国の仕事を取り込む分権戦略を
にせ札偽造犯に強い姿勢が必要 |
田中 良(民主党) |
■地方分権改革 |
この予算審議に際し改めて思うことは、いかにこの国が深刻な状況にあるかということであります。一般会計ベースで都と国を比較してみると、大ざっぱないい方ですが、東京都は税収四兆円に対して借金は八兆円、つまり税収の二倍であります。一方、政府は税収四十兆円に対して借金は五百四十兆円で、何と税収の十三倍であります。この五百四十兆円という数字は国のGDPを上回るもので、いかに国が大きな重荷を背負っているかは明らかであります。通常の経営感覚からいえば、国は既に破綻しているといっても過言ではないでしょう。
さて、それでは、この国を再建するために一体何をしたらいいのか。私はこう考えます。国の仕事を抜本的に減らし、国の歳出規模を大幅に削減する改革が必要であります。つまり小さな政府であります。それには、国の仕事を地方に移すという地方分権が不可欠なのであります。もちろん民間に移すことも必要でありますが、国からいきなり移すというよりも、むしろ国から地方へ仕事、権限を移し、地方の手によって民営化するということの方が現実的ではないかと考えます。なぜなら、自治体の行政の方がはるかに国より透明性が高く、個々のサービスの内容について住民の声が届きやすいからであります。要するに、地方分権は自治体のエゴではなく、国家再生のための最も重要な政策の柱なのであります。
昨年、三位一体の改革が論議されましたが、中身のない国の政策に対して、全国知事会初め地方六団体の中にも相当の異論、反論があり、その中には、法定受託事務をボイコットしてでも国と戦うべきだという激しい議論もあったと伝えられています。今後ますます国と地方の対立は具体化、尖鋭化すると思います。その壁を地方自治の力で打破できるかが重要であり、その戦い方の研究も当然戦略的になされなければなりません。
そこで、何点か問題を提起し、知事の所見を伺いたいと思います。
まず一つ、法定受託事務についてであります。
国と戦う方法として法定受託事務をボイコットしようという発想は、心情的には理解できますが、逆に地方が法定受託事務を取り込んでいくということも、国と戦う手段の一つになり得るのではないでしょうか。国でやるよりも効率よく低コストでやれるということがあれば、積極的に手を挙げて取り込んでいく。法改正や制度改革、予算措置が必要であれば、地方から積極的に提案していけばいいのではないでしょうか。今まで国がやっていたことを地方自治体がやることで、国民の利便性が明らかに高まれば、分権の必要性に対する国民の理解が広まり、やがては国を動かす大きな力となるでありましょう。そして、いずれ法定受託事務から自治事務に転換するものが出てくるのではないでしょうか。
第二に、徴税事務についてであります。
法定受託事務の積極的な活用を考えたとき、私がまず第一にターゲットにするべきものは徴税事務ではないかと思うのであります。権力行使の最たるものである徴税を広く地方自治体が実施していくということは、中央集権の象徴である、税の取り立てと分配という財務省による税の一元管理体制にくさびを打つこととなります。
現在、国税庁、つまり税務署で扱っている税目の中で、都税事務所あるいは区市町村で扱えるものはないのか。または、国家公務員である税務署の職員が持つ調査ノウハウを地方自治体が共有できる方法はないか。また、税務署の機能そのものを、仮に法や制度改革によって地方自治体の仕事に移した場合、国よりも効率よく低コストで徴税事務を行える体制をつくれたならば、国民は利便性を感じ、身近に分権の効果を実感できるようになるでしょう。そして、それは将来の道州制や連邦制という国家像に具体的に近づいていくことになるのではないでしょうか。
第三に、年金保険料の徴収事務であります。
かつて、国民年金保険料収納事務は、機関委任事務として区市町村の窓口において行われておりました。しかし、地方分権推進委員会の第三次勧告を受けて、原則として国が直接行うものとして整理され、地方分権一括法の施行に伴い、平成十四年四月より国に移管されたものであります。
昨年、年金が大きな政治問題として注目を集めました。この間、社会保険庁の放漫経営が厳しく批判の対象になってまいりましたが、その背景には納付率の低下がありました。平成十三年度七四・九%であった納付率が、国に移管した初年度である十四年度には六六・四%、何と八・五ポイントの急激な低下をしたわけであります。これは、保険料収納事務を地方から国へ移管したことの影響であることは明らかであります。
年金が、全国民がひとしく一律に受けるべきサービスであるという理由で、国の所管となっていることに異論はありませんが、事務のすべてを国が担うのが適当であるか否かは別問題だと思います。
社会保険庁を廃止して、年金徴収事務を国税庁に移すといった意見もあるようですが、私は反対であります。国の仕事を減らしていかなければならない時代に、何ゆえ地方にて実績のあった仕事を国がやらなければならないのか。さらにいえば、国民年金の加入者の八割は、保険料収納事務を区市町村でやっている国民健康保険の加入者なのであります。したがって、今こそ、年金保険料徴収事務を法定受託事務として地方自治体が取り込む好機だと考えるのであります。
また、今述べてきた徴税事務や年金保険料の収納事務も含めて、国の現在やっている仕事を国から引きはがし、地方分権を実現させるための戦略という観点から、広域連合の活用について調査研究を進めるべきではないでしょうか。
静岡県では、県民の利便性向上等の観点から、平成二十年代初頭を目途に、県及び県内市町村の地方税の徴収事務を、広域連合により一元化する方向で検討を進めていると聞いております。
質問1
以上申し上げてきたことは、現実的に考えればさまざまな課題があることは十分承知をしておりますが、どのような可能性があるのかを研究する価値は十分あると思います。地方分権を実現させるための戦略という観点から、既存の枠にとらわれず、国が現在実施している事務を地方自治体が効率的に実施していく可能性について戦略的に研究していくべきだと考えますが、知事の見解を伺います。
答弁1 ▼知事
地方分権改革についてでありますが、我が国は今、財政的にも破綻に瀕し、地方分権を含め抜本的な改革を必要としているというのは、政治家として同じ思いであります。
小渕内閣のときに地方分権一括法なるものが制定されまして、五年たってようやく、税財源の分与ということが具体的に俎上に上って、いきなり義務教育の国庫負担を削除するという問題が出て、金目の問題が出ましたので、たちまち全国知事会が支離滅裂、四分五裂しまして、結局ああいうていたらくに終わったわけでありますが、ともかく本気になってこれを推し進めていくことが地方自治体の首長たちの責任だとも思います。
しかし、現実には、国は縦割りで省益がばっこしまして、全国知事会でだれかがいみじくもいっておりましたが、まさに中央分権のていたらくで、しかも、国民健康保険への都道府県負担導入で明らかなように、国の各省は負担を地方に押しつけることしか考えていないていたらくであります。
昨年の全国知事会にも、東京は東京の試案を提出しましたが、もう千載一遇のチャンスで、一銭でも、とにかく国からお金をもぎ取ろうというていたらくで、これは俎上にも上らずに無視されました。
しかし、結果としては、梶原さん自身の発言では六十点というんで、私は個人的に彼と会ったときにその話をしましたら、これは限りなくゼロに近い六十点である、そういうレトリックもあるんでしょうか。
いずれにしろ、本質的な議論が全く行われずに終わったわけでありまして、都があのときに提出しました試案のようなものが実現されれば、少なくとも幾つかの県なり幾つかの政令都市は不交付団体になり得るんですけれども、それが俎上にも上らないというのが実態でありました。
先ほどご指摘の法定受託事務の返上ということも、例えば神奈川県の知事なんかからもそういう問題が提出されましたが、これは、あの全国知事会の雰囲気では、とても論議の対象になるようなものではございませんで、ただ、やはり私たちは、例えば首都圏の広域行政の一つとして、首都圏というものの利益を守り、その再生というものを図るためにも、場合によっては、一種の有効なストライキとして、法定受託事務の返上も含めて、何か有効な手だてで国に対抗するということを具体的に考えなくちゃいけないんじゃないか、そういう合意は形成されつつあります。
いずれにしろ、今求められているのは、確固とした歴史観にのっとっての議論でありまして、肝心の総理大臣が、自分の出番をなるたけつくるなというていたらくでは、これはやっぱり、全国知事会なるものが、国と場合によっては対立もしながら、本質的な議論をしていく場にはなかなかなり得ないんじゃないかという気がいたします。
いずれにしろ、我が国の全体の発展につながる改革を実現することでありまして、そのためには、まず、根本に立ち返って、国と地方の役割分担を徹底的に見直すことから始めることが必要だと思っております。
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■にせ札と治安対策 |
ことしに入り、各地で多数のにせ札が発見されました。にせ札は、古くて新しい犯罪であります。我が国最初の貨幣といわれている和同開珎も、発行後多くのにせものが出回り、発行者である大和朝廷の弱体化を招いたといわれているのであります。
急増するにせ札事件は、大きく二つに分けることができます。一つは、市販のパソコンやプリンター、スキャナーなどを利用したもので、だれでも簡単につくれますが、すぐににせ札と判別できます。
もう一つは、非常に精巧につくられたもので、専門家でも判別することが難しいものであります。平成十四年の年明けに、東京、大阪、静岡などで合計一千枚を超える大量のにせ一万円札が見つかりましたが、この事件はまさにこのパターンに該当します。この際発見されたにせ一万円札は、いずれも透かしの入った精巧なもので、これを使ったのは、中国、台湾出身者であったそうであります。これらの中には、ATMをかいくぐるものまで出てきているとのことであります。
実は、この後者のパターンこそ深刻に受けとめるべき問題なのであります。このような精巧なにせ札を製作するには、軽く数千万円はかかると見られており、逮捕されるリスクを踏まえると、とても個人として採算の合う仕事とはいえないのであります。したがって、事件の背後には、外国人を含む大規模な偽造組織があると疑われるのであります。
警察当局がまず問題意識として認識すべきことは、他国の機関の関与の疑いも視野に入れて、この偽造組織の徹底的解明を期すことであります。
実は、我が国は、国家機関が大量の偽造紙幣をつくっていたことがありました。現在の明治大学生田校舎には、かつて、陸軍の諜報謀略拠点として、通称登戸研究所といわれる機関がありました。そこでは中国のにせ札を製造し、大量の軍事物資を調達し、終戦を境にそれらを売却し、得た多額の資金が戦後の保守政界に還流したという説もあるようであります。真偽のほどは歴史の研究にゆだねるしかありません。
また、十数年前には、スーパーKと呼ばれた、にせ百ドル札が世界的に大量に流通するという事件が起こりました。CIAの推計によれば、全世界で十億ドル以上が印刷されたのではないかといわれております。このスーパーKは極めて精巧につくられており、一般市民はもとより、ほとんどの市中銀行でも真偽の判定が難しく、大きな銀行の本店や米国連邦準備銀行等に持ち込まれて初めて偽造紙幣と判定されたのであります。
我が国においても、外国、特に北朝鮮経由で持ち込まれ、市中銀行ではそのまま通過し、連邦準備銀行の在日代理店の特殊な高速識別装置で初めてにせ札と判定されることが多かったそうであります。
スーパーKの製造元は、北朝鮮説あるいはイランが北朝鮮から武器購入した際ににせ札で支払ったものが還流したなど、諸説がいわれておりますが、いずれも確証は得られていないということであります。
アメリカは、これらの偽造紙幣対策に早速乗り出し、平成八年、新しい紙幣を発行いたしました。ところが、この新ドル紙幣もわずか三、四年で、ウルトラスーパーノートと呼ばれるにせ札が大量に出回り、それに対する新たな対抗措置として、平成十五年秋の二十ドル紙幣を皮切りに、ほとんどすべての券種で新しい世代の券種に切りかえ始めているのであります。
さて、にせ札のはんらんは一体どのような影響を社会に及ぼすのでしょうか。専門家の試算によれば、にせ札がはんらんすることになれば、小売業や飲食店、ホテル等の宿泊施設など、現金取引が多い業種では、にせ札の鑑別機を常備せねばならず、導入率が全体の一〇%の場合でマイナス〇・四四ポイント、五〇%の場合でマイナス二・二〇ポイント、一〇〇%の場合はマイナス四・四〇ポイント、非製造業の経常利益を押し下げる要因となり、企業のにせ札対策費は最大一兆円を超えるまでになり、マクロベースの企業収益に無視できないほどの悪影響を与えてしまうとのことであります。
また、にせ札の流通量が全体の紙幣流通量の〇・〇一%を超えると、インフレ危険域に入り、さらに〇・〇二%を超えると、ハイパーインフレーションに見舞われる可能性が一気に高まるとのことであります。そして、為替レートも急激に円安に向かい、五〇%以上も価値が減ずると試算をされています。
さて、我が国の平成十六年末の紙幣流通量は百三十五・五億枚、金額にすると七十八兆円とのことですが、この試算によりますと、インフレ危険域に達するのは百三十五・五万枚、ハイパーインフレ危険域に達するのは二百七十一万枚であります。昨年のにせ札発見枚数は二万五千八百五十八枚でありましたが、過去五年間のにせ札の前年比増加率の平均値は一六一・一%であります。
そこで、過去五年間の平均増加率で試算した場合、八年後の平成二十五年には、にせ札は百八十九万枚となり、インフレ危険域に達し、九年後の平成二十六年には三百四・五万枚となり、ハイパーインフレ危険域に達することになるのであります。
これらからもいえることは、この問題を軽く見ているととんでもないことになるということであります。アメリカやユーロが流通するヨーロッパにおいては、次々ににせ札への対抗措置が図られており、その分、我が国が今後ねらわれると警戒すべきなのであります。
さらに、我が国は欧米に比べ、圧倒的に現金取引が多いことも念頭に置かねばなりません。にせ札はいってみれば経済テロであり、国家の主権侵害という安全保障上の問題でもあるのであります。
その他、近年では、道路公団発行の高速道路チケットの大量偽造品が出回り、ついに公団は発行を取りやめることに決めたということや、先日も大量のにせビール券が中国から運び込まれる寸前に摘発されたという報道もありましたが、これなども、偽造犯人の逮捕もさることながら、印刷機の特定と、その印刷機の流通経路の解明を中国当局に断固として求めていくなど、強い姿勢が必要であります。
将来の分権社会においては、自治体独自の政策として、さまざまな地域通貨の発行も考えられ、偽造犯を野放しにすると、政策遂行の大きな障害になりかねません。
質問1
したがって、今から、これらの偽造犯は絶対にはびこらせない、我が国においては割の合わない犯罪だということを認識させる徹底した取り組みを求めるものであります。
そこで警視総監に伺います。
昨今のにせ札事件等に対する認識とその後の捜査状況について、また、今後の事件解明への取り組みの決意をお聞かせください。
答弁1
▼警視総監
本年一月と二月の二カ月間で都内で発見されました偽造の紙幣は約七百枚で、その内訳は、一万円が約三百枚、五千円が十五枚、千円が約四百枚であります。その大半がカラープリンターを使用して偽造されたものでありまして、商店、売店、タクシー、デパート等で使われております。
また、偽造の貨幣につきましては、すべて五百円通貨であり、約一万枚発見されておりますが、その大半は、郵便局の窓口で入金をされまして、別の場所のATMで同じ額が引き出されるという手口であります。
通貨偽造は、いうまでもなく、通貨秩序を乱し、国民経済を混乱させる大変重大な犯罪でありますので、これらにつきましては、現在、徹底した取り締まりを推進しております。
これまで、浅草寺における偽造一万円札の行使事件を初めといたしまして、暴力団組長等の被疑者十七名を検挙しておりますが、引き続き、さらに捜査を進めまして、全容解明を図ってまいりたいと考えております。
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