東京都議会議員の政治倫理に関する条例

 都民の負託を受けた東京都議会議員は、都民福祉の向上を通じて、都政の発展に力を尽くすことが求められている。

 その責務を全うするためには、東京都議会議員としてふさわしい、深い識見と高い倫理観を持って政治活動に臨まなければならない。

 近年、政治活動に伴う金銭の授受における不透明性や不正・不適切な資金管理に対して都民から批判を招く事案が発生しており、再発防止に向けた東京都議会としての迅速かつ体系的な対応が求められている。

 加えて、多様性を尊重する人権意識やハラスメント被害の根絶が社会的に希求されていることもあり、東京都議会議員が備えるべき識見や倫理観に対して、かつてないほどの緊張感の中で都民の関心が高まっていることを自覚しなければならない。

 このような認識の下、東京都議会は、都民に対して、東京都議会議員の責務、遵守すべき政治倫理規準等を明らかにするとともに、それらに準拠した議員活動を行うために必要な自律的な取組の励行を図ることにより、確固たる政治倫理を確立することを決意し、ここに、この条例を制定する。

(目的)
第一条 この条例は、東京都議会(以下「議会」という。)における政治倫理確立のため、東京都議会議員(以下「議員」という。)の責務、遵守すべき政治倫理規準等を定めるとともに、その励行を議会として促すことにより、議会の秩序及び名誉を守り、都民の厳粛な信託に応え、もって清潔で民主的な都政の発展に寄与することを目的とする。
(責務)
第二条 議員は、都民の負託に応えるため、絶えず都民全体の利益を擁護するよう行動しなければならない。
2 議員は、高い倫理的責務が課せられていることを自覚し、その言動が都民及び都政に与える影響に鑑み、自らを厳しく律するとともに、都民の代表として良心及び責任感を持って、議員の品位を保持し、識見を養うよう努めなければならない。
3 議員は、政治倫理に関し、政治的又は道義的な批判を受けたときは、真摯かつ誠実に事実を解明し、その責任を進んで明確にする責務を負うものとする。
(宣誓書の提出)
第三条 議員は、この条例を遵守する旨の宣誓を行うものとし、議員の任期開始の日から三十日以内に、東京都議会議長(以下「議長」という。)が定める宣誓書を議長に提出しなければならない。
(政治倫理規準)
第四条 議員は、地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)、公職選挙法(昭和二十五年法律第百号)、政治資金規正法(昭和二十三年法律第百九十四号)、所得税法(昭和四十年法律第三十三号)その他の関係法令等(以下「関係法令等」という。)とともに、次に掲げる政治倫理規準を遵守して行動しなければならない。
 一 議員の品位又は名誉を損なう行為により、都民の議会に対する信頼を損ねてはならないこと。
 二 権限の濫用又は地位の不当な利用により、自己又は特定の者の利益を図ってはならないこと。
 三 公正を疑われるような金品の授受を行ってはならないこと。
 四 自己又は特定の者に有利となるよう、国又は地方公共団体の契約又は処分等に不当な働きかけをしてはならないこと。
 五 公務員又は関係団体の職員に対し、影響力を不当に及ぼすなどして、公正な職務の執行を妨げてはならないこと又は第三者をして同様の行為をさせてはならないこと。
 六 政治資金に関し、道義的な批判を招くような寄附を受けてはならないこと又は同様の寄附を資金管理団体をはじめ自らが代表者である政治団体(以下単に「政治団体」という。)に受けさせてはならないこと。
 七 政治資金の管理に関して、次の事項を遵守すること。
  イ 政治団体の収支について、全てを漏れなく真実に即して記録し、法令に従って報告すること。
  ロ 収支報告書に記載されない、公正を疑われるような金銭があってはならないこと。
  ハ 繰越額を計上する場合を含め、収支報告書の記載と実際の政治資金が一致するよう、会計帳簿や証拠書類を整備すること。
  ニ 会計帳簿と異なる政治資金の実態を放置してはならないこと。
  ホ 政治団体の会計責任者(会計責任者の職務を補佐する者を含む。以下同じ。)が、収支報告書へ記載すべき事項の不記載又は虚偽の記入その他の不正な会計処理を行い、都民に重大な疑念を与えることのないよう、これを防止するため相当の注意を払うとともに、当該会計責任者を適切に監督すること。
  ヘ 政治資金パーティーの対価、政治活動に関する寄附等の政治活動に充てる全ての収入を預金又は貯金の口座に入金し、収支報告書に反映させるなど、適切に資金を管理すること。
 八 次条第一項に規定する審査会から出席又は出席に加えて資料の提出の要請があった場合は、出席し、又は出席の上で資料を提出し、誠実に答えること。
 九 東京都男女平等参画基本条例(平成十二年東京都条例第二十五号)、東京都障害者への理解促進及び差別解消の推進に関する条例(平成三十年東京都条例第八十六号)、東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例(平成三十年東京都条例第九十三号)、東京都手話言語条例(令和四年東京都条例第百十号)等の趣旨を踏まえ、多様性の尊重に配慮した人権意識を持ち、人権侵害行為を行ってはならないこと又は第三者をして同様の行為をさせてはならないこと。
 十 東京都カスタマー・ハラスメント防止条例(令和六年東京都条例第百四十号)に定めるカスタマー・ハラスメントをはじめ、各種のハラスメント行為を行ってはならないこと又は第三者をして同様の行為をさせてはならないこと。
 十一 前二号に規定する条例のほか、条例において都民の行動規範を定めている場合には、その趣旨を踏まえ、率先して行動すること。
2 議員は、刑事上の責任を負わない場合であっても、法令違反の疑い又は都民に重大な疑念を与える行為があった場合は、政治的及び道義的責任を負うものとする。
(審査会の設置)
第五条 議会に、東京都議会議員政治倫理審査会(以下「審査会」という。)を設置する。
2 審査会は、委員九人以内をもって組織する。
3 委員は、次に掲げる者のうちから、議会運営委員会の協議を経た上で、議会の会議に諮って議長が任命する。ただし、議員は、委員となることができない。
 一 政治倫理に関し優れた識見を有する者であって議会が推薦するもの 二人以内
 二 弁護士 三人以内
 三 公認会計士 一人以内
 四 税理士 一人以内
 五 前各号に掲げる者のほか、政治倫理に関し優れた識見を有する者 二人以内
4 前項第一号の規定による議会の推薦は、議長が議会運営委員会の協議を経た上で、決定するものとする。
5 審査会に、特別の事項を調査審議させるため必要があるときは、臨時委員を置くことができる。ただし、委員及び臨時委員の数の合計数は、九人を超えることができない。
6 臨時委員は、当該特別の事項に関し優れた識見を有する者のうちから、議会運営委員会の協議を経た上で、議長が任命する。ただし、議員は、臨時委員となることができない。
7 委員の任期は、原則として、議員の任期満了後の最初の議会の会議において後任者が任命されるまでとする。ただし、再任を妨げない。
8 臨時委員の任期は、その者の任命に係る当該特別の事項に関する調査審議が終了するまでとする。
9 審査会に会長及び副会長を置き、委員の互選によりこれを定める。
10  副会長の数は、審査会がこれを定める。
(会長の職務代行)
第六条 会長に事故があるとき又は会長が欠けたときは、副会長が会長の職務を行う。
2 会長及び副会長ともに事故があるときは、あらかじめ定めた順位に従い、順次、委員が会長の職務を行う。
(審査会の運営と役割)
第七条 審査会の運営は、次に定めるところによるものとする。
 一 審査会は、会長が招集する。ただし、設置後最初に開かれる審査会は、議長が招集する。
 二 審査会は、委員及び議事に関係のある臨時委員の半数以上が出席しなければ会議を開くことができない。
 三 審査会の議事は、会長を除く委員及び議事に関係のある臨時委員で会議に出席したものの過半数で決し、可否同数のときは、会長の決するところによる。
 四 次条第一項の規定による審査の請求(以下この条において単に「審査の請求」という。)をされた議員は、審査会から出席又は出席に加えて資料の提出の要請があった場合は、出席し、又は出席の上で資料を提出し、誠実に答える義務を負う。
 五 審査会は、審査の請求をされた議員の関係者に対し、必要があると認める場合は、審査会への出席又は資料の提出の要請を行うことができる。
 六 審査の請求をされた議員は、審査会に対し口頭又は文書により弁明することができる。
 七 委員及び臨時委員は、その職務を遂行するに当たっては、公正不偏の立場で、審査しなければならない。
 八 審査会の会議は、これを非公開とする。
 九 前号の規定にかかわらず、審査会が必要と認めるときは、その議決により審査の一部又は全部を公開することができる。
 十 審査会の委員若しくは臨時委員又は委員若しくは臨時委員であった者(以下「委員等」という。)は、職務上知り得た秘密を他に漏らしてはならない。
 十一 審査会は、審査の請求をされた議員につき、関係法令等又は第四条第一項各号に掲げる政治倫理規準(以下単に「政治倫理規準」という。)のいずれかに反し、政治的又は道義的に責任があると認めた場合は、議長に対し、文書による警告又は議場における陳謝の勧告を求める審査の結果を答申するものとする。
 十二 第三号の規定にかかわらず、審査会は、会長を除く委員及び議事に関係のある臨時委員で会議に出席したものの三分の二以上の多数による賛成がある場合は、前号の審査の結果に代えて、出席若しくは参加の自粛の勧告、役職辞任の勧告又は議員辞職の勧告を求める審査の結果を答申するものとする。
 十三 審査会は、前二号に定める審査の結果を意見として答申しない場合で、政治的又は道義的に責任があると認められないときは、その旨を審査の結果として答申するものとする。
 十四 審査会は、前号の場合において、審査の請求をされた議員から名誉の回復を求められたとき又は名誉の回復を図る必要があると認めるときは、議長に対し、当該議員の名誉を回復するために必要な措置を講ずるよう求めるものとする。
 十五 審査会は、審査のため必要があると認めるときは、審査の請求をされた議員以外の議員、政治倫理に関し優れた識見を有する者等に対し、参考人としてその出席を求め、意見若しくは事情を聴取し、又は報告を求めることができる。この場合において、審査会は、更に必要があると認めるときは、その議決によって、当該参考人を審査に加えることができる。
2 審査会は、議長に対し、関係法令等の改正、政治倫理規準に関する社会的環境の変化等に応じて、議員に対する研修又は注意喚起を適時に、かつ、適切に実施するよう求めることができる。
3 議長は、前項の規定による求めがあった場合は、議会運営委員会の協議を経た上で、必要な研修又は注意喚起を実施するなど、誠実に対処するものとする。
4 議員は、前項の規定による研修又は注意喚起が実施される場合は、積極的に当該研修に参加し、又は当該注意喚起を契機として自ら進んで必要な知見の習得を図り、これらに基づく活動の励行に努めなければならない。
5 審査会は、議長に対し、前各項に定めるもののほか、審査会の運営等に関し必要な事項について定めるよう求めることができる。この場合において、議長は、議会運営委員会の協議を経た上で、誠実に対処するものとする。
(審査の請求)
第八条 議員及び都内有権者(地方自治法第十八条に定める選挙権を有する都民をいう。以下同じ。)は、関係法令等又は政治倫理規準のいずれかに反する疑いがあると認められる議員があるときは、議員にあっては議員の定数の三分の一以上で、かつ、三以上の会派(所属議員が一人の場合を含む。)の議員の連署をもって、都内有権者にあっては議員の定数の三分の一以上で、かつ、三以上の会派(所属議員が一人の場合を含む。)の議員の紹介をもって議長に審査を請求することができる。この場合において、審査の請求は、理由を明らかにした文書をもって行うものとする。
2 議長は、前項の規定による審査の請求(以下単に「審査の請求」という。)を受けたときは、速やかに審査会に諮問するものとする。
(議長への報告)
第九条 会長は、審査の結果について議長に報告するものとする。
(審査の結果の通知及び公表)
第十条 議長は、前条に規定する審査の結果(以下単に「審査の結果」という。)の報告を受けたときは、その内容を議会運営委員会に報告するとともに、審査の請求をした議員又は都内有権者の代表者及び審査の請求をされた議員に対して審査の結果を通知し、次条第一項の規定による意見書の提出の有無を確認の上、審査の結果を公表しなければならない。
(意見書の提出及び公表)
第十一条 審査の請求をされた議員は、前条の規定による通知を受けたときは、審査の結果について、議長に対し意見書を提出することができる。
2 議長は、前項の規定による意見書の提出があったときは、審査の結果の公表に当たり、意見書の全部又は概要を併せて公表するものとする。
(措置)
第十二条 議長は、審査の結果の報告を受けたときは、議会運営委員会の協議を経た上で、議会の会議に付し、審査会が必要と認める措置を議会の責任で講ずるものとする。
2 議会運営委員会は、前項の場合において、必要があると認めるときは、委員等の出席及び審査の経緯に関する説明を求め、質疑を行うことができる。この場合において、委員等はこれに誠実に応じなければならない。
3 議長は、第七条第一項第十四号に規定する審査会からの求めがあった場合には、議会運営委員会の協議を経た上で、議会の会議に付し、審査の請求をされた議員の名誉を回復するため、前条第一項に規定する意見書の当該議員本人による読み上げ等の必要な措置を認めるものとする。
(見直し)
第十三条 議会は、社会情勢の変化及び議員活動の状況等を踏まえ、この条例の施行からおおむね四年ごとに、この条例の内容について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
2 議会は、都道府県議会の権能及び都道府県議会議員の職責に係る法令等に関する見直し等が行われる際には、この条例の規定について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
(委任)
第十四条 この条例に定めるもののほか、この条例の施行に関し必要な事項は、議長が別に定める。
 附則
1 この条例は、令和七年七月二十二日から施行する。
2 この条例は、この条例の施行の日前になされた行為については、適用しない。
(提案理由)
 東京都議会議員の責務、遵守すべき政治倫理規準等を明らかにするとともに、それらに準拠した議員活動を行うために必要な自律的な取組の励行を図ることにより、確固たる政治倫理を確立する必要がある。

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