平成17年第4回定例会 一般質問

都内建物の耐震診断等積極的に
耐震偽装住宅住民の不安軽減を

坂本 たけし(自民党)
■耐震強度偽装問題
   
 私は、現在大きな社会問題となっている姉歯建築設計事務所による耐震強度偽装問題に焦点を絞って質問をいたします。
 十一月十七日に国土交通省がこの問題を発表して以来、十二月六日までに姉歯建築設計事務所が構造計算書を偽造したことが明らかになった建築物は、マンション、ホテルなど六十二件に達し、社会を震撼させております。
 今回の問題は、一級建築士が構造計算書という都民の生命と財産にかかわる重要な書類を偽造した、職業人として著しくモラルを欠く行為であり、その行為が招いた結果の重大性を考えますと、その責任は厳しく追及されなければならないと思います。私は、十数年間の間、建築設計の世界に身を置き、いわば同業の身であった者としまして、今回の事件はまことに残念であり、怒りを覚えるものであります。
 しかし、一方で、建築士の偽装を見抜けぬまま多くのマンション等が完成し、入居に至っていることを考えますと、今回の問題で、単に建築士だけでなく、指定確認検査機関、建設会社、販売会社、そして特定行政庁といったそれぞれの役割の中で、制度や運用面でのさまざまな課題が露呈したといえるのではないかと思います。
 一例をご紹介いたしましょう。ことし六月に、最高裁判所は、指定確認検査機関による確認に関する事務は地方公共団体の事務であると判決を示しております。この判決は、単に地方公共団体が訴訟の対象になり得ることを示しただけのものであり、具体的に地方公共団体の賠償責任を認めたものではありませんが、その可能性を示唆するものであります。
 一方、実態においては、特定行政庁である地方自治体は、国の指定確認検査機関による確認に関与できない仕組みとなっております。つまり、現行の国の建築確認制度とこの最高裁判所の判決に従うならば、地方自治体は権限がないままに責任だけを負わされることになっているわけであります。こんな理不尽な制度をこのまま許しておいてよいのでしょうか。私は、このような、責任の所在が不明確な現行制度について強い問題意識を持っております。そして、東京都が、自治体のリーダーとしての気概を持って、国家賠償請求も辞さない強い姿勢で国に対し制度の見直しを迫っていくことが必要であると考えております。
 このような認識と立場に立ち、次の六つのポイントにわたり、質問をいたします。
 

 
質問1
 初めに、建築確認における構造審査についてであります。
 構造審査は、構造の専門的知識を有する審査員が、構造計算書の構造審査用チェックマニュアルを活用しながら審査していく必要があります。そうでなければ、今回のような構造計算書の偽造があった場合、あるいは偽造でなくても、構造計算に誤りがあった場合、見抜くことができるのか、おぼつきません。
 そこで、都の構造審査における構造のチェック方法、構造設計図及び構造計算書のチェックはどのようにして行われているのでしょうか。
 また、構造審査に当たる職員の数は、審査物件数に見合って適正に配置されているのか、伺いたいと思います。
 
答弁1
 ▼都市整備局長
 構造審査のチェック方法や職員の配置についてでございますが、都では、建築物の安全を確保するため、建築物の荷重に対する柱、はり、壁などのフレーム強度や、大地震に対する建築物の耐震性について、東京都審査要領等により、構造設計図、構造計算書のチェックを行っております。
 また、構造審査に当たりましては、建築構造を専門とする管理職を初め、構造計算に関する知識のある職員を適正に配置し、対応しております。
 今後とも、職員の計画的な育成を図り、構造審査の業務を適正に執行し、安全なまちづくりに努めてまいります。
 

 
質問2
 次に、建築工事中の中間検査についてであります。
 中間検査は、建築物の配置や接道状況などの確認とあわせて、建築物の施工が適正に行われているかを検査するものであり、建築物の耐震強度をチェックする上で重要な検査であります。阪神・淡路大震災では施工の不備が原因と考えられる被害が多く見られ、施工段階での検査の重要性が改めて認識されたところであります。
 都におきましては、検査を実施する時期や検査の対象など、中間検査制度はどのようになっているでしょうか、伺います。
 
答弁2
 ▼都市整備局長
 中間検査制度についてでございますが、この制度は、建築基準法の改正を受け、建築物の施工段階での適法性を検査することにより建築物の安全性等を確認するものであり、都内では平成十一年から実施しているところでございます。中間検査は三階建て以上の建築物を対象としており、例えば鉄筋コンクリートづくりの場合には、二階のはり及び床の配筋工事が終了した段階で実施しております。これに加えまして、延べ面積が一万平方メートルを超える建築物につきましては、基礎の配筋工事が終了した時点でも同様に中間検査を実施しております。
 

 
質問3
 次に、都が指定する指定確認検査機関についてであります。
 指定確認検査機関制度は、阪神・淡路大震災を契機としまして、行政の違反取り締まりや検査の実効性を確保するために、平成十年六月に、建築基準法の改正により、従来特定行政庁が行っていた建築確認検査業務を民間に開放し、国土交通大臣や都道府県知事が指定した民間機関においても行えるようにしたものであります。数多くの指定確認検査機関が設立され、既に相当な割合で建築確認を担う状況になるなど、実績を上げてきております。
 しかしながら、今回の事件を見ますと、その審査業務などで改善すべき点があるのかと思います。大きな役割を担うに至っている指定確認検査機関の業務の公正性、また中立性を確保するとともに、審査業務の適正な実施が図られるようにするためには、指定を行う国あるいは都道府県が、指定に当たり、また指定後においても、適切な指導あるいはチェックをすることが重要であるかと思います。
 都が指定しました指定確認検査機関には、現在、財団法人東京都防災・建築まちづくりセンターと財団法人世田谷区都市整備公社の二つの機関があります。指定する際の基準はどのようになっているのか、また、指定後の指導やチェックはどのように行われているのか、伺いたいと思います。
 
答弁3
 ▼都市整備局長
 都が指定いたしました確認検査機関についての指定基準及び指定後の指導、チェックについてでございますが、この機関の指定に当たりましては、公正、中立性の確保や業務の的確な実施が図られることが重要であります。このため、都は、国の指定準則等にのっとり、建設業など制限業種に従事する役職員の割合が一定数以下であること、確認検査を行う件数に応じ、国家資格を有する職員を初め、適正な職員数が確保されていることなどについて審査を行っております。
 また、都は、都の指定した確認検査機関との連絡調整会を定期的に開催し、業務の執行状況等の報告を受けるとともに、必要に応じて立入検査を実施するなど、適宜適切な指導を行っております。
 

 
質問4
 さて、都民は、耐震強度が不足している危険な建築物はほかにもあるのではないかということを不安に感じていることと思います。こうした都民の不安を解消し、また建築行政への信頼を回復する取り組みが求められるところであります。
 そこで、都内の既存建築物が構造上安全であるかどうかを再確認するために、到底すべての建築物に実施することはできないかもしれませんが、構造の再チェックとしましての耐震診断を行うべきと考えますが、いかがでしょうか。
 また、耐震改修促進法にのっとり、耐震強度が不足している建物の改修を積極的に推進するよう、見解を伺いたいと思います。
 
答弁4
 ▼都市整備局長
 既存建築物の耐震診断と改修についてでございますが、地震による建築物の倒壊等の被害から都民の生命を守るためには、建築物の耐震診断、耐震改修を促進することが重要であると考えます。このため、都は、平成十二年に耐震改修促進実施計画を策定し、これに基づき、建築物の所有者に対して、耐震診断の必要性の周知や診断機関を紹介するなど、耐震化の促進に取り組んでまいりました。今回の耐震改修促進法の改正を踏まえ、耐震化の目標や、優先的に指導を行う建築物等を明らかにし、平成十八年度の早期に耐震改修促進計画として策定する予定でございます。
 今後とも、区市等と連携を図りながら、地震に強いまちづくりを着実に推進してまいります。
 

 
質問5
 現在、最優先に考えなければならないのは、問題となっているマンションに入居している方々の安全であります。地震の恐怖におびえながら生活をしている方々の不安はいかがかと、本当に心が痛む思いであります。改めて事の重大さに愕然とするところであります。
 都は、さきに緊急措置として五百戸程度の都営住宅などの受け入れ先を用意したところでありますが、こうした対策と並んで、これからの生活を支援していくことが不可欠であります。ふなれで新しい環境での転居先での生活もかなり長期にわたると考えられます。また、マンション売り主の瑕疵担保責任を追及することも困難が伴うことが予想されます。
 こうした中、行政の立場でできる限りの手だてを講じていく必要があるかと考えます。マンションに入居されている方々に対して、既に決定している都営住宅等のあっせんを円滑に実施していくことはもとより、住民の方々の住まいに関する不安を軽減するための方策に取り組んでいくべきと思いますが、知事に所見を伺いたいと思います。
 
答弁5
 ▼知事
 構造計算書偽造問題にかかわる住民の住まいの不安を軽減するための方策についてでありますが、該当の物件の居住者だけでなく、地震の際に崩落のおそれのある高層ビルの周辺に住んでいる人たちの不安を勘案しますと、これはなかなか一括して行うにかたい方策だと思いますが、いずれにしろ非常に多岐にわたる手当てが必要だと思います。
 今回の問題の背景には、国が指定した民間確認検査機関の審査に自治体が実質的に関与できない仕組みとなっていること、国による確認検査機関への指導、監督が不十分であったこと、こうした中で起きた事件でありまして、国の責任は極めて重大だと思います。
 繰り返して申しますが、偽造の当事者や瑕疵担保責任を有する売り主、設計事務所、国の指定確認検査機関など、関係者の責任の追及も当然必要であります。しかしながら、都としては、何よりも都民の安全を確保する必要から、緊急措置として、都民住宅等の活用を決定いたしました。
 事件発生直後から、国に対して、どうも国の行政機関の中の意見がばらばらなようでして、支援に対する統一の見解を一刻も早く出すように求めてまいりましたが、一昨日、ようやく国は公的な支援方策を発表いたしました。
 しかし、これは、前にも申しましたが、地域住宅交付金制度の適用という枠の中でありまして、これそのものが地方自治体にとって非常に不公平な枠組みだと思います。この際、これはしかし生命にかかわることですから、甘んじてこれを受諾いたしましたが、国や区市と連携を図りながら、居住者の速やかな退去と円滑な生活再建に向けて必要な対策を講じていきますが、今後、こういう形が仮に反復されたとき、また同じ枠組みの中で地方自治体が余計な負担を負うというのは、これは許せないことでありまして、この事件の解決の推移の中で、被害者を抱えた、東京だけではなくて、隣の神奈川県、千葉県、埼玉県などと、首都圏の首脳の間で協議しまして、国に対して何らかの、報復ではありませんが、しかし、抗議といいましょうか、自治体がこうむる犠牲についての賠償といいましょうか、そういった問題についても協議して、訴えていきたいと思っております。
 

 
 また同時に、問題のマンションの周辺に居住されている方々に対して目を向けていくことも大変重要であります。
 今回問題となりましたマンションは、地上十階程度の高層のものが多く、周辺の方々は、一日も早く問題が解決され、安心できる暮らしが戻ってくることを望んでおるわけであります。こうした観点からも、マンションに居住されている方々が少しでも早く住居を確保されて、転居ができる条件を整えていくことが大変重要になってまいります。
 政府は、一昨日、十二月六日に、耐震強度偽装問題に係る総合対策を打ち出しましたが、これを踏まえた建築行政、住宅行政一体となった東京都の取り組みの強化を強く要望しておきたいと思います。
 

 
質問6
 次に、再発防止策についてお伺いします。
 今回の事件は、これまでの常識では考えられない、悪意に満ちた大規模な事件であります。特別なものであると思われます。たとえ制度を変えたとしましても、それだけでは防げるものとは思われません。しかし、今回のような事件が今後決して起こらないように、現行制度の問題点を徹底的に洗い出し、有効な再発防止策を講じていかなければ、都民の不安を解消することはできないばかりか、社会的、経済的に深刻な影響を広げかねない憂慮すべき状況にあります。
 再発の防止には、建築士を初め建築関係者に高い倫理感を持たせる社会システムを確立をするなど、現行制度の大枠の中で実現できることと、議論を重ねながら、制度の改正も含めて、長期的に検討を進めていくことの両方を着実に進めていくことが必要であると考えております。
 特に、構造設計者を制度的、法的にきちんと位置づけをし、権限と責任を明確化するなどの検討が図られるべきと考えます。建築基準法第一条に定められている、国民の生命、健康及び財産の保護を図る使命が、下請である建築構造の専門家の手のみにゆだねられていることが問題かと思われます。この改善には、例えば、建築確認申請時に構造設計者の氏名、住所、電話番号を記入させ、現場の看板に表示させることが有効だと思われます。
 さらに、米国カリフォルニア州におきましては、複数の異なる構造技術者が構造に関するチェックを行う、ピアチェックと呼ばれるシステムを実施されておりますが、こうしたシステムを導入することも十分検討に値すると思います。
 専門家の知見なども活用しながら、検査、確認業務を初め、有効な再発防止策を多角的に打ち出していくべきだと考えますが、見解を伺いたいと思います。
 
答弁6
 ▼都市整備局長
 建築確認制度全般にかかわる再発防止策についてでございますが、今回の構造設計にかかわる不正について、その再発を防止することは、建築物の安全性の確保を図る上で当然のことでございます。確認制度につきましては、国に対し、現場を熟知している建築士の資格を持つ都職員や顧問弁護士等を十分活用しながら提案を行い、制度の検証と見直しを強く国に求めてまいります。
 都においては、都が指定した確認検査機関に対する定期的な立入検査の実施、構造計算書の審査マニュアルの作成など、区市と連携をとりながら、実効性のある再発防止策を、国の制度改正に先んじて実施してまいります。
 これらの取り組みを推進し、信頼される建築行政の確立を図ってまいります。
 

 
 最後に、一言申し述べたいと思います。
 私はかねがね、まちづくりは人づくりであり、信頼関係によって結ばれた社会基盤が整って初めて、生まれて育ち、働き、住んでよかったと思われるようなまちが実現すると確信し、これまで行動してまいりました。
 かつて東京は、世界で最も安全で清潔な都市といわれておりました。それは、お互いの顔が見え、みずから地域のために貢献しようとする人々の気概と倫理観によって実現されたものであります。ところが現在、こうした我がまち東京のよき伝統が危機に瀕しております。今回の事件は、こうした東京が直面している危機が如実にあらわれたもので、看過することはできません。今後は私も、安心・安全なまち東京の実現のために全力で地域の方々と行動していく所存であります。
 東京都が一丸となり、都民の生命と財産の安全を確保するために、事件の再発防止に向け全力を挙げて取り組みを行いますように改めてお願いをし、私の質問を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。
 
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