平成14年 予算特別委員会総括質疑
民主党 山下太郎
〔1〕 平成十三年十二月、東京都は、開かれていて、安心できて、そしてむだのない医療を目指し、都立病院改革マスタープランを策定いたしました。東京都が目指す、この開かれていて、安心できて、むだのない医療というスローガンについては、私も何ら反対するものではございません。しかしながら、その内容には少し、私から見ても心配なことがあるな、そのように思っております。
このマスタープランでの考え方は、都立病院は都立病床数の約六%を占めるにすぎない、そういうことから、これからは難病や精神病など、一般医療機関での対応が質的、量的に不足しているものを行政的医療として対応するとしているものです。これは、私にも理解のできるところであります。私も何も、何から何まですべて東京都がやるべきだとは考えておりません。
しかし、本当にこのマスタープランが示す難病や精神病だけが質的、量的に不足しているのかといえば、私はそうも思わないわけであります。
例えば、小児医療の問題などは、量的に不足している医療として、昨今大きな社会問題にもなっております。小児医療については、少子化、核家族化、そして共働き家族の増加など、さまざまな要因が相互に関連しながら問題を複雑化させています。
そんな折、平成十二年九月に、東京都救急医療対策協議会から、東京都における今後の小児救急医療体制のあり方についての報告が出されました。
この報告の中では、小児救急医療を取り巻く現状についての分析がなされておりますが、小児医療は診療に手間がかかるなど、採算的に合わないということが強いことから、小児科標榜医療機関の減少や、地域の小児科医師は減少方向にあるとされております。
そのため、東京都に対し、輪番制ではなくて、固定制による小児初期救急医療体制の整備を求めるとともに、小児医療にかかわる診療報酬制度の改善や小児医療医師の育成確保について国に働きかけるべきだと提言をしています。
そこで伺います。小児医療科医の育成確保策については、国の対応を待つだけではなく、東京都としても積極的に取り組むべきと私は考えますが、見解を伺います。
〔2〕 固定制による小児初期救急医療体制の整備につきましては、既に平成十三年度におけるモデル事業を実施しておりますが、十四年度予算については、このモデル事業に加え、初期救急、平日夜間診療事業を行う区市町村への補助制度を追加し、施策の充実を図るとしていますが、具体的にどのような内容なのか、お聞かせいただきたいと思います。
〔3〕 近年のデータを調べてみますと、小児科を標傍する病院が減少しているのが如実にあらわれております。平成十一年十月一日、ちょっとデータは古いんですが、小児科を標傍する病院は、全都で二百四十九施設あります。五年前の平成六年当時と比べても、これは三百三施設あるんですが、五十以上の病院が減少いたしております。
また、その数を区部、多摩別に見ますと、区部で百七十九、そして多摩地域では六十九となっておりまして、一病院当たりの小児人口では、区部が五千五十八名であるのに対し、多摩では七千四百九十九名となっておりまして、区部に比べると、多摩では、一つの病院が約二千五百人もの多くの小児人口を抱えているということになります。それだけ現在においても区部と多摩の間で大きな格差が生じていると私は思っております。
このように、多摩地域での小児医療が区部と比較しておくれているにもかかわらず、東京都が平成十三年度に実施をいたしました小児初期救急医療体制整備支援事業におけるモデル三地区では、小児医療の再編で問題になっている清瀬市や八王子市はもとより、多摩地域での指定は全くゼロということでございました。
そこでお伺いいたします。私は、固定施設で初期救急医療を整備していくためには、特に清瀬市や八王子市など、この両市が入っている多摩地域で積極的に取り組んでいくべきじゃないか、そのように考えておりますが、ご所見を伺います。
〔4〕 多摩地域の厳しい小児医療の現状の中で、東京都は、平成十九年度をめどに、多摩地域にある清瀬小児病院と八王子小児病院、そして世田谷区にある梅ケ丘病院の三つを統合し、府中に移転をするという計画を決定いたしました。
その際、地域の小児医療に対しては、東村山市にある多摩老人医療センターを地域病院とし、そこに小児科を新設するとしています。また、知事も、このマスタープランを積極的に推進するという立場をとられていると認識しております。
私は、この都立病院改革の進め方には大きな問題があると考えております。そもそもこのマスタープラン自体が目指しているのは、都民が安心して診療を受けることができる患者中心医療の実現を目指すものであるはずです。
にもかかわらず、このプランは、移転後の地域医療はどうなるかという、私たち地域市民にとって非常に重要な問題というのはまだまだ決まっていないのではないか、そんなふうに私は考えているところです。
そこでお伺いいたします。清瀬小児病院では、年間約一万二千件の救急患者を受け入れております。地域の方々のお話を伺いますと、救急の場合、特に夜間が多いと思うんですが、一般の医療機関に行っても受け入れてもらえないことが多くて、最後は結局、清瀬の小児病院を頼るしかないということが現状だそうです。
清瀬小児病院が移転した場合に、今、都が考えられています救急患者の約九割を超える一万人以上、これは一次救急患者ということになっておるんですが、この一万人以上の患者さんたちを、地域医療の役割として公社化される多摩老人医療センターでカバーするお考えだと思うんですが、本当に住民の方々が安心してこの多摩老人医療センター、公社化になるわけですが、その地域病院に行って、この一万人もカバーできるのか、そんなような医療体制を組むことができるのかということを伺いたいと思います。
〔5〕 私は、清瀬小児病院にせんだって視察に伺ってきました。そのとき聞こえてきた声というのは、今まで清瀬の小児病院では、地域の医療機関と連携をとってこなかったという発言があったわけです。
私は、今まで連携がとれていなかったのにもかかわらず、今ご答弁いただいたような形で地域と連携していくというふうなお話が出されても、とても安心できるものじゃないと思うんですが、そのあたりのご所見はどのような感じでしょうか、伺います。
〔6〕 多摩老人医療センターは、公社化した後、民営化を検討するとされております。民営化が予想される、十年後か、十五年後か、二十年後かわかりませんが、現在よりもさらにその時点では少子化が進んでいると私は考えます。
今日でも小児医療は民間の医療機関では運営が厳しいといわれているにもかかわらず、民営化後も小児医療を確保することが保障されるのでしょうか。そのあたりはどうでしょうか、伺います。
衛生局長 〔1〕 小児科医師の養成確保につきましては、これまでも救急を含む小児医学カリキュラムの整備充実などを国へ提案してきたところでありますが、都としても積極的に取り組むべきと考えております。
このため、来年度から新たに、地域で小児医療を担う開業医師に対する研修を実施するなど、具体的な取り組みを行ってまいります。
〔2〕 今年度から開始したモデル事業は、平日夜間に固定施設で小児初期救急を実施する区市町村が、地区医師会等の関係機関で構成される協議会を設けまして、事業運営に係るデータやノウハウ等の収集、分析を行うことを支援するものであります。
来年度は新たに、こうした初期救急医療事業を区市町村が行う場合、小児科医師等の確保のための事業運営費の補助を行い、医療体制の整備を促進するものであります。
〔3〕 現在、モデル地区として指定しておりますのは葛飾区と練馬区の二区でございまして、この三月に中野区で準備会を開始したところであります。
来年度は、モデル地区を六地区に拡大するとともに、新たな運営費補助については十四地区で実施することとしております。
これらの事業は、区が先行してしまっておりますけれども、多摩地域におきましても、ご指摘のように、実施主体である市町村と、あるいは地区医師会と十分協議しながら取り組んでまいりたいと考えております。
〔4〕 移転統合に当たりまして、清瀬小児病院がこれまで実施してきた高度かつ専門的な医療につきましては、小児総合医療センターが引き継いでまいります。
また、清瀬小児病院が実態として担ってまいりました初期救急などの地域医療につきましては、多摩老人医療センターに小児科を新設し、地域病院としての機能を持たせることなどにより対応してまいります。
今後、この地域病院を初めとする地域の医療機関と小児総合医療センターとの間でネットワーク機能を充実することによりまして、住民が安心できる小児医療体制を確保していくことができると考えております。
〔5〕 財団法人東京都保健医療公社は、地域医療のシステム化を推進することを重要な役割として担っておりまして、積極的に地域医療連携に取り組んでおります。
先ほど、かち委員からも、都立荏原病院の公社化につきましてご懸念をお示しになられましたが、これは大きな誤解に基づく杞憂でございまして、多摩老人医療センターを地域病院化し、その運営を公社に移管した後は、地域の医療機関との間で共同診療や高度医療機器の共同利用、研修会の開催等を推進するなど、これまで公社が培ってきたノウハウを活用し、地域医療連携を一層強化しながら、小児医療も含む地域全体の医療の質的向上が図れるものと確信しております。
〔6〕 多摩老人医療センターの運営については、当面は、円滑に保健医療公社へ移管することが重要と考えております。
公社化した後の民営化については、将来的なステップであることはご指摘のとおりでありまして、地域医療のシステム化の進展状況等を十分に検証しながら検討していくことが必要だと考えております。
なお、この場合でも、ご指摘の小児医療と地域に必要な医療を確保できるよう配慮してまいります。
〔1〕 せんだって、東村山市の中学生らがホームレスに対して暴行を加えて死に至らしめるという大変痛ましい事件が発生をいたしました。
このような事件に代表される、少し前なら信じられないような青少年による凶悪な犯罪が近年多発しています。最近のデータによれば、青少年による凶悪犯罪の発生件数というのは、一年間で約千六百件ということです。これは約十年前の二倍に当たります。また、昭和四十年代の数字とほぼ同数というふうになっております。この昭和四十年代の発生理由は、当時の社会情勢や経済情勢が一つの大きな要因として考えられ、現在のそれとは大きく違うのではないかと私は思っております。
それでは、なぜ近年こういった事態に陥っているのでしょうか。私が考えるところは、最近の子どもたちは、社会の基本的ルールを尊重する意識や、他人を思いやる気持ちが希薄になっているのではないかと考えています。
このことは、これまでの偏差値重視型教育が先行し過ぎて、思いやりの心をはぐくむ教育が十分にされていなかったり、子どもたちがさまざまな人たちと触れ合う体験が不足してきていることが一つの原因だと考えております。
そこでお伺いいたします。子どもたちが成長していく上で本来重要である、必要であるさまざまな人と触れ合う機会が少なくなってきていると思いますが、このことについての見解を伺います。
〔2〕 さまざまな人たちとのつながりが希薄化する現代において、学校教育で心の教育をもっともっと推進していく必要があると考えますが、このことについての都教育委員会の見解をお伺いいたします。
〔3〕 重要な課題である心の教育の推進についての現状と、そして今後の取り組みについてお伺いいたします。
〔4〕 思いやりの心を育てるために、都立高校の生徒が盲・聾・養護学校の生徒と触れ合う機会が大切だということは先ほども述べましたが、このことについての都立高校の現状と今後の取り組みについてお伺いいたします。
〔5〕 都立の盲・聾・養護学校の生徒が都立高校の授業を受けることによって単位を認定されることが望ましいと思うのですが、このことについての現状と、そして、今後の取り組みについてお伺いをいたします。
〔6〕 私は、この質問をさせていただくに当たり、都立の清瀬養護学校に視察に伺ってきました。そこで、ただいまお話にあったように、単に交流を深めるといっても、さまざまな問題があるということを聞いてきました。実際には、移動手段の問題や、都立高校でどういう設備を整えれば、障害をお持ちの生徒さんが何のバリアも感じることなく過ごしていけるか、こんな問題があるということも伺ってきました。そういった厳しいー失礼、厳しいといういい方は適切ではないかもしれませんが、そういった現状の中で、今までにない、私は前向きな答弁だと受けとめております。かなり踏み込んだ答弁をいただいたことに大変感謝を申し上げます。
しかしながら、先ほど来申し上げていますように、私はこれで満足しているとはいいがたいんです。欧米では、先ほど申し上げたように、私の経験からもおわかりいただけると思うんですが、障害を一つの個性としてとらえて、健常者と障害者はもともと一緒の人間なんだという観点から、分離教育から統合教育への大きな流れが起こっています。やる前から、これが問題だ、あれが問題だ、当然そういうことがあるんでしょうが、心配することばかりでなく、先ほど、かなり限定的にならざるを得ないというご発言もございましたが、多少、私から見れば、ここは消極的なのかな、そんな気もしていますが、まず、一緒に学べる環境を整えていくべきではないか。そして、その上で問題をどう解決していくかをお考えいただいて、そういう気持ちで臨んでいただきたいというふうに思っています。
私がこの質問を通じて申し上げたかったことは、先ほど来申し上げたように、私自身、留学する前は、正直に申し上げて、障害を持つ生徒さんに対してある種の心の距離感というものを感じていました。私が小中、そして高校も途中までしか行っていませんけれども、その中で感じていたのは、中学校でよく覚えているのは、ふつうの学校、校舎の中で、ぽつんと行程のグラウンドの角のところにプレハブのような大きな建物が建っていて、そこに特殊学級か、特別学級か、ごめんなさい、正式名称はわかりませんが、そこに一緒に通っていた。そういう形で実際に触れ合った経験が中学の三年間であったかといえば、皆無なんです。彼らの名前や、もちろん顔すら覚えていないわけです。
そんな中で育った私が、当然心の距離感があって当たり前だと思うんですが、アメリカで私が体験した経験は、本当にその考えを百八十度変えるものだったんです。そういう彼らを尊敬できるようになったり、そして、自分自身も頑張ろうじゃないか、前向きな気持ちになれた。私自身が経験したことです。
いいかえれば、一緒に学び、交流を深めるということは、今までのーこれも憶測でございます、失礼をいたしますが、障害者に手を差し伸べるといったような観点だけではなくて、私は、これは健常者にとってもプラスになる。そのような環境を一日も早く、できる限り整えていく必要があると私は考えています。
いずれにいたしましても、今回はすばらしい、踏み込んだご答弁をいただいたと思っています。今後もすべての生徒にひとしくチャンスが与えられるよう、今回の答弁を第一歩として、さらに前進していただきますよう強く要請をいたすところでございます。
さて、先ほど我が党の坂口委員から、あしたはエイプリル、失礼、あしたはホワイトデーですか。失礼しました。あしたはホワイトデーだというご発言がありました。実は、きょう、ちょっと間違えられたんですが、きょうは私の誕生日でございまして(「おめでとう」と呼ぶ者あり)ありがとうございます。今日で二十九になったわけでございますが、知事に温かいバースデープレゼントをいただきたいな、そんなふうに思っています。想定はしていなかったんですが、質問を終えるに当たりまして、これまでの私の経験を述べて教育長とお話をさせていただいた質疑についての感想なり、知事の教育観について、一年生議員の、まだまだひよっこではございますが、その私に知事のコメントをお聞かせいただければと思います。よろしくお願いします。
知事 〔6〕 特に、ハンディキャップのある人たちと一緒に勉強するというのはとてもいいサジェスチョンだと思いますし、なかんずくあなたがおっしゃった、多分あなたのレトリックなんでしょうけど、特に肉体的なハンディキャップは、その人間の一つの個性だというのは、私は、そういうハンディキャップが常人にない強い個性をつくるんじゃないかという気がいたしますし、それをまた、健常者が学ぶということも、先生の教えるよりももっとじわじわと身にしみてくる、いい勉強になるんじゃないかと思って、大変印象深く聞きました。どうもありがとうございました。
教育長 〔1〕 子どもたちをめぐります少子化であるとか、あるいは地域のつながりが非常に希薄化する中で、日常的な人間関係が親であるとか教師といった、確かに狭い範囲に限られるという傾向がございます。本来ならば、多様な人々とのかかわりを通しまして、他人の立場や考えを理解して他を尊重する、こういった態度をはぐくむといった、本来、人間の成長にとって必要な人とのかかわり方を学ぶ機会が減少していることが、子どもたちをめぐるいろいろな問題の背景にある一つの要因であると認識しております。
〔2〕 心の教育の問題ですが、お話のように、学校教育におきましては、児童生徒たちに、美しいものや自然に感動する心、あるいは正義感や公正さを重んずる心、他人を思いやる心や社会貢献の精神など、まさに生きる力の核となる豊かな人間性をはぐくむことが求められておりますが、これは、学校教育に限定して考えるのでなくて、家庭や地域社会との連携を図りながら心の教育を推進することが重要であると考えておりまして、その方向で、私どもとしては施策を実施してまいっているつもりでございます。
〔3〕 都教委といたしましては、道徳授業地区公開講座などの実施を通しまして、家庭、学校、地域社会が連携をしました心の教育の推進を図っておりますが、例えば、これは都内の公立のすべての小中学校で実施をしておりますが、例年十一月をトライ&チャレンジふれあい月間として設定をしまして、ボランティア活動や、あるいは職場体験を通しましてボランティア活動や、あるいは職場体験を通しまして、子どもたちが多くの人と触れ合う中で、一人一人がみずから目標を立ててやり遂げる体験活動を推進しております。
今後も道徳授業地区公開講座を全校で実施するとともに、地域における体験活動を充実するなど、心の教育の一層の充実を図るべく努力をしてまいります。
〔4〕 都立高校の生徒が、都立盲・聾・養護学校の生徒と交流しますことは、ともに助け合い、支え合って生きていくことの大切さを学びますとともに、思いやりの心を培うことになると考えますし、現に新学習指導要領におきましても、障害のある生徒等との交流の機会を設けることが示されておりまして、交流教育の充実が求められております。
現在、多くの都立高校では、老人ホームや児童福祉施設等での活動を行っておりますが、その約三割が都立盲・聾・養護学校との交流を行っておりまして、文化祭や体育祭などの学校行事に参加しましたり、点字、手話などの活動を行っております。
都教育委員会といたしましても、ボランティア活動の先行的な実践例を紹介しました「ボランティア教育の手引き」を作成しておりまして、これらの活用を図るなどしまして、より多くの都立高校と都立盲・聾・養護学校との交流が推進されるように努めてまいります。
〔5〕 学校間の連携、交流につきましては、例えば、都立高校の生徒が都立盲・聾・養護学校の生徒の介護体験学習を行いましたり、都立肢体不自由養護学校の生徒が近隣の都立高校の授業に参加したりするなどの事例はございます。
都立盲・聾・養護学校の生徒が都立高校の授業を受けるに当たりましては、生徒の実態等から、かなり限定的にならざるを得ないとは思いますし、授業内容や通学方法、学校の受け入れ体制等について検討すべき課題はございますが、今後、単位認定を含め、授業の連携、交流の推進に向けて前向きに検討してまいります。