東京都障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する条例

 全ての人にとって、障害の有無、年齢等にかかわらず、必要とする情報を容易に入手し、その情報を活用し、滞りなく意思を伝え合うことは、日常生活や社会生活を営む上で必要不可欠であり、尊重されるべき権利である。

 東京都は、平成三十年に東京都障害者への理解促進及び差別解消の推進に関する条例を制定し、障害者に配慮した方法による情報の提供や、意思疎通を仲介する者の養成など情報保障の推進を図ってきた。また、令和四年に東京都手話言語条例を制定し、手話を言語として位置付け、手話の普及や手話を使用しやすい環境の整備に取り組んできた。

 一方で、情報通信技術が発展する今日においても、障害の種類や程度に応じた意思疎通等に係る手段が十分でないことや、手段があっても社会における理解や配慮が不十分であるために、情報の取得や利用、意思疎通の場面で障害者が困難を感じることが依然としてある。そのため、都民一人一人が障害の種類や程度に応じた意思疎通等の重要性について関心と理解を深めるとともに、東京都をはじめ都民、事業者、区市町村が連携して、先端的な技術をはじめとする情報通信技術の活用も含め、多様な意思疎通等に係る手段について利用しやすい環境づくりを進めていかなければならない。

 障害者が情報を十分に取得し、利用し、円滑に意思疎通ができるようになることは、障害者だけでなく誰にとっても必要であるという認識の下、東京に暮らし、東京を訪れる全ての人が、障害の有無によって分け隔てられることなく、互いに意思を伝え、理解し、尊重し合いながら安心して生活することができる共生社会の実現を目指し、この条例を制定する。

(目的)
第一条 この条例は、全ての障害者が、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加するためには、その必要とする情報を十分に取得し及び利用し並びに円滑に意思疎通を図ることができることが極めて重要であることに鑑み、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策に関し、基本理念を定め、並びに東京都(以下「都」という。)、事業者及び都民の責務を明らかにするとともに、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の基本となる事項を定めること等により、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に推進し、もって全ての都民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら安心して生活することができる共生社会の実現に資することを目的とする。
(定義)
第二条 この条例において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
 一 障害者 身体障害、知的障害、発達障害を含む精神障害、難病その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。
 二 社会的障壁 障害者基本法(昭和四十五年法律第八十四号。以下「法」という。)第二条第二号に規定する、障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。
 三 意思疎通等に係る手段 手話、要約筆記、筆談、点字、拡大文字、手書き文字、指点字、読み上げ、音訳、代筆、分かりやすい表現、実物又は絵図の提示、身振り、手振り、表情、文字盤、コミュニケーションボード、重度障害者用意思伝達装置、身体障害者補助犬の使用その他障害者が情報を取得し及び利用し並びに他者との意思疎通を図るための手段をいう。
 四 意思疎通支援者 手話通訳、要約筆記、盲ろう者向け通訳・介助、失語症者向け意思疎通支援、点訳、音訳を行う者その他の障害者と他者との意思疎通を支援する者をいう。
(基本理念)
第三条 障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進は、次に掲げる事項を旨として行われなければならない。
 一 全ての障害者が、社会を構成する一員としてあらゆる分野の活動に参加するため、意思疎通等に係る手段について、選択の機会が確保され、その障害の種類及び程度に応じ必要かつ有効な手段を選択することができるようにすること。
 二 全ての障害者が、その日常生活又は社会生活を営んでいる地域にかかわらず等しくその必要とする情報を十分に取得し及び利用し並びに円滑に意思疎通を図ることができるようにすること。
 三 障害者が取得する情報について、可能な限り、障害者でない者が取得する情報と同一の内容の情報を障害者でない者と同一の時点において取得することができるようにすること。
 四 先端的な技術をはじめとする情報通信技術の活用を推進し、全ての障害者が、その必要とする情報を十分に取得し及び利用し並びに円滑に意思疎通を図ることができるようにすること。
(都の責務)
第四条 都は、前条の基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
2 都は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策が障害者でない者による情報の十分な取得及び利用並びに円滑な意思疎通にも資するものであることを認識しつつ、当該施策を策定し、及び実施するものとする。
(事業者の責務)
第五条 事業者は、その事業活動を行うに当たっては、障害者がその必要とする情報を十分に取得し及び利用し並びに円滑に意思疎通を図ることができるようにするよう努めるとともに、都が実施する障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策に協力するよう努めなければならない。
(都民の責務)
第六条 都民は、この条例の目的及び基本理念について理解を深め、都並びに特別区及び市町村(以下「区市町村」という。)が実施する障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策に協力するよう努めるものとする。
(関係者相互の連携及び協力)
第七条 都、区市町村、事業者その他の関係者は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策が効率的かつ効果的に推進されるよう、相互に連携を図りながら協力するよう努めなければならない。
(障害者等の意見の尊重)
第八条 都は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を講ずるに当たっては、障害者、障害児の保護者その他の関係者の意見を聴き、その意見を尊重するよう努めなければならない。
(障害者計画との関係)
第九条 都が法第十一条第二項に規定する都道府県障害者計画を策定し、又は変更する場合には、当該計画がこの条例の規定の趣旨を踏まえたものとなるようにするものとする。
2 都は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の実施状況について、これを毎年公表するとともに、障害者、障害児の保護者その他の関係者から意見を聴く機会を設けるものとする。
(障害者による情報取得等に資する機器等)
第十条 都は、障害者による情報の十分な取得及び利用並びに円滑な意思疎通に資する情報通信機器その他の機器及び情報通信技術を活用した役務(次項及び第十七条第一項において「障害者による情報取得等に資する機器等」という。)に関し、開発及び提供に対する支援、障害者又はその介助を行う者(次項において「障害者等」という。)に対する情報提供及び入手の支援その他の必要な施策を講ずるものとする。
2 都は、障害者等が障害者による情報取得等に資する機器等の利用方法を習得することができるよう、必要な取組を自ら行うとともに、当該取組を行う者を支援するために必要な施策を講ずるよう努めるものとする。
(関心と理解を深める機会の確保等)
第十一条 都は、都民及び事業者が障害者による情報の十分な取得及び利用並びに円滑な意思疎通の重要性について関心と理解を深めることができるよう、その機会の確保に努めるとともに、必要な啓発活動を行うものとする。
2 都は、東京都職員が障害者による情報の十分な取得及び利用並びに円滑な意思疎通の重要性について関心と理解を深めることができるよう、環境の整備に努めるものとする。
(障害者からの相談及び障害者に提供する情報)
第十二条 都は、障害者による情報の十分な取得及び利用並びに円滑な意思疎通に関し、区市町村その他の関係機関と連携して、乳幼児期からの切れ目ない相談支援体制の整備及び拡充に努めるものとする。
2 都は、障害者からの各種の申請、届出、相談等を受けるに当たっては、障害者がその必要とする情報を十分に取得し及び利用し並びに円滑に意思疎通を図ることができるよう配慮するものとする。
3 都は、障害者に情報を提供するに当たっては、その障害の種類及び程度に応じた意思疎通等に係る手段を利用して、これを行うよう配慮するものとする。
(意思疎通支援者等の人材確保、養成等)
第十三条 都は、医療、介護、保健、福祉、教育、労働、交通、文化芸術、スポーツ、レクリエーションその他の障害者が自立した日常生活及び社会生活を営むために必要な分野において、障害者がその必要とする情報を十分に取得し及び利用し並びに円滑に意思疎通を図ることができるようにするため、区市町村その他の関係機関と連携して、意思疎通支援者及びその指導者の確保、養成及び資質の向上を図るものとする。
(事業者への支援)
第十四条 都は、事業者が行う、障害者による情報の十分な取得及び利用並びに円滑な意思疎通のための取組に対して、必要な支援を行うよう努めるものとする。
2 都は、事業者が行う、意思疎通等に係る手段の利用を必要とする障害者が働きやすい環境を整備するための取組に対して、必要な支援を行うよう努めるものとする。
(学校における支援)
第十五条 都は、意思疎通等に係る手段の利用を必要とする幼児、児童又は生徒が通う学校において、次に掲げる措置を講ずるよう努めるものとする。
 一 乳幼児期から障害の種類及び程度に応じた意思疎通等に係る手段を利用し、又は習得するための切れ目ない学習環境を整備すること。
 二 教員その他の障害の種類及び程度に応じた意思疎通等に係る手段の利用を支援する者(以下この号において「教員等」という。)に対し、障害の種類及び程度に応じた意思疎通等に係る手段に関する理解を深めるための研修を実施するなど、障害の種類及び程度に応じた意思疎通等に係る手段に通じた教員等の確保のために必要な支援を行うこと。
 三 意思疎通等に係る手段の利用を必要とする幼児、児童又は生徒の保護者等(保護者、祖父母、兄弟姉妹その他の生活を共にする者をいう。)に対し、障害の種類及び程度に応じた意思疎通等に係る手段に関する学習の機会を提供するとともに、教育に関する相談を受けるための環境を整備すること。
2 都は、学校教育において、障害者による情報の十分な取得及び利用並びに円滑な意思疎通の重要性について、幼児、児童又は生徒の関心と理解を深めるための必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(調査研究等)
第十六条 都は、障害者による情報の十分な取得及び利用並びに円滑な意思疎通に資するため、大学等と連携して、調査研究の推進及びその成果の普及を支援するよう努めるものとする。
(災害時等における措置)
第十七条 都は、災害その他の非常事態において、障害の種類及び程度に応じて障害者が必要な情報を迅速かつ的確に取得し、円滑に意思疎通を図ることができるよう、区市町村その他の関係機関と連携して、避難所等における障害者による情報取得等に資する機器等の整備その他の必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
2 都は、障害の種類及び程度に応じて障害者が防災及び防犯に関する情報を迅速かつ確実に取得することができるようにするため、区市町村その他の関係機関と連携して、設備又は機器の設置の推進その他の必要な措置を講ずるものとする。
3 都は、障害の種類及び程度に応じて障害者が緊急の通報を円滑な意思疎通により迅速かつ確実に行うことができるようにするため、区市町村その他の関係機関と連携して、多様な手段による緊急の通報の仕組みの整備の推進その他の必要な措置を講ずるものとする。
(財政上の措置)
第十八条 都は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
附則
(施行期日)
1 この条例は、令和七年七月一日から施行する。
(検討)
2 この条例の施行後三年を経過した場合において、この条例の施行の状況等について検討し、時代の要請に適合するものとするために、必要な措置を講ずるものとする。
3 前項の検討を行うに当たっては、障害者、障害児の保護者その他の関係者の意見を反映させるため、これらの者の意見を聴く機会を設けるものとする。
(提案理由)
 障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に推進することにより、東京に暮らし、東京を訪れる全ての人が、障害の有無によって分け隔てられることなく、互いに意思を伝え、理解し、尊重し合いながら安心して生活することができる共生社会を実現する必要がある。

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