スペインでは、マドリード市において、国際都市としての魅力を高め、世界に発信していくための戦略的取組についての調査を行った。
マドリード市国際活動戦略本部の責任者であるイグナシオ・ニーニョ氏にお会いし、同氏のほか同本部の担当者の方から、「プラン・ハポン」及びマドリード・グローバルの活動などに関するお話を伺い、その後質疑応答を行った。
ガジャルドン市長が政権に就いた2003年以降、国際社会にアピールするための活動を積極的に進めてきたマドリード市にとって、歴史的・文化的に従来から深いつながりのあるラテンアメリカ及び統合された一地域としてのヨーロッパ連合(EU)の国々との国際交流に加えて、新たに国際交流を強化するべき地域の一つとして「日本」があり、そのアプローチの具体策として、2004年6月に「プラン・ハポン」がスタートした。
以来、経済、観光、治安などの各分野で具体的な政策を展開してきた成果が次第に現れてきているという。「日本から多くの使節団がスペインやマドリードを訪れており、今回の都議会の調査団訪問についても心から歓迎している。私自身も、つい先ごろ長崎で開催された第10回日本・スペイン・シンポジウムに参加し、3日前に日本から帰国したばかりである。このシンポジウムでは日本側代表の中山太郎衆議院議員や国際交流基金の小倉理事長、在スペイン日本大使館の吉川大使らともお会いした。」とイグナシオ氏は言う。
2007年5月27日に行われた地方選挙で、マドリード市では民衆党が圧倒的過半数を獲得、市議会の議席も絶対多数を占め、ガジャルドン市長は政権の第2期をスタートさせた。その市長が力を入れているのが『マドリード市の国際化』であり、今後4年間の国際交流活動のターゲットとして、日本などを中心とした新たな地域に目が向けられている。これまで過去4年間の国際交流活動の成果として、「まだまだ東京には遠く及ばない。」とは言うものの、マドリード市は、今やEU域内においてロンドン、パリに次ぐ第3の国際都市と言える実力をつけており、この間、具体的に展開してきた活動を挙げると次のものがあるという。
このように、国際都市としての位置づけを獲得するに十分な基盤が既に整った現在、「このマドリードの現実を国際社会に投影・発信していくことが、我々本部に市長が託した使命である。」ということである。
さらに、東京は、マドリード市にとって、巨大なライバルであり、友人であり、模倣すべきモデルであると同時に、協力すべきパートナーと考えているということである。ガジャルドン市長は、今後4年間の政策の一つとして、東京を始めとして日本との協力関係強化を推進する旨の書簡を在スペイン日本大使館の吉川大使あてに届けている。
このプラン・ハポンは開始から3年を迎え、日本からの観光客の増加という形でその効果が現れていると実感しているとのことであるが、彼らは、今後、さらに一歩進んで、文化、街づくり、スポーツイベント、政治などの新しい分野で日本との交流・協力が一層推進されていくことを強く望んでいるようである。そして、イグナシオ氏は、私たち調査団に、「マドリード市は、東京都との具体的な交流を強く望んでいる。」というメッセージを託された。
Q | マドリード都市整備や開発の資料を見ると、『環境、市民が主役』などの言葉が見受けられるが、どのような理念で活動が行われているのか。 |
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A | 現在マドリード市政府の都市政策は『持続可能な都市開発、環境と共存できる都市開発』が基本となっており、土地造成、住宅建築などすべてがこれに基づいた形で行われている。 そして、市民の声を吸い上げるためのメカニズムとして、4年前から採用している2つのチャンネルがある。1つは市全体をカバーする住宅、環境、教育などの分野別諮問委員会であり、もう1つは市内の21の行政区委員会に設置されている地区別諮問委員会である。この2つのチャンネルを通じて市民が必要とする市政を展開する。 |
Q | マドリードと同様、東京も多くの歴史・芸術資産を有する都市であり、都市開発や都市整備においてこれら資産保全との共存は難しいテーマであると考えるが、マドリードではどのように対処されているか。 |
A | 歴史、文化、芸術、自然保護などの見地から特別保護指定を受けている土地、地区、建造物が市内に多く存在するが、これらはすべて国や自治州の法律及び市の条令などによって保護されているものであり、いかなる都市整備や都市計画もこれらの特別保護指定の資産を尊重する形で行われている。また、これらの特別保護指定資産を有する地区の周辺住民に対しては、これらの資産の重要性を認識、尊重するとともにこれらと共存するスタンスを促進するための新たな政策を展開している。 |
Q | マドリード市の国際戦略展開の視野の中に日本及び東京を位置づけて頂いているということは光栄である。約1280万人もの人口を抱える東京には、環状道路、地下鉄網、モノレールの整備など、今後解決すべきテーマが山積している。一方、マドリード市ではご紹介頂いたデータの他に、地下鉄やバス路線の64%が身障者の方にも配慮しているなど、東京が逆に学ぶべき点が多く見られる。そこで、マドリード市から見て、東京のどのようなところが魅力的であり、モデルにしたいと考えているのかをお聞きしたい。 |
A | まず挙げられるのは、ニューヨーク、ロンドンと並ぶ世界三大都市の1つとして世界に認知されている東京の国際都市としての位置づけであり、これは今後マドリードが目指すものである。 そして、東京や日本の魅力はたくさんあるが、市民レベルからの大きな興味として次のような点が挙げられると考えている。
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Q | 車の排気ガス規制により温室効果ガス排出量を削減し、東京の大気の浄化を進めたということは、石原知事の大きな資産とも言えるが、スペインやマドリードの具体的な地球温暖化対策としてどのようなものがあるか。 |
A | スペインは、京都議定書の枠組達成に向け、国家レベルで取り組んでいる。このうち、産業、エネルギー部門の政策は中央政府が推進し、市レベルでは市民生活における温室効果ガス排出量削減に取り組んでいる。マドリード市では、担当エリアの大気清浄化政策を策定し、持続可能な都市づくりを目指している。 |
Q | 東京都の約1280万の人口のうち、約867万人が都心に集中しているが、環境においては世界一の東京から見ても、マドリードは緑があふれる美しい街に映る。ロンドン、パリ、ローマに比べてマドリードの国際的知名度がそれほど高くないということは主に経済的要因によるものなのか。 |
A | 既に紹介したように、マドリード市は様々なインフラを充実させ、経済成長率もEU全体のそれを上回る数字を記録しており、所得水準もEUの平均を上回っている。問題はこのように近代的な都市に成長した現在のマドリードの実像が国際社会に投影されていないことである。現実のマドリード市と外部から抱かれているイメージとの格差をなくすことが、正に今後の重要課題である。そのためにこの国際活動戦略本部が存在している。 |
2005年4月8日にマドリード市が発表。2004年10月から、マドリード市が、アルベルト・ルイス・ガジャルドン市長のイニシャチブの下、在スペイン日本大使館、日本貿易振興機構(JETRO)マドリード事務所、現地日系企業団体である水曜会及び日系旅行社団体である三水会などとの意見交換を重ね策定された。
日本人観光客の安全対策、日本人観光客へのサービス向上、日本におけるマドリードのプロモーション強化の3つを柱とする42のアクションプラン
DAFO分析の結果目標達成のために重要な諸要因の分析・評価のための戦略計画ツールの一つ。要因を内的要因(強みと弱み)、外的要因(機会と脅威)に分類し、どのように強みを活かし、弱みを克服し、機会を利用し、脅威を取り除くことで目標達成に至るかを分析することができる。一般にSWOT分析(強み:Strengths、弱み:Weaknesses、機会:Opportunities、脅威:Threats)と言われるが、ここではそれぞれをスペイン語にしたDAFO分析とした。
在マドリード日系企業との関係強化や新規投資誘致のためのプロモーションなどを柱とした14のアクションプラン
DAFO分析の結果マドリード市観光局を訪問し、マル・デ・ミゲル局長にお会いするとともに、コングレス課の担当者の方から、現在、市が特に力を入れている「ビジネス・ツーリズム」に関するお話を伺い、その後質疑応答を行った。
マドリード市の経済全体における観光業の重要性は、収入の約10%が観光業によるものであることや総人口の約9%が観光関連産業に従事していることからも明らかである。
ここ数年間、マドリード市が強力に推進してきたのが、会議や見本市などのビジネス関係による訪問と観光地マドリードの魅力とを融合させたビジネス・ツーリズムである。そして、その努力の結果として、現在、マドリード市は世界のビジネス・ツーリズム市場において、非常に高く評価されることとなった。
このように国際的に評価されたマドリードの都市としての魅力の背景としては、例えば次のようなものが挙げられる。
第1に良好なアクセスである。バラハス空港は、第4ターミナルが昨年稼動したことにより、年間700万人を輸送し、世界130都市とをつなぐ1300もの航空路線を持つEU域内第3位の空港となった。また、中南米とヨーロッパとを結ぶ航空路線のすべての寄港地ともなっている。また、スペイン高速鉄道AVEのネットワークが、スペインの主要都市とマドリードとの間を3時間以内で結んでいる。
第2に、サービス品質とコストとのバランスの良さである。例えば、マドリードのホテルの50%が4つ星又は5つ星クラスのホテルであるが、いずれもリーズナブルな価格で上質なサービスを提供できる。
第3に、ビジネス関連イベントを開催するインフラが充実していることである。高度なインフラを完備した国際会議場が市内に2か所あり、現在3か所目が、旧レアル・マドリードル・スポーツ施設の跡地である高層ビル街に建築中である。さらに、国際見本市会場が市内に2か所あり、その他、異なるタイプの様々な規模のイベントを開催できる多くの施設が市内に存在している。
第4に、歴史、文化、芸術資産が豊富であることである。特に、黄金の三角地帯と呼ばれる芸術の散歩道にはプラド美術館、ソフィア王妃美術館、ティッセン・ボルネミサ美術館など世界に誇る美術館が徒歩圏内に集中している。
第5に、オペラ、コンサート、ミュージカル、演劇、フラメンコ、闘牛など様々なタイプのエンターテイメントや娯楽を提供できることである。
第6に、街全体に多くの緑地帯があり、自然と共存したスペースを提供していることである。
第7に、サッカー、テニスを始めとするスポーツイベントが豊富な上、観戦するのみならず、屋外・屋内とも、様々なスポーツを行うための施設も充実していることである。
第8に、スペインの伝統料理を始めとして、様々な国の美食を堪能できるレストランが豊富に存在していることである。
第9に、周囲100キロメートル圏内に世界遺産が4か所(トレド、セゴビア、アビラ、アルカラ・デ・エナレス)もあるなど、観光資源が豊富なことである。加えて、スペイン高速鉄道(AVE)を使えばセビリアやコルドバなど世界的に有名な観光地へも日帰りが可能である。
最後に、世界の一流ブランドから、スペインやマドリードの伝統工芸品まで多くの選択肢があるなど、ショッピングが楽しめることである。
そして、「2000年の歴史を持つマドリードは、未来を見つめ進歩し続けながらも、常に過去の遺産を守り続けている街である。私たちは、歴史、文化、芸術などの多くの遺産を、近代的なインフラ整備やテクノロジーなどを駆使して、世界中から訪れる人々に最高のサービスで提供することを目指している。」というお話であった。
千客万来都市を目指す東京都も、海外からの観光誘致に力を入れているが、年間6000万人もの観光客が訪れるスペインの首都であるマドリードの観光振興活動にあらためて感心させられた。
Q | 観光プロモーションにはそれなりの財源が必要になると思われるが、この活動のための資金は、どのように負担されるのか、また民間からの参加状況はどうなっているか。 |
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A | 毎年、国・州・市の3者が、共同で年間活動計画のグランドデザインを作成し、活動分野により多少の違いはあるものの、おおむね均等に三分の一ずつで行われている。民間からの参加については、まだ十分とは言えないが、当観光局コングレス課のコンベンション・ビューローなどは、市営公社ではあるものの一部民間資本も加わっている一例である。 |
Q | 東京とマドリードとは、類似した状況にあると言えるかもしれない。すなわち、東京はアジア諸国からの観光客という枠を超えて、マドリードはヨーロッパ諸国からの観光客という枠を超えて、それぞれ世界中のさらに多くの地域から観光客を誘致しなければならない現状にある。東京においては、「世界一の環境都市、東京」を掲げているが、マドリードは何をアピールしているのか。 |
A | 従来からマドリードの魅力をアピールしてきた点は2つある。観光施設とエンターテイメントの豊富さ、そしてホスピタリティーあふれる街の雰囲気である。そして、“Vive Madrid”という標語は、『あなたもマドリードの街に溶け込んで一緒に生活しましょう』という意味である。それに加えて新たにアピールしている点は、スポーツイベントが豊富な都市、そしてスポーツを実践する施設が充実している都市という点である。 ちなみにマドリードには、国連機関の一つである世界観光機関(WTO)の本部があるなど、世界的な観光業のメッカであるという点もアピールできる。 |
ツーリストインフォメーション課のスサーナ・アリバス課長と一緒に、実際に観光客が訪れるツーリストインフォメーションセンターを視察した。
観光振興に向けたプロセスとしては、大きく分けて3つある。まず、観光資産を整備・保全すること、次にそれらを積極的にアピールして観光客を誘致すること、そして訪れる観光客のニーズにあったサービスを提供することである。
そしてこの最後の部分を担当しているのが、このメインセンターの他に市内5か所にあるツーリストインフォメーションセンターであり、それらは、コロン広場、カリャオ広場、シべレス広場、ソフィア王妃美術館、そしてバラハス空港内に設置されている。
ここでは、ただ単に問い合わせに答えるという受動的なサービスのみならず、利用者のニーズに合った商品やサービスを積極的に提供していこうという姿勢で対応し、より多くの訪問者に満足してもらうことを目指しているということであった。
また、SATEと呼ばれる特殊なサービスも提供している。これは市内の警察署と連携し、外国人観光客が盗難などの被害に遭った際、煩雑な手続を様々な言語でサポートするシステムである。さらに、視覚、聴覚及び様々な身体的障害を持つ人々に対するサービスも提供し、バリアフリーなツーリズムを目指している。
このほか、だれでも自由に無料でインターネットにアクセスできるパソコンスペースや、観光局が主催するガイド付ツアー(ディスカバーマドリード)なども提供している。これは、様々な言語により数多くのパターンのツアーを安価に提供しようとするもので、希望により既成のツアーだけでなくオリジナルツアーを作ることも可能とのことであった。ちなみに日本語にも対応しているという。
さらに、『マドリードカード』と呼ばれるプリペイドカードは、各観光施設や遊園地・水族館・テーマパークなどの入場料、市内循環観光バスの乗り放題、ディスカバーマドリードのガイド付ツアーなどが含まれ、市内各所におけるショッピングやレストラン利用の際の割引などの特典も付き、非常にお得な料金となっている。
最近発足したばかりの、マドリード市の最初の首脳会議で、今後4年間に展開される政治方針の一つが確定した。マドリードの国際都市化である。
この政策を実行するため、国際活動戦略本部(Madrid Global)が設立された。この本部は副市長府内の調査プログラム担当行政エリアに属し、その責任者として、第一期政権で経済担当総括長官を務めたイグナシオ・ニーニョ氏が任命された。
この本部の活動開始にあたり、過去4年間にマドリード市が行った国際化活動の実績を基にするとともに、この分野での先達であるニューヨーク、ロンドン、パリ、東京などの国際都市が採用している国際活動戦略をモデルとして採用していく。
グローバルが進む21世紀において、国際都市を目指すマドリードにとって、その国際戦略は、方針策定においてもまたそれらを実践するにおいても、グローバルな視野を持って望まなければならないと、マドリード市は考える。
この理念を反映し、従来の伝統的な国際化活動に加えて、新たな戦略を展開していくことを決定した。新しい発想、新しい戦略、そして新しいプログラムやツールを駆使して、今後10年間で、国際社会にマドリードをしっかりと位置づけるためである。
この本部が行う活動は、非常に広い分野をカバーし、経済、観光、芸術、スポーツ、科学、研究などにまで至る。しかし、国際活動戦略本部はさらに新しい分野の活動を展開していくことになる。それは国際都市外交、国際化戦略とプログラム策定、そして最後に、国際社会におけるマドリードの地位向上のためのマーケティング。また、これらの活動の多くは、官民共同体制で取り組む必要がある。
また、この本部は、2016年オリンピック招致活動の対外プロモーション支援とスポンサー獲得の支援も担当する。活動の最終目的とされるのは、オリンピック招致とマドリードの街づくりを連携させること、その相乗効果を最大限に発揮させること、そしてオリンピック招致プロジェクトがオリンピック後も市の発展にとって有益なプロジェクトであることを周知するという3点である。
既に2016年オリンピック招致に向けて活動を開始している都市があり、それらは我々の活動のモデルとして役立てることができる。
日本の首都東京は既に、東京オリンピック招致委員会を立ち上げ、街づくりとオリンピック招致を連携させた様々な活動を行っているが、その相乗効果を利用した活動には学ぶところが多い。
また、ブルームバーグ市長自らが『対国連、国際外交機関及びプロトコル委員会』の委員長となり、国際都市外交を推進しているニューヨークも国際戦略の素晴らしい一例である。グローバルなニューヨーク市の政策は、国際社会における同市の地位向上のための強化戦略を実施しているが、その活動には民間企業も参加している。
また、2012年オリンピックの開催都市であるロンドン市も、リビングストン市長の下で盛んに国際化活動を推進している。精力的に国際化活動を進めるロンドンが採用する都市国際化戦略の数々も、是非我々が参考にしたいと考えるものである。
マドリード市国際活動戦略本部"Madrid Global"創設のための政令(抜粋)
副市長府付属、組織構成と権限委譲
マドリード市政府委員会、同意事項/組織と権限
施行日:2007年6月18日
公示:マドリード市官報(21/06/2007)、第5671号、18ページ
マドリード市の都市計画について、広報市民参加副総局局長のエミリオ・マルティネス氏らから、マドリード市の都市計画などについてお話を伺い、その後質疑応答及び視察を行った。
まず、10世紀から19世紀までの、マドリード市発展の様子や1868年頃にマドリードで始めて行われた都市計画「エンサンチェ」の概略の後、マドリード市における過去の4回に及ぶ総合都市計画(Plan General de Urbanisacion)の概要について説明を受けた。
市民戦争以前に作られた計画。中心市街地を緑地ベルトで囲みその外に衛星都市型の市街地を形成するという当時流行していたイギリス式の都市開発スタイル。7年後の市民戦争勃発でこの計画は実現を見なかった。
市民戦争後の1939年、敗北した共和派側で戦ったマドリード市は、フランコ政権下においてその都市成長を制限された。また第二次世界大戦が勃発、スペインも市民戦争後の食糧難の中、都市開発よりも農耕地を開拓し食料を自給自足することが優先された。
1956年、フランコ政権の政策転換があり、「国家経済安定計画」が推進され、経済成長と工業育成が優先されるようになると、マドリード市に農村人口が大量に流入。市民戦争直後160万人であった人口が、一挙に350万人近くにも膨れ上がり、都市インフラも住宅インフラもそれに対応できず、市の周辺の至る所に労働者のバラック貧民街が出現した。
市街地の拡大や住宅地造成を基盤にした都市計画であるが、政策主導型ではなく、あくまで十分に収容しきれなかった人口の増加になんとか対処するための計画であり、この結果、不規則で無秩序な形で市街地が拡大していくことになった。
フランコ政権後、スペインの民主化が進み、マドリード市にも民主的選挙によって選ばれた左翼政権(社会労働党と共産党連立)が誕生した3年後に策定された計画。マドリード市街地の拡大を制限し、既存市街地の整備を基盤にした抑制的な都市開発政策を採用した。しかし実際はその政策に反し、民主化後のスペイン経済が成長を始めるとともに、市民もマイホームの夢を実現し始め、建築ブームが訪れることになる。
政権交代により保守系民衆党政権に移り、EU経済統合による経済成長の中、マドリードの人口増加を受けて策定された行政主導の市街地拡張を基盤とした土地計画。持続可能な開発の理念に基づき、市街地化禁止地区、緑地保護区などを設けている。
そして、引き続き、現在の総合都市計画についての説明を受けた。
2004年、就任したガジャルドン市長が始めた壮大な計画がM30の近代化である。マドリード市街地を環状に取り囲む自動車専用道路『M30』は、必要に迫られて発展してきた結果として現在の形となったため、合理性、機能性、安全性に欠ける部分が存在しており、この近代化のため、総工費50億ユーロを投入した壮大なプロジェクトが打ち立てられた。
その東側半円部分については、マドリード中心部から放射状に延びる国道との結節部であるインターチェンジを近代化し周辺の緑地化を図る。また、南東部分、特にマンサナーレス川と交差する部分については、トンネルを掘って道路を川の地下に通すことで地上にできる広い地域に、川を挟んだ緑あふれる市民の憩いのスペースを作り出す。ちなみに、このトンネル工事には日本製のトンネル掘削機も活躍したのだという。北西側部分については、ほとんど変更はなく、現在も未だ工事が完了していないのが北東側部分で、ここでもトンネルを掘って道路を地下に通す予定である。
人口増加、住宅不足、住宅価格高騰に対処するために行われているのが、『P.A.U.』であり、現在、大きく分けてマドリード市の周辺地域に3か所ある。北部、南東部、そして南西部のカラバンチェルである。
Q | 行政主導の宅地造成計画の話が出たが、市政府が指定した地域にその計画に賛同しない土地所有者がいた場合にはどうなるのか。 |
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A | 市政府が決定し、市議会の承認を受けた行政主導宅地造成計画の地区指定は、法的強制力を持つので、賛同しないという訳には行かないが、補償額を巡る係争で裁判になる場合はある。裁判進行中であっても土地手続きは進められ、造成計画が中断することはない。 |
Q | 50億ユーロを費やすM30近代化プロジェクトには、民間からの投資もあるとの説明を頂いたが、どのような返済契約で行われているのか。 |
A | 官民共同出資の法人を設立し、原則として出資比率について、51%を官、49%を民としている。しかし、実際には民がほぼ100%を出資し、官は20年間程度の返済計画でこれを返済していくこととしており、その返済資金は市の予算財源から支出される。 |
その後、調査広報部局のチーフ、アンブロシオ・アグアド氏の案内で、行政主導の宅地造成計画(P.A.U.(Plan de Actividad Urbanistica))の現場の一つであるサンチナロ地区を視察した。
1985年に計画が開始された同地区では、約16000戸の住宅を造成する計画で、現在計画の70%ほどが入居している。土地手続から始まって、土地造成、都市サービスインフラの整備、住宅の建築、実際の入居へと至るプロセスに、あわせて20年以上もかかったことになる。
ここでは、道路、公園、緑地、街並み、建築物の形態・高さなどの一定の制限に従っており、バリアフリーコンセプトが義務付けられている。また交通インフラの整備も同時に進行し、現在は地下鉄、バス、トランビア(路面電車)などの多様なアクセスがある。住宅には、大きく分けて、企業による自由分譲住宅、公営分譲住宅、福祉サービスの一環として提供する助成住宅という3種類の住宅があるが、いずれも概観からは区別できないよう使用素材なども同一のもので建設されている。このサンチナロ地区はAmbito de Compensacion(土地補償地域、下記資料参照)という土地手続で作られている。土地所有者がそれぞれ資金を出し、行政が立てた宅地造成計画に従い、入札業者に建設を発注するという形である。その際、土地所有者は土地の15%を道路、公園、その他の公共スペースに供与することに同意しなければならないのだということである。
マドリード市における都市計画には、主に次の3種類の地域分類がある。
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