四こまストーリー

街で見かけるごく日常的なイメージをもとに、東京の新たな物語をみなさんと一緒につくり上げていく企画。それが『東京四こまストーリー』です。

水の妖精たちの氷のマジック
おいしい水とおいしい地酒で花鳥風月!

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払沢の滝1枚目
払沢の滝2枚目
払沢の滝3枚目
払沢の滝4枚目

“寒の水”という言葉をご存じですか。小寒(1月6日)から節分(2月3日)までの間に汲み置きした水のことで、“延命の水”とも呼ばれている。なんでも、この時期の水は雑菌が少なく、体にもいいし、腐りにくいため長期保存にも向いているとか。一石二鳥の魔法の水というわけだ。みなさんも是非ともお試しあれ。というわけで、今回の東京四コマストーリーは「東京名水紀行」と題して、氷のように冷たく、おいしい水が飲めるこの時期ぴったりのスポットをご紹介しよう。
 場所は西多摩郡檜原村。JR五日市線「武蔵五日市」駅からバスで「払沢(ほっさわ)の滝入り口」をめざそう!多摩川の源流のひとつ秋川の清らかなせせらぎが都会での疲れを癒してくれる。東京と思えないほどの豊かな自然の恵みと神秘的な雰囲気に心躍るはずだ。“払沢の滝”へと足をのばせば、そこに見えるは、落差約60mの4段にまたがるダイナミックな水の流れ。きらきらと輝く滑らかな水しぶきとともに森一帯に響き渡る水音のハーモニーからは、どこか幻想的なイメージが湧き上がるほど。水の妖精たちの舞踏する姿が目に浮かぶようだ。
 「日本の滝100選」にも選定されているこの滝、なんでもお坊さんが手にもつ“払子”(白熊(はぐま)や馬の尾、麻などを束ねて柄を付けたもの)と呼ばれる仏具にその姿が似ていることから“払子の滝”と呼ばれていたとか。なるほど、シルエットが仏具にたとえられるとは、やはりどこか神秘性がつきまとう滝だ。しかも、その神秘性はもっと奥深いところ、そう、滝壺にあるというから驚き!聞くところによれば、滝壺には昔から大蛇が住んでいるという伝説が今に伝わっている。映画「インディー・ジョーンズ」さながら大蛇を探す冒険なんていいかも。
 そんな神秘と謎に包まれたこの滝の厳冬期限定のユニークなイベントにも注目したい。じつは“払沢の滝”は厳冬期には凍結することでもよく知られている。まさしく水の妖精たちが放つ氷のマジックといったところだが、そのマジックが完全に達成される月日、つまり滝が完全に凍る瞬間をぴたりと当てるというもの。さてさて今年の結果はいかに。みなさんも一度参加してみてはいかが。
 「水からすべての魂は生まれ、心の中に浮かぶ映像は水から生まれる」とは、ケルトの妖精たちを紹介したアイルランドの詩人・イェーツの言葉だが、滝の響きに身を任せていると、まさにこの言葉をなぞるかのような静謐で心安らぐひとときにうっとり。足をのばして肌で感じてほしい。もちろん、秋川といえば、有名な地酒が数々あることも忘れちゃいけない。滝を鑑賞したあとは、水の妖精たちがもたらす映像を思い浮かべながらくいっ!と一杯やる。ん~、花鳥風月な気分満喫の名水紀行になることまちがいなし!


写真:武居 英俊/文:麒 麟