
新たな三多摩格差の解消
質問1
三多摩格差、いわゆる多摩地区と区部の行政サービスの差について一般質問をさせていただきます。
現在、十九回目の国勢調査が行われております。年末には速報値が発表され、最新の人口、世帯の実態が明らかになり、私たちの暮らしのさまざまな分野に役立てられると期待しているところであります。
前回の調査、平成十七年の国勢調査では、日本の総人口は大正九年に調査を始めて以来、前回を下回りましたが、東京についていえば、人口がふえた十五都道府県の中にあっても最も増加数が多く、そして、多摩地区の人口も初めて四百万人を突破した節目の年でありました。
多摩地区の人口を道府県と比較すると、福岡県の五百万人に次ぎ八番目、静岡県の三百七十万人より多い地域となります。多摩地区の人口推移は、昭和三十年の九十八万人、四十年の百三十万人、五十年二百九十万人、そして昭和六十年には三百三十万人へと、人口が一貫して増加していることがわかります。特に、高度経済成長期である昭和三十年から昭和五十年にかけて二百万人もふえています。
多摩地区は、高度経済成長期の人口急増により急激に都市化が進み、交通基盤の未整備や住宅、小学校、中学校、保育園などの不足といったさまざまな都市の問題を発生させました。
このような背景のもとに、昭和五十年の都市町村協議会において、三多摩格差八課題が設定された歴史があります。そして、平成十二年、東京都は多摩の現状分析報告書の中で、三多摩格差の八課題について、既にかなりの部分で解消したと明らかにし、残る課題については、地域的、個別的なものであるとして、問題の質が変化してきているものだと総括をしております。
しかし、現実を直視すると、NTT東日本市外局番の統一化、中央自動車道の高井戸から八王子間と首都高速四号新宿線の同時利用料金といった、多くの隠れた三多摩格差があるのも事実であります。
また、区部と多摩地区の財政力には大きな差があります。これを平成二十二年度の財政力指数から見てみると、区部は一・五七一ポイント、多摩二十六市の平均は一・〇五六ポイントでありますから、いかに区部が財政的に豊かであるかがわかります。
この財政力の差が、同じ都民でありながら行政サービスの差になってあらわれています。
例えば、医療費助成事業であります。乳幼児の医療費助成については、区部、市町村とも同様の内容で実施していますが、義務教育就学児、いわゆる小学生と中学生に対する医療費助成に当たっては、区部は所得制限を導入しないで実施しています。
しかし、多摩地区の市町村は、所得制限を導入して実施しているのが二十七市町村、所得制限を入れない市町村は十二団体、その上、助成割合でも差が出ております。多くの市町村は通院一回当たり二百円の自己負担があります。しかし、区部では自己負担はなく、全額助成になっております。
ここまでは格差の実態をお示ししてきましたけれども、これからが本題になります。気象庁は、ことしの夏の猛暑を三十年に一度の異常気象と認定いたしました。関東は七月十七日に梅雨明けしましたが、この間、寒気の南下やオホーツク海高気圧の発生は少なく、六月の全国の平均気温は平年比プラス一・二四度と高温で推移しました。
そして、梅雨明け前後の七月半ば以降、太平洋高気圧の勢力が強まり、全国で猛暑に見舞われました。そして九月に入っても、九月として最高気温を観測するなど、厳しい残暑となったことは皆さんもご承知のとおりであります。
この猛暑により病院に搬送された方は六万人を超えています。このような厳しい環境の中、エアコンのない教室で授業を受けているのが多摩地区の小学校、中学校に通う児童であります。
昭和五十年の都市町村協議会において設定された三多摩格差八課題の一つに、小学校の体育館の保有率がありました。当時、多摩地区の保有率は七六・六%、区部は九八・五%というように大きな格差がありました。東京都は保有率一○○%に向けて支援を行い、平成十二年に東京都が格差の総括をしたときには九九・四%に改善されていました。
ここで新たに三多摩格差を設定するとしたならば、医療費助成における区部と多摩地区のサービス差を挙げることもできます。しかし、今回は小学校と中学校の普通教室への冷房設置状況から、三多摩格差を議論させていただきます。
読売新聞からの引用になりますが、新学期が始まった学校で、子どもたちは猛暑にあえいでいる、東京の区部などを除き、公立の小学校、中学校の教室の冷房化率は低く、夏休みで家庭の冷房になれた子どもたちの健康や学習への影響が懸念されると掲載されていました。夏季の教室温度は三十度以下が望ましく、学習に集中できるのは二十八度から二十五度となっています。
文部科学省の調べでは、全国の公立の小学校、中学校普通教室の冷房設置率は、平成十九年度現在でありますが、一○・二%であります。
そこでお聞きしますが、区立小学校、中学校、多摩地区の市立小学校、中学校の冷房設置状況について、それぞれお答えください。
答弁1
教育長
小中学校の冷房設置状況についてでございます。
普通教室に冷房が設置されている学校の割合は、今年度末見込みで、区立小学校が九六・五%、区立中学校が九五・一%でございます。島しょを含む市町村立の学校につきましては、小学校が二二・五%、中学校が二二・四%でございます。
質問2
そして、区部と多摩地区の冷房設置状況の差について、教育庁はどのように認識されているのか、お伺いいたします。
答弁2
教育長
冷房設置状況の差についてでございます。
学校の施設設備の整備は、学校の設置者が行うこととなっており、公立小中学校への冷房設置についても、設置者である各区市町村がさまざまな行政課題を抱える中、地域の実情、特性等を踏まえながら、それぞれの考え方に基づき対応してきているところでございます。
なお、ことしの夏は百十三年間の観測史上で第一位の平均気温となる記録的猛暑であったために、多くの市町村において、教室の暑さ対策が緊急に取り組むべき新たな課題となってきたものでございます。
質問3
読売新聞によれば、区部は一○○%設置してあるかのように読み取れたわけでありますが、一方、九月三日、杉並区は、区立小学校、中学校の普通教室に冷房を設置すると発表しました。
杉並区は、学校のエコスクール化として、自然エネルギーを活用し、快適な学習環境を確保するために取り組みをしてきた経過から、一定の条件、例えば幹線道路沿いで窓をあけられない学校といったケースに限定的にエアコンを設置してきました。しかし、緑化などで涼しくなるのは二度から三度、ことしのような猛暑が続けばほとんど効果がないとし、未設置校は来年に向け、順次エアコンを設置するとしました。
片や、東京都市長会は十一月四日に、公立小中学校空調機器整備に対する支援についてとして、都知事及び教育長に要望書を提出しました。内容は、冷房化を推進するための東京都からの財政支援と国の補助制度の改正でありますが、多摩地区の市町村と杉並区の財政力の差が、このように猛暑対策の差となってあらわれてきているのが実態であります。
私は八王子選出でありますから、八王子にある私立の八つの中学校冷房化状況を調べました。普通教室はすべて導入されていました。一方、公立の小学校、中学校は百八校、冷房化率は三・七%であります。導入している学校は航空機騒音に対して設置されたものでありますから、市として積極的に導入したものではありませんので、実質的には未設置ということになります。
八王子市内にあっても、私立と公立に格差が生じている現実もあります。普通教室の数は千五百であります。一教室二百万とすれば三十億円であります。国の補助制度は三分の一です。しかし、財政力指数が一を超えると、七分の二の補助率に下がります。また、事業費全額が補助対象になりません。八王子市にあっては、単純計算になりますが、二十一億円以上の一般財源が必要となります。
整備は多摩地区の市町村の置かれた財政問題で総括することなく、子どもの健康や学習環境の向上から早急な設置が必要と考えますが、東京都としてどのような支援をお考えなのか、お答えをいただきたいと思います。
答弁3
教育長
冷房設置に対する都としての支援についてでございます。
各市町村は、学校の施設設備の整備に関し、耐震化や老朽化対策といった重要な課題を抱える中、ことしの記録的な猛暑に伴って、冷房化という新たな課題も加わり、限られた財源の中で、その対応に苦慮しております。
こうした状況を踏まえ、良好な教育環境の確保を目的として、学校設置者に対する新たな財政支援策を検討してまいります。
質問4
次に、第六十八回国民体育大会について質問をしていきます。
平成二十五年九月から十月にかけ、東京で五十四年ぶりの国民体育大会と第十三回全国障害者スポーツ大会が開催されます。周知のとおり、国民体育大会は戦後の荒廃の混乱の中、スポーツを通じて国民に勇気と希望を与えようと、昭和二十一年から始まった我が国最大のスポーツの祭典であります。
また、全国障害者スポーツ大会は、毎年一回開催されている障害者スポーツの全国的な祭典であります。東京での開催は、昭和三十四年第十四回大会に続き、実に五十四年ぶりとなります。
大会は都内六十二の全区市町村でありますが、そのうち正式競技は四十五の市区町村の会場で開催されます。競技の多くは市町村になっており、また、デモンストレーションとしてのスポーツ行事に至っては、五十二市区町村のうち三十四の市町村が会場になるといった、多摩地区を中心に開催されるのが今回の東京で開催する特徴であるといえます。
平成二十二年七月、財団法人日本体育協会理事会において東京都で開催することが決定され、これを受けて、会場となる各市区町村は実行委員会を組織し、具体的な準備業務に入っています。
本大会は平成二十五年でありますが、前年度にはリハーサル大会も開催し、厳しいスケジュールであります。大会開催に向け、ご尽力されている関係者の皆様には敬意を表するものであります。
そこで、国体開催に当たって、財政支援という視点で、都の考えを確認していきたいと思います。
平成二十二年一月に改定した「十年後の東京」への実行プログラム二○一○の目標八は、スポーツを通じ次代を担う子どもたちに夢を与えるというものです。そこには人と環境に優しい大会運営、そのために会場となる区市町村の施設整備等を支援し、会場やその周辺のユニバーサルデザイン化を推進していくと述べています。
国体を成功裏に終わらせるためには、開催に向けた万全の準備が重要であります。そのため、会場地の区市町村は、競技会の会場地として必要な業務の計画の策定、実施、そして競技会実施の準備や運営といったさまざまな仕事を分担するようになり、当然これらを実行していくためには多くの経費がかかってきます。
また、競技会場、そして練習会場となる施設や設備についても、選手、監督、大会関係者及び観覧者に満足していただける整備が求められていきます。もとより、時代に適応した簡素効率化の視点に立った、最小の経費で最大の効果を上げる大会運営でなければならないことも認識しているところであります。
そこで、踏み込んで具体的な質問をしていきます。
都は、財政支援は、会場地区市町村運営交付金制度によって、予算の範囲内で、会場地区市町村に対して運営費交付金として交付するようになっております。交付率は、交付対象経費の二分の一であります。ことし実施している千葉県は三分の二、過去の各県の国体補助を見ても、補助率は三分の二であります。
また、競技施設についても、中央競技団体の正規視察において、選手や観覧者の安全面や運営上の問題からの指摘を受け、想定外の高度な整備をしているのが実態であります。
施設整備に対する財政支援は二分の一で、一施設の上限額は一億円であります。想定外の施設設備を整備している現場から、厳しい財政状況に対し悲鳴が上がっております。大会運営に支障がないよう、上限額の撤廃あるいは補助率、補助対象経費の改善を図り、目標八にある政策の方向性、すなわちスポーツの振興を通じ競技力の向上と生涯を健康に過ごせる社会を実現するために、施設の整備をする絶好の機会でもあります。
しかし、区部と市町村の財政力の差あるいはスポーツ施設の差から、区部と多摩への支援の違いがあるべきと考えます。実行プログラムに示してある区市町村への支援について、具体的にどのような財政支援を予定しているのか、お答えください。
答弁4
スポーツ振興局長
国体開催にかかわる会場地区市町村への財政支援についてでございますが、競技施設整備費補助制度は、これまで国体を開催してきた各県で実施している制度を参考に、国体の競技実施に必要不可欠な整備事業を対象として、平成二十年度から実施しております。
上限額を他県より高く設定するほか、二十一年度からは、福祉のまちづくりに資する整備事業を補助対象に加えるなど、きめ細かな対応を行っているところでございます。
また、運営費につきましては、現在、区市町村の意見を聞きながら、詳細な検討を進めているところでございます。
スポーツ祭東京二○一三は、多摩・島しょ地域を中心に、東京都全域で開催する大会でありまして、多くの競技会を実施する多摩の市町村において、スポーツ環境の整備が進むよう、引き続き支援してまいります。
質問5
また、スポーツ施設の三多摩格差を解消する好機ととらえ、さらなる財政支援の必要があると考えますが、お伺いいたします。
答弁5
総務局長
今後の多摩振興への取り組みについてでございます。
多摩の振興に当たっては、地域の抱えるさまざまな課題を踏まえつつ、多摩の発展の可能性や特性などを生かすという視点から取り組むことが重要でございます。
このため、都は、社会情勢の変化に対応しながら、多摩振興プロジェクトなどにより、都市基盤の整備や産業振興、福祉、医療の充実など、首都圏の中核拠点としての発展に向けた取り組みを進めてまいりました。
また、市町村が行う地域の課題解決に向けた取り組みに対して、その自主性、自立性を尊重しつつ、必要な財政的、人的支援を行ってまいりました。
今後とも、都は、多摩振興プロジェクトを着実に推進していくとともに、市町村の意向を十分に踏まえ、密接に連携しながら多摩の一層の振興を図ってまいります。
以上、個別の事案から三多摩格差の問題を提起し、質問をしてきました。
私の認識として、例えば都区市町村協議会の設置など、東京都民が区部と多摩地区、住む場所に関係なく標準的な行政サービスが受けられているかどうか議論する時期に来ていると考えます。
現実には、今述べてきたように、東京一極集中による社会経済環境の変化が豊かな財政力を都、区部にもたらしました。その結果、質的にも高度な行政サービスを提供できるようになり、区部と多摩において新たな行政サービスの差が生じているのではないでしょうか。
東京都は、平成十二年に三多摩格差は解消したと総括しました。量的には充足されたと理解することもできますが、今申し上げたように、これまでとは異なる課題も生じています。新たな課題の解決に向け、都は地域特性を踏まえつつ、これまで以上に多摩地域の振興に取り組んでいくことが求められています。
そこで、都として今後どのような多摩の振興に取り組んでいくのかお伺いをし、私の質問を終わります。