東京発世界文化

このコーナーでは、東京から世界に向けて新しい文化や創造力を活かし活躍する「ヒト」、「モノ」、「コト」などを紹介してまいります。

今月は、東京の南580キロメートルに浮かぶ無人島、鳥島に生息するアホウドリををご紹介します。

アホウドリ
その愛らしい顔からは想像がつかないほどの大きな翼で、大海原を優雅に飛ぶアホウドリ。

絶滅の危機からの脱却 復活の大海原へ飛来するアホウドリ

 東京の南580キロメートル、太平洋に浮かぶ小さな火山島「鳥島(とりしま)」。都民の方にも、その名はあまり知られていません。鳥島は、高さ394メートル、周囲約6.5キロメートルに及ぶ、ほぼ円の形をした島です。今でこそ無人島ですが、1887年頃から1939年の鳥島再噴火までは、人々が生活を営んでいました。そこには、一時絶滅したと信じられた「アホウドリ」が生息しています。
 アホウドリは、今から100年程前までは、北太平洋のいたるところで見られる海鳥でしたが、羽毛を採るために乱獲されて1930年代半ばになると、鳥島だけに生き残り、その数およそ50羽にまで減少。そして、1939年の噴火では、アホウドリが巣を作っていた場所は、火山灰で埋まり、絶滅の一歩手前までおいやられてしまいました。
 1962年には、国の特別天然記念物に指定され、アホウドリは世界で最も数の少ない鳥のひとつとして日本だけではなく、外国でも保護されています。
 1951年、鳥島で10羽程が生き残って繁殖している事が確認され、その約50年後の2002年5月には、積極的保護事業が成功して、現在は鳥島と琉球諸島の尖閣(せんかく)諸島で総個体数推定約1650羽にのぼり、アホウドリは復活への離陸を開始しました。

 アホウドリは、全長約92センチメートル、体重約7キログラム。そして、翼を広げると、なんと約2.4メートルにもなるという北半球で一番大きな海鳥です。非常に細長く大きな翼を持つため、陸上よりも海上を住処にしています。海上を吹く風を巧みに利用して、ほとんど羽ばたく事なくグライダーのように水面ギリギリのところを物凄い速さで滑るように飛翔します。また、アホウドリという名前からは想像できないくらい、綺麗な体の色をしており、気品がある海鳥です。昔は大きく美しい鳥という意味で「おきのたゆう(沖の太夫)」や沖に住む立派な鳥という意味で「おきのじょう(沖の尉)」という呼び名もありました。餌は、日本近海だと、イカやトビウオ、甲殻類(おもにアミ類)です。これは、水中に潜水できないアホウドリが水面に浮きながら頭部だけを水中に入れて、くちばしで餌をくわえ取ったり、水面からくわえあげたりするためです。こうした採食行動から推測すると、アホウドリは、食物の多くを海面に浮上した海洋生物の新鮮な死体などに依存していると考えられ、海の掃除屋の役割も果たしていることになります。また、アホウドリの親鳥は、10月から5月にかけて鳥島や尖閣諸島で繁殖し、5月上旬から中旬には、ひなを残して北部北太平洋を目指して渡りの旅に出ます。残されたひなは、羽ばたきの練習をして飛び方をおぼえ、5月下旬から6月初めに海に出て、徐々に訓練を重ね、北部北太平洋に渡って行きます。若い鳥達が次に島に戻ってくるのは、平均では4歳ごろで、その期間の大半は大海原で生活を送っています。アホウドリの平均寿命は約20年で、計算上では50年も生き延びる鳥がいることもわかりました。今では、環境省や東京都、また、アホウドリの研究で世界的に有名な長谷川博先生らの努力が実をむすび、鳥島や尖閣諸島でその個体数を着実に伸ばしています。

鳥島
カーソルをのせると鳥島がご覧になれます。

アホウドリの個体数増加グラフ
アホウドリの雛

 この地球上から過去に例が無い程のスピードで様々な生物が絶滅しています。1年にどれくらいの種類が消えているのかは、正確にはわかっていませんが、毎年1万種を超えていると推測されています。今、世界中におよそ9千種類の鳥類が生息しており、そのうちの千百あまりの種類がこれから100年たらずのうちに絶滅してしまう恐れがあると言われています。これらの大量絶滅の原因には、人間が彼等の住む場所を破壊し、奪っている事にあるのではないでしょうか。たくさんの種の生物が住む場所を作り、絶滅の危機を救えるのも私達人間の手にかかっています。


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