四こまストーリー

街で見かけるごく日常的なイメージをもとに、東京の新たな物語をみなさんと一緒につくり上げていく企画。それが『東京四こまストーリー』です。

小さな秋の小さな橋み~つけた!
奥多摩版「マディソン郡の橋」
―ビター・スウィートな思いを橋渡し―

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多摩川
奥多摩大橋
奥多摩湖の名物「浮き橋」
多摩川

 性と創造力を磨く読書・芸術の秋。りんごの実が地面に落ちる様子をみて「万有引力論」を発見したのはご存じニュートン。それから百年後余りのち、逞しい創造力によって、万有引力論から「情念引力論」なんてものを発見した人物がいる。フランスの哲学者シャルル・フーリエだ。物質だけでなく、人間の感情も引き合うというのが彼の説だが、たしかにニュートンからヒントを得た彼の思想そのものも、引き合う感情の産物ともいえるのかもしれない。
 引き合う感情といえば、真夏の恋の物語り「織姫・彦星」の天の川の伝説は、まさしく情念引力論そのもの。天の川を境に離ればなれとなった恋人同士が年に一度だけ再会を果たすというものだが、過ぎ去った夏の恋の思い出に重ね合わせて、ちょっぴりほろ苦い、ビタースィートな秋の夜長を迎える方も多いのでは?。そんな時はおもしろ空想科学!もし天の川に橋が架かっていたらなんて想像してみるのがいいかも。さて、彦星・織姫ふたりの恋の結末はいかに……。
 ということで、今回の東京四コマストーリーは「橋」がテーマ。深まる秋を先取りできる奥多摩方面に足をのばし、多摩川や奥多摩湖にかかる「橋」で気分転換といきたい。橋といってもさまざま。たとえば吊り橋ならば、ここ奥多摩には、奥多摩を象徴する「奥多摩大橋」が、まるで天使の翼のように舞い降りる光景が広がる。深まる紅葉とのコントラストも鮮やかだ。もちろん、大きな橋もいいが、じつは奥多摩の「橋」の良さは自分にぴったりくる小さな橋がいくつもあること。サイクリングロードで軽快なツーリングを楽しみながら、名もない小さな橋を渡ってみたいところだ。「枕草子」で清少納言はこう語っている。「橋は、あさむづの橋。長柄の橋。あまびこの橋。濱名の橋。一つ橋。うたたねの橋……一すぢ渡したる棚橋、心せばけれど、名を聞くにをかしきなり」
 なるほど、ちょっとした橋を渡るのは心細いけど、名前を聞けばなかなか風情があっていいとは、さすが清少納言。さて、風情を求め、奥多摩湖まで足をのばしてみれば、なんと!水上を歩く姿がちらほら!そう、奥多摩湖の名物「浮き橋」、通称「ドラム缶橋」だ。なんでも、かつては対岸のわさび田に通う人々のためにドラム缶を使って作られた橋だとか。
 エメラルドグリーンの宝石のような湖面をゆっくりと渡ってみよう。時間が一瞬、止まったかのように静ひつな光景がぼくらを包み込んでくれる。深まりゆく秋、心に浮かぶのはロマンティックでほろ苦い夏の思い出。奥多摩に架かる名も知らぬ橋のように、胸に秘めた思いにをそっと橋渡ししてくれたら……そんなビタースウィートな小旅行には、秋の奥多摩がぴったり。小さな秋の小さな橋大発見の旅。真夏に別れを惜しんだ彦星と織姫のみなさん、心と心が引力のように引きつけ合う、あなただけの素敵な橋がきっと見つかるはずです!


写真:武居 英俊/文:麒 麟