年金、医療などの後退や倒産、リストラの中、都民は将来への不安を強めている。都政においては、1年前、シルバーパスの全面有料化、老人医療費助成と老人福祉手当の段階的廃止、障害者やひとり親家庭の医療費有料化、特別養護老人ホームへの補助金の大幅カットなど、福祉切捨てが行われ、その痛みが広がる中、東京の福祉はどうなるのかという心配と怒りの声が広がっている。
〔1〕シルバーパスが全面有料化され、住民税課税者が2万510円の費用負担となった。2万510円の対象となる住民税課税者は、高齢者の3人に1人に及ぶ。その上、住民税非課税者の人まで1,000円の費用負担が導入された。介護保険の負担、医療費値上げ、都営住宅家賃の免除がなくなり、負担が増えた人もいる。東京の高齢者のうち、おおよそ50万人は月額4万円以下の国民年金受給者と推計できるが、その人たちにさえ容赦なく負担が押し寄せているのである。しかも、1,000円という負担額も条例で決められているのではなく、議会にかけず知事の裁量で改定できる仕組みであり、いつまでも1,000円という保証はない。この見直しに加え、交付方式が変更され、わざわざバスの営業所などに行って受け取ることになった負担も重なり、今まで無料パスだった78万人のうち、10万5,000人が利用をやめる結果となった。今後、5,000円のパスの値上げが続いたら、シルバーパスの利用者は更に減って、お年寄りの社会参加の機会と生きがいを奪うことになる。知事の見解を伺う。シルバーパスは、高齢者の社会参加促進と生きがい支援のための主要な柱となる施策である。通院、買い物など日常生活にとってなくてはならない足となっている。高齢者、障害者の社会参加の保障を国全体でつくり上げようとしているときに、首都東京がそのシルバーパスを大きく後退させたことほど、時代に逆行することはない。シルバーパスと同様の制度は、全国300の自治体に広がり、400万人の高齢者が利用している。政令市はすべて実施しており、12市のうち9市は所得制限なしの無料交付であり、東京のように後退させたところは1つもない。知事は、シルバーパスの意義、役割について一体どの様に考えているのか。(ウ)名古屋、札幌、千葉、横浜、大阪、神戸、広島の7市は、第三セクターのモノレールなどにも敬老パスを適用している。知事がシルバーパスの意義、役割が重要だと考えるならば、東京でも多摩モノレールにも対象を広げるべきではないか。
〔2〕マル福の段階的廃止も、都民の中で大問題になっている。マル福は既に9万6,000人が門前払いとなり、今後更に対象者が減って、2006年に廃止される。マル福があると、今は1割負担。無い場合は、国保で3割、退職者国保で2割負担であり、今回のマル福見直しで、今後65歳からの医療費負担は2倍から3倍の負担増になる。医師や多くの都民から、受診抑制につながるとの声が上がっている。このことをどう考えているのか。知事の答弁を求める。都の患者調査の結果によれば、医療機関にかかる受療率は60代から急上昇し、通院患者数は、65歳から69歳が7万6,500人で最多数、70歳から74歳の人よりも多くなっている。客観的に見て、60代の高齢初期の方に対する医療的支援の重要性が非常に高いことは明らかである。高血圧、糖尿病、高脂血症など、高齢者につきものの慢性疾患が多くなるのも60代である。例えば、糖尿病の場合、早期発見、早期治療を行い、継続した治療と健康管理を行えば、軽症のまま抑えることができるが、発見が遅れたり、治療の中断があれば重症化し、失明や寝たきりに至る危険が多くなる。しかも、65歳ぐらいの高齢期に入ると、病気の特徴が大きく変わり、一人で幾つもの病気をあわせ持ち、複数の医療機関にかかるようになること、しかも長期化することも、都の老人医療センタセンターをはじめ多くの医療関係者が指摘しているところである。つまり、この年代は様々な形で医療費の負担が増え、しかもそれが継続的に必要となる。ところが、一方で年金生活に入り、収入は大きく落ち込むという構造があるのである。知事、高齢初期に病気の早期発見、早期治療を行い、医療を継続することが病気の重症化を防ぎ、ひいては介護予防のためにも非常に重要であるということについても、認めないのか。答弁を求める。高齢初期の医療費助成は重要であり、これを実施している11の政令指定都市のうち、見直しはしても東京のように廃止するところは1つもない。私は、知事が都民の暮らし、福祉を守る立場で都政に当たり、国に対しても働きかけるよう求めるものである。見解を伺う。
福祉の復活は、多くの都民の共通の願いである。都の調査でも、都政に対する都民要望の第1位は、この15年間にわたり高齢者対策である。つまり、高齢者福祉は都民全体に共通する要求であり、都政の中で特別の位置付けで取り組む必要がある。わが党は、切り捨てられた福祉の復活を目指し、都民の皆さんの力を合わせて全力を尽くすものである。
〔3〕もう1つの重要な問題は、介護保険についてである。10月から、65歳以上の方の保険料が2倍に引き上げられる。その通知を受け取った高齢者からは、驚きと怒りの声が上がっている。誰もが安心して介護が受けられる制度にするために、何とかしてほしいという切実な声は一層高まっている。知事は、先の予算議会で、社会福祉法人等による利用者負担の軽減措置の活用に向けた区市町村の努力に対し、都としての支援策をできるだけ早く検討し、行いたいと表明したが、都として本格的な利用料減免制度を1日も早くつくり、実現することが求められている。その際、第1に、国の特別対策に対し、対象サービスや事業主体を拡大するとともに、所得制限をできるだけ緩やかにして、都民が利用しやすくすること。第2に、社会福祉法人をはじめとする事業者負担はできるだけ軽減し、事業者にとっても実施しやすいものにすること。第3に、区市町村が既に行っている利用料減免を妨げず、一層充実できるようにすべきである。以上について見解を求める。更に重要なことは、利用料の減免だけではなく、保険料の減免制度実施を国に要求すると同時に、都として踏み出すことである。厚生労働省の調査によれば、既に139の市町村で保険料減免に踏み出し、その数はこの半年で倍増している。この流れは10月の保険料2倍引上げが近づくにつれ加速することは明らかである。東京でも1区14市の自治体が独自の保険料減免に踏み出しているが、都民の切実な願いにこたえるためには都として支援に踏み出すことが必要だ。答弁を求める。
今述べたシルバーパスや老人医療費助成の復活、介護保険の減免に踏み出すことは財政的にも困難なことではない。シルバーパスを元に戻すのに必要な予算は20億円、老人医療費助成を元に戻すのに必要なのは54億円。介護保険の保険料、利用料減免に必要なのは85億円であり、切り捨てられた福祉の10事業と介護保険の減免を合わせても490億円で済む。社会基盤整備基金や大型開発の資金の一部を充てるだけでも実現可能であることを指摘しておく。
知 事 〔1〕シルバーパス制度を含む経済給付的事業については、制度発足後の社会経済状況の変化を踏まえ、負担の公平や制度間の整合性の確保などの観点に立って福祉改革の一環として見直しを行った。福祉改革推進プランにおいては、5,200億円を超える財源を集中投入し、福祉サービスの充実に向けた基盤整備などに取り組むことにしている。シルバーパスについては、新しい制度の元、多くの高齢者がパスの発行を受け、社会参加と生きがいの活動に活用していただいており、パス本来の目的に十分沿っていると考えている。
〔2〕保険料収入が伸び悩み、他方では老人医療費が国民所得を上回る伸びを示す中、高齢者医療の負担と給付の問題は国民的課題である。国も、平成14年度を目途に高齢者医療制度の見直しについて検討している。昨年の都における老人医療費助成制度の見直しに当たっては、経過措置として、これまで対象となっていた方が国の老人保健制度の対象となるまで引き続き助成していく。全体として、必要な医療は確保されているものと認識している。
福祉局長 〔1〕シルバーパスは高齢者の社会参加を助長し、福祉の向上を図ることを目的としている制度である。若年世代との負担の不公平などの課題があったことから、制度を存続させるために見直しを行った。新しい制度の元で、多くの高齢者に引き続きご活用いただいており、十分理解を得ているものと考えている。シルバーパスは都電、都営地下鉄及び路線バスを対象とするものであり、新たな対象の拡大は考えていない。
〔2〕病気を早期に発見し治療を行うことは、重症化の防止や介護予防のために重要なことと認識している。現行の医療保険制度においても、高額療養費の支給により、実質的に一定の負担限度内で医療が受けられるとともに、低所得者に対しては、一部負担金の減免や食事療養費の減額制度もあり、60歳代も含め、真に必要な医療は確保されていると考えている。また、早期発見や予防という観点から、老人保健法に基づく健康診査、健康相談などの各種保健事業や、見直しにより新たに立ち上げた高齢者いきいき事業の積極的な展開も図っている。老人医療費助成制度は昭和44年に開始したが、その後、老人保健法の施行や高額療養費支給制度の創設等により、医療保険制度は格段に充実している。これに加え、年金給付水準が改善されたことや、若年世代との間に負担の不公平が生じていることなどから、福祉改革の一環として見直しを行ったものであり、見直しに合わせ、利用者本位の視点に立った施策を積極的に展開している。したがって、本制度を元に戻すことや、国への働きかけを行うことは考えていない。なお、老人医療費助成を実施している県のうち、約半数は見直しを予定していると聞いている。
〔3〕先の第1回東京都議会定例会予算特別委員会において、国の特別対策である本措置に関し、事業主体及び対象サービスの拡大並びに事業者負担の軽減を図るよう、ご提案をいただいた。介護保険制度においては、既に所得に応じた限度額の設定や特別対策による減免措置が講じられており、低所得者に対する一定の配慮はなされていると認識している。しかしながら、区市町村が事業者負担という制度の根幹は堅持しながら、本措置の活用に向けて工夫を凝らすことは有意義である。サービスを利用していない人との公平に配慮した支援策について、都として現在検討を行っている。なお、区市町村が独自に講じている利用者負担の減免措置に対する支援は考えていない。介護保険制度では、すべての被保険者が公平に保険料を負担することが、制度の健全かつ円滑な運営のために不可欠であると認識している。既に本制度においては、低所得者への配慮として、所得に応じた保険料設定方式が設けられており、かつ、保険料率などの弾力化も可能とされている。国民の共同連帯を理念とした介護保険制度について、都としては、ご提案のような取組は考えていない。
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