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知事所信表明(要旨)

    1 首都圏としてのアイデンティティの確立     2 山積する課題への積極的対応     3 将来を展望した戦略的取組     4 アジア大都市との実効ある連携     5 おわりに

 平成13年第2回都議会定例会の開会に当たり、私の都政運営に対する所信の一端を申し述べ、都議会並びに都民の皆様のご理解とご協力を得たいと思います。

 ただいま、奥山則男議員は、栄えある30年の永年在職議員表彰をお受けになりました。更に、多年に渡り都政に貢献された9名の議員の皆様が、表彰をお受けになりました。都政の発展に尽くされた皆様の永年のご功績に対して、深く敬意を表し、心からお喜び申し上げます。

 国政では、1か月ほど前、国民の圧倒的な支持の中、新しい政権が誕生しました。もはや現状にそぐわない多くの制度、古い体質を早く変えて欲しいという国民の願いが、総意となって小泉内閣を創り出したのだと思います。

 小泉内閣の姿勢は、新しい時代の流れを巻き起こすため行動を開始した東京の理念と、相通ずるものがあります。新内閣に対しては、都民、国民とともに、歴代の内閣が成し得なかった改革を速やかに断行することを期待します。東京からは、日本を変えるために必要な政策を、これまでにも増して積極的に建言していきます。
   


1 首都圏としてのアイデンティティの確立

 日本を変えるためにまず必要なことは、首都圏を変えることであります。七都県市からなる首都圏は、イギリスに匹敵するGDPを誇り、3,300万人が居住する、世界でも類のない巨大文明都市圏を形成しています。
 しかし、今日の首都圏は、空港や幹線道路といった社会資本の整備が立ち後れているばかりでなく、凶悪犯罪、環境汚染など、わが国の危機の本質が、最も先鋭的に出現しております。
 首都圏は、七都県市が有機的に連携しながら首都機能を担っている、わが国でも特別な地域です。一致協力した取組があれば、今ある危機を乗り越え、更に発展を遂げることも十分に可能です。しかしこれまでは、国や地方自治体の中で、首都圏全域を眺めようとする意識が希薄でした。
 東京都は、首都圏が一体となって強い力を発揮できるよう、様々な角度から、改革に取り組んでいます。

(首都圏の再生に向けた緊急対策)
 今我々が、最優先で取り組むべき課題は、わが国の牽引役として、首都圏の活力を復元させることです。
 集中的、重点的な投資は、首都圏の再生に欠かせないものであり、現下の緊急課題である景気対策としても、高い効果が期待できます。東京都は、これまで、首都圏に集中的に国費を投入するよう、再三訴えており、3月には、国が緊急に取り組むべき事業として、総額10兆円のプロジェクトを与党3党に提言しました。
 国は、我々の主張にようやく耳を傾け、4月に決定した「緊急経済対策」の中で、都市の再生を柱の1つに位置付けました。先月、「都市再生本部」が設置され、現在、具体策の検討が進められています。
 私は、東京都の考えが国の政策に反映されるよう、都市再生本部の設置に合わせ、副知事を座長とするプロジェクトチームを庁内に立ち上げ、十全の体制を整えました。先日は、総理大臣と面談し、与党3党にも提案した10兆円プロジェクトなど、首都圏の再生策を建言しました。総理大臣とは、連携を深めながら、協同して再生に取り組むことで合意できました。
 引き続き、七都県市とも意見を交換しながら、国に対し積極的に発言し、都民、国民が得心できる政策の実現を目指します。
 急を要するプロジェクトの中でも、3環状道路は、大きな整備効果が見込まれる、とりわけ優先度の高い事業です。
 このうち、外かん道の東京区間は、事業が凍結されたまま、当初の都市計画決定から35年が経過し、この間、社会経済情勢は大きく変化しています。東京都と国は、計画の見直しが不可欠であるとの認識に立ち、この4月、幅広い議論の素材として、地下方式による新しい計画のたたき台を地元に提案しました。
 現在、たたき台を基に地元説明会を開催し、対話を進めていますが、地元の住民からは、原点に立ち返った話合いが求められています。
 私は、地元の意向を踏まえた対応が必要であると考え、過日、国土交通大臣に対し、現時点での国としての見解を示し、その上で広く議論するための新たな協議の場を設けるよう、要請しました。要請に対し、大臣からは、話合いの場を設置する旨回答があり、その後、国会でも同じ趣旨の発言がありました。
 今後、こうした場を通じて、より多くの方々と議論を重ねることにより、外かん道については、新たな段階に進むことができると思います。

(中長期を展望した新たな首都像の確立)
 首都圏の将来を考える場合、緊急の取組だけでなく、日本の首都として、また、アジアを代表する世界都市として、中長期を展望した構想を持つ必要があります。
 4月に提唱した「首都圏メガロポリス構想」は、21世紀における新たな首都像を描き、その実現に必要な広域的政策を、ハード・ソフトの両面から取りまとめたものです。
 構想では、広域的な防災連携拠点、物流システムなどを整備し、それぞれの地域が特性に応じた機能を分担しながら、緊密なネットワークを構築することを目指しています。そこから、集積のメリットを発揮した新しいメガロポリスが生まれることになります。
 構想で掲げた基本的な社会資本が整備されれば、区部の通過交通量は3割減少し、圏域全体の自動車走行速度も1割向上する見込みです。
 この秋に策定する「東京の新しい都市づくりビジョン」に構想の内容を反映させるなど、今後、多方面で活用しながら、首都圏の都市づくりを進めていきたいと思います。

(広域化に対応した自治制度の改革)
 社会が時間的、空間的にますます狭小になる中、交通渋滞や大気汚染、水質汚濁など、単独の地方自治体では解決できない多くの問題が、地域を超えて広がり、社会の安寧を脅かしております。住民は、行政区域を特に意識することなく、広範に活動するようになっており、「地域」「地方自治体」の意義が大きく変容しております。地方自治体は、こうした変化を敏感に受け止め、自らを見直す必要があります。
 このたび策定に着手した「都政改革ビジョンⅡ」では、これからの首都圏における自治体のあり方について、制度改革を含む具体的提言を行います。課題に聖域を設けることなく、歴史的必然である道州制をも視野に入れながら、現行の都道府県制度にとらわれない広域的自治体の姿や、基礎的自治体の将来像についても、検討したいと考えています。
 多数の関係者を巻き込んで、大いに議論するつもりです。都議会の皆様からもご意見をお願いします。
 これまで、「首都圏」は、非常に漠然とした概念に過ぎませんが、東京の取組が契機となり、首都圏としてのアイデンティティが芽生えつつあります。首都圏をどの様な形にしていくのかを考えることは、国家100年の計を考えることです。東京のため、そして日本のためにも、首都圏の発展に力を注ぎたいと思います。
 ご理解とご協力をお願いします。
   


2 山積する課題への積極的対応

(震災後の計画的都市づくり)
 東京は、首都圏の核として、国家を支える政治経済の中枢機能が集中しているばかりでなく、区部だけに限っても、800万以上の住民が生活する、最も稠密な人口を抱えた地域です。
 区部に阪神・淡路大震災と同程度の直下型地震が発生した場合、火災による被害は、木造住宅密集地域を中心に、神戸市の焼失面積の100倍以上である、9,600haにも達すると想定されています。東京は災害に対し、非常に脆弱な都市であることを直視する必要があります。
 このたび策定した「震災復興グランドデザイン」は、平時の防災都市づくりに加え、わが国ではじめて、被災後における都市復興のあり方を示したものです。震災からの復興を機に、東京のまちを抜本的に改造し、震災による被害を2度と繰り返すことのない、安全な都市とすることが、この計画の最大の眼目です。復興の過程で市街地が無秩序に形成されることを防ぐため、被災状況に応じた整備手法を提示するなど、計画的な都市づくりに力点を置いています。
 実現にあたっては、財源、執行体制、法制度などが大きな課題となります。とりわけ、現行の法令には制約が多く、今ある枠組みの中で計画的な復興を迅速に進めることは、事実上不可能です。建築制限の強化や、土地の買収・収用を可能にする新たな土地区画整理事業の創設など、法制度を見直すよう、国に対し、強く働きかけます。

(三宅島支援体制の強化)
 三宅島は、最初の火山活動から1年が経過しようとしています。過日、火山噴火予知連絡会からは、火山の活動は全体としては低下傾向にあり、大規模な噴火の可能性は低いとの見解が示されました。しかし今なお、多量の火山ガスの放出が続いており、危険な状況であることに、何ら変わりはありません。
 現地では、火山の観測体制を整備し、本格的な復旧作業に向けた事前の準備を行うため、20名程度の関係者が夜間滞在を開始しました。今月中には、対策を強化するため、滞在者を100名以上増員する予定です。
 また、退避されている方々への新たな支援として、この春、八王子市で、「げんき農場」と名付けた農園を開設しました。島の特産物の生産を通して、雇用や交流の機会が拡大することを期待します。

(医療・福祉改革の確実な実行)
 医療と福祉は、都民生活に直結した、最も基本的な領域でありながら、これまでは、画一的な内容のサービスが多く、選択の余地はほとんどありませんでした。ライフスタイルや意識の変化、急速な高齢化は、新たな需要を生みだしており、利用者の要望を満たす多様なサービスの提供が、強く求められています。
 医療における大きな問題は、患者が弱い立場に置かれ、十分な情報提供や納得のいく説明が行われていないことです。この様な事態を解消し、患者からの意見や疑問に応えるため、先月7日、「患者の声相談窓口」を開設しました。開始当初から多くの反響を呼び、これまでに1,500件近い相談が窓口に寄せられています。都民の切実な声を、医療従事者の意識改革や、透明性の確保につなげていきたいと思います。
 都立病院では、医療機能の見直しや経営効率の向上が喫緊の課題となっています。この夏に答申を受ける都立病院改革会議の検討結果を踏まえ、具体的な改革に着手します。
 こうした取組を通じて、「東京発の医療改革」を精力的に推進します。
 福祉の分野では、大都市の特性に合わせて、国の基準や規制を見直した東京独自の認証保育所が、この夏にも開設できる見込みとなりました。事業者、利用者双方から高い関心を集めており、今後、都市型保育の新しいモデルになるものと考えます。
 東京都は、これまで、医療と福祉に関する一連のプランを策定し、改革に向けた布石を打ってきました。今年は、実行の年として、都民が変化を実感できる政策を確実に進めながら、更なる改革に取り組んでいきます。

(都市産業としての観光政策の充実)
 観光は、世界の主要国、主要都市が力を入れて取り組んでいる産業です。観光産業の成長は、経済の発展に大きな役割を果たします。
 しかし、海外から東京を訪れる観光客は年間300万人に満たず、600万人を超える観光客を集めるニューヨークに、遠く及びません。GDPに占める観光収入の割合も、わが国は、世界の主要国の中で最低の水準になっています。
 これからは、東京の産業を活性化し、同時に都市としての魅力を高めるため、産業政策の新しい柱として、観光の一層の振興に努力します。目標は、東京の集客力を高めることであり、そのために必要な方策を盛り込んだ「観光産業振興プラン」の素案を近く発表します。
 来年開催されるワールドカップは、東京にとっても、多くの観光客を呼び込む絶好の機会となります。こうした好機をシティセールスの場として最大限に活用できるよう、素案の中では、外国語による標識や観光情報の充実、観光ボランティアの育成など、早急に取り組むべき事業を数多く示す予定です。観光資源の開発やコンベンションの誘致といった観光産業の振興策についても、具体的な事業内容を打ち出します。
 観光は、都民、民間企業、区市町村などと広く連携しない限り、大きな発展を望むことは不可能です。関係者の意識が高まるよう、素案について積極的に意見を求めながら、この秋に最終的なプランを取りまとめます。

(教科書の適正な採択)
 高名な歴史学者トインビーは、主著「歴史の研究」の中で、国家衰退の決定的要因は、国家が自己決定能力を欠くことだと記しています。
 国家ばかりでなく、決めるべき立場にある組織や人が決断を放棄したとき、それは自らの存在価値を自己否定することになります。教育の現場では、まさにその様な事態が発生しています。すなわち、教科書の採択は、教育委員会の重要な役割でありながら、下部組織からの報告をそのまま追認するなど、職責を果たしているとは言えない教育委員会が多く存在しています。
 教育委員会は、責任の重さを自覚し、これまでの対応を改める必要があります。今年は、8月までに新学習指導要領に基づく新しい教科書を採択することになっており、この2か月が非常に大切な時期となります。
 東京都教育委員会では、現在、新しい教科書について、内容、構成、表現などの点で、教科書ごとの違いが明確に分かるよう、調査研究を進めています。近く、結果を「教科書調査研究資料」として取りまとめ、公表する予定です。
 区市町村の教育委員会には、東京都の資料を有効に活用しながら、適正かつ公正に教科書を採択されることを、強く要請します。


3 将来を展望した戦略的取組

(財政再建の継続)
 財政再建は、最重要課題の1つです。
 職員給与の削減や外形標準課税の導入を実現し、財源不足額を圧縮するなど、一定の成果を収めることができたと考えています。
 しかし、12年度決算においても3年連続の赤字は避けられない状況であり、財政再建の歩みを止めれば、毎年度2,000億円から3,000億円の赤字が発生し、財政構造は悪化の一途をたどることになります。
 都財政の厳しい状況を考えた場合、引き続き構造改革を推進して財源不足を早期に解消するとともに、施策のスクラップ・アンド・ビルドを徹底することが不可欠です。財政再建が達成できるまで、更なる努力を重ねます。
 よろしくご協力をお願いします。

(重要施策の選定)
 一方、最近の都庁では、財政危機を過剰に意識し、一律に経費を削減しようとするあまり、新しい施策を生み出したり、既定の事業を積極的に再構築しようとする前衛的な気概が失われようとしています。財政再建と重要な施策の積極的展開は、決して相容れないものではありません。今なすべきことは、政策論議を活発に行うことで、首都東京にとって必要な事業を厳しく見極め、果敢に実行することです。
 このため、予算査定に先立ち、来年度重点的に取り組む優先度の高い施策を「重要施策」として選定することにしました。近く基本方針を示し、庁内に新しい考えを徹底します。
 重要施策に位置付けた事業には、予算や人員を優先的に措置し、総力を挙げて取り組みます。重要施策の選定を通して、都政がどの様な分野に重点を置くのか、東京の進む方向を明確にします。


4 アジア大都市との実効ある連携

 今世紀、アジアが、国際社会の中で重要な役割を果たしていくために、東京は、「アジア大都市ネットワーク21」の構築を提唱しています。ネットワークが形成されれば、東京は、アジアの大都市とともに、新技術・新製品の開発や、産業の育成、都市問題の解決、新しい文化の創造などを進めることができます。
 すでにバンコク、台北などアジアの各地域を代表する10以上の都市が参加を表明しており、10月に、東京で第1回本会議を開催します。来週には、本会議に先立ち、デリーなど共同提唱都市との間で実務者会議を開き、共同で取り組む事業や運営方針などを協議する予定です。
 アジアにおける新たな連携を通じて、実りある都市外交を展開したいと考えています。


5 おわりに

 皆様にとりましては、本議会が、現任期における最後の定例会となります。
 ともに都民の負託を受けた政治家として、皆様とは、2年余にわたり、非常に活発な議論を重ねることができ、新しい友情を育むこともできたと感じています。

 東京の発展にご尽力された皆様方に、心より感謝します。

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