このコーナーでは、東京から世界に向けて新しい文化や創造力を活かし活躍する「ヒト」、「モノ」、「コト」などを紹介してまいります。
今月は、繊細なカットが美しい伝統工芸・江戸切子を御紹介します。
硝子の歴史は紀元前から書物に残りますが、東京を代表する伝統工芸“江戸切子”のルーツは、イギリス、ポルトガル、オランダなど、ヨーロッパから長崎を通じて伝播されたカット硝子から発展しました。
江戸期に開発されたカットの紋様を“江戸切子紋様”と呼び、その紋様が入った硝子の総称を近年では“江戸切子”というようになりました。紋様には、基本的ないくつかのパターンはありますが、器の厚さ、形、色などのバランスを、職人やデザイナーが考えたいくつかの組み合わせで美しさを表現することができます。
江戸切子の製作工程は、「わりだし」「荒ずり」「中ずり」「みがき」という行程を経て器に命が吹き込まれます。その行程で、作品の善し悪しを左右し、最も重要な部分とされる「中ずり」は、カットの深さ、光の屈折などを捉えながらすすめる職人のなせる技です。また、中ずりの前には作品の基軸となる「親骨」を作る行程の「荒ずり」があり、これも骨組みを決める上での重要なポイントとなります。このような繊細な行程により、元は一本の線にすぎませんが、職人が手を加える事により様々な文様が浮かび上がってきます。
実際の作業は、カットをする機械を据え置いて器を巧みに動かしながらすすめます。機械の先端には、人造ダイヤが施されたホイールが取付けられておりここにも繊細さが伺えます。
良い仕事をより早く、なんでもこなせる職人こそが一人前とされ、一生“技”を磨くことが江戸切子の美しい世界を作り上げ、江戸の伝統を守り続けています。
一流の切子職人と言われる職人は、東京に20名程度にすぎませんが、やはり良い仕事をこなす職人の作品には、風格、力強さが感じられます。
現代では格調高い伝統工芸とされている江戸切子ですが、その昔は町民から町民へと技術は伝承され、その商品は各藩大名に根強く愛され、町民文化と共に育まれた物なので、見ているだけではその良さが半減してしまいます。見て、触れて、日常使いの器として江戸切子が活躍しつづけることにより、“江戸の粋”がみなさんの生活に根強く残っていくことでしょう。