都内の治安状況についてご報告いたします。
昨年は、香淳皇后が崩御され大喪儀が執り行われたほか、故小渕前総理の葬儀、九州・沖縄サミット、そしてロシア、韓国及び中国首相の来日と、重要な国家的行事が相次ぎましたが、警視庁は総力を挙げて、これらの行事に伴う警備を行いました。
また、新島・神津島近海地震及び三宅島噴火に際しては、直ちに部隊を投入して災害警備活動に当たるとともに、三宅島の皆様に対して、心情に配慮した支援を行ってきました。今後も、東京都災害対策本部との連携の下に、各種の対策を講じていきます。
都内では、犯罪の凶悪化、国際化、巧妙化などが一段と進展し、また、死傷者が多数でた地下鉄事故の発生や、交通人身事故が増加するなど、厳しい状況に直面しました。警視庁では、都民の皆様のご理解とご協力の下に、これらの課題に全力で取り組み、東京の治安維持に努めてまいりました。
以下、その状況についてご説明申し上げます。
犯罪捜査活動
昨年中の都内での刑法犯の認知件数は、二九万一、三七一件で、前年を八・七%上回り、過去最多件数を記録しました。内訳では、殺人や窃盗のうちのひったくり、自動販売機荒らしなどを除き、ほぼ全ての罪種の認知件数が増加しています。当庁では、凶悪犯、重要窃盗犯等を重点として強力な捜査活動を展開し、昨年は重要凶悪事件二七件につき、特別捜査本部を開設して懸命の捜査を進めました。その結果、昨年中に一七件を検挙し、さらに本年に、三件を検挙しました。また、殺人事件全体では、一三八件、一六七人を検挙して、検挙率九一・四%を確保しました。
しかし、年末に、現金輸送車を襲ったけん銃使用の強盗殺人事件、住宅内で一家四人が殺害される強盗殺人事件が、立て続けに発生しました。全力を投じ、これら未解決事件の捜査を進め、一刻も早い犯人逮捕に努めていきます。
また、昨年は、時代の要請に的確に応えるという観点から、各部門の特性を生かした多角的な捜査活動の推進に力を注ぎました。まず、贈収賄、企業犯罪等の主要知能犯や宗教法人「法の華三法行」代表者らによる大規模な組織的詐欺事件の検挙等を推進しました。
交通部門では、大手自動車製造販売会社の組織的リコール隠しに絡む道路運送車両法違反事件を検挙したほか、過労運転等に起因する重大交通事故の捜査を通じ、背後に潜む事業者や法人等の刑事責任を追及して、安全軽視の風潮に一石を投じることができました。
さらに公安部門では、在日ロシア大使館付武官が絡んだ自衛隊法違反事件等を通じて、対日有害活動の実態を解明したほか、「よど号」ハイジャック事件の被疑者、ハーグのフランス大使館占拠事件で手配中の日本赤軍最高幹部・奥平房子らの逮捕などがありました。
また、急増するハイテク犯罪に対処するため、昨年二月に「ハイテク犯罪対策総合センター」を新設し、各種ハイテク犯罪の防止対策と併せて捜査を進めた結果、不正アクセス事件など、前年を上回る一〇六件を検挙しました。
以上のような各種の捜査活動を通じて、昨年は刑法犯全体で、七万六、五八五件、四万六、五六二人を検挙しました。重点を志向した捜査の結果、逮捕した被疑者の留置状況は、昨年一年間の留置延べ人員が過去最多の約八六万人に上りました。なお、その二五・三%、四人に一人が外国人でした。
今後とも、各部門の特性を発揮し、あらゆる犯罪の適切な検挙、解決に努めてまいります。
組織犯罪
国際組織犯罪について申し上げます。
来日外国人の刑法犯検挙人員が増加を続ける中で、昨年は、殺人、強盗等の凶悪犯の検挙総人員の約一割に当たる九八人が来日外国人でした。しかも、その犯行の八割近くは日本人を対象とした凶悪犯罪でした。
また、「ピッキング」と呼ばれる小型用具でドアの錠前を開く手口の侵入窃盗被害が急増し、昨年は、前年の二倍に迫る一万一、〇八九件を認知しました。当庁では、こうしたピッキングによる侵入窃盗等の犯罪で、昨年中、四四五人を検挙しましたが、その七割を超える三二〇人が、密入国、不法残留等の中国人でした。
こうした実態から、当庁では、国際組織犯罪の撲滅を当面最重要の課題に据えて、昨年十一月に「国際組織犯罪特別捜査隊」を発足させ、強力な取締りの推進に向けて陣形を整えたところです。引き続き、全国警察等と連携を強化して、諸対策を推進する決意です。
暴力団対策
都内の暴力団は、約六五〇の組織と一万六、〇〇〇人余の勢力を保持していますが、山口組と在京暴力団との対立を軸に、依然緊張が続いており、昨年は暴力団によるけん銃発砲事件九件が発生し、暴力団員等五人が殺害されました。
当庁では、昨年中も山口組を最重点として取締りを図り、山口組の構成員等九八四人を含む約六、五〇〇人の暴力団員を検挙し、暴力団等保有の六二丁を含む一二八丁のけん銃を押収しました。
薬物事犯では、暴力団のほか、これと結託するイラン人等の犯罪組織の暗躍が目立っており、昨年は、中国ルート、北朝鮮ルートの摘発等により、覚せい剤等の各種薬物、総計約三〇〇㎏を押収し、三、二五〇人を検挙しました。銃器や薬物乱用のない社会を実現するため、引き続き広報啓発活動等を積極的に展開していきます。
暴力団対策法の運用に関しては、指定暴力団五団体合計約五、二〇〇人を中心に動向把握を徹底して、中止命令二九五件、再発防止命令十一件を発出しました。また、「暴力団追放運動推進都民センター」との連携により、暴力団組織の解散と組事務所の撤去等を進めました。今後は、都民への暴力団情報の提供を一層充実させるなど、暴力団排除活動推進体制の強化に努めて、暴力団の存在しない東京の実現を目指していきます。
少年非行対策
昨年は、新宿歌舞伎町のビデオ店爆破事件、渋谷駅前の雑踏で通行人八人を金属バットで襲った連続傷害事件など、少年による特異な凶悪事件の発生が目立ちました。
当庁では、少年の特性に配慮しつつ、これらの犯罪にも厳正に捜査を遂行するとともに、補導活動を徹底して、昨年は約一万五、〇〇〇人の非行少年を補導し、暴走族一四グループを解体させました。
また、「心の東京革命」と連動した「親と子のなやみ電話相談」をはじめ、有害環境の浄化等を展開しています。
本年も、これらの非行防止対策を推進し、悪質事犯の検挙に努めていきます。
警備情勢
極左暴力集団は、中核派が世田谷区内で運輸省幹部宅車両爆破事件を起こしたのをはじめ、昨年では全国で六件、うち都内で四件の凶悪なテロ、ゲリラ事件を起こしました。当庁では、重点的な捜査を進めるとともに、警戒措置を徹底して続発防止に努めています。
一方、右翼は、自立憲法制定の主張を基軸に、政府や関係機関等への抗議・要請行動を展開しており、なお、警戒を要します。
当庁では、都民をも巻き添えにしかねないテロ、ゲリラ及び内ゲバ等の凶悪な事件に対する取締まりを徹底し、この種事案の検挙に努めています。
次に、オウム真理教が改称した「アレフ」ですが、昨年末現在で都内には約六五〇人の信者が居住し、六か所の主要施設と十一の関連企業があるものと見ています。昨年九月以降には、教団最高幹部が都内に転入したことに伴い、各転入先周辺で信者等が絡むトラブルが続いているほか、本年一月には、信者が集団で居住する世田谷区内のマンションにけん銃が撃ち込まれるという事件が発生しました。当庁では、今後とも教団の動向を注視しながら、関係機関や自治体等と緊密な連携を保ちつつ、警戒措置を講じるなどして、都民の不安感の軽減を図っていきます。
交通対策
昨年、東京での交通事故死者が二年連続で増加し、五年ぶりに四〇〇人を超えるなど、交通情勢は一段と厳しさを増しています。
この緊急事態を受け、当庁では、昨年秋の全国交通安全運動に引き続いて、特別対策を展開し、マナーの普及・向上等に努めてきました。その結果、本年に入り、一月中の交通事故死者数が昨年比で大幅に減少しました。
ところで、二十一世紀にふさわしい安全で快適な交通社会にするためには、交通の「安全」、「円滑」及び「公害等の防止」という道路交通法が目的とする三つの観点のうち、従来以上に、交通の「円滑」に重点を置き、質の高い交通の安全が実現するよう対策を講じて行く必要があると考えます。
既に、交通の流れをよくする信号の現示調整等の対策を行い、さらに交通需要マネジメントの検討、ITの活用等にも積極的に取り組み、施策のレベルアップを図っていくこととしています。
地域と都民の視点に立った諸活動
はじめに、交番等を基盤とする地域安全活動についてです。
交番及び駐在所は、地域の安全・安心のよりどころとして、その重要性が増しており、当庁では、機能強化を図っています。
また、運用面では、ピッキング事犯やひったくり事件をはじめ、都民の身近に発生する犯罪や事故を防止するために、防犯広報等の諸活動を積極的に推進しています。
相談業務
都民から警察に寄せられる相談は、数の増加等が顕著です。そこで、昨年四月に相談受理体制を強化して、相談の一つ一つに迅速で的確な対応を徹底するよう努めています。特にストーカー相談については、昨年十一月、「警視庁ストーカー対策室」を設置し、取締りを進めています。また、犯罪等の被害に遭われた方々に対し、当庁では、事件直後からの付添い支援や診断書費用の公負担などを進めています。
今後とも、警察署被害者支援ネットワークの連携等をさらに強め、被害者の個別の要望に即した支援に努めていきます。
次に、昨年第三回定例会で制定された、いわゆるぼったくり防止条例は、十二月一〇日から運用を開始し、取締りを徹底した結果、悪質店舗が減少し、被害も激減しています。当庁では、今回のケースを貴重な教訓として、今後とも必要に応じて積極的に提案していきたいと考えています。
以上、都内の治安状況について申し上げましたが、治安情勢は一段と厳しさを増しており、東京の治安維持という使命を全うするためにも、不退転の決意を持って警視庁改革に取り組んでまいります。
|