
救急医療
質問1
昨年の秋に発生した都立墨東病院での不幸な出来事については、第四回定例会や関係委員会で多くの質問がなされ、都としても、緊急的、そして中長期的な対応を進めています。
元来、医療は不確実なものであり、医師が最善を尽くしても、助けられない命もあります。しかし、助けられる命をできる限り助ける医療制度をつくっていかなければなりません。そこで、私は、東京都における救急医療体制について、幾つかの項目についてお尋ねをいたします。
まず、救命救急センターの整備についてであります。
国民、都民の命を守る救命救急センターの設置数については、かつては、厚生労働省の指針により、おおむね百万人に一カ所という単位で整備を図ることとされてきました。
現在、国においては、その考え方の見直しが進んでおり、昨年夏に出された中間取りまとめでは、実態として既存の救命救急センターと同等の役割を果たしている施設については、センターとして位置づけていくことが適切ではないかとしています。新たに病院をつくるなど、いわゆる箱物整備ではなく、既存の施設の有効利用を考えていくという、現状を踏まえた適切な方向性でしょう。
さて、都内には、現在、二十三カ所の救命救急センターがあり、数の上からは十分な確保がなされていると思いますし、またさらに、都として、一昨年は東京医科歯科大学医学部附属病院を、そして昨年は日赤医療センターを追加で指定されています。東京都の積極的な姿勢のあらわれでしょう。
都民に安心できる医療を提供するため、質が高く、やる気 ここが重要ですが のある病院をきちんと評価し、救命救急センターとして整備していくという方針を、今後もさらに積極的に進めるべきであると考えています。
そこで、知事に質問です。知事には、都の救命救急に関するご自身の基本的な考えや姿勢といったものを、改めてここで教えていただきたいと思います。
答弁1
知事
救命救急医療についてでありますが、重症、重篤な患者に対して緊急医療を行う救命救急センターは、命を救う最後のとりで、最後のきずなであります。
救急医療の現場は、救急患者の増加や医師不足による厳しい状況が続いておりますが、今般、日夜奮闘している医療関係者の発案で、救急医療の東京ルールを定めることができました。
ちなみに、これはごく当たり前のことでありますけれども、ルール一は、救急患者の迅速な受け入れ、地域の救急医療機関が相互に協力連携して救急患者を受け入れる。
二は、トリアージの実施であります。救急医療の要否や診療の順番を判断するトリアージを、救急のさまざまな場面で実施いたします。
第三は、都民の理解と参加でありまして、都民は救急医療が重要な社会資源であることを認識していただきまして、救急医療を守るため、適切な利用を心がけていただきたい。いわゆるコンビニ医療、コンビニ救急というものは避けていただきたいということであります。
現在、東京ルールの具体化を図っておりまして、その成果を得て、迅速、適切な救急医療体制を構築していきたいと思っております。
質問2
安易に一定レベル、一定規模の病院を救命救急センターとするだけでは、地域性の問題は解決できません。
冒頭お話しいたしましたように、かつての国の指針では、おおむね百万人に一カ所という設置基準でしたから、この計算式では、一千三百万人都民人口で十三カ所ということですが、現状は二十三カ所です。他の道府県から見れば、ある意味、うらやましい数字でしょう。
しかし、数的には十分な整備がなされているように見える救命救急センターですが、その現実の配置状況を見ると、地域的な偏りが見られることも事実であります。作成したパネルを使って簡単に説明をいたします。
例えば、私が住んでいる杉並区、それから隣接する練馬区、中野区、そして世田谷区、ここには救命救急センターが設置されておりません。もちろん、杉並区、中野区、そして新宿区で構成をされている二十三区西部医療圏としては、どちらも新宿区内の東京医科大学病院と東京女子医科大学病院が指定されています。
私はこのことを問題にしているわけではありません。つまり、現状の医療圏や都の保健医療計画を否定するものではありません。しかし、杉並区の人口は五十四万人、練馬区は七十一万人、そして世田谷区は八十六万人、合わせて二百十一万人の皆さんが住み暮らしている、いわゆる一般的にいわれている山の手地域、ここの三区内に救命救急センターが一つもありません。
昨年、二十年度の興味深い数字で説明しましょう。杉並区民とは限りませんが、昨年一年間の中で、杉並区から救急出動し、収容先医療機関が救命救急センターの搬送人員です。
先ほどお話しいたしましたように、杉並区は区西部医療圏ですが、実際にこの医療圏の、さきに述べた二つの病院に搬送された患者の数は三百七十六名でありました。一方、三鷹市、調布市などの北多摩南部医療圏の病院に搬送された数は四百六十八名でした。このように、医療圏の枠を超えて多くの患者が搬送されていることがわかります。
各医療圏でもこのような数値を調査すれば、これからの医療圏を見直す上での参考になる可能性は高いような気がします。いかがでしょう、お答えをいただきたいと思います。
答弁2
福祉保健局長
救急医療の確保は、都民の生命に直結する都政の最重要課題の一つであると認識をしております。その立場で、まず二次保健医療圏についてお答えいたします。
今日の二次保健医療圏は、住民の日常生活の行動の状況、交通事情、保健医療資源の分布等、圏域の設定に必要な要素を総合的に勘案の上、定めております。お話の救急搬送患者の動向につきましては、地域の救急医療の状況を理解する上で参考になるものと考えております。
質問3
救命救急センターを持っている総合病院の中では、大学医学部附属病院が過半数以上であり、どうしても都心に集中をしている現状は理解をしています。しかし、最も緊急性の高い患者の診療に当たる救命救急センターが、山の手地域のような人口の多いエリアにないということについて問題だと思います。このことについて所見をお答えください。
答弁3
福祉保健局長
救命救急センターにおける地域性についてでありますが、救命救急センターは、一刻を争う重症、重篤な救急患者を受け入れる医療機関であり、どの地域からも短時間に搬送できるように救命救急センターが確保されることが望ましいと思っております。このため、救命救急センターの整備については、地域の状況も十分に勘案して進めているところであります。
質問4
杉並区では、平成二十一年度予算において二百万円という異例の調査費を計上し、区内において必要な医療機関の規模や診療機能などについて検討を進める予定です。余談ですが、私も二十二年間、杉並区議会議員を務めさせていただきましたが、新規事業準備のための調査研究費は一般的に五十万円から百万円です。
杉並区長の記者会見資料では、次のようにアナウンスをしています。医療については、国や都だけに任せるのではなく、区民の命は基礎的な自治体である区の責任で守る必要があるとの考え方に立ち、二十四時間三百六十五日、区民が安全・安心に暮らせるよう、高次機能を有する病院の誘致や整備について、その条件等を多角的に調査研究し、救急医療体制を含む地域医療体制の充実に努めてまいります。以上であります。
また、最近では、四月に開業が予定されております台東区の病院、五年以内にオープンを目指していると聞いております江東区の病院、それから、順天堂練馬病院のほかにもう一つ病院を整備すると伝えられている練馬区など、各区の動きが活発のようであります。
杉並区でも、調査研究費のほかに、新年度から医療政策担当のスタッフ部長、参事ですね、それから、医療基盤担当の課長、副参事を新設し、平成二十二年度までに一定のめどをつけたいと予定いたしております。もちろん、高次救急を進めることは基礎的自治体である区だけでできることではありません。東京都と区が連携して初めて実現可能になることであります。
そこで、整備が順調に進み、救命救急センターとして遜色のない病院となった場合には、都としても救命救急センターとして認めていくお考えがあるのかどうか、お伺いをいたします。
答弁4
福祉保健局長
救命救急センターの認定についてでありますが、お話のように、従来、百万人に一カ所を目途に整備をされてきましたが、昨今、厚生労働省においても、今後のあり方についてさまざまな検討がなされております。
いずれにいたしましても、救命救急センターと同等の能力や体制を有する病院は、それにふさわしい役割を担っていただくことが望ましいと考えております。
質問5
二次救急医療機関の強化についてお尋ねします。
救命救急センターが本来の役割を十分に果たすことができるようにするためには、救急医療機関の大半を占める二次救急医療機関の充実を図っていくことが大変重要であり、このことについては異論のないところでしょう。
東京都が指定した二次救急医療機関は、現在二百五十九あります。その中で、杉並区の状況を見ると、七つの病院がありますが、ベッド数や診療科目数もかなり異なっております。
このように、診療機能に違いのある二次救急医療機関をさらに強化していくためには、個々の救急医療機関に対する一律な支援を行うよりも、それぞれの機能や役割に基づいた救急医療機関同士の連携協力体制の仕組みが進むような対策をつくることが重要であると思います。
昨年十一月の救急医療対策協議会報告書では、地域救急センターを整備し、救急医療機関の地域ネットワークを構築していくとされています。このことについては、先日の石原知事の施政方針表明でも次のようにいわれております。昨年末には、現場に精通した医師などから成る救急医療対策協議会で、救急医療の東京ルール、いわゆる東京ルールを策定しました。都内二十四カ所に、地域の病院間の連携や患者搬送の調整を行う東京都地域救急センターを整備するほか、消防庁の指令室に、地域間の病院搬送を集中的に調整するコーディネーターを配置します。以上であります。ご承知のとおり、とても注目をされているネットワークシステムの新設です。
私は、これから始まる、しかも、全国的にも大変注目をされているこの新ネットワークシステムに大きな期待を持っております。全国のモデルとなるようなシステムを構築していただきたいと切に願っております。
そこで質問です。救対協の報告書の中にあるネットワークイメージ、全体はよくわかります。ただ、本当にこのネットワークシステムを機能させるためには、その準備が大切であると感じました。医療機関も新たな枠組みの中で責任を求められますし、患者側も、一たん三次救急に搬送されても、症状によっては二次救急病院や一般病院に転送されることもあり得ることを理解してもらわなければなりません。医療体制を立て直すためには必要なことです。このことも含め、ネットワークを機能させていくために今後どのような体制づくりを進めていくのか、お聞かせください。
答弁5
福祉保健局長
救急医療の東京ルールについてでありますが、東京ルールに基づき救急患者を迅速に受け入れるためには、新たに指定する東京都地域救急センター(仮称)を中心に、地域の医療機関が顔の見える連携協力体制を構築することが不可欠であります。
また、都民の理解と協力を得るため、救急患者の一時受け入れや転院搬送、病院における救急トリアージなど、東京ルールの具体的内容を盛り込んだガイドラインを作成し、広く周知していく必要がございます。現在、東京ルールの具体化を図っておりまして、必要な条件が整い次第、実施をしてまいります。
質問6
地域救急センターと並んで重要な役割を果たすであろうコーディネーターのことですが、これについては一点だけ伺います。
それは、東京消防庁との連携です。報告書にはある程度具体的に書かれていますけれども、都の施策となった今、東京消防庁との組織的、人的連携を含めて対応をお伺いいたします。
答弁6
福祉保健局長
東京消防庁との連携についてでありますが、救急搬送コーディネーターは、救急医療に関する情報が集約されております東京消防庁指令室に配置するものであります。コーディネーターは、救急医療の現場に精通した専門職を予定しておりますが、指令室に配置をされております救急指導医と連携しながら業務を行うこととしております。
東京ルールの実施に当たりましては、コーディネーターの設置を初め、東京消防庁との連携が不可欠であり、今後とも組織的、人的な協力をさらに深めてまいります。
質問7
来月スタートする脳卒中救急搬送体制についてお伺いいたします。
今回の脳卒中救急搬送体制は、脳卒中急性期治療を行える水準の各医療機関が、脳卒中の疑いのある患者を受け入れられる時間帯や曜日を組み合わせ、参加する百五十五カ所の医療機関全体として受け入れ体制を確保するものであり、限られた医療資源を最大限有効活用する上で極めて有効なシステムです。
脳卒中は、都民の死亡原因の第三位であり、また麻痺などが残りやすい疾患ですが、tPA製剤による発症三時間以内の急性期治療により、後遺障害の軽減が期待できます。
そこで、実際にこの仕組みが有効に機能し続けるためには質の確保が不可欠ですが、どのように運用していくのか、お伺いいたします。
答弁7
福祉保健局長
脳卒中救急搬送体制についてであります。都は、脳卒中の急性期医療体制を定めた認定基準を満たし、かつ脳卒中救急搬送体制に参加する意思を表明した医療機関を、東京都脳卒中急性期医療機関として認定をいたしました。これらの医療機関は、二次保健医療圏を基本として互いに連携し、脳卒中の疑いのある救急患者を受け入れることとしております。
今後、この仕組みが有効に機能するよう、救急搬送や医療機関の受け入れ状況の評価、検証を行い、その結果を踏まえ、救急隊や医療機関と連携して、搬送体制の質の向上に努めてまいります。
私は、三次救急病院、二次救急病院、一般病院、そして個人が、それぞれ助けられる命は助けるというコンセンサスのもとに、互いを尊重した連携がとれることが大切だと考えています。それぞれが何をしてもらえるかと考えるのではなく、自分たちが自分たちの立場で何ができるのかという視点に立って、これらの問題に取り組むことが大切だと思っています。
一人でも多く助けられる命を助けたいと望むのは、私だけではなく、ここにいらっしゃる皆さんの総意と思います。病院、都民、そして行政が一丸となって東京ルールを成功させ、医療機関の偏在を解消し、東京の救急医療体制が整えられることを強く要望いたします。