四こまストーリー

街で見かけるごく日常的なイメージをもとに、東京の新たな物語をみなさんと一緒につくり上げていく企画。それが『東京四こまストーリー』です。

東京「ムーンリバー」編
十三夜はお月見で夜の摩天楼を独り占め

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十三夜1枚目
十三夜2枚目
十三夜3枚目
十三夜4枚目

まりゆく東京の秋の風物詩といえば、そう、メトロポリタンに浮かぶ美しく輝くお月さま。冷たく冴えわたる夜空を見上げれば、銀色の絹のドレスを纏った月の女王の微笑む姿が見られるはず。ん~どこか切なくクールなひととき!というわけで、今回の東京四こまストーリーは、秋の夜空を飾るお月さまがテーマ。月をテーマにした詩や言葉とともに、中秋の名月=「十三夜」の“栗名月”、“豆名月”をロマンティックに祝ってみよう。
 まずは「百人一首」の二十三の歌から――『月みれば ちぢにものこそ 悲しけれ我が身一つの 秋にはあらねど』 (大江千里)
 なるほど、現代人に限らず、平安の人もやはり、秋を物悲しいと感じていようだ。その物悲しさを象徴するのが月。月を眺める自分の身はひとつだが、月見る物思いは際限ないというもの。なかなか奥深く哲学的な秋の夜長だ。
 ところで、「十三夜」とは聞き慣れない方もいらっしゃるのでは。十五夜お月さま=9月下旬(旧暦の8月)の中秋の名月なら、10月下旬の十三夜も中秋の名月!どこが違うのかといえば、満月の十五夜に対して、十三夜は満月になる前の姿。丸々とふくらんでゆく姿が縁起の良い月として、後醍醐天皇の時代からお月見の対象だったとか。ちょうど、栗や豆の収穫期にあたることから、“栗名月”、“豆名月”と呼ばれている。ちなみに十五夜は芋の収穫期から“芋名月”とのこと。
 では、感性の匠・清少納言は月をどう評価しているだろうか、続いて「枕草子」から――『月は有明の、東の山ぎはにほそく出づるほど、いとあわれなり』
 夜更けに出て明け方まで出ているのが有明の月。しかも、銀色のハープのような上弦の月がいいというのだから、さすがは清少納言。秋の夜長に読書を楽しみながら、ちょっと夜更かしして有明の月を楽しむなんていうのもいい。
 さてさて、十三夜をどう祝うか。やはり伝統的なスタイルで粋な夜を過ごしてみたいもの。まずは自然の恵みに感謝して、東京産の栗や豆など旬の野菜、果物を供えてみよう。もちろん、食欲の秋にぴったりのおだんごも欠かせない。もし、スパイスを効かすなら、秋の七草=すすき、はぎ、おみなえし、ききょう、くず、なでしこ、ふじばかまを飾れば、お月見の達人だ!
 あとは、のんびりとお月さまと対話してみよう。お供えものがお気に召した月の女王と夜の摩天楼を独り占めなんていい。ただし、くれぐれも彼女の機嫌を損ねないように。機嫌を損ねていつの間にか雲隠れ!?なんてこともある――『めぐりあひて 見しやそれとも わからぬ間に 雲がくれにし 夜半の月から』(紫式部)


写真:武居 英俊/文:麒 麟