要約

グリーンランド(カンゲルルススアーク)

 グリーンランドに蓄えられた氷が溶け出せば、海面上昇、気候変動など地球環境全体に大きな影響がある。我々調査団は、現地において、内陸氷河の視察を行い、現地政府関係者から現状説明を受けた。
 気温上昇による多雨、野生生物への影響、真水の流出が沿岸流を押しやり、生態系や気候の変化が懸念されることなどが問題として挙げられた。また、自然界のみならず、永久凍土の上に建つ家が傾くなどの被害、狩猟や漁業を生業とする人々の生活の変化など、現地の生活にも影響を与えている。
 野生生物も人間も寒冷地に適応した生態系、生活体系を構築しているため、グリーンランドでも、温暖化は歓迎すべきことではない。先進国の人間には、地球温暖化に関心を持って欲しいと訴えていた。

アイスランド共和国(レイキャビク)

 レイキャビク市では、以前より自然エネルギーの利用が積極的に行われており、新エネルギー導入に向けた議論と実践の積み重ねがあった。
 1970年代のオイルショックを契機に脱石油の議論が活発になり、国内に豊富にある水力と地熱によって水素を作り出し、これを石油に替わる自動車と船舶のエネルギー源とすることで、エネルギー自給率100%を目指している。つまり、アイスランドにおける燃料電池の利用は、環境対策というよりも、むしろエネルギー安全保障の側面から考えられている。
 現在、バス、乗用車、船舶に関する研究と実証実験が、研究機関及び民間企業主導で行われている。この段階では正確なテストが重要で、今のところ政府の関与は必要ないと考えられている。
 今後の課題は、様々な技術的な課題に加え、環境のプライシングと、費用便益分析を行う際の外部費用の内部化である。もし温暖化対策費用、あるいは大気汚染対策費用などが費用便益分析の際に織り込まれるならば、水素、燃料電池の利用が価格面でも競争力を持つ可能性は十分ある。地域限定であっても、総合的なエネルギー供給システムを構築し、エネルギー自給率を高めていく取組は、重要な課題である。

フィンランド共和国(ヴァンター)

 フィンランドのIT産業成長の背景には、冷涼な気候で日常生活を支える技術進歩に敏感であったこと、町同士が離れているため長距離通信への需要が大きかったことなどがある。また、主要輸出相手国であったソ連の崩壊と東欧の経済破綻を契機にフィンランド経済は深刻な不況に陥り、国家経済再建のためIT分野へ集中的に投資された経緯もあった。
 ヴァンター市のIT計画は、フィンランド政府や他の都市と共同戦略を立てる方向に進み、市のシティカードは国内の4都市と共通で取組を進めている。シティカードの利用者自体は少ない。その代わり、銀行のIDがフィンランドにおける各種サービスで、日本では考えられないほど活用されていた。

ベルギー王国(ブルージュ)

 ブルージュ市では、建物の建て替えを厳しく制限し、昔のままの中世の美しい街並みを残している。そのため、旧市街への乗り入れは、観光バスを含めて規制され、ネオンや看板といった広告なども制限されている。
 かつてブルージュ市と同様に水の都だった東京において、失われた水辺の美しさ、調和のとれた景観や街並みを今後どのように構築していくかが課題である。

スウェーデン王国(ストックホルム)

 ストックホルム市では、スウェーデンのシリコンバレーとも称される「シスタサイエンスシティ」の開発が進んでいる。
 シスタサイエンスシティは4つのコミューン(地方自治体)にまたがって存在している。もともと各コミューンは税制、雇用の面で競争をしていたが、そのコミューンが提携を始めたことにより、インフラ整備などの国家の仕事についても、共同して国に圧力を掛けることができるようになった。
 就業教育問題でも、失業者に教育を行い企業とのマッチングを行う「シスタマッチング」があり、産業界、企業、工科大学などが協力している。
 シスタサイエンスシティが発展した理由に、土地の無償貸付など行政のイニシアティブがある。世界のIT及びICTを牽引しているのみならず、域内においては雇用の創出や住宅需要の喚起、また、新規大学の設立という学術部門の発展にも貢献していることは注目に値する。

ICT
Information and Communication Technology:情報通信技術
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