入れに積極的だということが挙げられる。実際、INE社にしてもほぼ半分が外国籍企業からの出資である。また、燃料電池本体やバス・自動車の車体などもアイスランド産ではなく、外国メーカーのものである。こうした資本や先進技術を積極的に受け入れ、システム構築や他の様々なノウハウを蓄積することで、その知的財産を自国の強みにしていきたいという、小国ならではの戦略がうかがえる。

2004年3月の調査
Project manager of ECTOS: Jon Bjorn Skulasonc Icelandic New Energy, Deliverable 12, ECTOS, Assessment of Socio-Economic factors with emphasis on: Public Acceptance of Hydrogen as a fuel, Reykjavik 2004
飛行船の炎上
1937年、ドイツのフランクフルトから米国のレイクハーストに向かっていた飛行船ヒンデンブルク号が、着陸直前に炎上事故を起こし、飛行船の利用が衰退するきっかけとなった。当初、浮揚用の水素ガスに引火し爆発炎上したとされたため、水素は危険とのイメージが今なお一部残っている。もっとも、詳細な事故調査の結果、現在では船体外皮の塗料が静電気によって発火、炎上したとの説が有力となり、水素爆発説はほぼ否定されている。

バス・一般乗用車・船舶でのプロジェクト

 アイスランドでは、主に3種類のプロジェクトが進行している。その第一がバスに関するものであり、第二が乗用車、第三が船舶に関するものである。
 まず最初にスタートしたのが、燃料電池バス導入のプロジェクトである。2001年に、ECTOSプロジェクトと命名された燃料電池バスの実証実験がレイキャビク市で始められた。約700万ユーロの資金が必要と見込まれたこのプロジェクトに対して、EUからも約3分の1にあたる285万ユーロの財政支援が行われた。また、このレイキャビクでの取組がスタートして後、欧州委員会はヨーロッパの9都市で、計27台の燃料電池バスを走行させるCUTE(Clean Urban Transport for Europe)プロジェクトを開始している。これにより、ECTOSプロジェクトはCUTEプロジェクトと一部オーバーラップする形で進められた。さらに、その後ヨーロッパ以外でも、オーストラリアのパース、中国の北京においても同様の実証プロジェクトが開始されている。なお、ECTOSプロジェクトは2005年8月に終了したが、“HyFLEET:CUTE”という新しいプロジェクトに引き継がれ、水素バスは2007年1月まで運行されることとなった。
 これまで運行されてきた水素バスは、350気圧で30キログラムの水素を積み、250キロワットの燃料電池を動力として、150から200キロメートルの距離を走行するものであった。この間、直流と交流を切り替えるトランスは何度も交換したが、燃料電池本体の故障は一度もなかった。そして運行期間中、230トンのCO2を削減したと計算されている。次世代のバスは動力となる燃料電池もより効率的なものを採用し、補給する水素も400気圧を予定している。現在、これまでの実験結果なども取り入れながら、ダイムラー・クライスラー社で新型バスの開発が行われている。なお、燃料電池バスのECTOSプロジェクトと平行して、アイスランド技術研究所(IceTec: Technological Institute of Iceland)は、燃料電池バスと同型ディーゼルバスを比較した排気やライフサイクル全体の比較研究を行っている。
 ECTOSプロジェクトの開始から2年がたった2003年4月、レイキャビク郊外に燃料電池車に水素を供給するための水素ステーションが開設された。水素を製造・貯蔵するための設備があるほかは、隣にあるガソリンスタンドと同じような造りである。この水素ステーションは、最大700気圧の水素を1時間に60立法メートル生産する能力を持っている。周囲には、水素の製造方法や、燃料電池の仕組みなどの説明が、写真とともにアイスランド語と英語で記載されたパネルがぐるりと張り巡らされており、近隣住民や訪問者への情報開示、啓発に一役買っている。

水素ステーション 水素ステーションの内部 外周の説明パネル(全体) 外周の説明パネル(説明部分の拡大図)
ヨーロッパの9都市
アムステルダム、バルセロナ、ハンブルク、ロンドン、ルクセンブルク、マドリッド、ポルト、ストックホルム及びシュツットガルトの9都市。

 水素ステーションは、現在1か所しかないが、将来的に燃料電池バス、更には、一般の燃料電池自動車を普及させるため、水素ステーション網の整備が重要な課題である。まず、必要な水素ステーション数を推計するため、ガソリンスタンド会社に対し、今後のスタンド設置計画を調査したところ、今後の50年間は新規のスタンドを増設する計画はほぼないとの結果であった。このことから、新たに多数の水素ステーションを整備するのではなく、既存のガソリンスタンドを水素ステーションに順次転換する考えであるとのことだった。ただし、水素ステーションの配置については、電気分解によって水素を作ることを考えると、送電網に沿って配置しなおすことも考えられる。その際、既存の送電網に余力がなければ、新たな送電線や中継基地を建設しなくてはならないが、現在送電網にはまだ余力があるとのことであった。
 バスに続いて取組が進められているのが、一般乗用車の燃料電池化であり、SMART-H2と呼ばれるプロジェクトが進行中である。30台の燃料電池自動車を日米欧の各社から提供を受け、運用するプロジェクトが行われていた。INE社は提供を受けた車両を、一般の会社にリースし、その代わりに様々なデータを収集することになっている。大手の会社に一括でリースされるのが大部分を占めるが、レンタカー会社のハーツ(Hertz)にも2台がリースされ、一般の人がレンタカーとして燃料電池車に乗車することも可能となっている。
 バス、自動車に続いて考えられているのは、船舶、特に漁船の燃料電池化であり、一般自動車と同じSMART-H2プロジェクトの中で取組が進められている。漁業はアイスランドの主要な産業であり、2007年にはアイスランドの輸出額の33.0%を水産物が占めている。当然、漁船の燃料電池化は、自動車と並んで重要な課題なのである。
 現在、エルディグ社のホエール・ウォッチング船に燃料電池を搭載し、試験が行われている。海上での燃料電池システムの利用に際しては、潮風による影響や波の揺れ、高い湿度や水濡れの対策など陸上での使用に比べて技術的課題も多いが、実証実験を通じて様々なデータが集められている。
 このホエール・ウォッチング船は、排水量125トン、150人乗りのクルーザーであり、もともとは救助船として建造された。現在、メインエンジンの燃料は、まだ石油であるが、船舶ナビゲーションシステムや照明、計器類などの電気系統に燃料電池が使用されている。もともと50キロワットの発電機が2機搭載されていたが、そこに10キロワットの発電能力を持つ燃料電池システムが追加された。通常時の使用電力は5-10キロワットであり、必要な電力を十分賄える大きさである。ピーク時には35キロワットの電力が必要になるが、燃料電池と通常の発電機のハイブリッドシステムにより、ピーク時でも通常の発電量を30キロワット程度に抑えている。
 将来的には、動力源まで含めたすべての燃料電池化と、漁船での使用が最終目的であるが、ホエール・ウォッチング船としても、燃料電池の利用により、エネルギー面以外の利点もある。すなわち、燃料電池は非常に静かなので、鯨などの海洋生物のより近くまで近づくことができ、動物の息使いや様々な音を楽しめるのである。

アイスランドの輸出額の33.0%を水産物が占めている
Statistics Iceland, Exports by branches of processing January 2007-2008より。ただし、缶詰は水産物の統計に加えられていない。

政府の関与

 日本では、これまでアイスランドは「水素社会」先進国として紹介されてきた。実際に、アイスランド政府は1998年に、最初に水素について言及している。その内容は、「例えば水素のようなアイスランド産のエネルギー資源を利用」することで、アイスランドを水素技術の開発試験場として開放し、「最初の水素社会に備える」といったものである。しかし、「水素社会」へ向けての公式なロードマップは政府からは示されていない。このことは、モーク博士も強調しておられた。
 そして、VistOrka社、ひいてはINE社への政府の出資もわずか1%にとどまるなど、水素社会の実現は、主に研究機関及び民間企業主導で行われている。しかし、このことは政府の無関心、あるいは政府と研究機関、民間企業の風通しの悪さを示すものではない。アイスランドは人口約30万人という人口規模であるため、大臣を始めとする政府の責任者と面会することは比較的容易であり、日常的な意思疎通が可能である。また、現在は実証実験の段階であり、重要なことは正確なテストを行い、その結果を科学的に示すことであるため、政府の関与は現段階では必要ないと考えられているのである。

アイスランドは「水素社会」先進国として紹介されてきた
金田武司、『「水素社会」先進国アイスランドの取り組み』、電気協会報2005年1月号(第962号)、社団法人日本電気協会、など

今後の課題

 これまで行われてきたバス、乗用車、船舶の取組の中で、様々な技術的な課題に加え、いくつかの重要な課題が浮かび上がっている。
 技術的な課題としては、水素の製造段階から実際に乗り物を動かすまでのエネルギー効率の向上や、燃料電池の利用、あるいは多様な電源の併用に耐え得るトランスなどの電気系統の開発が挙げられる。
 燃料電池自体に関しては、本体価格の低下、長寿命化などが求められている。また、社会的には水素社会に適した送電網の実証実験と構築、そして場合によっては水素関連部分における送電設備の強化などが必要である。
 ここで一番重要なのは、環境のプライシングと、費用便益分析を行う際の外部費用の内部化である。石油の場合には、その利用によって引き起こされる地球温暖化やそれに伴う気候変動、あるいは排気ガスによる大気汚染などの対策にかかるコストが現在価格などに織り込まれていない。一方、水素、燃料電池の利用では、温暖化の原因となっているCO2をほとんど出さない、排気による大気汚染を生じないなどの利点があるものの、石油とのコスト比較の際にはこれらの特徴が十分評価されないことになる。もし温暖化対策費用、あるいは大気汚染対策費用などが費用便益分析の際に織り込まれれば、水素、燃料電池の利用が価格面でも競争力を持つ可能性は十分ある。

大気汚染対策費用など
環境対策以外にも、石油を確保するために中東で費やされる各国の軍事費を石油価格に加えて考えれば、石油の「本当の」価格は現在よりはるかに高くなるとの議論もある。

ヘリシェイディ地熱発電所

溶岩台地から噴出する水蒸気 ヘリシェイディ発電所建設現場  INE社訪問に続き、オルクベイタ・レイキャビク(Orkuveita Reykjavikur)社のヘリシェイディ(Hellisheidi)発電所を視察した。ヘリシェイディ発電所は、2006年に発電が始められた最新の発電所であり、現在も一部建設中である。
 2001年、まず2つの試錐孔が掘られ、2002年、さらに3つの試錐孔が掘られたことにより収集された情報に基づき、建設が始まった。2006年には2機の40-45メガワットタービンによって発電が開始され、2007年には1台の30メガワット低圧タービンの供用を開始した。現在使用されているタービンは、日本のメーカー製のものである。2008年にはさらに2機の40-45メガワットタービンが発電を開始する予定であり、2009年には熱水プラントの操業も開始される。レイキャビクでは、1970年頃から、市内の暖房の熱供給が石油から地熱に切り替えられ、現在ではほぼすべて地熱利用に切り替えられている。

まとめ

 INE社は、他国の資本や技術を導入し、アイスランドにおける水素利用、燃料電池の実用化に向けた取組を行っている。アイスランドの水素、燃料電池利用政策の背景には、同国の長年にわたる自然エネルギー利用への取組と、エネルギー自給率の向上に向けての挑戦があった。また、豊富な水力と地熱を利用した、アイスランド独自のユニークなエネルギー・システムの構築を目指している点が特徴的である。その構想の中で、エネルギー自給率100%を実現するため、燃料電池を利用してバス、一般乗用車、船舶で使用される石油をすべて水素に置き換える実証プロジェクトに取り組んでいる。実証段階での政府の関与は考えられておらず、むしろ正確な研究とレポートが求められている。今後は、様々な技術的課題をクリアするとともに、燃料電池の環境保全にかかるコストを適正に評価することが必要と考えられている。
 アイスランドと東京、あるいは日本は、地理的な条件が異なり、また、人口や経済規模もまったく異なっている。しかし、計画策定や議論に時間を費やすよりも、とにかく実際に実行してみようという姿勢は、新たな社会像を模索する際に重要なことである。日本のエネルギー自給率は、先進国の中でも極端に低く、東京もその消費電力の多くを他県の発電所に頼っているのが現状である。地域限定でも、総合的なエネルギー供給システムを構築し、エネルギー自給率を高めていく取組は、今後の環境対策においても重要な課題であり続けよう。そして、環境によい技術がスムーズに導入されるように、温暖化対策や大気汚染対策などにかかるコストを適正に評価し、経済システムに組み込んでいくことが必要である。

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