急がない自然とともにのんびり文学散歩
三鷹文学散歩道はイマジネーションの宝庫
夏の散歩道といえば、青々と茂る木々の中をお気に入りの小説をポケットに忍ばせて歩くなん
ていい。そうそう、こんな言葉がある――“自然は急がない”。これは、「真実一路」、「路傍
の石」などで有名な文豪・山本有三の言葉だ。昭和11年から22年の約10年間、玉川上水沿いに暮
らしていたという彼のイマジネーションの源泉は、当時の武蔵野の豊かな自然にあるのかもしれ
ない。
というわけで、今回の東京こだわり散歩道は、“自然は急がない”という作家の言葉がじ~ん
とくる、武蔵野は三鷹の文学散歩道をご紹介しよう。忙しい毎日を送っている方には超お薦めの
コース!忘れかけていた何かがきっと見つかるはずだ。
出発は京王線調布駅。ここからバスに飛び乗って「都立神代植物公園」へと。美しい花々の観
賞もいいが、ここでは武蔵野の古刹として知られる深大寺の裏山に当たる雑木林で深呼吸。武蔵
野を愛した作家たちの感性の息吹きをまずは味わってみよう。
当時の武蔵野の記憶が蘇ったならば、三鷹通りをまっすぐ歩いて禅林寺を訪れよう。境内には、
「舞姫」など数々の名作を残した文豪・森鴎外(森林太郎)の墓と、「斜陽」「人間失格」「走
れメロス」でおなじみの太宰治の墓がある。何でも森鴎外を敬愛する太宰治の遺志をくんで、鴎
外の眠るこの地に墓が建てられたとか。毎年6月19日の桜桃忌に全国から太宰ファンが集まること
で有名だ。
続いて禅林寺通りを抜けて三鷹を流れる玉川上水沿いをゆっくりと歩いてみたい。江戸時代に
神田上水に続いて作られたのがこの玉川上水。江戸の町に貴重な飲み水を運ぶ水道だ。 さて、
むらさき橋まで来れば、その先に見える異国情緒漂う屋敷が、山本有三記念館(山本有三旧邸)。
名作「路傍の石」はこの地で生まれている。
急ぐことのない、ゆったりとした時間の流れの中で文豪の軌跡を辿ったあとは、目の前に見え
る万助橋を渡って井の頭公園へと足をのばそう。愛らしい水鳥たちが散歩の疲れを癒してくれる
はず。なるほど、自然は急がないことを実感させてくれるリフレッシュ満喫の散歩道にまちがい
なし!
文/麒麟 写真/武居 英俊 |