グリーンランド(カンゲルルススアーク)

調査目的

 我々調査団は、地球の温暖化が環境に与える影響などを調査する目的で、第一番目の視察先であるグリーンランドのカンゲルルススアークを訪問した。グリーンランドには地表に存在する氷の9.2%が蓄えられており、温暖化によってこの氷が溶け出せば、海面上昇、気候変動など地球全体に大きな影響がある。東京都でも独自の温暖化防止施策に取り組んでいるが、温暖化によって直接影響が生じる最前線の現場の実情を踏まえる必要がある。

地表に存在する氷の9.2%
他は、南極に90.2%、その他の山岳氷河などに0.6%。

カンゲルルススアーク市の概要

カンゲルルススアーク空港の気温  カンゲルルススアーク市は、グリーンランドで唯一大型ジェット機が離発着できる空港を持つ同島交通の拠点である。人口は約500人で、その大部分が空港施設関係の職に従事している。その他は漁業で生計を立てているが、最近では鉱石採掘業に移行しつつある。
 グリーンランドは、北アメリカ大陸カナダの北東に位置し、北極海と北大西洋の間に浮かぶ世界最大の島である。面積は約218万平方キロメートルと、日本の約6倍である。現在はデンマーク領だが、自治政府が置かれており、その首都はヌーク市である。島の面積の85%は氷河で覆われており、この氷河がすべて溶けた場合、現在より海面が7メートル程上昇すると言われている。

海面が7m程上昇
IPCC Third Assessment Report: Climate Change 2001 , The Scientific Basis, Table 11.3

グリーンランドの内陸氷河

内陸氷河への移動に使用した車両 まさに氷河が崩れ行く末端部  10月8日、グリーンランド航空で午前9時15分にコペンハーゲン空港を飛び立ち、5時間の飛行の後、カンゲルルススアーク空港に到着した。時差が4時間あるため、現地時間は午前10時30分であった。早速現地の通訳兼係員のスザンヌ・コリドン・ハリトックス女史の案内で、自動車で2時間ほど内陸に進み、内陸氷河の視察を行った。内陸氷河には、世界各国からの環境学者たちの観測研究施設があり、現在も多数の研究員が気候の変化を調査している。ただし、環境が非常に厳しいため、24時間を越える滞在には政府の許可が必要である。
 内陸氷河に到着し、車から降り立つと、360度見渡す限りの氷の世界の壮大さに圧倒され、日本国内ではとても想像できない環境に触れることができた。

現地政府関係者からのヒアリング

現地でのヒアリング  翌朝午前9時よりカンゲルルススアーク・ビジターセンター事務所のサラ・ミューラー・ホルム行政官、ヴィレッジ・カウンシル長のフリッツ・バウマン・ピーターセン氏、先住民族代表としてヴィレッジ・カウンシルのメンバーであるピタングーク・クレイスト氏に面談し、現地の現状について説明を受けた。
 グリーンランドの気温は、以前は年間平均零下20度前後であったものが10年ほど前から上昇してきており、去年は年間平均気温が零下5度前後であった。そのため、気温上昇により雨が多く降るようになった。
 これらの変化は、野生生物にも大きな影響を与えつつある。気温上昇により一度雪が溶けてしまうと、気温が下がったときに地表が氷結する。そうすると、例えば雪の下に隠れている植物を掘り出して食べているジャコウウシは、雪は柔らかく掘れるのだが、氷は硬くて掘れないため、餌の植物を得ることができず、生きていけない。海水の温度も影響を受け、魚も従来の種類に混じって温暖性の種類が見られるようになり、アザラシなどの大型哺乳類の食物も変化してきている。
 さらに、グリーンランドの陸上から、氷の溶けた真水が沿岸に流れ込むと、沿岸を流れる海流を沖合に押しやってしまうため、この影響による生態系の変化や気候の変化が懸念されている。
 こうした変化は自然界のみならず、人間生活にも影響を与える。例えばグリーンランドの建物は永久凍土の上に建っているため、温暖化で地面が緩むと、家が傾くなどの被害が生じ、建て替えが必要となってくる。また、狩猟、漁業を生業とする人々にとっては、生態系の変化はその生活に大きな変化を与えるものである。
 このように、野生生物も人間も寒冷地に適応した生態系、生活体系を構築しているため、気温の上昇は単に氷河が溶けるという問題だけでなく、現地の生態系、生活体系そのものを変えてしまう。そのため、寒冷地のグリーンランドでも、温暖化は決して歓迎すべきことではなく、森林伐採、温室効果ガスの増加などによる世界の気候の変化を危惧している。我々先進国の人間は、氷河の後退という現実を直視し、地球温暖化にもっと関心を持って欲しいと彼らは訴えていた。

まとめ

 石原知事が、温暖化により海水面の上昇で水没しようとしているフィジー諸島のツバルへ視察したのと同様に、我々も今回の調査を通じ、グリーンランドの氷河が溶けたら地球が死んでしまうと強く感じ、東京での温暖化防止策をもっと積極的に推進しなければならないと認識を新たにした。

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