東京都手話言語条例

 手話は、物の名前や抽象的な概念等を手指の動きや表情を使って視覚的に表現する独自の文法を持つ一つの言語であって、豊かな人間性を涵養かんようし、知的かつ心豊かな生活を送るための言語活動の文化的所産である。

 障害者の権利に関する条約では、言語は音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいうとされ、障害者基本法でも、手話が言語に含まれることが明記されている。

 一方で、我が国では、過去の一時期にろう学校で手話の使用が事実上禁止されるなど、手話の使用について様々な制約を受けてきた歴史があり、手話が言語であることに対する理解が十分であるとは言えない。

 こうした認識の下、手話を必要とする様々な世代の人々が、個々の特性に応じて言語として手話を獲得し、手話で学び、手話を学び、手話を使い、手話を守ることができる環境づくりを推進する必要がある。

 ろう者、難聴者、中途失聴者など手話を必要とする者の意思疎通を行う権利が尊重され、安心して生活することができる共生社会の実現を目指し、この条例を制定する。

(目的)
第一条 この条例は、手話が独自の文法を持つ一つの言語であるという認識の下、手話に対する理解の促進及び手話の普及に関する基本理念を定め、東京都(以下「都」という。)の責務並びに都民及び事業者の役割を明らかにするとともに、都の施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な基本的事項を定め、もってろう者、難聴者、中途失聴者など手話を必要とする者(以下「手話を必要とする者」という。)の意思疎通を行う権利が尊重され、安心して生活することができる共生社会の実現に寄与することを目的とする。
(基本理念)
第二条 手話に対する理解の促進及び手話の普及は、手話が独自の文法を持つ一つの言語であるという認識の下、一人一人が相互に人格と個性を尊重し合いながら、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参画する機会が確保される共生社会の実現を旨として行われなければならない。
(都の責務)
第三条 都は、この条例の目的を達成するため、前条の基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、手話を必要とする者の意思疎通を行う権利を尊重し、特別区及び市町村(以下「区市町村」という。)その他の関係機関と連携して、手話に対する理解の促進、手話の普及その他の手話を使用しやすい環境の整備を行うものとする。
2 都は、手話を必要とする者が都政に関する情報を速やかに取得することができるよう、手話を用いた情報発信を行うものとする。
(都民及び事業者の役割)
第四条 都民及び事業者は、この条例の目的及び基本理念について理解を深めるよう努めるものとする。
(施策の推進)
第五条 都は、基本理念にのっとり、手話を使用しやすい環境を整備するために必要な施策を総合的かつ計画的に推進するものとする。
(学習機会の確保等)
第六条 都は、都民及び事業者が手話を学習する機会を確保するよう努めるものとする。
2 都は、東京都職員が手話に関する理解を深め、手話を学習することができるよう、環境の整備に努めるものとする。
(相談支援体制の整備及び拡充)
第七条 都は、区市町村その他の関係機関と連携して、乳幼児期からの切れ目ない相談支援体制の整備及び拡充に努めるものとする。
(手話通訳者の派遣のための人材確保、養成等)
第八条 都は、手話を必要とする者が手話通訳者の派遣等による意思疎通を図るための支援を受けられるよう、区市町村その他の関係機関と連携して、手話通訳者及びその指導者の確保、養成並びに手話技術及び専門性の向上に努めるものとする。
(事業者への支援)
第九条 都は、事業者が行う、手話を必要とする者が働きやすい環境を整備するための取組に対して、必要な支援を行うよう努めるものとする。
(学校における支援)
第十条 都は、手話を必要とする幼児、児童又は生徒が通う学校において、個々の特性に応じて手話を獲得し、手話を学び、手話で学ぶことができるよう、次に掲げる措置を講ずるよう努めるものとする。
 一 乳幼児期から手話を獲得し、又は習得するための切れ目ない学習環境を整備すること。
 二 教員その他の手話の獲得又は習得を支援する者(以下この号において「教員等」という。)に対し、手話に関する理解を深め、手話を習得し、技能を向上させるための研修を実施するなど、手話に通じた教員等の確保のために必要な支援を行うこと。
 三 手話を必要とする乳幼児、児童又は生徒の保護者等(保護者、祖父母、兄弟姉妹その他の生活を共にする者をいう。)に対し、手話に関する学習の機会を提供するとともに、教育に関する相談を受けるための環境を整備すること。
(医療等サービスにおける環境整備)
第十一条 都は、医療、介護、保健又は福祉に係るサービスを提供する者が行う、手話を必要とする者がサービスを利用しやすい環境を整備するための取組に対して、必要な施策を講ずるよう努めるものとする。
(手話の普及啓発)
第十二条 都は、手話に対する理解の促進及び手話の普及のための啓発活動を行うよう努めるものとする。
(手話に関する調査研究等)
第十三条 都は、手話の発展に資するため、大学等と連携して、調査研究の推進及びその成果の普及を支援するよう努めるものとする。
(災害時における措置)
第十四条 都は、災害その他の非常事態において、手話を必要とする者が必要な情報を迅速かつ的確に取得し、円滑に意思疎通を図ることができるよう、区市町村その他の関係機関と連携して、必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
(財政上の措置)
第十五条 都は、手話に関する施策を推進するため、必要な財政上の措置を講ずるよう努めるものとする。
附則
(施行期日)
1 この条例は、令和四年九月一日から施行する。
(検討)
2 この条例の施行後三年を経過した場合において、この条例の施行の状況及び手話を取り巻く状況等について検討し、時代の要請に適合するものとするために、必要な措置を講ずるものとする。
3 前項の検討を行うに当たっては、手話を必要とする者その他関係者の意見を反映させるため、これらの者の意見を聴く機会を設けるものとする。
(提案理由)
手話が独自の文法を持つ一つの言語であるという認識の下、手話を使用しやすい環境づくりを推進することにより、手話を必要とする者の意思疎通を行う権利が尊重され、安心して生活することができる共生社会を実現する必要がある。

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