犯罪被害者支援の一層の拡充を
東京の自殺予防取組を強化せよ |
酒井 大史(民主党) |
■犯罪被害者支援 |
この問題については、過去三回の一般質問でも取り上げさせていただき、石原都知事からも、「国や区市、民間団体などと一層連携、協力して、痛ましい犯罪に遭遇して被害をこうむった方々の肉体的にも精神的にも立ち直りというものを、都としても支援していかせていただきたいと思っております。」など心強いご答弁をいただいておりますが、現在、犯罪被害者支援に向けて国の動向にも進展がある中で、改めてこの課題の重要性を踏まえ、質問をさせていただきます。
さて、繰り返しになりますが、この国においては従来、犯罪被害者の権利を守り、立ち直りに向けての支援を行っていくための基本法は存在せず、そのため、犯罪被害者への支援は立ちおくれた状況にありました。このことは、犯罪被害者支援先進国であるアメリカと比べても、あの九・一一同時多発テロの五千人を超える被害者ほとんどすべてに、合衆国政府並びに地方政府が経済的支援を初めとする支援を行っているにもかかわらず、我が国においては、十年前に起こった、同じく五千人を超える被害者を生んだ地下鉄サリン事件の被害者に対し行った国の経済的支援の対象者が、たった二人であったことからも明らかであります。
このような状況の中、昨年十月、都議会からも意見書を出し、結果、十二月に犯罪被害者等基本法が制定され、ことし四月から施行されたことにより、ようやくこの国においても、犯罪被害者支援のスタートラインに立ちました。
質問1
東京都においても、この間、警視庁における相談窓口や被害者の初診料一部負担制度の導入、社団法人被害者支援都民センターを通じた心のケアへの対応、また、私がお願いした、犯罪被害者への二次被害防止のための医療機関向け被害者対応マニュアルの作成並びに周知、被害者への無用な差別意識を持つことがないよう、学校教育において取り組むための人権教育プログラムの中に、被害者とその家族の項目を掲載するなど、数々の取り組みを行っていただいています。
しかし、東京都には、まだまだ支援を拡充していける可能性があると思います。例えば、経済的支援の一環としての医療費助成や生活再建資金貸付制度の創出、被害者の一時避難場所としての都営住宅の弾力的な活用、犯罪被害者支援体制や支援団体の周知を行うために警視庁の協力を仰ぐことなど、さまざまな施策展開が可能であると思います。そして、これらを担保するための条例制定も不可欠な課題です。
ちなみに、都内、日野市では既に条例が制定され、杉並区では、現在行われている定例区議会に条例提案し、可決される見通しです。
そこで、犯罪被害者等基本法施行後、東京都として、条例の制定を含め、犯罪被害者やその家族の立ち直りに向けてどのような施策展開を検討されているのか伺います。
答弁1 ▼総務局長
犯罪被害者支援の施策展開についてお答えをいたします。
被害者は、直接的な心身の被害を受けますとともに、被害者への無理解などによる二次的な被害を受けることも多く、その回復には、多岐にわたる継続的な支援が必要と考えております。
このため、都では、警視庁が設置しました犯罪被害者支援連絡会を中心に、関係局や関係団体が連携協力しまして、相談、保護、都民への啓発等、被害者の支援を行っております。
今後、さらに、国や区市町村、民間団体との連携強化を図りますとともに、犯罪被害者等基本法の基本理念や国の基本計画策定の動向等を勘案しながら、被害者の方々の必要とする支援が適切に受けられるよう取り組みを進めてまいります。
質問2
現在、政府においては、内閣府を中心に、この四月に施行された犯罪被害者等基本法に規定されている犯罪被害者等基本計画の策定作業を、十二月を目途に行っています。八月には基本計画案の骨子が発表され、パブリックコメントも行われておりました。
この基本計画案を見ると、四つの基本方針を示すとともに、重点課題として、損害回復、経済的支援等への取り組み、精神的、身体的被害の回復、防止への取り組み、刑事手続への関与拡充への取り組み、支援等のための体制整備への取り組み、国民の理解の増進と配慮、協力の確保への取り組みの五点を掲げる中、重点課題にかかわる具体的施策について、まだ詳細について詰められていないものの、国としては珍しく、結論を出す年次を一年から三年と項目ごとに示して記載されています。
その中でも、公営住宅への優先入居に関しては今年度中とし、また、警察庁において、基本計画案の中では一年以内を目途に結論を出すとしていた性犯罪被害者の緊急避妊や中絶手術の費用などを、来年度より全額支給する方針を固めるなど、前倒し実施も検討されています。
この基本計画案について、都はどのように評価をされているのでしょうか。
また、犯罪被害者等基本法の中で、実施主体は国及び地方公共団体とされています。現在、国主導で基本計画が策定されていますが、この計画が確定されると、当然都としても、財政負担を含め一定の役割を担うことになります。
私は、実施主体である都道府県や市区町村も、国が決めた計画をただ押しつけられるのではなく、それぞれの役割分担を想定して、基本計画策定段階において意見を述べる機会があってしかるべきだと思います。都として、国に対し要望していく考えがないのか。
以上、都としての主体的な取り組みについて、石原都知事のご見解を伺います。
答弁2 ▼知事
犯罪被害者支援についてでありますが、犯罪については犯人個々の責任が問われるべきものだと思いますけれども、犯罪の温床としての社会のひずみ、ゆがみというものについては、やはり国家社会の責任が存在すると思います。
そういう意味で、先般、国が公表しました犯罪被害者等基本計画案の骨子は、かなり遅きに失した感はありますが、痛ましい犯罪に遭遇し、被害をこうむった方々を支援する上では、一つの前進と評価できると思います。
都としては、被害者への支援を進めるに当たりまして、国の動向を踏まえ、必要に応じて意見を述べるとともに、区市町村、関係団体とも連携協力しながら、被害者の立場に立って支援活動を推進していきたいと思っております。
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■自殺者対策と自死遺児対策 |
警察庁生活安全局の資料によると、平成十六年中における自殺者の総数は三万二千三百二十五人で、前年に比べると二千百二人減少しているものの、平成十年以降、三万人台を推移しています。この数は、近年一万人を切っている交通事故死亡者数の三倍以上であり、数字を置きかえると、二十分に一人の割合でみずから命を絶っている方がいることになります。
自殺の原因については、遺書ありの自殺が全体の約三分の一であることから、すべてを把握することはできませんが、遺書ありの自殺者のうち、健康問題が約三九%、経済・生活問題が約三三%、家庭問題が約一〇%、勤務問題が約六%となっています。
また、年代別自殺者数においては、六十歳以上の方が年齢区分としてトップになっているものの、四十代から五十代という子育て真っ最中、働き盛りの世代の方が、平成十六年中で一万二千八百七十四人と、全体の四〇%を占めています。
また、職業別では、夫、妻両方の「シュフ」や、また、学生を除いた純粋な無職者が一万五千四百六十三人と、全体の約四八%を占めています。このことからも、働き盛りの方々の経済的な問題が自殺の大きな要因になっていることがうかがわれます。
これ以上自殺者をふやさないため、首都東京において、自殺予防に向けた取り組みを強化していくことが急務の課題であると考えます。
質問1
そこで、都においては、平成十五年度、十六年度において、西多摩地区におけるうつ病対策、自殺防止プロジェクトを実施していますが、このプロジェクトについてどのように評価をしているのか。また、このような取り組みを全都的に継続して行っていくことも必要と考えますが、今後の対応について伺います。
答弁1 ▼福祉保健局長
自殺防止プロジェクトの評価と今後の対応についてでございますが、このプロジェクトは、西多摩保健所が中高年男性の自殺死亡数の増加に着目いたしまして、職場におけるうつ病対策を中心とした心の健康づくりに取り組んだものでございます。
具体的には、民間事業者や国の地域産業保健センターとの連携を図りながら、うつ病予防リーフレットの配布、健康管理担当者向け研修会の開催など、きめ細かな普及啓発や相談活動を実施しており、職場における心の健康づくりの一つのモデルとなる取り組みとなったものと考えております。
今後は、こうした事業の成果も踏まえ、区市町村や職域保健等との連携を図りながら、心の健康づくり対策を進めてまいります。
質問2
さらに、自殺予防については、専門医等によるうつ病対策のみならず、経済的な問題を解決するため、特に中高年世代に向けたきめの細かい就業支援や労働相談、さらには健康相談等、局を横断した取り組みと、利用者が相談しやすい体制整備、自殺予防に向けた施策の周知方法の改善など、取り組むべき課題は多いと思います。これらを含め、都の自殺防止に向けた総合的な取り組みについて伺います。
答弁2 ▼福祉保健局長
自殺防止に向けた総合的な取り組みについてでございますが、自殺は、本人や残された家族、周囲にとってこの上ない悲劇であるとともに、労働力の喪失など、社会的、経済的な損失も大きいものでございます。
こうしたことから、自殺防止のためには、直接的な要因となっていることが多いうつ病の予防治療や、その正しい知識の普及を初め、自殺の背景にある孤独、リストラ、多額の負債といった社会的、経済的な問題への対応など、社会全体での幅広い取り組みが重要と考えております。
都はこれまでも、精神保健福祉センターや労働相談情報センターなどにおける相談体制の整備を初め、リーフレットなどによる普及啓発、保健医療従事者への研修など、心の健康づくりに取り組んでまいりました。
今後とも、関係各局と連携いたしまして、総合的な取り組みを推進してまいります。
質問3
また、これら自殺者の残された家族である自死遺児への対策も必要な課題です。交通遺児への取り組みは、長年の歴史もあり、民間団体等における支援体制もある程度確立しつつあると思いますが、一方、自死遺児については、心のケアや経済的な支援についても、まだ十分な体制が確立されているとはいえない状況にあると思います。
自死遺児のみならず、不慮の事件事故で肉親を失った遺児たちを含めて、適切な相談を行える体制を区市町村とも連携しながら整備していく必要があると思いますが、ご見解を伺います。
答弁3 ▼福祉保健局長
遺児たちに対する相談体制についてでございますが、不幸にして家族の突然の自殺などにより遺児となった子どもたちは、心に深い傷を抱えており、こうした子どもたちを支援していくことは非常に重要でございます。
都では、児童相談所において、児童心理司による専門的な知識と技術を活用したカウンセリングなどを実施しており、その中で、お話のような子どもたちのケアにも的確に対応しているところでございます。
今後も、地域の相談機関である子ども家庭支援センターなどと密接に連携いたしまして、相談の充実を図るとともに、広く窓口の周知にも努めてまいります。
質問4
さらに、学校教育においても、不慮の事件事故や自殺等で親を失った遺児たちに対する心のケアを行っていく必要があると考えますが、現在の取り組み状況を伺います。
答弁4 ▼教育長
不慮の事故等で親を失った児童生徒への対応についてでございますが、当該児童生徒が精神的な衝撃から立ち直り、心の安定を取り戻すためには、学校教育におきましても、きめ細かく心のケアを行っていくことが極めて重要でございます。
現在、学校におきましては、担任や養護教諭等が、臨床心理士の資格を有するスクールカウンセラーや、東京都教育相談センター等の専門職と連携を図り、当該児童生徒の不安や悩みを受けとめ、カウンセリングなどを行っております。
都教育委員会は、今後とも区市町村教育委員会と連携を図りまして、各学校が親を失った児童生徒の心の安定に向けて取り組むことができるよう、適切に対応してまいります。
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■少子化対策 |
少子化対策の問題については昨日の代表質問の中でも取り上げられており、一部繰り返しになりますが、平成十六年における特殊合計出生率が全国平均で一・二九人と、前年と同数であり、この東京は、全国でワーストワンとなる一・〇一人と、前年の一・〇人を切るという状況からは若干改善されたものの、いまだ危機的な状況にあります。
こうした状況を受け、都を初め各区市町村においてもさまざまな少子化対策、子育て支援策を提供しておりますが、子どもを産み育てやすい環境をつくるため、小児医療体制の整備や保育環境の整備、子育て相談や若年世帯への経済的支援、就業支援等、さまざまな施策の充実が求められます。
さて、一般に行われている少子化対策は、子どもを産み育てやすい環境を構築することにより、夫婦や未婚者にインセンティブを与えるものです。しかし、これらの対策がなかなか実を結ばない状況の中で、これらの施策とあわせて取り組んでいくべき施策として、子どもを産みたいと考えているにもかかわらず、なかなか子どもを授かることができない夫婦に対する不妊治療への取り組みがあります。
現在、妊娠可能年齢にあり、妊娠を望み、二年以上夫婦生活を営んでいる夫婦の一〇%が不妊症の状況にあると想定されています。
そして、このような不妊症と思われる夫婦のうち、七割から八割の方が何らかの形で医療機関を受診し、そのうち四三%ぐらいの方は、一般不妊治療にて二年以内に妊娠に至っているという統計があります。
そして、この一般不妊治療では妊娠に至らなかった五〇%以上の方が、不妊治療の次の段階である体外授精や顕微授精といった、いわゆる行政用語でいう特定不妊治療に移行するか、不妊治療をあきらめる状況になっています。現実に、平成十五年中、全国で約五万人の方が体外授精並びに顕微授精による治療を受けられています。
近年、特定不妊治療の技術も向上し、少し古い数字ですが、一九九九年における体外授精の妊娠率は二四・九%、流産率は二二・一%、生産分娩率は一六・九%となっています。この数字は、明らかに特定不妊治療によって新しい命が生まれていることを物語っています。
質問1
しかし、この特定不妊治療の最大の問題点は治療費の高さです。このような状況を受け、各都道府県においても特定不妊治療費助成制度が導入され、東京においても、国の制度を準拠する形で、一年度当たり十万円を限度とし、通算二年度まで助成する制度がつくられていますが、兵庫県や石川県では、県費によって、通算三年度や四年度まで延長して助成しているところもあります。
しかし、この助成制度は、夫婦の前年度の所得合計額が六百五十万円未満の場合を要件としており、そのような所得の方々にとって、実際には、都内標準額で一回当たり四十万円から五十万円もかかる特定不妊治療費の負担は過大であると思います。また、平均すると年一・五回の治療を受けている方が多い実態から、一年度間に続けて治療を受ける方も多いことが想定されます。
そこで、より多くの方がこの助成制度を活用し、妊娠する機会をふやしていくため、助成額の増額、年度ごとの助成制度などを改め、弾力的な運用を行うこと、さらに、所得制限についても緩和していく必要があると考えます。
この治療を受けた十人に一人から二人が確実に出産し、二〇〇一年には全国で約一万三千人が生まれている現状を考えると、国への制限改正の要望とあわせ、多少都の持ち出しが膨らんだとしても、未来への投資として決して高いものではないと思いますが、お考えを伺います。
答弁1 ▼福祉保健局長
特定不妊治療費助成制度についてでございますが、本事業は、子どもを欲しいと望んでいるにもかかわらず、恵まれない方々が不妊治療を行う場合に、その治療費の一部を助成する事業であり、平成十六年度に国が開始したものでございます。
不妊治療については、治療を受ける方の身体的、精神的負担や治療の安全性など、さまざまな意見がある中で、国は、現在、助成期間を二年間から五年間に拡大することを概算要求している段階でございます。
このような状況のもと、お話のような都単独の措置については慎重に対応していくべきと考えております。
質問2
この特定不妊治療費の問題は、一般不妊治療費を含め、本来、医療保険の適用があれば一挙に解決される問題です。首都東京として、知事会とも連携をし、国に対し医療保険の適用を求めていく必要もあると思いますが、いかがでしょうか。
答弁2 ▼福祉保健局長
不妊治療に対する医療保険適用についてでございますが、都は、従来から、大都市衛生主管局長会などを通じまして、不妊治療を医療保険適用の対象とするよう要望してきております。
引き続き、他県等と連携を図りながら、国に対して働きかけてまいります。
質問3
最後に、不妊治療について、治療費への不安のみならず、治療自体に対する不安や、医療施設によりばらつきがある治療への不安もあります。都においては、社団法人家族計画協会に委託し、不妊ホットラインや東京都女性のための健康ホットラインを開設していますが、相談機能のさらなる充実を図っていただきたいことを要望いたします。
以上、不妊治療を中心に質問してまいりましたが、最後に、都が取り組むべき少子化対策の進め方について知事のご所見を伺い、質問を終わります。ありがとうございました。
答弁3 ▼知事
少子化対策の今後の進め方についてでありますが、昨日も申しましたけれども、少子化は、ある程度社会が豊かになり、成熟し、高齢化が進んだ先進国においては、長期的に見ますと、例外なく進行している状況だと思います。
そうした点では、個々の人たちの人生そのものに対する価値観の変化にもよるものだと思いますが、私自身はやっぱり子どもあっての親だと思いますけれども、そういう価値観が通用しなくなった現代では、少子化がやむなく進んでいくわけでありますが、そういう点でも、これを行政の関与によって阻止するということは、かなり限界があると思います。
しかし、日本や東京の将来に重大な影響を与える問題でありますことは事実でして、都はこれまでも、独自の認証保育所の創設や、周産期・小児医療体制の充実など、さまざまな施策を展開してまいりました。
今後とも、子どもを産み育てたいと望む方々が安心して出産や子育てのできる環境を驥尾に付して整備するなど、すべての子どもと家庭を対象とした取り組みを積極的に推進していきたいと思っております。
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